徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:松岡圭祐著、『高校事変 VI』(角川文庫)

2020年03月31日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


高校事変の最新刊が出たました。
忙しくてもついついがーっと読んでしまうのが松岡作品です。
今回は結衣が同級生の何人かによるいじめを甘んじて受けているところから始まります。今までテロリストの娘として、また武蔵小杉高校事変を始めとする凄惨な事件に関わってきたという黒い噂(真実)のせいで恐れられ、同級生からも敬遠されていたのですが、公安に殴られている動画があまりにも広く出回ってしまったため、「優莉結衣は恐れるに足らず」のようなイメージが逆についてしまい、いじめにつながったようです。
彼女は警察の執拗な疑いを逸らすためにも騒ぎを起こさないように我慢していたわけですが、修学旅行でよりによっていじめグループと班が一緒になっていまい、ぶちっとブチ切れてしまったようですね。
最もそれだけではなく、彼女の敵として登場したベトナムからの帰化人が作り上げた組織がこれ以上力をつけないようにするため、彼らとつながりがあると思われる沖縄の裏社会を牛耳る反社会勢力と、規律を失い暴走する民間軍事会社を潰しにいくことになります(少々ネタバレですが)。
どんどん話が大きくなっていきますね。
でも、彼女は前回に続いて徐々に仲間意識というのか、心の成長をしています。
独特の正義感と問題のある親から受けた教育によってどんどんバイオレンスに巻き込まれていくというか自分で突っ込んでいくというか、そういう感じなので、今後の展開がすごく気になりますね。

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ドイツ:コロナ対策~メルケル首相のTV演説(2020/03/18)と最新情報(2020/03/23)

2020年03月23日 | 社会

3月18日にメルケル首相が珍しく行ったTV演説は大きな反響を呼んでいます。
私は18日の夜中に演説テキストを入手し、朝方までかけて翻訳し、ブログ記事を作成してシェアしたのですが(こちら)、その反響が私の予想をはるかに上回り、23日時点での総閲覧回数が20万8824回に達しています。ピークは20日でしたが、びっくりしました。さすがメルケルさん、としか言いようがありませんね。
彼女の演説の骨格は、実は安倍首相の14日に行われた記者会見での演説とそう大きな差があるわけではありません。
現状説明、政府の取った措置やこれからとる措置の説明、感謝の言葉など。
でも、肉付けが全然違います。
これは文化の違いでもあると思います。日本の政治家スピーチは基本的に官僚言葉、つまりかなり難しい単語が使われていて、聞いたり読んだりしてパッと分からないことが多いのに対して、ドイツでは政治家のスピーチは普通のドイツ語だということです。市井の平均的な市民の普段の会話に比べたらもちろんお行儀がいい話し方とか、多少教養が漂う単語を使う傾向はありますが、日本語での政治家・官僚の言葉と市井の人の言葉の乖離ほど大きくないのです。

肉付けの面でもう一つ根本的に違うのは、目線の問題じゃないかと思います。アベシの方はわりと具体的な救済措置について言及しているのに、なぜか「やってあげてる」感が強く、「一緒に乗り越えましょう」的なメッセージが説得力なく上滑りするのに対して、メルケルは政策に関しては抽象的にとどまり、それよりも普通の人の「気持ちに寄りそう」感が強く、一人一人が何をすべきかを具体的に訴えています。「一緒に」の部分になぜ説得力があるかと言えば、彼女がその言葉だけではなく、おじいちゃんおばあちゃん、お父さんお母さん、パートナー、子供、孫、医師を始めとする医療従事者ばかりかスーパーのレジの人や商品棚担当の人のことにまで言及しているからでしょう。そういう人たちを「ちゃんと見てるよ、考えてるよ」というメッセージが先にあり、それを踏まえての「一緒に」なのです。
言葉の上での乖離が無いから、余計にダイレクトに人の心に刺さるものがあるんじゃないかと改めて思いました。
私はメルケルの演説を耳で聞いた通りの印象のまま日本語に翻訳しましたが、もしこれを日本の「文化」を尊重して日本の政治家の演説風に翻訳したら(私には語彙不足でできないけど)、なんか全然別物になってたんじゃないでしょうか。

さて、先日22日、各州首相と連邦政府がビデオ会議(!)を行い、州バラバラではなく、全国で一致したコロナ対策を行うことで合意しました。すでに週末から各州ごとに移動の制限や集会の禁止などが通達されていたのですが、今日、23日より全国的に同じ制限が勧告ではなく、罰則付きの規則として発効することになります。
詳しくはこちら



