軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識(14) 「軌道」か「宇宙」か

2009-07-09 23:53:21 | 軌道エレベーター豆知識
 この「豆知識」、「OEV図解」を終えてひと段落したので、次のステージへ進む前に、避けて通れない話題に触れておきたいと思います。
 すなわち、なぜ「軌道」エレベーターなのか? 「宇宙エレベーター」と混在しているのはどうしてなのか? ということです。早川書房から「軌道エレベーター」も復刊されたことですし、タイムリーでしょう。

 さて、昔は「宇宙エレベーター(Space Elevator)」に混じって「軌道エレベーター(Orbital Elevator)」という呼称をちらほら見かけた記憶がおぼろげにあるのですが、こんにちでは、海外の文献等に"Orbital"という記述は皆無のようです。
 特に1990年代後半に、NASAのD.スミサーマン氏やB.C.エドワーズ氏らが相次いで軌道エレベーター研究を行い、さらに2002年から04年にかけて"Space Elevator Conference"が開かれ、一時軌道エレベーターがホットな話題になった時代がありました。この流れの中で"Space Elevator"が共通語としてほぼ完全に定着したと思われます。

 ところが日本では、今も「軌道エレベータ(ー)」という名称が根強い人気を保っており、SF作品ではむしろこちらの方が常識という印象さえ受けます。軌道派の欲目で言っているのではありません。
 この背景には、サイエンスライターの金子隆一氏の功績大であると思われます。氏は事実上、日本に軌道エレベーターを紹介した第一人者で、裳華房版「軌道エレベータ」の出版以前から、ほぼ一貫してこの呼称を使ってきました。このため、ある世代以前は「軌道」としてこの世界(?)に入ってきた方が多く、こちらがなじみ深いはずです。

 この時「軌道」だった理由について、先日お会いした際に金子氏にじかに質問をぶつけてみたのですが、「最初にそう呼んだのは誰なのかなあ?」と、詳しくご存じないようでした。
 1974年(翌年改訂)のJ.ピアソン氏の論文に"Orbital tower"という名称が使われ、主に「軌道塔」と訳されていました。P.バーチ氏も"Orbital Ring System"という論文を早期に発表してます。私見ですが、これらの名称が影響しているのではないかと分析しています。つまり日本における軌道エレベーターの概念普及の初期に、一緒にこの軌道塔も定番で紹介されることが多かったために、軌道エレベーターと呼ばれることが多くなったのではないでしょうか。

 では、なぜ現在、2つの呼称が混在しているのか。これは、「軌道」世代(専門書レビュー初回で述べた第2世代)と、「宇宙」世代(同第3世代)の情報源が別々であるため、両者の間に断絶があるのが最大の原因だと私は考えています。
 つまり「宇宙」世代は「軌道」世代の直系の子孫ではなく、上述の20世紀末から21世紀はじめにかけての、米国での動向や情報が輸入された結果生まれた新種(?)であるため、呼び名もこの時輸入し、吸収したわけです。「軌道」の記憶というか遺伝子を持ってないんですね。

 過去の雑記で書いたように、私は、今の日本での軌道エレベーターへの関心も年内か来年早々で下火になると考えています。軌道エレベーターの研究が絶えるわけではなくても、世間はいつの間にか忘れて、いずれまた思い出す。この繰り返し。
 これが何を意味するかというと、再び断絶が訪れるということです。次のムーブメントを「軌道エレベーター」と呼ぶ人々が主導すれば、世間は案外易々とそう呼ぶようになるでしょう。次世代がどう呼ぶか、それは今後の軌道派の尽力次第かも知れません。
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