徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

2017年08月30日 | 健康

 

8月29日に2回目の抗がん剤投与を受けてきました。朝の8時にがん専門クリニックに行き、出てきたのは午後2時。

投薬プランは基本的に前回と同じでしたが、Emend という吐き気予防の薬は前回と違って抗がん剤投与前にもらって、服用しました。前回は薬が届くのが遅れて後付けになってしまったようです。

今回は残念ながら平穏無事には済みませんでした。Paclitaxel 300mgという抗がん剤の点滴が始まってしばらくすると、急に妙な咳が出て、おやっと思っている間に腰が痛みだし、世界がグルグル回り、動悸が激しくなり、息が止まるのではないかと思えるほど苦しくなって、死ぬんじゃないかとびっくりしました ( ゚Д゚)

すぐに看護師さんに知らせて点滴を止めてもらいました。

「深ーく息を吸って、吐いて、吸って、吐いて」という看護師さんの指示に従って呼吸をしている間にだいぶ楽になりましたが、血圧も高く、脈拍数も高いままでした。腰の痛みもすぐには取れませんでした。すっ飛んできたドクターが、生理食塩水の点滴の後に血圧が正常値に戻ったら、抗がん剤の点滴を半分の速度で再開するように指示しました。

抗がん剤点滴再開後、30分位経ってから点滴速度を上げ、またしばらくして元の速度に戻しましたが、それで問題は起こらずに済みました。猛烈な眠気に襲われはしましたが。「寝てていい」という看護師さんの言葉に甘えて、座ったままで1時間ほど爆睡してました。( ̄∇ ̄;)

今回持たされた薬は Emend のみで、他の吐き気対策用の薬 MCP や便秘薬の Movicol N2 は渡されませんでした。便秘薬は前回頂いたのがたくさん残っているので問題はないですが、MCP はどうなんでしょうね。飲まなくて済むならそれに越したことはありませんが。

点滴中に問題が起こった割には、投薬が終了した後の体の状態は比較的よく、お迎えの車のところまで階段を登って行くのもそれほど億劫には感じられませんでした。また帰宅後は、本当はすぐに寝たかったんですが、軽くパイナップルを食べた後、急ぎの小さい翻訳依頼(340語)が入っていたので、それを1時間弱で片づけてからようやく就寝。1時間ちょっと寝てから、また軽く食べて、メールを読んだり、フェースブックをやったりして、また夜の8時少し前位から10時くらいまで寝て、またフェースブックやったり読書したりして、夜中にまた寝るという感じでした。

その翌日の今日は、すでに散歩に出かけられるほど回復しました。

前回の抗がん剤投与後3-4日やたらと寝ずにはいられなかったのは、抗がん剤だけでなくてその前に受けた手術の疲れがまだあったのかも知れませんね。毎回寝込まずに済むなら、それはうれしい。


さて、治療手帳(Therapie-Pass)に記入される血液値が気になったので調べてみました。記入されているのは、Hb(ヘモグロビン、赤血球)、Leukozyten(白血球)、Thrombozyten(血小板)の三つ。

こうして見ると、白血球以外は正常値の範囲外にあり、ヘモグロビン濃度からすると、私は若干貧血気味で、血小板数は多すぎということになります。ただし、血小板増加症(Thrombozytose)と呼ばれるのは500,000以上の時らしく、私のは手術後間もない8月8日の値でも455,000だったので問題なし、ということみたいですね。その後は下がって来てますし。これも毎朝注射している血栓症予防薬 Clexane のおかげですかね。注射の手際がだいぶ良くなってきましたが、それも来週で終わりになります。

がん闘病記8


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)


ドイツ:最新貧困統計(2016年度)

2017年08月30日 | 社会

ドイツにおいて、全世帯所得平均の60%以下の収入しかない世帯は〈貧困リスク〉に晒されていると見なされます。その貧困リスク率が最も高いのはブレーメン州で、22.6%に上ります。それに対して南ドイツのバーデン・ヴュルッテンベルク州は貧困リスク率が11.9%、バイエルン州は12.1%と、両州とも全国平均を下回っています。

