徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

放射線治療半分終了~副作用キター!(がん闘病記21)

2018年01月30日 | 健康

今日で14回目の放射線照射が終わり、残すところ後14回となりました。

残念ながら昨晩から副作用が始まったようで、尾籠な話で恐縮ですが、排便の際に肛門に激痛が走って、かなり辛いことになりました。
今朝も同様の激痛を伴う排便があったので、早速放射線照射の後に放射線腫瘍医と話して、薬を処方してもらいました。便秘薬のMovicolは化学療法を始めた時に出してもらったものがまだあったので、Doloproctというクリームだけ薬局で買ってきました。自己負担は5€。

医師の話によると、小腸が放射線に刺激された場合、便秘よりは下痢になる方が多いらしいです。私もこれからそうなるかもしれないから気を付けるようにと言われました。

もっとも私のは通常の「便秘」のように詰まってたわけではなく、便が異常に硬かっただけなんですが。まず水分を十分に摂っているか聞かれましたが、毎日2リットル以上は確実に水・白湯・お茶・紅茶などで飲んでいるので、水分不足というのはあり得ませんね。だからやはり放射線による腸の機能障害と判断されました。

抗がん剤による関節痛の方がましだったとは言いませんが、こういう痛みもかなり不快ですね。

がん闘病記22


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

抗がん剤投与3回目(がん闘病記8)

医者が満足する患者?(がん闘病記9)

マリア・トレーベンの抗がんハーブレシピ(がん闘病記10)

抗がん剤投与4回目(がん闘病記11)

化学療法の後は放射線治療?!(がん闘病記12)

抗がん剤投与5回目(がん闘病記13)&健康ジュースいろいろ

抗がん剤のお値段とがん代替治療の死亡率(がん闘病記14)

抗がん剤投与6回目&障碍者認定(がん闘病記15)

化学療法終了…その後は(がん闘病記16)

放射線腫瘍医との面談(がん闘病記17)

放射線治療の準備(がん闘病記18)

放射線照射第一回(がん闘病記19)

放射線治療の経過(がん闘病記20)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)

 

 


書評:東山彰良著、『罪の終わり』(新潮社)~第11回中央公論文芸賞受賞作

2018年01月29日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

直木賞受賞作品『流』から1年後に書かれた『罪の終わり』(新潮社、2016年発行)は第11回中央公論文芸賞受賞作ということもあり、読みごたえはあるのですが、ページをめくる手が止まらない程ストーリーに引き込まれるということは残念ながらありませんでした。

2173年6月16日、ナイチンゲール小惑星が地球に衝突したことによって、一種の「終末世界」が出現するという設定はSFとしてはそう珍しいものではないかと思います。旧世界がほぼ壊滅し、社会が機能しなくなると生存者の間で略奪や抗争が始まり、また食料不足が深刻になるにつれてカニバリズム(食人)が横行するようになるのも、まあ想定内と言えます。

この作品の変わっているところは、常態化する食人に対する人々の葛藤と宗教観にスポットを当てていることです。舞台はアメリカなので、キリスト教徒たちの葛藤ということになりますが、一方で食人を絶対に認めず、食人を推奨するような危険人物を次々と「ヒットリスト」に載せて抹殺していく「白聖書派」とよばれる過激派、他方で新たな「黒騎士伝説」を作り上げる食人肯定派が台頭し、両者の概念的対立が浮かび上がります。両者を隔てるのは「キャンディー線」と呼ばれる防護線で、その内側ではまだ食料配給があり、その外側では食料配給がないという決定的な違いがあります。つまり食人を否定しても生き延びられる余裕があるかないかの差がそこに歴然と現れていることになります。

もう一つこの作品の変わっているところは、上記の状況を臨場感を持って語るのではなく、ネイサン・バラードという白聖書派の一人がキャンディー線の向こう側である食人鬼を追って数か月過ごした自らの体験と出会った人たちから聞いた話を基に、「黒騎士伝説」の成立過程と伝説化したナサニエル・ヘイレンの人物について本を書く、というもう一歩距離を置いた語り方であることです。この分析的距離感がこの小説を読みづらくしているような気がしてなりません。

人が危機的状況でどのような行動をとり、どのような選択をするのか、またその選択に至るまでの葛藤や、選択した後の疑問や後悔や罪悪感とどう折り合いをつけていくのか、「罪を以て罪を贖う」とは単なる自己正当化なのか否か等、実に興味深い問題提起が小説の中でされています。面白くないわけではないのですが、小説としてのエンタメ性は不足しているように思えます。

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書評:東山彰良著、『流(りゅう)』(講談社文庫)~第153回直木賞受賞作


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

2018年01月27日 | 書評ー小説:作者ア行

『茉莉花官吏伝』はやはり新シリーズでしたね。2が出ていたのを見かけたので注文し、今日届いたので、早速読んでしまいました。

茉莉花は科挙試験を二番の好成績で合格し新米官吏となったわけですが、上元合格ではないため、皇帝・珀陽から「禁色」を与えることが叶わず、「早く手柄を立ててね」と無理なことを言われて、この第2弾はスタートします。赤奏国の皇帝・暁月が突如来訪し、わがまま放題で世話役についていた武官を解任。その後継として兵部の女性官吏・玉霞が世話役の責任者に任命され、茉莉花はその補佐を務めることになります。

