徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『マル暴ディーヴァ』(実業之日本社)

2022年09月26日 | 書評ー小説:作者カ行

「お気に入り作家の最新刊」ということで自動的にお勧めされたので、そのままほいほい買って読んでしまった後に、これが『マル暴甘糟』シリーズの第3作であることに気が付きました(笑)

というわけで、次に読む本はシリーズの前作『マル暴甘糟』と『マル暴総監』に決定ですね。

ストーリーは住宅街の一角にあるひっそりとしたジャズクラブ「セブンス」に薬物取引関係の家宅捜査をすることに始まります。実はそのジャズクラブは警察OBの経営する店で、現役の管理官が歌姫として週2回出演しており、警視総監もお忍びで通っているといういわくつき。
家宅捜査の時も警視総監がお忍びで来ており、面識のある甘糟にそのジャズクラブに嫌がらせをしている者がいるらしいので捜査してほしいと依頼します。

主人公の甘糟は若手刑事で、なんで刑事になったのか、しかもよりによってマル暴に配属されたのか不思議でならないほど弱気でやる気にも欠け、そのせいか仕事の手際も悪く、よくペア長の郡原に叱られています。
けれども、推理力にはたまにそこそこ光るものがあるようです。

強行犯係・樋口顕シリーズの主人公も弱腰で、少々うじうじ悩むタイプですが、一本芯が通っていて、やるときはやる正義感と信念をもって仕事をしているのに対して、この甘糟達男はどうにもふにゃふにゃしていて捉えどころがないように感じます。「今時」の人なのでしょうか?

それでもストーリー展開は意外性に富んでいて面白く、あっという間に読み終わりました。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

安積班シリーズ
 

隠蔽捜査シリーズ


警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

ST 警視庁科学特捜班シリーズ


「同期」シリーズ
横浜みなとみらい署 暴対係シリーズ


鬼龍光一シリーズ

奏者水滸伝

その他

書評:今野敏著、『レッド(新装版)』(ハルキ文庫)

2022年09月25日 | 書評ー小説:作者カ行

環境庁の外郭団体に出向させられた警視庁捜査四課の相馬春彦は、仕事への情熱を失った日々を送っていた。そんなある日、山形県にある「蛇姫沼」の環境調査を命じられた相馬は、陸上自衛官の斎木明とともに戸峰町に赴く。だが、町の様子がどこかおかしい。なにかを隠しているような町役場助役と纒わりつく新聞記者。そして、「蛇姫沼」からは、強い放射能が検出された――。相馬たちを待ち受けているものとはいったい何か? 傑作長篇小説、待望の新装版。(解説・細谷正充) 

『レッド』は1998年に発行された書下ろし長編で、ポリティカル・エンターテイメントに分類できる作品です。話が日本国内にとどまらず、アメリカの政府機関・諜報機関などが絡んでくるスケールの大きなドラマ展開です。

最初は地元の「蛇姫沼」の「蛇姫」伝説が出て来るので、何かそれにまつわる、またはそれにちなんだ事件の話なのかと思いましたが、全然違う展開になるので、楽しませてくれます。

はみ出し者の刑事とはみ出し者の自衛官が環境庁の天下り外殻団体に出向している身分でそれぞれの信念に基づいてなお行動していく様に感銘を覚えます。

この作品の特徴は、完全な悪役が描かれないところです。それぞれの立場でそれぞれの信念に基づき任務をこなしている人たちがおり、陣営が違えば、抜き差しならない形で対立してしまうこともあるという社会の仕組みが浮き彫りになります。
B級スパイ映画のような単純な勧善懲悪のヒーロー物にならず、登場人物たちのキャラクターがそれぞれ丁寧に描写され、物語に深みが出ています。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

安積班シリーズ
 

隠蔽捜査シリーズ


警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

ST 警視庁科学特捜班シリーズ


「同期」シリーズ
横浜みなとみらい署 暴対係シリーズ


鬼龍光一シリーズ

奏者水滸伝

その他


書評:F.J. Jeske著、『Das kleine Buddhismus 1x1』 (F.J. Jeske)