東西格差も歴然としており、旧西ドイツ(ベルリンを除く)の貧困リスク率が15%なのに対して、旧東ドイツでは18.4% となっています。

貧困リスクが特に高いのは失業者で、旧西ドイツでは失業者の52.9%、旧東ドイツでは失業者の66.9%が平均所得の60%以下で生活しています。中でもザクセン・アンハルト州の失業者の貧困リスク率は群を抜いており、75.6%に上っています。

また一人親世帯とその子どもたちも平均以上に貧困リスクに晒されており、旧西ドイツで42.4%、旧東ドイツで46.9%の一人親世帯が貧困リスクラインを下回っています。

一人親世帯の貧困リスク率が意外に低いと感じる方も居るかもしれませんが、これは「一人親世帯」に両親が婚姻していないが同居している世帯も含まれていることが原因かと思われます。

合計  内訳
失業者   一人親世帯とその子ども(18歳以下)たち
%
 
バーデン・ヴュルッテンベルク 11,9 43,4 38,7
バイエルン 12,1 48,1 36,7
ベルリン(旧東) 19,4 63,8 34,5
ブランデンブルク(旧東) 15,6 63,8 46,8
ブレーメン 22,6 60,7 59,1
ハンブルク 14,9 45,6 41,0
ヘッセン 15,1 50,1 42,2
メクレンブルク・フォアポンメルン(旧東) 20,4 68,5 56,5
ニーダーザクセン 16,7 55,9 46,4
ノルトライン・ヴェストファーレン 17,8 59,0 45,2
ラインラント・プファルツ 15,5 55,5 46,0
ザールラント 17,2 49,5 42,1
ザクセン(旧東) 17,7 68,8 47,4
ザクセン・アンハルト(旧東) 21,4 75,6 60,0
シュレスヴィヒ・ホルシュタイン 15,1 53,6 39,2
チューリンゲン(旧東) 17,2 61,2 49,6
追記:
旧西ドイツ(ベルリンを除く) 15,0 52,9 42,4
旧東ドイツ(ベルリン込み) 18,4 66,9 46,9

参照記事:

Statistisches Bundesamt, Pressemitteilung vom 29.08.2017: "Armutsgefährdung in den Bundes­ländern weiter unterschiedlich"

Statista.de, "Armutgefährdung in Deutschland", 29.08.2017

 


書評:奥田英朗著、『ウランバーナの森』(講談社文庫)

2017年08月28日 | 書評ー小説:作者ア行

『ウランバーナの森』は奥田英朗のデビュー作。どうやら「幻のデビュー作」らしい。今月20周年を記念して新装版が講談社文庫から発売されました。

舞台は1979年の軽井沢。リバプール出身の世界的ポップスター・ジョンは、妻と愛する息子との静かな隠遁生活を楽しんでいたはずだったのですが、街中で母親に似た声が「ジョン」と呼んだのを聞いて以来、彼の悪夢が再発してしまい、便秘に悩まされて、医者に通い、靄に包まれた森の中で不思議な体験をするというストーリーです。

この物語は、著者後書きによると、かのビートルズで活躍したシンガーソングライター「ジョン・レノン」の1976-1979年の「隠遁生活」の後に作られた曲がその前のとは一線を画し、家族愛に満ちていたことから、その隠遁生活おいてあったと思われる何らかの「癒し」に着目して、トラウマを持った中年男性の治癒過程を描写したものだそうです。

「ウランバーナ(Ullambana)」とはサンスクリット語(梵語)で、インドで夏安居(げあんご)の終わった日、死者が受ける逆さ吊りの苦悩を払うため供養したのを起源とする7月15日を中心に死者の霊を祀る行事を指し、「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と音訳されています。つまり「お盆」のことです。

小説の主人公ジョンは、タイトルから想像がつくように、軽井沢の森でお盆の時期に彼のトラウマになっている過去の人たちと遭遇し、その度に一つ一つトラウマを癒していきます。

