軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

宇科連で九つの軌道エレベーター関連の発表

2016-10-02 09:13:10 | ニュース
 航空宇宙関連技術や天文学など、幅広い分野の研究者が成果を発表する「第60回宇宙科学技術連合講演会」(宇科連)が9月6~9日、北海道函館市で開かれた。このうち軌道エレベーター関連では、鹿児島市で開かれた昨年より2本少ない9本の発表が最終日の9日午前にあった。内訳は次の通り。

「宇宙エレベーター研究の動向と実現に向けての活動」(宇科連日程表より)
 (1) 宇宙エレベーター 国際宇宙航行アカデミー(IAA)に於ける研究状況
 (2) 宇宙エレベーターにおける静止軌道上からのケーブル同時展開建設方法の最適化について
 (3) 宇宙エレベーターのケーブルおよびクライマーの風影響について
 (4) 移動体への電力供給用マイクロ波ビームを実現するアレーアンテナの検討
 (5) 宇宙エレベータ用クライマーモデルの開発
 (6) 宇宙エレベーター用クライマー試験装置の開発と性能検証
 (7) テザー伸展実証超小型衛星 'STARS-C' の開発およびフライトモデルの性能検証
 (8) 軌道エレベータ衛星STARS-Eの試作機開発
 (9) STARS-Eテザー移動機構の設計とBBMの評価試験

宇宙エレベーター研究の国際的な最新動向
 (1)の「宇宙エレベーター 国際宇宙航行アカデミー(IAA)に於ける研究状況」では、IAAで軌道エレベーター研究チームの代表の1人を務める土田哲氏が登壇。IAAでの動向を伝えた。IAAは宇宙航行にかかわる研究や技術の後押し、顕彰などを行っているNGO。

 IAAでは従来、テザー分野で軌道エレベーター関連の発表などがあり、その流れを受けて2010年から軌道エレベーターそのものをテーマとした検討グループが立ち上がった。発表では "Road to Space Elevator Era" と題し、14年から3年間で「宇宙エレベーター時代」へ向けた、実現に必要な技術情報の収集や世界の研究の把握、課題の識別などを行っているとのこと。
 研究チームは土田氏ら数人を代表に (1)エレベーター自体の問題研究 (2)エレベーターを構成するシステムの基幹技術研究 (3)国際法・国際関係 (4)アウトリーチ活動 (5)オペレーションとインテグレーション--のサブグループを設け、各システムを定義した上で論点などをレポートとしてまとめた。
 ここでは軌道上での検証項目として、材料の暴露実験やテザー展開実験などを挙げており、「日本ではこの目的に合致したテーマが、世界にさきがけて研究されている」と強調。この活動は来年で終わる予定で、今後はIAA内にいくつかある「恒久委員会」の一つとして、宇宙エレベーター委員会の立ち上げを模索するとしている。
 土田氏によると、IAAには軌道エレベーターを一つの研究分野として認めるかについて懐疑的な見方もあり、研究推進派推進ははごく少ないという。しかしIAAの宇宙エレベーター研究グループは25人中10人を日本人が占めており、この日のほかの発表者のうち数名も名を連ねる。土田氏は「日本が先陣として道筋をつけるべく、地道で冷静な研究を進め、次世代の宇宙インフラとして基礎研究が前進していけるよう貢献したい」と結んだ。

大気がエレベーター全体に及ぼす影響
 一般に、エレベーターの全体構造のうち、ケーブルが大気に接する部分は極めてわずかながら、風によるケーブルの動きは、エレベーター全体に影響が及ぶと考えらる。大林組の大塚清敏氏による(3)の「宇宙エレベーターのケーブルおよびクライマーの風影響について」の発表では、赤道上の気象データを基に風がケーブルに与える影響を解析した過去の研究を発展させ、クライマーを含めた場合のケーブルの挙動について検証した。
 縦横各3m、長さ60mのクライマーが、全長9万6000kmのエレベーターのケーブルに沿って昇降運動を行ったと想定してシミュレートしたところ、クライマーの走行によるコリオリ力がケーブルを西方向へ大きく動かす一方、クライマー本体に対する風の作用によるケーブルへの影響は小さいことなどが確認できたという。またクライマーのが上昇運動がケーブルを引きずり下ろすことでコリオリ力が生じ、ケーブルに風とは逆方向の動きを与えることなどが判明。こうした結果について「今後、長期的な作用を明らかにしていく」と述べた。