2022年09月24日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教
ドイツ語で仏教はどう語られるのか興味ありませんか?
日本文化は仏教とは切っても切り離せない関係にありますので、ドイツ語で日

日本の文化や思想を説明する際に、ドイツ語の仏教用語を知っていると便利です。
本書「Das kleine Buddhismus 1x1 小さな仏教入門」はわずか64ページの小冊子で、ごく簡単に仏教の基本概念を説明しています。

目次は以下の通りです。
  • Einleitung はじめに
  • Verschiedene Traditionen 様々な伝統
  • Die Drei Juwelen 三宝
    • Buddha 仏陀
    • Dhamma 法
    • Sangha サンガ(僧伽)
  • Die Vier Edlen Weisheiten 四諦
  • Der Edle Achtfache Pfad 八正道
  • Fünf Silas 五戒
  • Karma 業
  • Samsara 輪廻
  • Nirvana 涅槃
  • Das Bodhisatva-Ideal 菩薩の理想
  • Wiedergeburt/Reinkarnation 再生/生まれ変わり
  • Verdienst 功徳
  • Die Vier Göttlichen Tugenden 四無量心
    • Liebe (Metta) 慈
    • Mitgefühl (Karuna) 悲
    • Mitfreude (Mudita) 喜
    • Gleichmut (Upekkha) 捨
  • Mönch und Nonnen 僧と尼僧
  • Meditation 瞑想
  • Vipassana ヴィパッサナー瞑想
  • Die Drei Daseinsmerkmale 三相
    • Unbeständigkeit 無常
    • Leiden 苦
    • Nicht-Selbst 無我・非我
  • Ehrung an den Buddha 仏陀への帰依
  • Weitere Informationen その他の情報

説明の仕方は実にシンプルで、専門家からすると「厳密には違う」などということもあると思いますが、仏教というものを全然知らないドイツ語圏の人が読んで理解しやすいように書かれてあります。
ドイツ語の文章がとても平易ですので、仏教用語としてサンスクリット語(梵語)やパーリ語の単語が出て来はしますが、きちんとドイツ語で説明されているのでさして気にならないと思います。

ドイツ語の仏教用語は、ドイツ出身の最初の仏教僧Nyanatiloka ニャナティローカ(俗名 Anton Walther Florus Gueth、1878-1957)の仏典翻訳によるところが大きいようです。

著者のF.J. Jeskeは、この本をミャンマーとタイの国境にある山寺で修行しながら記したそうです。だから、実践者としての重みが平易な言い回しの中にこもっている感じがします。
インド学者のように小難しい説明でないところが、ポイント高いです。

書評:福田 純也著、『外国語学習に潜む意識と無意識』 (開拓社言語・文化選書77)

2022年09月24日 | 書評ー言語

『外国語学習に潜む意識と無意識』は、私が少し前からよく見ているYouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で外国語習得がテーマとして取り上げられた際に紹介された書籍の1つです。

外国語学習は、極端に言えば誰でも何かしら意見を言える分野であるため、科学的根拠のない思い込みや個人の体験(サンプル数=1)だけに基づいたいい加減な意見が巷に溢れています。
私は確かにドイツの大学院で一般言語学を収めたので、一般人に比べれば言語学の知識は多い方ですが、なにぶん20年以上アップデートしていなかったので、言語習得論についてもかなり新しい知見があると思って、この一冊を日本から取り寄せました。
ドイツ語学習に関するドイツ語で書かれた本は、ドイツ語教師の資格を取る際にそれなりに読みましたが、日本語で書かれたものは読んだことがなかったので、ちょっとした初体験となりました。

さて、本書では「文法なんかいちいち考えていたら、一向にしゃべるようにならない」とか「しっかり文法規則を覚え、意識せずにも言葉が口をついて出てくるようになるまで反復練習しなきゃダメだ」とか様々な外国語学習論の前提となっている「意識」が実は掴みどころのない概念であることから出発し、そもそも意識・無意識とは何なのか哲学や心理学などの分野の考察や定義を整理します。その中から学習に関係する意識・無意識(アウェアネスの有無)を抽出してから、様々なそれに関する言語学的実験とその結果やそこから得られる知見を紹介します。

