先日、欧州のCERNによる実験で、ニュートリノが光よりも速いという結果が出たことについて、
「今回の実験結果で特殊相対性理論が覆ることはない」という主旨の記事を書きました。その後も同じようなニュースが飛び交い続けているので、「私の理解が間違っていたのかな? トンデモなのは私の方か? 私は世間の笑いものなのかしら」と少々不安だったのですが、そのトンデモさんの著書を愛する読書集団「と学会」会長で、SF作家の山本弘氏が解説しておられました。リンクを張っていいのかわからないので、タイトルとアドレスを列挙します。
山本弘のSF秘密基地BLOG
「光より速いニュートリノ」をめぐる誤解(http://hirorin.otaden.jp/e212113.html)
「光より速いニュートリノ」をめぐる誤解・2(http://hirorin.otaden.jp/e213676.html)
「光より速いニュートリノ」をめぐる誤解・3(http://hirorin.otaden.jp/e213853.html)
私の理解度は氏のように専門的ではなく、ほんの上っ面に過ぎず、公式もサッパリです。しかし今回のニュースと似たような間違った認識を昔抱いていて、その後改めたことがあったので、光より速いだの遅いだの、時間旅行がどうのという点に関しては、結論だけは覚えていたんですね。そうだよ、やっぱり間違っているのは相対論ではなくニュース記事の方だよなあ? ああ、ホッとした。「ニュートリノが初めからタージオンじゃなければ相対論と矛盾しないでしょう?」と言えば良かったのかな。言葉足らずというか一知半解ですみません。
山本氏の作品けっこう好きで、氏がブログで述べている『地球移動作戦』(早川書房)も読みました。映画『妖星ゴラス』(1962年)へのオマージュ作品でもあり、非常に面白いです。地球に接近する巨大天体の影響による破滅を避けるため、地球全体を現在の公転軌道から一時的に移動させるという壮大な計画を描いた作品です。
本書の世界では速度無限大を超えたマイナス速度(氏によるとこういう場合に粒子が時間を逆行するんだそうです)のタキオンを扱う技術が実現しており、これが地球の移動(アースシフト)を可能にするのですが、さらにタキオンによる「過去への通信」が行なわれます。
非常に離れた距離にある二つの天体(アステロイドベルトの小惑星とカイパーベルト天体)の公転周期を同期させ、タキオンの放出器と検出器をそれぞれ取り付ける。一方がタキオンを放出すると、もう一方に14分20秒
前に到着し、すぐに送り返す。この往復を52回繰り返して、24時間前にメッセージを送る。これにより、巨大天体の回避に伴う、予想外の影響やテロなどのトラブルを事前に察知するという「シビュラ計画」が実施されます。
逆行する時間を長く稼ぐために、放出器と検出器の間の距離を文字通り天文学的に開ける必要があるわけですね。タキオンの検出はスーパーカミオカンデみたいな水槽(ただし凍っている)で行ったりしていて、この手順や原理は、情報こそのせてはいませんが、スイスで放出したニュートリノを遠く離れたイタリアで検出するという、今回のCERNの実験と基本的に変わりません。
私はこの場面に「おお!」とシビれました。タキオンによる過去への通信という発想自体はグレゴリイ・ベンフォードの『タイムスケープ』(早川書房)で既知でしたが、書き方がいい。章の変わり目で突然場面が太陽系辺縁部に飛び、シビュラに利用される小惑星の周期を変更する描写などが出てきて、最初は「アースシフトと何の関係があるのだろう?」と思わせ、読み進めると、巨大な計画の一部を成していることがわかる。トム・クランシーの軍事小説みたいで、スケールの大きさを感じさせました。
私は本書のような緻密な作品の粗探しをするのが好きでして。。。「粗」というと大変失礼ですが、「ほかに方法はないだろうか? もっとシンプルで合理的なやり方は?」と、著者とは違うアイデアをひねってみるのが好きなんです。しかし所詮は素人。本書の世界観や設定に基づけば、描かれているやり方が合理的だと、読んでみて納得しました。ミステリを読む時に、犯人の発想以外のトリックを考えてみようとするようなもので、こういうのも読む楽しみの一つです。
ほかにも感想を書きたいところですが、話題がずれていってしまうので、それはまた改めます。とにかく自分がトンデモないこと言ってないみたいで良かった。。。