軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

OEV豆知識番外編 再確認:なぜ軌道エレベーターが必要なのか

2011-04-22 21:48:38 | 軌道エレベーター豆知識
 2周年ということで、なぜ軌道エレベーターが必要なのか? どうしてこんなサイトをやってまでアピールしているのか? 2周年を機に、この点をいま一度、まとめておきたいと思います。項目別に大きく分けると、理由は次のような点でしょうか。

(1) 宇宙開発・進出が安全で安価になり、より多くの人が宇宙へ行ける
(2) 人類社会の多くの問題を解決する
(3) 抱える問題と個人的動機

 この3つの理由の説明について、関連している点は豆知識などのコーナーにリンクを張ります。詳しく知りたい方はジャンプしてご覧ください。

(1) 宇宙開発・進出が安全で安価になり、より多くの人が宇宙へ行ける
 ご存じの通り、私たちが宇宙へ行く手段は今のところロケットしかありません。このロケット、重量の大半を推進剤(以下燃料に統一)が占めています。スペースシャトルの場合は8割超が燃料で、低軌道までしか飛べない。燃料で燃料を持ち上げているようなもので、重力のくびきから抜け出すには、それほどのエネルギーが必要ということです。多くの人や物資を運ぼうとするほど必要な燃料が増え、その燃料の分さらに重くなるというジレンマを抱えています。しかも一定速度以上の軌道速度に達していないと落ちてきてしまう。ついでに言うと環境破壊も馬鹿にならない。
 これに対し、軌道エレベーターは電気の供給を受けながら上昇することを念頭においているので、自分でエネルギーを運ばなくていい。また、ピラーにしがみついているので(静止軌道に達するまで)軌道速度を得なくても落下しない。だから、より大量の人員や物資を輸送でき、少なくともロケットほど特殊な訓練は必要ない。
 そもそも、ロケット依存(仕方ないけど)の宇宙開発がデブリをどんどん増やしていて、すでにケスラーシンドローム(デブリが増えすぎて衝突と拡散が連鎖的に続いてしまう状態)寸前なわけです。軌道エレベーターがあれば、デブリを頭打ちにしてケスラーシンドロームを回避できるどころか、デブリ問題を根本から解決する可能性がある。
 さらに、位置エネルギーを利用して発電できるので、輸送コストを一部回収できるほか、高度約4万7000km以上から上では、物体を地球の重力圏外に飛ばす機能があるので、大型の探査機や宇宙船を、月や外宇宙などへ(最初の射出は)ゼロコストで送ることができる。
 

 「なんで軌道(宇宙)エレベーターなんか必要なの?」と問われるのはいつものことで、もう慣れっこになってしまいましたが、現在行なっている宇宙開発がもっと簡単にできるようになる。たったこの一点だけでも、軌道エレベーターには取り組む価値があるのではないでしょうか。宇宙へ進出する私たちにとって、これ以上コストパフォーマンスの良いツールはない、と私は考えています。

(2) 人類社会の多くの問題を解決する
 私たち人類は、消費するエネルギーを増大させ続けてきました。エネルギー転換や生産力の奇跡的なブレイクスルーでもない限り、このままでは遠からず地球上の資源の多くを食いつぶします。文明は周囲の環境や資源を食いつぶしながら存続します。反省すべき時ではありますが、「持続可能な成長」だのエコだの言っても、完全な還元は熱力学の基礎から言ってもまず不可能です。私たちは、新たな資源や代替エネルギーを求めて未踏の場所を開拓しなければならず、そこには当然宇宙も含まれる。その時、地球の外への出口として、軌道エレベーターが不可欠となるでしょう。
 月には大量のヘリウム3や希少鉱物、水などが発見されていますし、軌道エレベーター自体が巨大な太陽光発電とその送電装置として機能するはずです。「帰ってこれないよ」といって人員を募集している火星のテラフォーミングなども、軌道エレベーターがあれば大規模に進むし、そうなれば火星にも軌道エレベーターが造られるでしょう。
 一方、前節で説明した質量投射能力は、地球上で処分できない有害な廃棄物を投棄することにも使えます。特に、しつこいようですが放射性廃棄物の投機を強調したい。東日本大震災により原発事故の被害が深刻化しました。今も毎日放水していて、循環式の冷却システムを確立しない限り、放射性廃棄物としての汚染水がどんどん生じてくるわけで、きりがありません。その水やガレキ、原子炉構造体の部材などは、ある程度の除染処理はできても(高レベルのものは除染自体無理)、どうしても残ってしまう最終廃棄物は地下に埋める以外に方法はなく、負の遺産として永い間、地球で同居していくことになります。ついでに言うと、高レベル放射性廃棄物の最終処分って、埋める場所が決まらないもんだから、ほとんどの国で実施されてないんですよ。
 軌道エレベーターはこれを、地球上からなくすことができる。一番良いのは天然の核融合炉である太陽にぶち込んでしまうことで、この点について、詳しくは軌道エレベーターによる核廃棄物の処分をご覧ください。核廃棄物に限らず、この有害廃棄物の投棄というのは、軌道エレベーターに関する私の最重要テーマの一つなので、今後も追究していきたいと思っています。