著者曰く、平易な言葉遣いを心がけたらしいので、ゆっくり読めば何とか理解できるレベルになっているとはいえ、やはりテーマ自体が複雑なので、なかなか難しいです。

目次は以下の通りです。

はじめに
第1章 外国語学習に潜む意識と無意識
第2章 意識の諸相
第3章 言語と意識
第4章 意識・無意識の科学と言語習得
第5章 意識研究と第二言語研究を繋ぐ
終章 外国語を学ぶとはどのようなことか

本書を読むことで、外国語学習と意識の関係についての研究が分かりやすく整理されて概観でき、これまで意識していなかったことを意識できるようになります。

まず、確かに言えることは「外国語学習は一筋縄ではいかない」ということです。月並みではありますが、これは大切な前提であり、語学学校や語学アプリなどの煽り文句で「聞き流すだけで言葉が口をついて出てくる」とか「苦労ゼロの英会話学習方法」などといったものがあり得ないことの証左となります。
私自身、手を付けたことのある言語が古典語を含めて20言語にも及ぶ経験豊富な外国語学習者なので、簡単な外国語習得法などないことは百も承知していましたが、それは言ってみれば私個人の体験に基づいた「サンプル数=1」の話です。それが、科学的な手法をもって実験結果としても導き出されたものであると確認できたことは収穫でした。

もう一つ重要な知見は、言語には意識しなくても目立つので知識として獲得されやすい項目と、逆に無意識的な学習は不可能で、たとえ意識的に学習しても知識として獲得されにくい項目があるということです。
何が「目立つ(卓立性が高い)」のかは、対象言語や学習者の既得の言語知識などに左右されるらしいのが複雑なところです。

また、意識的に学び、意識的な知識として獲得されたものが必ずしも無意識的な知識(無意識に使える)に移行するわけではなく、また、無意識的に学んだ結果、無意識的な知識(理由や規則は説明できないが正しいと判断できる、または使える)として獲得することもあるということも興味深い研究結果だと思いました。

学習者が教えられたとおりに学んでいくわけではなく、また問題集を説いた料や単語帳を周回した数に比例して直線的に成果が出るものでもないことは、昔から知られていましたが、興味深いのは、よく言われる「記憶曲線」に応じて失われてしまう知識は、機械的な記憶、つまりドリルのように練習した内容であり、それに対して、意味を伴った学習は直後のテスト結果が悪くても、後になって遅延テストをすると結果が良くなり、長期記憶に移行しているケースが多いということです。

いずれにせよ外国語を学ぶということは、対象言語の世界の認識の仕方、「切り取り方」を学ぶということで、複眼的な視点を得られ、複数の言語の持つ世界の見方・考え方から、独自の体系を創出していくプロセスと言える、というのが本書の結論です。
月並みに言い換えれば、外国語で(認知)世界が広がるということですね。



書評:松岡圭祐著、『JK II』(角川文庫)

2022年09月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

やはり予想通り「JK」の続編が出ました。しかも、たった4か月後に。相変わらずものすごい執筆スピードで、頭が下がりますね。

IIは、主人公・有坂紗奈の平穏だったころのバイト風景から始まり、一転して不良たちに拉致され暴行を受ける中、両親が殺されるシーンになり、さらに整形して売り飛ばされた先の「輪姦島」での悪夢の日々の中、生き残るためにJK(ジョアキム・カランブー)の「窮鼠は学ぶ。逆境が師となる。」 という教えを実践し、殺人技術を磨いていくシーンに変わり、最後に「もっとましな夢を見たかった」と目覚めます。前編のおさらいができる親切な出だしです。

