旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

小松秀樹著『医療崩壊』 そのⅠ

2007年01月02日 18時57分24秒 | Weblog
「はじめに」で述べられているように、わが国では「医療費の抑制」と「治療への信頼」というふたつの相容れない要求にさらされて、医師の労働環境が悪化し、病院から医師が離れ始めている。


「イギリス医療の崩壊」の章では「医療費の抑制」と「医療への攻撃」が続いた結果、医師の士気が消滅した経緯について述べられている。2001年、労働党政権は1997年に公約した入院待機患者数を10万人削減するという目標をはるかに超えて、削減数が15万人になったと発表したが国民から嘲笑された。

削減してもなお、100万7000人の入院待機患者がいたからである。こうした状況に国民は怒り、多くの医療従事者が患者から暴行を受けたという報告は年に10万件を越え、報告されていない例を含めると患者と接する医療従事者は3から4年に一度は暴行を受けていると推定される。

イギリスの識者は、医師が不幸になる理由として、為政者の無策、過剰な労働や事務的業務量の増大、医療システムの不備等の原因もあるが、患者の医師に対する過剰な期待が最も重大であると指摘する。

医療に限界があること、しかも医療そのものに危険な要素があることを医師は知っているにもかかわらず、医療の限界や危険性を患者に伝えてこなかった。ゆえに、患者は医療に対して過剰な期待をもち、その期待が叶えられないとき、医療従事者を攻撃するとみる。


副題は「立ち去り型サボタージュとは何か」である。わが国でも勤務医が、楽で安全で収入の多い開業医にシフトし始めた。

著者はこの現象を医師の「立ち去り型サボタージュ」と名づける。著者の友人は、これを医師の「逃散」(「封建制下、一村の農民が団結して耕作を放棄、他の領地に退去する消極的な対抗方法」)と表現する。

勤務医は、社会と多少距離を置いて自尊心と良心を保ちながら医療に専念することを望む。医療に従事していることにささやかな誇りと生きがいを感じており、医師の仕事を金を得るための労働であるとは考えていない。だから、「立ち去り型サボタージュ」や「医師の跳散」だって、非現実的な話ではないのである。