書評:マーク・トウェインのドイツ語考察

2020年03月13日 | 書評ーその他


ドイツ語の難しさに辟易している方ならきっと共感できる本です。
Mark Twain マーク・トウェインの「Die schreckliche deutsche Sprache/The Awful German Language(ひどい言語、ドイツ語)」という英独2言語で2010年に出版された本をご紹介したいと思います。
この本がうちに来たのはいつなのか、よく覚えていないのですが、自分で買ったわけではなく、本のディスカウントショップから何冊かの本を買ったときにおまけでついてきたものです。そのまま数年放置したままだったのですが、ふとしたところで彼の著作からの引用「Die deutsche Sprache sollte sanft und ehrfurchtsvoll zu den toten Sprachen abgelegt werden, denn nur die Toten haben die Zeit, diese Sprache zu lernen.(ドイツ語は、そっとうやうやしく死んだ言語に入れるべきだ。なぜなら死人しかこの言語を習う時間がないからだ。)」にぶつかったために、この本の存在を思い出して読み始めたらかなり面白く、あっという間に読み終わってしまいました。
文庫本よりもやや大判の本で95ページありますが、左のページは英語、右のページはドイツ語になっているので、1言語だけで読んだ場合、正味42ページの内容です。
もともとは1880年に米語で出版されたもので、2010年にKim Landgrafのドイツ語訳付きでAnaconda Verlagから復刻出版されました。
140年の歳月を超えてなお、この作品はドイツ語に関わる者たちにユーモラスな共感をもたらします。
主にマーク・トウェインのハイデルベルクでのドイツ語苦労話なのですが、初心者が避けては通れない名詞の格変化、形容詞の格変化、名詞の性について、いかにそれがばかげているかを女漁師の話まで作って示すあたりが独創的でおかしいです。
また、ずらずらと言葉をつなげて1語になる複合語の悩ましさや、文の中でなかなか現れない動詞、分離動詞の接頭辞が忘れた頃に来る、何重もの入れ子構造の文など、ドイツ語の難しさを指摘しています。
彼のドイツ語との格闘ぶりは以下の文に最もよく表れています。
Jemand, der nie Deutsch gelernt hat, macht sich keinerlei Vorstellung, welchen Ärger diese Sprache bereiten kann.
Es gibt bestimmt keine andere Sprache, die so schludrig und planlos gebaut ist und sich dem Zugriff so aalglatt und flüchtig entzieht. Man wird darin hierhin und dorthin gespült, ohne sich auch nur im Geringsten wehren zu können; und wenn man endlich glaubt, eine Regel gefunden zu haben, die einem sicheren Boden unter den Füßen bietet, auf dem man sich inmitten des allgemeinen Aufruhrs der zehn verschiedenen Wortarten ein bisschen ausruhen kann, blättert man um und liest: >>Man trage nun Sorge, dass der Schüler folgende Ausnahmen beachtet.<< Dann lässt man das Auge über die Seite wandern und stellt fest, dass es zu dieser Regel mehr Ausnahmen als Anwendungen gibt.
【試訳】
ドイツ語を学んだことがない者は、この言語がどれだけ腹立たしいか、考えてもみない。
こんないい加減で無計画に構成され、ウナギのようにぬるっと理解からすり抜けていく言語はきっと他にはない。ほんのわずかでも抵抗することができないまま人はあちらこちらへ流されるのだ。そして、10種の品詞が飛び交う一般的な混乱の只中で少しばかり休憩できるような、足元に確かな土台を提供する規則をついに見つけたかと思えば、ページをめくるとこんなことが書いてある:「ここで生徒が次の例外に注意するように促すこと。」
そのページに目を走らせると、この規則には適用例よりも例外の方が多いことに気づくのだ。
【試訳終了】

現代ドイツ語では、トゥエインの時代のようなひどい入れ子構造の短期記憶を極限まで消耗させるような文章は目立たなくなっていると思います。19世紀末の文章スタイルの一種の流行りだったのだと思います。その代わり、現代では英語からの外来語がやたらと増えましたね。
この本の最後の方で、トゥエインは、「才能のあるものであれば、英語を30時間(正書法と発音は除く)、フランス語は30日で覚えられるが、ドイツ語を覚えるのには30年かかる、と確信している」と書いています。この後で、最初に引用した「ドイツ語は死んだ言語に入れるべき~」が続きます。
もちろん誇張ですが、英語を母語とする彼がいかにドイツ語を難しく感じたかがよく分かりますね!(笑)


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書評:ジャック・フットレル著、『十三号独房の問題』(世界推理短編傑作集1、創元推理文庫)

2020年03月13日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集1』の最後に収録されている作品は、ジャック・フットレル著、『十三号独房の問題(原題: The Problem of Cell 13)』(1905)です。

「思考機械(Thinking Machine)」というヴァン・ドゥーゼン博士を主人公とする短編集のうちの一つで、くだらないきっかけからヴァン・ドゥーゼン博士が牢獄から1週間以内に脱獄できるかどうかを賭けることになり、「実験」と称して当局の許可を得てチェザム刑務所の十三号独房に収容されてから脱獄するまでのあれこれが語られます。
最初は脱獄などできるはずもないと高をくくっていた所長も、博士の奇怪な行動や不可解な現象にだんだん悩まされることになります。
この短編は、トリックそのものはむしろつまらないものなのですが、博士の攪乱作戦がユーモラスで楽しめます。😄 

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書評:バロネス・オルツィ著、『ダブリン事件』(世界推理短編傑作集1、創元推理文庫)

2020年03月08日 | 書評ー小説:作者ア行


江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集1』の7番目に収録されている作品は、バロネス・オルツィ著、『ダブリン事件』(1902)。
「隅の老人」とだけ呼ばれる(元?)探偵がかつてダブリンで起こった遺言偽造事件について語ります。ブルックス家の兄弟マレーとパーシヴァルが遺産相続をめぐって遺言書の真贋を争います。
パーシヴァルだけが有利になっている新遺言書は果たして本当に父親が亡くなる直前に書き直したという遺言書なのか、パーシヴァルによる偽造なのか、その遺言書を預かっていたはずの弁護士の殺害事件は関連があるのかないのかというミステリーを解いていきます。
導かれる結論は、「人は見かけによらない」ということですね。
多くの推理小説に見られる類型の古典版というところでしょうか。


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