この巻では、前回は謎だらけだった紗奈の江崎瑛里華としての生活が描かれます。前回、彼女の両親と彼女自身を殺した不良たちへの復讐が果たされましたが、今回はそのバックにいた地元の暴力団・衡田組が相手となります。
江崎瑛里華はK-POPダンスのYouTuber「EE」として収入を得ており、毎朝その投稿動画撮影のため河川敷に行っている。そこへ、衡田組のチンピラが登場し、江崎瑛里華の正体が有坂紗奈であることを確認するために組に連行しようとします。そのチンピラをあっさりと殺害して、彼のスポーツバッグの中にあったメモに記された日時に渋谷109へ向かう。
その前に江崎瑛里華のマンションに刑事たちが聞き込みに訪れ、念のためとDNA検査のための唾液サンプルも採取されてしまう。刑事の1人の津田は、衡田組同様に江崎瑛里華の正体が有坂紗奈で、不良たちの連続殺人の犯人なのではないかと疑いを抱いていたのだ。
そして津田も衡田組のチンピラが残したメモが麻薬取引日を示すものと考え、S109周辺の張り込みに行くことになる。本当は本格的な網を張っておくように忠言したのだが、所轄の上司にも警視庁にもロクに相手にされず、当日は交番の警察官による警戒強化だけとなっていた。
こうして惨劇は始まります。

『高校事変』の主人公・優莉結衣(ゆうり・ゆい)は、平成最大のテロ事件を起こし死刑となった男の娘で、幼少時から戦闘を仕込まれていたいわばその世界のサラブレットでしたが、それに対して有坂紗奈はダンスで体を鍛えていたとはいえ普通の女子高生で、窮地に立たされたことから驚異的な速さで戦闘力を身につけて行くヒロインです。
初めは不良たちへの復讐でしたが、次は地域社会、引いては女子高生のような弱者を脅かし、躊躇いなく食い物にしていく暴力に立ち向かうという正義感で行動しています。「法治国家」が「放置国家」になっている実情を踏まえ、幽霊となってしまった有坂紗奈が果てしない戦いに挑む!という感じのようです。

『探偵の探偵』『高校事変』『ウクライナにいたら戦争が始まった』に続く女子高生バイオレンスシリーズで、少々食傷気味ではありますが(バイオレンス描写が不快なので)、それでも先が気になって仕方がないという具合に著者の術中に嵌まってしまっています。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

歴史小説

推理小説 
水鏡推理シリーズ

探偵の鑑定シリーズ

高校事変シリーズ

千里眼シリーズ


万能鑑定士Qシリーズ

特等添乗員αの難事件シリーズ

グアムの探偵シリーズ

ecritureシリーズ

JKシリーズ

その他

読書メモ:今野敏著、『リオ』『朱夏』『ビート』『焦眉』『無明』警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

2022年09月20日 | 書評ー小説:作者カ行

仕事のストレス解消のために立て続けに5冊も読んでしまったのはいいのですが、書評というか読書メモすら書く暇もなく1週間以上過ぎてしまいました。このため、それぞれの作品の読後感はだいぶ薄れてしまい、粗筋しか覚えてません。



『リオ』(新潮文庫)は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第1作で、マンションで起きた殺人事件で現場から逃げて行くところを目撃されたらしい謎の美少女を追い求めるストーリーです。その後、もう1件、殺人事件が起き、そこでも同じ少女らしい人物の目撃情報があった。彼女が犯人なのか?
この美少女の正体を明らかにするまでにかなり時間が費やされます。
1996年の作品で、当時メディアを騒がせていた女子高生たちの「援助交際」をテーマにしています。
普段冷静で慎重な樋口顕もリオの美少女ぶりには冷静ではいられず、懸命に自省しようとしているところが味わい深いですね。「同じ年の娘がいる」が全然熱冷ましの効果を発揮しないあたり、リオの美少女ぶりが尋常でないことが伝わってきます。


『朱夏』(新潮文庫)は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第2作(1998)で、樋口顕の妻・恵子が断りもなく一晩中帰って来なかったことからまずは樋口が自分で彼女の足取りを追い始めますが、手掛かりが掴めず途方に暮れ、信頼する荻窪署の氏家に助けを求めます。
一方、恵子は見知らぬ男に誘拐され、部屋に監禁されていましたが、夫が優秀な警察官であり、きっと自分を探し出してくれると信じて仮面をかぶったままの誘拐犯となんとか交渉しようとします。
探す側と探される側の双方の視点で描かれた良作。夫婦間の信頼と絆があるとはいえ、意外にお互いの日常生活を知らない(特に樋口が妻のことを知らない)ことも浮き彫りになり、反省するきっかけにもなっています。