しかしながら、これが「癒しのプロセス」の話なのだと分かるまでに、決して心地よいとは思えない彼の悪夢、心身症的症状、便秘(過敏症大腸症候群によるものらしい)との戦いのかなり微細な描写を読み進めなければならず、前半部はかなりの苦痛を感じました。

こと便秘、もとい過敏性腸症候群は著者自身の体験に基づいて描かれたそうです。そのせいか非常に具体的で実感のこもった描写でした。ただすでに述べたように、読んでいて面白いものでも、気持ちの良いものでもありません。

お盆に絡めて、トラウマの元になった、すでに亡くなった人たちと会って、対話することで心を癒すというか、過去を克服していくという発想は興味深いと思うのですが、作品としては全体としてあまり面白いとは感じられませんでした。残念。

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書評:奥田英朗著、『イン・ザ・プール』(文春文庫)

書評:奥田英朗著、『空中ブランコ』(文春文庫)~第131回直木賞受賞作品

書評:奥田英朗著、『町長選挙』(文春文庫)

書評:奥田英朗著、『沈黙の町で』(朝日文庫)

書評:奥田英朗著、『ララピポ』(幻冬舎文庫)

書評:奥田英朗著、『ヴァラエティ』(講談社)

書評:奥田英朗著、『ガール』(講談社文庫)

書評:奥田英朗著、『マドンナ』(講談社文庫)



書評:石田リンネ著、『神さまになりまして』全3巻(ビーズログ文庫アリス)

2017年08月27日 | 書評ー小説:作者ア行

『神さまになりまして』シリーズは神道系ファンタジーとも言うべき小説です。『神さまになりまして、ヒトの名前を捨てました。』、『神さまになりまして、ワガママを叶えました。』、『神さまになりまして、オヤスミなさいを言いました。』の3巻から構成されています。

設定は、時は現代、日本は7地区に分けられ、それぞれの地区に【守護】と呼ばれる土地神がおり、時間を止められた人間【守護代】が土地神の手足となって働き、「あちらの世界」のものが「こちらの世界」の人々に害を及ぼさないようにしているというもの。

主人公は、【守護代】歴400歳で、つい最近関東の守護に代替わりした新米神様〈千鳥〉。偶然化け物に追いかけられている帯刀(18)を助け、彼の「あちらのもの」が見える力を買って【守護代】のバイトにスカウトし、彼と共に様々な事件を解決しながら成長していく物語。ざっくりまとめすぎかもしれませんが、そんな感じの内容です。かわいらしく楽しいライトノベルですね。

登場するキャラはどれも面白く個性的で、ストーリーの中でもうちょっと色々絡ませられるポテンシャルがありそうな感じで、続編がないのがちょっと残念に思えるくらいです。

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書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)


ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

2017年08月26日 | 健康

会社を病欠して、早いもので6週間経ちました。最初の抗がん剤投与から2週間で髪が抜け始めました。脱毛が始まってから4日目で、もう傍目にも分かるほど髪が薄くなってます。正確には毛根近くで「切れる」だけなので、いわゆる脱毛症のような不可逆性のものではなく、抗がん剤投与が終了すればまた普通に生えて来るそうなので、この点に関してはそうショックを受けてません。前述のようにかつらはすでに用意してありますし。

さて、私は6月26日から7月3日まで最初の子宮掻爬術で会社を休んで、次の7月17日の大手術までは普通に働き、7月17日から今に至るまで病欠しているのですが、「病欠初日」がこの場合6月26日になるのか7月17日になるのか定かではなかったのですが、昨日会社から分厚い手紙が来て、6月26日~7月3日の病欠もいわゆる「病欠時の賃金継続支給(Lohnfortzahlung im Krankheitsfall)」期間である6週間のうちにカウントされ、8月19日をもって給与支払いが停止するとのことでした。そのお知らせの他8ページに及ぶ長期病欠にまつわる決まりごとの情報が添付されてました。

