軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

宇宙空間の平面的描写に思う

2018-09-05 18:56:42 | その他の雑記
 先日、ずっと前から欲しかった天球儀を手に入れました。買ったのではなく、お祝いでいただいたカタログギフトで選んだのであります。で、前から気になってたことを確認。



 以前、「軌道エレベーターが登場するお話」で『宇宙戦艦ヤマト2199』を扱った時、「大マゼラン銀河は南天の天頂方向じゃないか」と書いたのですが、その通りであることが目視できました。大マゼラン雲は赤緯-69°付近。つまりヤマトは太陽系を出るまで、トンチンカンな方向へ進んでいたわけです。

 作中でヤマトは火星軌道付近→木星→土星の衛星エンケラドゥス→冥王星と進んでいきますが、軌道傾斜角(対黄道面)が一番大きい冥王星でさえ17度。北極星の方向を「上」と仮定すると、大マゼラン雲は後方の斜め下方向にあるにもかかわらず、ほぼ水平に航海していたわけです。
 諸情報からヤマトは2199年2月12日頃に抜錨したとみられ、わずか4日で冥王星に達しているらしいのですが、太陽系の諸天体の位置を確認できる STUDIO KAMADAさんのサイトで調べたところ、2199年2月12日と、4日後の惑星の位置関係はこんな感じ。






 木星と土星に行くには太陽を通り越して行かなきゃいけませんが、この2惑星はほぼ一直線上にありますね。この点好都合、良かったな島。しかし冥王星はほぼ正反対の位置で、ヤマトはまた太陽を通り越し、すごい回り道をしていることになります。
 その後イスカンダルを目指すわけですが、大マゼラン雲の赤経は5時23分(春分点を赤経0として東回りに測る)。ヤマト抜錨時から春分点までは40日程度ですので、非常にざっくりとではありますが、当時のヤマトから見た諸目標の方向はこんな感じと思われます。


 
 ただしフォローしておきますと、ヤマトが木星の後にエンケラドゥスへ行くか、冥王星へ行くかで意見が分かれた時、大田が「冥王星かぁ、土星とは反対側ですね」と述べているので、製作側はその辺ちゃんと調べたと思われます。この旅程は、何よりも旧作のストーリーの縛りによるものでしょう。
 エンケラドゥスでコスモナイト90を発掘したように、資源補給などで太陽系の惑星や衛星に寄り道するのは想定内だったのかも知れません。そもそも行程の大半はワープで移動するから、太陽系規模の距離は問題ではなく、諸惑星をウロウロしたのは「慣らし運転」と考えることにしましょう。

 しかし敵もこの都合に合わせてくれて、「第2次火星沖会戦」でも火星軌道を戦線に設定して闘うだけで、南天方向からガミラスの別働隊が地球を直撃するとかいう真似もしない。冥王星基地や浮遊大陸など、外惑星に攻略拠点を設けることは理解できるんですが。
 このほか、サーシャの宇宙船も冥王星軌道の方から火星に来たし、ガトランティスもディンギルも同じようなアプローチをしてくるんですよね。これはもうお約束としか言いようがないですな。

 ことほどさように、宇宙を舞台にした作品は、時空をつい平面的に考えがちです。それに時間経過で天体の相対位置が変化することも考慮されないことが多い。『ガンダム』の諸作品でも、宇宙で闘ってるのに敵も味方も頭と足の向きが一致していることが多いですし。少々残念な気もします。

 映画『スター・トレック2 カーンの逆襲』ではこういう感覚を逆手にとるシーンが登場します。USSエンタープライズのカーク艦長は、友軍艦が敵に乗っ取られ、視界が悪いガス雲の中で交戦した時、「敵は操艦には素人だから、つい水平方向に動こうとする」みたいなことを言って、潜水艦が潜航するようにエンタープライズを垂直移動させ、下方から攻撃するなんてことをやってました。
 こんな工夫をする方が、作品に広がりが出て面白いと思うんですが、音が聴こえないはずの宇宙で効果音を出さざるを得ないように、映像作品での宇宙の描写というのは、リアリズムとのせめぎ合いに常に苦しんでいるのかもしれません。

 こうした立体空間の二次元的描写は、受け手に理解してもらいやすいための単純化、記号化であり、縦横無尽に描いたら目が回っちゃうのかも知れません。こういうツッコミは「それを言っちゃあおしまい」という話ではあります。とはいえ、映像制作にCG全盛の今の時代、宇宙を描く作品には、もっと色んな見せ方をしてほしいな、と望んでやみません。