軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

お墓の話

2021-05-22 09:07:20 | その他の雑記
 先月、豆知識で「墓場軌道」について書きましたが、これとは別に、地球上に「宇宙機の墓場(Spacecraft Cemetary)」というのがあります。
 
 陸地から最も離れた場所 "Point Nemo" と呼ばれる場所の一つで、南緯48度、西経123度の南太平洋上にあります。ポイント・ネモは「到達不可能極」などと訳されますが、これは移動手段が乏しかった時代の名残であり、それこそ人が宇宙に進出している現在では到達不可能というわけではありません。

 
 人間の住環境から離れているため、国際的な合意で、寿命を終えた人工衛星のうち再突入で燃え尽きない大きなものや、使用済みの推進器、燃料タンクなどを落下させる場所とされています。大きなものでは2001年にロシアの「ミール」の本体もここに落とされ、国際宇宙ステーションも運用終了後に廃棄される見込みです。
 
 ただし、当該宇宙機の軌道要素が見合うものに限られるので、「可能ならここに落とせ」くらいの了解事項です。先日、中国の長征5号Bが落ちてくると物議をかもしましたが、軌道傾斜角は41.5度だったので、少なくともそのままでは、この墓場の位置に軌道が重なりません。仮に制御可能だったとしても、軌道変更はかなりの負担になっていたでしょう。だからって後始末はちゃんとしてほしいものですが。

 軌道エレベーターが実現すれば多段式のロケットは不要になるでしょうし、廃棄する宇宙機も、回収してエレベーターで地上に降ろすか、軌道カタパルトで外宇宙に捨てるかになるでしょうから、この宇宙機の墓場もお役御免になるかも知れません。

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12周年 軌道エレベーター派はなぜ"軌道" エレベーター派なのか

2021-05-08 08:33:12 | その他の雑記
 一時体調を崩しておりました。今も多少様子見ではありますが、おかげさまで復調しました。
 さて、この軌道エレベーター派、4月で12周年を迎えました。スタートは2009年の4月下旬で、月初めからURLを取得して準備していたので、単純化のために開設記念日を「4月1日以降」とし、エイプリルフールの1日を避け、2日以降に「〇周年」の告知を行うのが習慣化しています。体調不良のため今回は5月にずれこみましたが、ここまで続けてこられたのも、ひとえにご覧くださる皆様のお陰です。誠にありがとうございます。

 12周年に何を書くかと考えていて、今回は「なぜ『軌道エレベーター』という名称にこだわるのか」ということを再確認することにしました。考えてみれば、「軌道エレベーター宣言」におふざけで書いている程度で、きちんと詳説したことはなかった気がします。
 嘆かわしくも「宇宙エレベーター」がすっかり浸透したこのご時世において、なぜ「軌道エレベーター」という名の方がふさわしいと考えるか。それは次のような理由からです。

(1) 本質をあらわしている
 そもそも「宇宙エレベーター」とは何か? 宇宙にあるエレベーターか? では宇宙船や宇宙基地の中にエレベーターが設けられたら、それは「宇宙エレベーター」なのか? 皆さんこの言葉を使う時は、そういう意味では使いませんよね。
 「地上と宇宙をつなぐエレベーター」という解釈をする人は多いかも知れません。しかし、それも厳密に言えば、地球と月との間や惑星間などに設けるタイプのものはあてはまらなくなる。この名称は漠然としすぎていて、字義が実態をあらわしているとはとても言い難い。
 我が軌道派においては、軌道エレベーターの定義をこのように定めています。ここに共通しているのは、エレベーターの構造体がすべからく軌道運動をしているということです(マスドライバーなどの質量投射機も類型に含んではいますが、これはあくまで亜種として添えてあるに過ぎません)。
 軌道エレベーターの位置を維持したり、類型によっては軌道運動のエネルギーを利用して質量を輸送したりと、軌道運動に依っていることが根幹にあります。したがって、「軌道エレベーター」の方が、その本質を適切にあらわした、学術的にも正しい表現と言えるでしょう。

(2) 歴史的背景
 「宇宙エレベーター」の名称は、「楽園の泉」や「星ぼしに架ける橋」の発行当初から存在はしていましたが、日本においては長年、とくに20世紀の間は「軌道エレベーター」の方が一般的でした。これは間違いない。
 1980年代に発行された「メカニックマガジン」「最新宇宙技術論」といった書籍には「軌道エレベーター」の表記があります。さらにこれらに先立ち、79年にTV放送された「宇宙空母ブルーノア」には「軌道エレベーター」が登場します。
 軌道派では、「軌道」の呼び名の方が日本で先に浸透したのは、1974年にジェローム・ピアソンが "The Orbital Tower: a spacecraft launcher using the earth's rotation energy"、82年にポール・バーチが "Orbital Ring Systems and Jacob's Ladders" を発表したことなどが背景にあると考察しています。
 そもそも日本では、軌道エレベーターの構想は、SFファンから広まっていったこともあり、過去に示したように、SF作品ではいまだに「軌道エレベーター」の呼び名は健在です。
 自動車のメルセデス・ベンツは、海外では「メルセデス」と呼ばれるのが一般的ですが、日本では「ベンツ」の方が親しまれていますよね。日本ならではの呼び方を誇っても良いのではないでしょうか。

(3) 美しさ
 そして何よりも、「軌道エレベーター」の名を愛する理由は、結局はこの呼び名の方が理知的で、響きがカッコよく、美しいからです。「宇宙エレベーター」という呼び名は、はっきり言って垢抜けなくてダサいです。マジで。
 上記のように、SFで「軌道」の方が頻繁に使われるのは、こっちの方がカッコ良くて好まれるからにほかなりません。この名が途絶えてしまうのは、何としても避けたい。「宇宙エレベーター」が跋扈する昨今だからこそ、「軌道」を守る意味があるのです。
 
--こんな感じでしょうか。これが「軌道」を愛してやまない、軌道エレベーター派のモチベーション、基本思想といったところでしょうか。
 というわけで、12周年を迎えてもなお、我が軌道エレベーター派は「軌道エレベーター」の名の復権に尽力します。「軌道」の方が好きだから。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

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