前に「ドイツにおけるがん患者のための社会保障」でも書きましたが、病欠6週間を経て、43日目以降は健康保険組合の方からそれまでの税込み給料の70%が傷病手当として病欠初日から数えて最長78週間支給されます。ただし、健康保険料の計算ベースとなる給料が傷病手当の計算ベースとなります。通常健康保険料は、税込み月収の約15.5%(労使総額)と定められていますが、52,200ユーロ(2017年度)を超える分の月収には保険料が控除されます。このため、限度額を超える月収がある場合、傷病手当は税込み月収の70%ではなく、限度額52,200ユーロの70%、月額3,045ユーロまでしか支給されないことになります。この額から更に年金保険料、失業保険料、介護保険料が差し引かれることになります。


健康保険組合からは8月19日に分厚い手紙が届き、傷病手当申請書が添付されてありました。申請手続きがオンラインでもできるようにコード番号とパスワードが記載されていたので、オンラインで手続きを済ませました。あまりのスムーズさにびっくりです。

その健康保険の手紙の中に、会社によっては固定給与と傷病手当の差額を補助金として出すこともあるので会社に問い合わせるように書いてありました。私の会社は、私が問い合わせるまでもなく、給与停止の知らせと共に補助金に関することも知らせてくれ、私の方から特に手続きをする必要がなく、自動的に給付される旨が書かれてありました。なんというか、手厚いですね。

ちなみにその補助金給付の期間は、うちの会社では勤続年数によって変わります。

  • 勤続年数4年以上:病欠初日から数えて12週間
  • 勤続年数8年以上:病欠初日から数えて18週間
  • 勤続年数12年以上:病欠初日から数えて26週間

私の勤続年数は12年以上なので、現在進行中の化学療法が終了した後に職場復帰すると仮定すれば、補助金支給期間26週間でカバーされるため、がん治療による減収がかなり少なくて済みます。実際どうなるかは分かりませんけど、取り敢えずこの半年間は働かずして給料全額が保障されることは確かなので、経済的には安心です。変動給与分(15%)は諦めなくてはなりませんが。この会社からの補助金がなくなると、変動給与分どころか、保険料算出限度額を超える分全額と限度額の30%が欠けることになるので、かなり厳しい状況になりますね。。。

こうした傷病手当に対する補助金給付は業種別労働組合と会社側で締結する労働協約によって規定されているため、労働協約に参加している会社ならば給付期間や条件に多少の差はあるものの、補助金自体は給付することになります。労働協約に不参加の会社は大抵が労働協約の定める給料を払う余裕のない零細企業ですが、比較的大きな企業でも労働協約不参加のところはあるにはあります。そういうところでは補助金のような温情的な人件費はまず拠出しないと考えて良さそうです。

ただ6週間の賃金継続支給は賃金継続支給法(Entgeltfortzahlungsgesetz)に定められた雇用者の義務なので、労働協約に不参加でもこれは免れられません。払わないのは違法行為です。

がん闘病記7


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

2017年08月26日 | 書評ー小説:作者ア行

『おこぼれ姫と円卓の騎士』第17巻と同時発売された『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』ですが、こちらは中華風ファンタジー。白楼国の後宮で女官をしている皓茉莉花(こう・まつりか)16歳が、ある日ひょんなことから若き皇帝に出会い、その常人離れした記憶力を買われて官吏になるよう仕向けられるというお話。当人は自分を「ちょっと物覚えがいい」だけの人間で、下働きの宮女から女官に抜擢されただけでも恐れ多いと思っていたので、皇帝・珀陽(はくよう)の「科挙試験を受けて官吏になれ」という要求など「とんでもない」と逃げを打つばかりですが、珀陽は折角の才能を逃すまじとかなり強引に彼女を科挙試験準備のための太学に編入させてしまいます。

最初のうち茉莉花は「覚えることができるだけ」で成績が芳しくありませんでしたが、珀陽の執拗な説得に根負け(?)して本気を出し、自ら師を求めて本気で頑張りだし、最終的に文官になる決心をするというところまでが本編の内容です。後日談・エピローグで彼女の官吏としての活躍を綴った『茉莉花官吏伝』が国中に広まったみたいなことが書かれてますが、これは新シリーズの始まりなのかなと思わせる節もありますね。

