軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

ダイヤがあるじゃない

2020-11-28 19:18:26 | その他の雑記
 軌道エレベーターの素材の有力候補といえば、カーボンナノチューブをはじめとする炭素系の物質ですね。「楽園の泉」でも、炭素系繊維がエレベーターを構成することから、作中で「十億トンのダイアモンド」と呼ばれたりしています。今回はこのダイヤモンド、特に宝石としてのダイヤについて聞きかじったことを一筆。

 今では宝石の代表というか王様に君臨しているダイヤモンド。呪いのダイヤとか紛争ダイヤ(武装勢力が資金源にしているダイヤ)とか、騒動の種にもなるほど高価な代物ですが、昔聴いたラジオ番組の解説によると、中世まではルビーやエメラルドなど他の宝石や真珠に比べて格下というか、宝飾品としてはあまり流通しておらず、主役とは言えない立場だったのだそうです。

 色が付いてないから? 産出量が少ないから? そうではなく硬いから。地球上で一番硬く、モース硬度10に分類される唯一の物質。。。てかダイヤを最大値の基準に設定しただけでしょうが。ロンズデーライトというダイヤの親戚のような物質はさらに硬いですが、ミクロレベルでしか存在しないとか。

 結晶構造の物質は通常「劈開性」という、筋というか境目というか、急所のような箇所に上手に力を加えると、割れやすい性質を持つ。ダイヤにも劈開性があり、そこを突けばダイヤよりも硬度が低い道具でも割ることができる(失敗すると粉々になることもあるそうな)。
 これにより加工が不可能というわけではないので、宝石としてのダイヤは古来よりあるにはあったのですが、何しろ硬すぎてきれいに研磨して仕上げる方法がない。このため、ピカピカに磨けるほかの宝石の方が人気があったというのですね。しかし中世にいたり、逆転の発想が登場。

 ダイヤを削るものがないなら、
 ダイヤで削ればいいじゃない (゚∀゚)


 と言った人がいたか定かではありませんが、とにかくダイヤで研磨して仕上げるようになったそうです。経験的には14世紀以前にも行われていたらしいですが、粉末状のダイヤで研磨する技術が確立し広まったのは、15世紀のオランダとのことです。
 やがて宝石としてのダイヤが広く流通するようになり、大規模なダイヤ鉱山の発見も続いて、現在のような宝石界の下克上を果たしたわけですね。

 ちなみに20世紀後半になると、ダイヤの加工技術に新たな発展があり、コンピュータと、レーザーなどエネルギー照射の加工技術により、ダイヤのカッティング精度が向上し、無駄が減ったそうです。
 たとえば、手作業では3カラット(ct)の原石から、1ctの宝石1個を削り出すのが普通だったのが、1ctを2個とか2ct1個とかつくれるようになって、無駄が減って利益率が上がり、結果として末端価格をお安くするのにも貢献したとのこと。

 1905年に発見された世界最大のダイヤの原石「カリナン・ダイヤ」は105個に分割され、このうち大きなもの9個は英国王室の至宝として知られています。カットしたジェイコブ・アッシャーという職人さんは、1回目のカットでは刃の方が折れて、2回目でようやく割れた時には気を失いそうになったんだそうですが、現代なら大きいのがもう何個かとれたかもしれませんね、機械任せで。

 ただそれでも宝石の値段は、流通段階で原価の何倍にもなるそうで、ましてやダイヤの市場は依然として大手の寡占状態にあり、人工的に造れる現在にあっても、高価な買い物であることは変わらないようです。

 人工ダイヤの製造法の一つ「化学気相成長法」(CVD法)は、実はカーボンナノチューブの生成法でもあるんですよ。十億トンのダイヤというのも、言い得て妙とでも申しましょうか。軌道エレベーターが実現して人類が宇宙に本格進出する時代になっても、ダイヤは人々を惑わし続けるのでしょうか。

