徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『生きている理由』(講談社文庫)

2017年11月26日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐はこのところ歴史小説を連続して上梓しているみたいですね。『生きている理由』は『黄砂の籠城』、『シャーロックホームズ対伊藤博文』、『八月十五日に吹く風』に続く歴史小説第4弾といったところでしょうか。彼のミステリーファンとしてはちょっと物足りない気分が続いています。

『生きている理由』は清朝の皇族・愛新覺羅善耆(あいしんかくらぜんき)の第14王女で、日本で川島芳子として育てられた男装の麗人の16歳までの青春を綴った物語です。

1900年8月14日、義和団の乱の際に列強に包囲された清朝で主に日本との交渉を担ってきた粛親王・愛新覺羅善耆と通訳官・川島浪速が出会うところから物語が始まります。義和団の乱から辛亥革命勃発までの10年間のいわゆる光緒新政時期の活躍は、1912年の満蒙独立運動の最中の粛親王の回想として描写されます。

王女・顯㺭(チェンズ、けんし)が5歳の時に、国民党に特に命を狙われていることが判明し、2年後善耆は顯㺭を川島浪速に託します。川島芳子として育てられ、松本の女学校に通うようになっていた15歳のある日、通学路で松本聯隊の少尉・山家亨(やまがとおる)と出会うところから彼女の本来の物語が始まり、山家亨と婚約者と定められている満州族のカンジュルジャップの間で揺れ、「男になる」ことを決意するまでがドラマチックに描かれています。

川島浪速の俗物ぶりには辟易しますが、それでも養父を見捨てられない芳子の優しさは、少しDV夫に依存する妻の心理を連想させるような気がします。

彼女の人生は40歳で国賊として処刑されるまで波乱万丈で、さぞかしドラマになるだろうと思うのですが、敢えて彼女の淡い初恋に焦点を当てているところがこの作品の面白い所ではないでしょうか。

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