初の軌道上実験に向けて
 (7)の小型衛星STARS-Cに関する発表では、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」から放出して、軌道上でテザー展開を行う小型衛星のメカニズムを紹介。実機はすでに完成しており、打ち上げが待たれる。続く(8)(9)では、軌道上で展開したテザーに沿ってクライマーを動かす実験に挑戦する「STARS-E」について、静岡大の能見公博士教授らが説明した。
 STARS-Eは親子衛星の間を結ぶテザーを、孫衛星にあたるクライマーが昇降するもので、現段階ではテザーを最大2km展開することを目指す。親子衛星の結合や、2kmものテザー展開など課題は多いものの、クライマーを動かして様々な影響のデータを取るという実験について、能見教授は「軌道上でやったことは世界的にもないだろう」と意気込みを見せた。

 孫衛星にあたるクライマーについては日本大学が開発しており、これまでに試作機を3機製作して実験を行い、現在4機目を開発中。同大はJSEA主催の「宇宙エレベーターチャレンジ」(SPEC)でも優れた実績を上げてきた常連校でもあり、SPECでの経験で得た知見も盛り込んでいるとのこと。
 現段階では直径0.6mmのテザーを1km以上移動する小型クライマーの開発を目指しており、これまでの3機の性能試験の結果から、駆動は金属製ローラー1~2個で可能であることや、小型化や重量バランスが命題であるといった知見、課題が得られたという。このほか、クライマーの動力源となる太陽光発電パネルの配置について、機体デザインを四角柱と六角柱のいずれにするかを検証したところ、四角柱は六角柱の1.7倍の発電量を得られたことから、4号機は四角柱で開発を進めるとた。発表した同大の角田智寛さんは「さらに性能試験を重ね、エンジニアリングモデルの製作につなげていきたい」と意欲を見せた。

 このほか、今回の宇科連では、エレベーターの建造初期に、静止軌道上から上下方向にケーブルを展開した場合の挙動や、クライマーへの電力供給の一方法としてのマイクロ波を送るアンテナの研究などの発表が行われた。
(軌道エレベーター派 2016/10/1 今回の記事は宇宙エレベーター協会と一部重複します)

(以下は軌道エレベーター派の雑記です)
 今回の宇科連で「宇宙エレベーター研究の動向と実現に向けての活動」という柱を立てて発表が集約され、最終日の午前中いっぱいの2コマ分の枠が充てられたことは、色んな個別のテーマのコマに取り込まれて埋没していた数年前と比べると、かなりの進歩という気がします。
 反面、内容は昨年のテーマの進捗を報告するものが多く、その意味では新しい話題は少な目ではありました。それは個々の内容の成熟ともとれるし、全体的には停滞と見ることもでき、痛し痒しに思えます。軌道エレベーターは未開拓の分野なので、まだまだ手を付けられていない話題がたくさんあり、伸びしろも大きいはずなのですが、その現実味の遠さゆえに、牽引していく研究者層はまだまだ薄いと言わざるを得ません。軌道エレベーター派/宇宙エレベーター協会両面でその関心を高めることの一助になるよう、今後も微力を尽くしたいと思います。
 ちなみに、宇科連に出ることは、私としては年1回の旅行でもあるのですが、今回は東京を発つ時に台風が沖縄あたりにあり、函館に着いた頃には北上して東北あたりと、まるでストーカーのように追いかけてきました。その影響で常に天気が悪く天気は散々。お陰で今回は観光が一切できませんでした。はあ。

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