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研究レビュー 第64回宇宙科学技術連合講演会

2020-11-21 09:50:01 | 研究レビュー
 宇宙・科学に関係する様々な分野で研究成果が発表される第64回宇宙科学技術連合講演会(宇科連)。10月27~30日に開催された今年は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、オンラインでの実施となった。

1. 講義内容内訳
 「宇宙エレベーターおよび宇宙テザー研究最前線2020」と題したセッションでの発表は、29、30日の2日間で計19本。このうち軌道エレベーターに直接関係、または言及しているものは12本、このほかはテザーの挙動や特性などに関する発表が多くを占めた。

 軌道エレベーター関連では、クライマー技術が中心のものが4本あったほか、2017年に日本学術会議の「第23期学術の大型研究計画に関するマスタープラン」に採択された「宇宙インフラ整備のための低コスト宇宙輸送技術の研究開発」について、スペースプレーンの活用と合わせた「ハイブリッド宇宙エレベーター」に特化した発表や、静岡大学の「STARSプロジェクト」、小惑星上での軌道エレベーター運用構想など、前年の講義内容を発展させた継続案件の発表もあった。


2. 発表紹介
 ユニークなものをいくつか紹介すると、九州大学の「宇宙エレベーターは建設費が回収できるまで残存できるか?」は、軌道エレベーターが、ロケット打ち上げに勝るコストダウンを発揮できるかを検討。デブリによるテザー損傷に主眼を置き、軌道エレベーターの長期使用で、デブリの衝突を経てテザーが維持できる可能性=残存率を計算した。
 発表によると、エレベーター全体の1年後の残存率は0%。デブリの多い低軌道域において、テザーを2本にした場合の残存率を評価しても、有意な差は生じなかった。このため「デブリ環境を改善しなければ実現不可能」と結論づけている。

 音羽電気工業、静岡県立大などによる「海塩粒子がテザーの電気的特性・全地球電気回路に及ぼす影響」では、近年の軌道エレベーターのモデルは、地上基部を海上に想定しているものが多いことから、塩分がテザーに与える影響について論じた。
 これまでにも同研究チームは、地上から宇宙へつながる軌道エレベーターの構造体が、大気上層と地上の電位差による地球規模の電気回路の一部になり、ピラーに電流が流れるなどして相互に影響し合うという視点から発表を行ってきており、今回は塩害がテザーの導電率に与える影響を検証した。
 結論では、海塩の粒子がテザーの導電率にほとんど影響を与えないが、テザーをアース化させないために地上から絶縁する場合、海塩の粒子の付着が絶縁部材を劣化させ、放電が生じる可能性を指摘。「宇宙エレベーターの設計時には、部材の電気的特性と全地球電気回路についても考慮する必要がある」とした。

 静岡大学、大林組の「カウンターウェイト方式宇宙エレベーターの3次元解析」は、クライマーが自力で昇降する軌道エレベーターではなく、現存する多くの建物にあるエレベーターのような、いわゆる「つるべ式」のエレベーター(ゴンドラとおもりが1本のケーブルでつながっていて、上端にあるローラーで動かすエレベーター)を導入した場合の挙動や影響を解析している。
 静止軌道までのつるべ式エレベーターを想定し、コリオリや太陽、月の潮汐の影響などのパラメータを導入して解析したところ、コリオリによるケーブル同士の干渉を防ぐために、ゴンドラを南北に配置する必要があることや、高度によってはクライマーより消費電力が少なく済むことなどがわかった。
 ただし全体としては、運用区間が長いほどケーブル同士の干渉が起き、必要な動力も増大して、挙動が複雑化することから「非現実的」とも述べており、「干渉を防ぐ方法を模索していく必要がある」と結んでいる。

 このほか、国際宇宙ステーションでのカーボンナノチューブ曝露実験を基に、高層大気に存在する原子状酸素の影響の検証や、クライマーの振動に関する検証などの発表があった。 


