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中島みゆきの人間讃歌

2014-01-05 20:39:13 | 音楽



今さら大晦日のNHK紅白クチパクがっ、、じゃない、歌合戦について
なんやかんや言いたいことなどありませんけども。

ま、なんていうのですかね、歌番組ってカンジではないですよね。
1年の音楽シーンを振り返るカンジもありません。

歌っていいなあ、音楽っていいなあ、今年の音楽ってこうだったなぁ、
そんなカンジはしません。

まあ仕方ありません。
視聴者の最大公約数を薄く拾って大晦日のバラエティショーに仕上げてるだけで、
自分なんかも惰性で見てるだけですから。

ま、大まじめに歌番組をやんなきゃいけない理由もありませんけどね。
でも大瀧詠一のことをスルーってのは如何なものかと思いますが。


さて紅白はいいのですが、3日の深夜でしたかね、再放送ではありましたが
NHKのBSプレミアムで「オール中島みゆきナイト」という番組をやってたのですよ。

ビビる大木がホストとなってゲストを迎え好きな曲を紹介していく番組なのですが、
そんでま、いやー、やっぱり中島みゆきはいいねと。


こういうのを観てしまうと、紅白クチパクがっ、、じゃない、歌合戦との
ラベルの差ってもんがですね、否応なく感じられるのでありまして。
紅白でも実力ある歌手はいくつかは出場してるとは言えですよ。

こういう本物のミュージシャンばかりが集まっての歌合戦であれば、
そりゃあ歌合戦として見応え聴き応えある番組になるのですけどねえ。

ま、音楽ファンばかりが大晦日の紅白を見るワケじゃないのですけども。


しかし、中島みゆきのライブ映像なんかを見てるとその迫力たるや。
バックにダンサーがいなくても、派手な映像装置がなくても、
その歌だけで観るものを引き込み感動させる、これが歌ですよねえ。
紅白は歌合戦といえども実態はそうでないのはわかってますがねえ。


さて、中島みゆきの曲ってのはホントに、心に響き染み渡り、
涙をもよおさせるものが多いのですが。

例えば「オール中島みゆきナイト」でも放映された「ファイト!」。

これ、最近ではカロリーメイトのCMにも使われていたようなのですが、
使われたのはもちろん曲のほんの一部。サビのコレですね。


  ファイト!
  闘う君の歌を 闘わない奴等が笑うだろう


コレだけ観れば、まさに、頑張るあなたの応援歌的風情で、
まるで栄養ドリンクか生命保険のような扱いなのですが。

フルでこの曲を聴いたことのない人、特に若い人なんかは、
そういうイメージでこの曲をとってしまうのでしょうかね。


「ファイト!」をCMに採用したCMプランナーなのか音楽担当なのか、
もしくは広告主なのか、きっとこの曲が大好きなのでしょうね。
使いたかったんですよ。

でも、使うとしたらやっぱりこのサビでしかなかった。
サビだけなら「頑張るあなたの応援歌」としてお茶の間フレンドリーですし、
その他の箇所はヘビー過ぎて使い物になりません。

だって全体はこんな歌詞だからです。


  あたし中卒やからね 仕事をもらわれへんのや と書いた
  女の子の手紙の文字は とがりながらふるえている
  ガキのくせにと頬を打たれ 少年たちの眼が年をとる
  悔しさを握りしめすぎた こぶしの中 爪が突き刺さる

  私 本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
  ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
  私 驚いてしまって 助けもせず叫びもしなかった
  ただ怖くて逃げました 私の敵は私です

  ファイト!
  闘う君の歌を 闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト!
  冷たい水の中を ふるえながら昇ってゆけ

  暗い水の流れに打たれながら 魚たち昇ってゆく
  光っているのは傷ついて はがれかけた鱗が揺れるから
  いっそ水の流れに身を任せ 流れ落ちてしまえば楽なのにね
  やせこけて そんなにやせこけて 魚たち昇ってゆく

  勝つか負けるか それはわからない それでもとにかく闘いの
  出場通知を抱きしめて あいつは海になりました

  ファイト!
  闘う君の歌を 闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト!
  冷たい水の中を ふるえながら昇ってゆけ

  薄情もんが田舎の町に あと足で砂ばかけるって言われてさ
  出ていくならお前の 身内も住めんようにしちゃるって言われてさ
  うっかり燃やしたことにして やっぱり燃やせんかったこの切符
  あんたに送るけん持っとってよ 滲んだ文字 東京ゆき

  ファイト!
  闘う君の歌を 闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト!
  冷たい水の中を ふるえながら昇ってゆけ

  あたし男だったらよかったわ 力ずくで男の思うままに
  ならずにすんだかもしれないだけ あたし男に生まれればよかったわ

  あぁ小魚たちの群れきらきらと 海の中の国境を越えてゆく
  諦めという名の鎖を 身をよじってほどいてゆく

  ファイト!
  闘う君の歌を 闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト!
  冷たい水の中を ふるえながら昇ってゆけ


なんという厳しく恐ろしい現実。
頑張る以前に頑張ることを阻もうとする大きな壁。

現実の冷たさ醜さ残酷さと、それを黙認・追従してしまう、
安易に周囲に同化しがちな人間の弱さが描かれています。

これが「ファイト!」の世界。

でも、番組で紹介されていた映像で中島みゆきは、笑顔を交えてこの曲を歌います。
他の曲でもそうですが、こうした絶望的な状況のなかにも前向きなメッセージが
こめられているからなのでしょう。それがまた涙を誘います。


と、ここで松本清張のことが頭に浮かびました。
それと荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」も。
ジョジョ作品中にも、そんな厳しさ残酷さの描写が織り込まれており、
そうしたことも自分がジョジョ好きである一因なのですけど。

荒木先生によると一連のジョジョ作品のテーマは「人間讃歌」だというのですね。

そうなのですよ、中島みゆきの歌も暗くて貧乏くさくて田舎くさくて絶望的であっても、
どこかに前向きなメッセージが潜む、「人間讃歌」なのですね。


んー、音楽ってすばらしい。