軌道エレベーター派

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OEV豆知識(19) 課題・問題その1 他天体との衝突(上)

2009-09-05 09:07:19 | 軌道エレベーター豆知識
 これまで軌道エレベーター(OEV)の基本構造や利点を紹介してきましたが、都合のいいことしか伝えないのは我田引水のそしりを免れません。今回からしばらく、OEVの抱える問題点や負の面に触れ、その対処として想定される方法も紹介していきたいと思います。最初は他天体との衝突の問題。対象を(1)デブリ (2)運用中の人工衛星 (3)天然の天体-に大別し、きょうは(1)についてです。

1.デブリとは
 さて、人工衛星を誰でも知っているのは当然として、「デブリ」「スペースデブリ」という言葉もかなり広まりました。宇宙や科学に興味のある方なら1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。デブリの掃除屋が主人公の「プラネテス」(幸村誠、講談社)という作品のヒットも貢献しているのでしょう。

 デブリの実体は軌道上を漂う使用済みロケットや役割を終えた人工衛星、それらの破片などが主なのですが、宇宙開発の妨げになっています。大半は秒速何kmものスピードで動いており、衛星や宇宙ステーションなどに衝突して、深刻な被害を生み出しています。その運動エネルギーたるや、塗料のカケラさえ、宇宙船の窓や外壁に穴を開けるほどだそうです。
 デブリは年々増加傾向にあり、今年2月には、ロシアの「コスモス2251」と民間企業の「イリジウム33」という2機の通信衛星が衝突し、この時にもデブリが大幅に増加しました(ぶつかる前に打ち上げた奴が責任持って何とかしろよう!)。その後も7月25日時点で、1000個近い破片が軌道に残留しているとのことです。
 デブリが増えすぎると、デブリ同士が衝突して新たにデブリが増えるという連鎖反応が生じ、やがてはデブリの雲が軌道上を覆い、宇宙へ出て行けなくなるという説があります。提唱者の名から、この現象は「ケスラーシンドローム」と呼ばれています。デブリは深刻な宇宙の環境問題です。

2.OEVにとっての問題
 ではOEVと何の関係があるかというと、OEVの基本概念は超巨大な静止衛星です。赤道付近から静止軌道を越えて伸びる塔のような代物ですから、地上との相対位置が基本的に変化しません。そしてあらゆる衛星は、ひとつの例外もなく、赤道の上空を通過します(静止衛星は赤道に沿って周回)。
 これが何を意味するかおわかりいただけるでしょうか? 地球自転周期の同期軌道(静止軌道はこれに含まれる。ここでは準同期なども含むものとする)、およびOEVの全長より高高度の軌道を周回する衛星を除く、すべての衛星=軌道上の天体は、飛び続けていればいつか必ずOEVに衝突するということです。デブリも軌道上を漂っている以上、広い意味で衛星です。特にデブリの多い低軌道においては、OEVの存在は、交通量の多い高速道路の真ん中に電柱でも立っているようなものでしょう。次回改めて図で説明しますが、OEVは、常に高速で飛んでくる物体と衝突の危険にさらされるわけです。えらいこっちゃ。

3.対策
 デブリへの対処の一例として、国際宇宙ステーション(ISS)は「ホィップルバンパ」と呼ばれる板で各部を覆っています。アルミ合金や断熱材などでできた多層構造の板なのですが、デブリが衝突すると運動エネルギーを熱に変換し、蒸発や分散させて本体を守る。ただしISSも直径10cm以上のデブリは自分からよけるのだそうです。
 OEVも巨視的に見れば曲がったりできるはずなのですが(というか太陽などの引力による摂動のため曲がらざるを得ない)、さすがに10cm以上のデブリを全部よけるのは無理です。かつてのSDI構想のように、攻撃して破壊(気化させるべき)という手もありますが、これは相当な技術の飛躍が必要で、OEV自体より実現が遠いのではないでしょうか。

 そこで、OEVに頑丈なネットを取り付け、デブリに通過させて減速させ、落下させるというアイデアがあります。衝突の衝撃で減速してくれれば落下していく可能性も高い。現実問題として、秒速2.5km以下まで減速すれば落下するのに十分だそうです。
 私的には、デブリ問題の解決にはこの方法しかないんじゃないかとさえ思います。「プラネテス」は面白いし、科学考証も実にリアルなんですが、肝心のデブリ除去に関して言えば、金子隆一氏が「あのやり方だとかえってデブリが増えるんじゃないか?」と仰ってました(なるほど)。
 その金子氏は、OEVでデブリを減らそうという「まっすぐ天へ」(的場健、講談社)を監修し、作中で上述のネット(「デブリ・キャッチャー」と名付けられている)を紹介しています。衝突の危険を逆に利用し、ほっといても向こうからやってくるデブリをこのネットで除去する。たかが漫画とあなどってはいけない。この発想は天才的だと思います。

 私案ながら、ネットは破片が飛散してデブリを増やさないような、頑丈かつ柔軟な代物でなければなりませんが、ネットとホイップルバンパのような装甲の2段構えで衝突に耐える、というのはいかがでしょうか。ネットのみを通ればデブリは落下、大きいものはネットの塊を発射して絡ませ、減速と軌道変更を同時に行うとか。避けきれずに芯の本体に直撃したらバンパーで吸収。
 それでも勢いを殺せずに貫通されたら、もう降参です。観念して修理するしかないですね。代わりというわけではないですが、貫通すれば速度が落ちて落下することは確実ですし、ネットが巻いてあるから、破片は飛びにくいのではないでしょうか。このようにしてデブリを減らしていけば、徐々に衝突の危機は減っていくのではないかと思われます。このほか、研究が進めば対処策も技術も向上するでしょう。妙案の登場に期待したいところです。
 しかし強調したいのは、OEVが実現すれば、デブリはきっと減っていくということです。大気圏内や低軌道でロケットを使う必要はほとんどなくなるのですから、きっとデブリ問題は解決されるはずです。軌道エレベーターは、デブリ問題解決の切り札なのです。
 これは私の信念というか、専門家の失笑を買うような願望に近いものかも知れません。でも、軌道エレベーターは、デブリ問題を解決する唯一の鍵です。私はそう確信しています。

 次回も軌道上の物体との衝突の問題を扱いますが、デブリよりはるかに深刻な問題、「生きている衛星」についてです。
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