 いずれにしろ、文明社会はフロンティアを必要としています。少なくとも現在の科学研究や構想の中で、これを解決に導くツールは、軌道エレベーターを超えるものはない、そう確信しています。
 
(3) 抱える問題と個人的動機
 軌道エレベーターの実現には当然諸問題があります。これをどう解決するか? デブリ問題摂動倒壊などの技術的な障害は科学の発達によって克服していくとして、最大の問題は政治的な条件でしょう。誰がどこに造るのか? それによって必ず不利益を被る者が出てくる。不利益のうち卑近な例が、ほかの人工衛星との衝突です。ほんの一部の例外を除き、あらゆる人工衛星は軌道エレベーターと衝突する。この補償を誰がするのか? 現在の国際情勢において、その刷り合わせはまず不可能とも言って良いと思われます。特定の国家の所有を禁じ、世界政府的な中立機関が軌道エレベーターを実現・管理すべきというのは、今のところは単なる言葉に過ぎません(そのような特権的存在は権益の独占を生み、逆に構想の種になる)。
 もし、現在の世界情勢の延長において軌道エレベーターが実現するとしたら、結局のところ核開発の歴史と同じような道筋をたどるのではないか? 私はそう考えています。力を持つ国家同士のみで調整が行なわれ、勢力均衡と一種の不可侵的条件の下に軌道エレベーターが建造される。これに伴い不利益を被る(たとえば人工衛星が使えなくなる)主体について、共同で補償や代替手段の提供が行なわれる。そして建造した一部の国々は既得権を得、後続的開発を禁止する国際法を制定することになるでしょう。この予想については、3年越しで書きかけているのですが、なるべく早く完成させます。
 この状況を是とするかどうかは人それぞれ意見があるでしょうが、私は存外悪くないと考えています。中央集権的なシステムは独裁や腐敗を生みやすい一方で、冷戦後の世界がその前より混乱したことを考えれば、軌道エレベーターに関する限り、勢力並存は安全保障面でも安定度が高いと考えるからです。何よりも、軌道エレベーターの保有が特別でないくらいたくさん存在する普遍的な状況こそが、より安定した安全保障をもたらすと考えるからです。いずれにせよ、誰でもいいから早く造って欲しいというのが私の本音です。

 もろもろ書いてきましたが、最後に個人的動機を。ここまで偉そうに書いてきましたが、それでも「なぜ軌道エレベーター?」と問われれば、結局は「面白いから自分のために好きでやってる」だけです。
 初めて軌道エレベーターを理解した時、その基本原理のシンプルな美しさに、衝撃と感動を受けました。以来、知りたいことを追究せずにはいられず、それを「こんなにすげーんだぜ!」と皆さんに言いふらしたくて、知ったかぶりしたくてこんなことをやっています。そんな自己満足を押し付けて申し訳ありませんが、知る喜びを一片でも共有できれば幸いです。
 
 ここまで読んで下り、まことにありがとうございました。これからも軌道エレベーター派を、よろしくお願いいたします。

2周年

2011-04-09 21:55:45 | その他の雑記
 少し遅れましたが、今月で2周年になります。3~6か月ごとに目次を載せていることもあり、今年に入ってからの目次を掲載します。2周年に至る前に東日本大震災が起き、あまりにも多くの人が、尚混乱と困窮の中にありますが、とにかく自分の抱えるそれぞれのことをなします。
 ちなみに、原発の問題が深刻化し、関心が高まっていることもあり、「軌道エレベーター学会」の目次には、かなり昔の記事である「「軌道エレベーターによる核廃棄物の処分」」のリンクを掲載してみました。震災の話題に便乗するようで気が引けもしましたが。。。それでもあえて便乗します。核の全廃を実現するのは軌道エレベーターしかない。私は大真面目にそう考えており、真摯な願いでもあるので掲載しました。論文形式でえらく長いので、このテーマは「アイデアノート」のコーナーで、後日改めてダイジェスト版記事を載せるつもりです。
 ご覧くださっている皆様、ありがとうございます。これからも、軌道エレベーター派をよろしくお願いいたします。


目次
軌道エレベーター派宣言
 あいさつに代えて、このホームページのスローガンのご披露

軌道エレベーター早わかり
 はじめて「軌道エレベーター」という言葉を知った方のための、簡単な基礎知識の説明

(軌道派による軌道派のための)軌道エレベーター定義書
 当サイトにおける「軌道エレベーター」の構造や分類などについてまとめた定義一覧

以下のコーナーは比較的新しい(といっても全部昨年のものなんですが)更新記事のみリンクを表示します。
軌道エレベーター豆知識
 軌道エレベーターに関する情報や知識をテーマ別に紹介
(24) 課題・問題その4 倒壊(上)
(25) 課題・問題その4 倒壊(中)
(26) 課題・問題その4 倒壊(下)