サブタイトルの『皇帝の恋心、花知らず』が暗示するように、珀陽が茉莉花の才能だけでなく、彼女自身に惹かれているっぽいことは描写されていますが、茉莉花の方はそんなこと露ほどにも知らず、本当に片思いで終わってます。だからこそ、この二人のその後の物語が綴られるのかも知れないと思ってしまうのですが。

中華風なだけに『彩雲国物語』とイメージがかなり被ってしまうような感じがします。それなりに面白いし、危機的な状況もあり、またちょっとほろっとするところもあるんですが、なんとなく上滑りしているような気がしないでもないです。全体的に「いまいち」ですかね。

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書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)

2017年08月25日 | 書評ー小説:作者ア行

石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』が遂に完結しました。このシリーズは、私的に雪乃紗衣の『彩雲国物語』に次ぐヒット作です。シリーズ全体のまとまりとしては、『おこぼれ姫と円卓の騎士』の方が、最初から何冊かの長編として構想されていたために、1冊のデビュー作で完結する筈だった『彩雲国物語』よりもずっと優れています。両作品は、主人公が次期女王と大貴族の長姫で官吏という立場の違いを始めとする様々な設定の違いがあるものの、17歳の少女が政治に関わる活躍をするという点が共通しており、またクライマックスに政変が起こり、それをできる限り少ない犠牲で解決に持っていくところや恋愛面でもハッピーエンドなところが似通っています。それでも読んでいてドキドキ・ハラハラさせられ、甲乙つけがたい素晴らしい筆致だと思います。文学的な重さとかはないかも知れませんけど。

『おこぼれ姫と円卓の騎士』は、ソルヴェール国第一王子と第二王子の覇権争いに憂えた国王が第一王女レティーツィアに次期女王の座を譲ったことで、「おこぼれで王位継承権を得た姫」という意味で【おこぼれ姫】という不名誉な呼び名をつけられてしまった王女レティーツィアが主人公。しかし彼女は、実は神にして建国の王・騎士王の生まれ変わりであるため、自分が王になることを既に知っていたため、王位を継ぐために必要になることを自ら学んで準備してきたのです。ソルヴェール国では、大臣などの役職の代わりに十二人の円卓の騎士(ナイツオブラウンド)が国王を囲んで政治を執り行うのが伝統となっており、第一王子も第二王子もそれぞれの騎士を既に集めていたのに対して、王女レティーツィア(通称レティ)は即位までに自分の騎士たちを十二人集めなくてはならず、この物語は、彼女が自分に心から忠誠を誓う騎士たちを獲得していく物語とも言えます。

またレティは騎士王の生まれ変わりとして体内に12本の剣を持ち、それぞれの特性を生かして自分の身を守ったり、人外の力で魔を浄化したり焼き払ったり、はたまた天候に影響を与えたりする能力を持っていて、時間と共にそれを使いこなせるようになっていきます。そうして様々な問題を解決しながら騎士を獲得し、周りに自分が【おこぼれ姫】ではなく、次期女王に相応しいと認めさせるようになっていきます。だんだんと「次期女王はレティ」という国内の空気ができ始めたころに政変が起き、彼女は国外逃亡を余儀なくされます。

最終的にはハッピーエンドな物語ですが、その為にはかなりヤバい状況を乗り越える必要があるわけですね。

彼女の不器用な恋愛の行方もどうなるのかなと生温かく見守ってましたが、彼女の出した結論は「そう来たか」と思うようなちょっと意外なものでした。最終巻のタイトルは「新王の結婚」ですが…ネタバレになっちゃいますが、恋する相手との結婚ではなく、エリザベス1世のように国との結婚なんですね。これはまたなんというか、少女小説としては意外な結末なのではないでしょうか?