3. 2020宇科連の概観
 新型コロナウイルスの感染拡大が、研究の分野にも影響を及ぼしている一面があるとはいえ、全体を俯瞰すれば、軌道エレベーターそのものの研究については、新たなトピックやネタが不足する状況と言ってよいかも知れない。
 これは、最重要のファクターである素材でブレイクスルー的な進展がないことや、大林組の「宇宙エレベーター建設構想」のような、世間の耳目を集める発表・活動がこの停滞している点も大きいだろう。
 個々の研究は意欲的で興味深く、決して貶めるものではないが、宇宙空間で展開するテザーをテーマとしたものと同じカテゴリーにまとめているあたりに、コンテンツ不足の苦しさが垣間見えるようにも感じる。
 テザー展開も、軌道エレベーターへの注目が一時期高まったことで研究が進んだ一面があり、軌道エレベーター実現にも関連するスピンアウト技術と言えなくもないが、全体としては歩みが停滞気味にあるのは否めない。
 ただし素材に関しては、化学や材料分野の学会で発表されるのが定常であろうから、宇科連での発表が少ないのはやむを得ない一面もあると思われる。今後業界間でクロスオーバーした研究に期待したい。

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本との再会

2020-11-07 15:22:54 | その他の雑記
 今、宇科連の詳報を書きかけているのですが、仕事でなかなかまとまった時間がとれないので、駄文でお茶を濁すことにします。

 少し前、実家の荷物を処分するよう言われ、本の入った段ボールを何箱か持って帰ってきました。中身を見てみたら、「銀河英雄伝説」の徳間書店新書版が10巻そろって出てきました。
 そうさのう。。。買ったのは20~30年前くらいになるじゃろうか ( ³ω³ ).。o



 現在は版権が東京創元社に移っており(徳間書店はなんでそんな勿体ないことをしたのだろうか?)、徳間書店時代も1巻を上下に分けて文庫化されるなどしていましたが、この新書版はその前、つまり最初に刊行されていたものです。
 側面はほこりをかぶって、わずかにカビも散見されましたが、紙カバーを付けていたのでカバーはピカピカで、全巻オビも付いていました。
 銀英伝は先日、人気作家らによる新作短編集「銀河英雄伝説列伝」が発売になり、今読んでるんですが、このタイミングで徳間版に再会しようとは。

 このほか、朝日ソノラマから出ていた「機動戦士ガンダム」小説版。アムロが最後死んじゃうやつ。現在はカドカワが版権を買いそろえたので、これまた一番最初に、ていうかTV放映当時に出ていたやつです。

 SFやスペースオペラ以外では、このころドラマや演劇のシナリオを読むのに凝っていたもので、山田太一氏の「ふぞろいの林檎たち」「岸辺のアルバム」、倉本聰氏の「北の国から」の脚本や、「熱海殺人事件」「飛龍伝」といったつかこうへい氏の作品群などが出てきました。あとは競馬ミステリで知られるディック・フランシスの当時刊行されていた全作品などなど。

 特に懐かしかったのは、渋谷にあった五島プラネタリウムの「星の会」の会報でした。毎月1回、天文学の話を聞きに通っていて、女の子と行ったこともあり、今はなき思い出の地でもあります。

 しかし、掘り出し物か? と思ったものの、いずれもAmazonなどで調べるとそう値の張るものでもありませんでした。しかし自分の物持ちの良さに驚くというか呆れるというか。
 けっきょく捨てるに捨てられず、トランクルームに本棚をつくって並べておきましたが、今では多くが電子書籍で読めるでしょうね。

 しかし、私は紙の本の信者ではありませんが、記憶というのは五感で呼び戻されるもので、段ボールの中からほこりまみれの本をつかんだ時の手触りやかび臭い匂い、もう閉店してしまった書店名の入った紙カバーなどがもたらしたなつかしさというか、「昔読んだ本との再会」は、電子書籍では得られないかも知れませんね。

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