『ビート』は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第3作(2000)で、日和銀行本店の家宅捜査の日に一人いたたまれない気持ちになっている警視庁捜査二課・島崎洋平警部補の描写から始まります。
いたたまれない気持ちになっていたのは、彼が大学柔道部に属していた関係で、日和銀行に勤務する後輩・富岡和夫に弱味を握られ、極秘でなければならない家宅捜査の日を教える羽目になってしまったからです。
島崎の長男がその後輩に柔道の指導を受けていることもあり、柔道部OBには絶対服従の慣習があることから、長男は父・洋平が日和銀行の捜査に関わっていることを漏らしてしまったのだ。
その息子をかばうため、さらに警察官として懲戒免職ものの情報漏洩をすることになってしまい、親子そろって苦悩します。そんな中、富岡和夫が殺されてしまいます。この殺人の捜査を警視庁強行犯係・樋口顕が担当します。
島崎にはもう一人息子がいて、彼は早くに柔道を辞めてしまい、以来問題児街道をまっしぐらに歩んで、引きこもりの無職だったが、最近ダンスに夢中になっている。この次男が殺人犯かも?!と島崎の苦悩はさらに深まっていきます。
一方で、次男のダンスについてもかなり詳細に描かれており、島崎親子の認識のずれが浮き彫りになります。

この作品は作者が担当編集者を介して電撃チョモランマ隊のQ-TAROの指導するスタジオを見学したことに着想を得ているそうで、ダンスを本格的にやっている若者たちがさらされている世間からの偏見を少しでも取り除く一助となることを願って小説を書いたというだけあって、島崎次男の更生と親子の和解のプロセスに事件とダンスが絶妙に絡めてあります。

同シリーズ第4作『廉恥』(幻冬舎文庫)と第5作『回帰』(幻冬舎文庫)は、シリーズ全貌を知らずに2018年に電子書籍化された時に買って読んでしまいました。😅 



第6作『焦眉』(幻冬舎)は2020年の作品で、つい最近文庫化されたばかりですが、私は文庫でない方をすでに買ってあったのでそちらで読みました。
『回帰』では公安部の人権くそくらえな強引な捜査方法が取り上げられていましたが、『焦眉』では検察の暴挙・暴走がテーマになっています。
警部となった氏家が二課の選挙係に異動になるという知らせから話が始まり、東京5区で当選した野党政治家・秋葉康一の選挙法違反捜査への前振りとなっています。
後に起きた殺人事件では、被害者が秋葉康一に資金提供をしていたということから殺人の嫌疑がかけられることに。検察主導の捜査の中で早くから秋葉康一を狙う強引さに違和感を抱く樋口たちが検察を捜査から締め出そうと画策し始めます。
警察vs.検察の対立構造が鮮烈になりますが、検察の強引さの裏には政治的意図が働いているのか否か、検察官の独断的暴走なのか、検察全体の問題なのかといった疑問に迫っていきます。



シリーズ第7作の『無明』は2022年3月16日に発売されたばかりの最新作です。男子高生が荒川の河川敷で死に、「自殺」と断定されたことに納得していない両親。そのことを女性記者が樋口に耳打ちすることで話が始まります。樋口は最初、千住署が「事件性なし」と片付けた問題なので捜査するのを躊躇しますが、上司の天童の後押しもあり、単独捜査に乗り出します。
ここで取り上げられるのは警視庁対所轄の対立構造です。真実究明とは関係のない警察内のマイクロポリティクスが蔓延し、 所轄の片付けた事件を再調査しようとする樋口に対して巡り巡って「懲戒免職」が言い渡される。それを言ったのは、千住署の誰かから連絡を受けたらしい理事官だった。
しかし、その時にはもう「事件性」に疑いを持っていなかった樋口は正式に懲戒免職になることを覚悟で捜査を継続します。
この理事官と樋口のやり取りはなかなか見もので、普段は発言に慎重な樋口が半ば投げやりに理事官に食って掛かるのが面白いです。



にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

安積班シリーズ
 

隠蔽捜査シリーズ


警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ


ST 警視庁科学特捜班シリーズ


「同期」シリーズ
横浜みなとみらい署 暴対係シリーズ


鬼龍光一シリーズ

奏者水滸伝

その他