アメリカの穀物事情が深刻である。アメリカ自身は国内調整で、かなりしのげることになる。問題はアメリカの穀物に依存する産業である。
左のグラフはこの10年間のトウモロコシの消費量と価格変動と、在庫の量である。価格の上昇にと在庫量の減少が目につく。このことが、販売価格をさらに上げることになる。ここにきて、ブラジルとロシアの干ばつもしくは不作がはっきりしてきた。
アメリカの工業的農業生産の中核をなしているのが、トウモロコシである。このトウモロコシは、人間の食料にとどまることなく家畜の主要なエネルギー源になっている。更には、ブッシュの時代にバイオエネルギーに一定量を使用することを法で決めている。人でなく車に食わせるのである。
トウモロコシはその他、スナックや加工食品の安価な添加物やつなぎとしてあるいは、印刷物や塗装用品にまで販路を広げているのである。マイケル・ボラーン(食品ジャーナリスト)「雑食動物のジレンマ」によれば、スーパーマーケットの半数を超える商品に、トウモロコシが関わっているというのである。
動物が食料を口にするのは、植物がカロリーとして蓄えたものを摂取し、エネルギーとして生命の維持に使っているのである。動物が蓄えたものを、われわれ人間はさらに口にする。肉として卵として牛乳として利用する。彼らを家畜呼ぶ。
多くの人は、家畜は人が食べることが出来ない草や残さいなどを与えて、人が消化できる肉や卵を生産すると信じていることと思われる。本来はそうあるべきである。家畜も健康で長生きする。
ところが、この30年ほどであろうか、安価なアメリカのトウモロコシなどの穀物を与えて、より高価な(付加価値を高めるというらしい)肉や卵を生産しているのである。
人と競合する穀物を与えることで、大量の家畜を飼うことが出来高い生産性を得るのである。ところがこの過程で当然のこととして、大量のカロリーを失うのである。
牛肉を生産するためには、概ね20倍以上の穀物(主にトウモロコシ)が必要となる。私は乳牛の獣医師であるが、一年で平均で水分ほぼゼロの3000キロの穀物で、水分80%少々の8000キロの牛乳を生産している。
人と競合する穀物を与え畜産を生産する先進国のシステムは、今回のようなリスクを常時背負うことになる。日本の畜産業は、アメリカ穀物消費のために、近代化と称して大規模化や高生産を追い求めてきた。高い投資と高度な技術と、過酷な労働を背景に安価な卵や肉を生産してきた。
家畜の生理に合わない穀物を多給することで、安価な畜産物を得ていたことを消費者はこの機会に知るべきである。同時に後進国の食料をも奪うことにもなるシステムであることも知っていただきたい。TPPはこうしたアメリカのシステムでもある。