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書評:松岡圭祐著、『八月十五日に吹く風』(講談社文庫)

2017年08月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『八月十五日に吹く風』は今月9日に発売されたばかりの松岡圭祐の最新刊です。

【8月15日】という表題の日付が暗示するように第二次世界大戦、特に太平洋戦争の一幕を取り上げた歴史小説。『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)といい、今作といい、この頃著者は新たな分野「歴史小説」に挑戦しているようですね。

『八月十五日に吹く風』も『黄砂の籠城』同様、プロローグは現代です。北米局・日米安全保障条約課に務める筒井亮司が上司から、米軍の「命を軽視し玉砕に向かう」という野蛮な日本人観を変え、戦後の占領政策を変える鍵となった「1943年8月15日に関するロナルド・リーンの報告」とは何かを探る仕事を上司から一任されます。色んなつてを頼って、ロナルド・リーンにコンタクトを取ろうと画策していたある日、菊池雄介というロナルド・リーンと面識がある元ジャーナリストからの手紙が届きます。そこには筒井が知りたいことが全て記してあったのです。

そして場面変わって、時代は1943年に飛びます。まずはアリューシャン列島の「熱田島(アッツ島)」における玉砕が描写されます。隣の「神鳴島」と呼ばれたキスカ島には約5200名の兵士たちが米艦隊に囲まれていました。彼らにも玉砕命令が下るのか否か?

心ある、「命を大切にする」何人かの司令官の努力によって、北の最果てに残された5200名の救出作戦が決定されます。時期はミッドウェー海戦で敗退した後なので、燃料も巡洋艦を始めとする海戦力資源も不足している中で、陸・海軍の人員と資源を割き、知恵を絞って不可能と思われた大規模撤退作戦を実行する様子が力強い筆致で描かれています。

日本側は何人かの司令官及び従軍記者の菊池雄介の視点、米軍側の様子はロナルド・リーンの視点で描写されており、その対比も本書の面白さのエッセンスの一つだと思います。

恐らくこのような人命尊重のための救出作戦は当時の日本軍にあって非常に例外的な事象であると思います。司令官の努力と知恵で実現した作戦。それはつまり、その他の玉砕戦線も司令官の努力次第では大本営を説得して、回避できたかもしれない可能性を示唆し、それをしなかった司令官たちの責任の重さを改めて浮き彫りにするものでしょう。

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書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理4 アノマリー』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理5 ニュークリアフュージョン』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理 6 クロノスタシス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)

 



書評:松岡圭祐著、『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(角川文庫)

2017年08月23日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(角川文庫)は描きおろし作品で、2017年6月発行。

題名に反して、シャーロック・ホームズと伊藤博文が対決する話ではありません。伊藤博文が明治維新以前の22歳の折に英国へ留学した際に子供だったシャーロック・ホームズに出会い、偶然命を助けたというご縁から、すでに成人して探偵として名を馳せるようになったホームズが諸々の事情により極秘裏に来日し、日本で実際に起きた大津事件の謎に挑み、日露関係の危機を救うというのが大筋の話です。

私はシャーロック・ホームズのシリーズをまともに読んだことはないので、どの程度オリジナルの設定が本書に反映されているのか判断しかねますが、明治初期という舞台設定と当時の日英露関係の緊迫関係をフルに生かした推理小説で、実に優れたエンターテイメントだと思います。

最初のホームズとロンドンの巨悪モリアーティ教授のやり取りの部分は今一なプロローグだと思いましたが、読み進むうちにどんどん面白くなっていきます。

気になるところと言えば、ホームズの日本人に対する感想がポジティブ過ぎるきらいがあるところでしょうか。本筋には重要なことではありませんが、なんとなく違和感が残ります。

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書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

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書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)



2016年度のドイツの労働形態統計

2017年08月20日 | 社会

2016年度のドイツの労働形態統計 Statista、2017.08.16より。

全労働者3710万人:
うち
フルタイム労働者 2200万人 
非典型的な労働形態 770万人
自営業 370万人
週20時間以上のパートタイム 360万人

非典型的な労働形態は5人に1人:
うち
週20時間以下のパートタイム 480万人
短期契約 270万人
軽微就業 220万人
派遣労働 70万人

短期契約及び派遣労働が前年に比べて増加しましたが、20時間以下のパートタイム労働は減少しました。

 

データベース(ドイツ連邦統計局)は15歳から64歳までの就労者で、学校教育、職業訓練またはボランティア活動などに従事していない人です。