軌道エレベーターが登場するお話
 小説やアニメなど、軌道エレベーターに関係する物語のあらすじと、作中に登場する軌道エレベーターの特徴の解説
番外編(1) 宇宙兄弟
番外編(2) 銀河英雄伝説
番外編(3) イリヤッド -入矢堂見聞録-

軌道派アイデアノート
 軌道エレベーターに関する管理人のオリジナルアイデアの紹介
 (1) Fountain式(工法)
 (2) Orbital Shield

専門書・論文レビュー
 軌道エレベーター関連書や論文の紹介
 (6) 宇宙エレベーター -宇宙旅行を可能にする新技術-

軌道エレベーター学会
 原発問題が取り沙汰されていることもあり、「軌道エレベーターによる核廃棄物の処分」のリンクを表示します。

その他の雑記
 テーマにこだわらない、日々の他愛のない感想や雑学メモなど(2011年1月1日以降のみ)
1月
1.1「年頭あいさつ:軌道派よ立ち上がれ」
1.3「ちょっとだけリニューアルしました」
1.7「村上龍『歌うクジラ』に登場する『宇宙エレベーター』の間違い」
1.26「ひこにゃんから年賀状」
1.31「きょうの朝日新聞『ただいま勉強中』の間違い」

2月
2.3「近況報告」
2.8「大人買い その後」
2.15「軌道エレベーターを『宇宙エレベーター』と呼ぶのは、モビルスーツを『ロボット』と呼ぶようなものだ」
2.23「うちのネコ その3」

3月
3.6「ボーゼンとした日々」
3.8「終わりの始まり」
3.16「震災につき」
3.20「軌道エレベーターポケットブック for iPad 発売」
3.27「電子書籍こぼれ話」
3.27「電子書籍こぼれ話 その2」

 2010年以前の目次は今年元日の更新「年頭あいさつ:軌道派よ立ち上がれ」をご覧ください。

わかってると思いますけど、ウソでした

2011-04-01 23:59:33 | その他の雑記
 えー、わずか3時間あまりの模様替えでしたが、ウソ画面終了します。鹿の絵など出てきて、まさか真に受ける人もおりますまい。
 震災の影響で世間は何かと自粛ムード一色で、私も少し気にはなったんですが、こんな個人ブログごときが誰の得にもならん自粛など、勘違いというか増長だと思い、今年も決行しました。

 このところ、心遣いなどとは別のところに本音がある「自粛」が、かなり多いように思えます。やるべきことやできることと、そうでないことが、むしろきちんと分けられるべき時点になって、何でもかんでも取りやめておこうという思考は単なる腫れ物扱いというか、逆に事を軽視しているようにしか見えない(震災のことを気にするなと言っているわけではない。その程度のこと、読めばわかるよね)。
 そんなわけで、「軌道エレベーター派」、終わりませんから。「軌道」で電子書籍出したばっかで宇宙派に尻尾振るかい! 今後ともよろしくお願いいたします。


 現地で支援や救助にあたる人たちに敬服するとともに、被災地の方々の生活が日々向上していくことを、改めて祈ります。

タイトル変更のお知らせ

2011-04-01 20:46:10 | その他の雑記
 皆様にご愛読(?)いただきました「軌道エレベーター派」は、本日をもって「宇宙エレベーター派」に改題いたしました。
 世にはびこる「宇宙エレベーター」という名を駆逐し、「軌道」の名誉を取り戻すよう日夜闘ってまいりましたが、もう疲れました。これ以上、1人で軌道派をやっていくのは耐えられません。
 とりあえず、「軌道エレベーター宣言」を廃止し、それ以外の各コーナー(カテゴリー)名は「宇宙」に直しました。それぞれのコーナーにおいて「軌道」で記述してきた数多くの記事は、時間をかけて随時修整していきます。
 これまでご覧くださった皆様、ごめんなさい。m(・ω・m)ソーリィ
 これからは宇宙エレベーター派をよろしくお願いします。

(軌道エレベーター派宣言に代えて)
宇宙エレベーター派宣言


一. 宇宙エレベーター派(以下、宇宙派と略す)は、「宇宙エレベーター」の名に忠誠を誓い、これを広めることに尽力する。二度と「軌道エレベーター」と発言しない。
一. 宇宙派は、軌道エレベーター派を発見したら、ただちに宇宙エレベーター協会に通報する。密告も歓迎する。
一. 宇宙派は、まあとにかく適当になあなあでやっていく。