徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 桃太郎伝説殺人ファイル』(講談社文庫)

2018年12月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『ST 警視庁科学特捜班 桃太郎伝説殺人ファイル』はSTの「伝説」シリーズ第2弾。タイトルの通り桃太郎伝説にまつわる事件で、東京・箱根・大阪でそれぞれ社会的な問題を抱えた人たちが連続で誘拐されて、その後死体で発見され、その死体には「モモタロウ」という文字と五芒星☆が書かれていた。そしてまた岡山で社会的問題を抱える会社社長が行方不明となったため、前の3件との関連性を操作するために岡山に捜査特命班が作られ、STの出動が要請されます。

STの出張に際して、STを総括する三枝管理官はSTを誇りに思う一方、「手柄を立てろ」とプレッシャーをかけ、百合根係長がそのプレッシャーに緊張し、赤城が「死体解剖しないなら俺の出番はない」と突っぱね、翠は「飛行機に乗るのは嫌」と駄々をこねるというおよそ出張を命じられた警視庁吏官とは思えない反応が「為朝伝説」の時同様に繰り広げられ、STの「お約束」の可笑しさがあります。

この作品では「桃太郎」の地元岡山バージョンが紹介されています。すなわち、「鬼」に当たるのは温羅という渡来人で、製鉄技術を吉備地域へもたらして鬼ノ城を拠点として一帯を支配した人物。地元での評判は良かったが、製鉄技術は朝廷にとっての脅威であるため、「桃太郎」こと吉備津彦が温羅を征伐し、吉備を支配下に置いたという「中央による侵略」であったという解釈です。出雲の国譲りに似た構造ですね。こちらは郷土史に精通した人が犯人で、警察に挑戦するようにメッセージを(かなり婉曲に)発しているので、その解読過程が面白さのひとつです。青山翔が珍しく感情的になって、焦って容疑者を確保する手がかりを必死で探し、見つかるとホッとして涙を流すという意外な一面を見せるところがなかなかいいですね。最後にはもちろんお約束の「もう帰ろう」が来ますが(笑)

ストーリー展開が速く、やはりあっという間に完読してしまいました。


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