優秀な成績で新米官吏となった茉莉花には様々な養子縁組の申し出があり、皇帝・珀陽からも平民出身である彼女の後ろ盾となるための養子縁組の提案があったのですが、最終的に彼女はどの養子縁組も断り、本気を出して手柄を立て、自ら「禁色」を取れるようにすると決意するところでこの巻は終わります。いよいよ彼女の立身出世が本格的にスタートした感じです。

それと茉莉花は官吏と結婚が両立することを自ら証明するために結婚を決意します。それを聞いた伯陽は「だったら、私と結婚しようよ」とさらっとプロポーズ!自分は10年くらいで退位するから、その後は独り身で、茉莉花のところに婿入りしても問題ないという。茉莉花はそれを冗談と解して、「なら、陛下が退位するとき、わたしが結婚していなかったら、陛下と結婚しますね」。あらまあ、未来の約束しちゃったよ、この二人(笑)

その後に、次の赴任先の話になり、手柄を立ててもらうために荒れた地へ茉莉花を派遣すると宣言。次巻は、茉莉花の地方での活躍の話になるようです。

面白いなと思ったのが、この巻で、茉莉花が前回皇帝を守るために正しいと思ってしたことの本当の意味を知り、その影響に愕然とするところです。今回のストーリー展開に必要だったのは分かりますが、2巻目でこういう展開のストーリーを持ってくるのも珍しいような気もします。こういう重い「気づき」は、何年か経ってからするのが「定石」のような気がするのですが。

とにかく1巻は少々「上滑り」しているような感じがしないでもなかったのですが、2巻はぐっと面白くなっており、次巻が楽しみですね。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


放射線治療の経過(がん闘病記20)

2018年01月23日 | 健康

放射線治療の経過と言っても大して特記するようなことはないのですが、週末以外毎日12時に病院に行くのは生活リズムを一定にするにはいいことですね。

 

家から病院までは車で道が混んでいる時でも15分位しかかかりません。駐車場が満車になっていることが多く、私だけが病院に入り、ダンナが駐車場に空きが出るまで待つということがたびたびです。

12時の放射線照射に合わせて、その1時間前に1リットル近くの水分を摂るのはいいのですが、待ち時間が長くなるとかなり困った事態になります。1度などは25分も待たされたため、照射が終わってから慌ててズボンと靴を履いてトイレに駆け込む羽目になりました。

今日の待ち時間は10分位でした。今日で治療の3分の1が終わったことになります。

気になる放射線量を聞いてみました。1回の照射につき1.8Gy(グレイ)の放射線を浴びることになるそうです。グレイとは、ある物質が放射線に照射されたとき、その物質の㎏当たりの吸収線量を示す単位で、定義はJ/kgです。と言っても物理の苦手な私には分かったような分からないような、いや、結局よく分からない単位なのですけど。そういうわけで、現在までの照射量は16.2Gyで、放射線治療全体の合計は50.4Gyとなります。

エックス線やガンマ線の場合は1対1でシーベルトに換算できるとのことで、50.4Gyは50.4シーベルトに相当します。

え?ミリとかマイクロではなく、シーベルト?!

なんとそこに間違いはありません。生体(人体)が受けた放射線の影響は、受けた放射線の種類と対象組織によって異なるため、吸収線量値(グレイ)に、放射線の種類ないし対象組織ごとに定められた修正係数を乗じて、実効線量(シーベルト)に換算します。「グレイからシーベルト換算」というページによると、50.4Gyの実効線量は、膀胱で2.02Sv、その他の臓器で6.05Svに相当するらしいです。全身被曝ではないので、「年間1ミリシーベルトの被曝上限」と言う場合の被曝量とは異質の物なのですが、単位だけ見てると「ヤバい量」に思えますね(笑)

今のところ副作用は出ていません。下腹部を照射しているので、腸の機能に障害が出て、下痢または便秘になったり、トイレが近くなったりする可能性があるらしいのですが、照射量16.2Gyの段階では何もなしです。今後出てくるかもしれませんが。

照射後数か月以上へて起こる晩期反応というのも色々あるようで恐ろしいのですが、それは今考えても仕方のないことなので、考えないようにしています。


放射線治療とは関係ありませんが、化学療法が終わってから約6週間後(12月30日あたり)に生え始めた髪の毛は、その後順調に伸びて、頭皮の白さが目立たなくなりました。

がん闘病記21


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

抗がん剤投与3回目(がん闘病記8)

医者が満足する患者?(がん闘病記9)

マリア・トレーベンの抗がんハーブレシピ(がん闘病記10)

抗がん剤投与4回目(がん闘病記11)

化学療法の後は放射線治療?!(がん闘病記12)

抗がん剤投与5回目(がん闘病記13)&健康ジュースいろいろ

抗がん剤のお値段とがん代替治療の死亡率(がん闘病記14)

抗がん剤投与6回目&障碍者認定(がん闘病記15)

化学療法終了…その後は(がん闘病記16)

放射線腫瘍医との面談(がん闘病記17)

放射線治療の準備(がん闘病記18)

放射線照射第一回(がん闘病記19)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)



書評:辻村深月著、『ツナグ』(新潮文庫)~第32回吉川英治文学新人賞受賞作

2018年01月22日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

辻村深月の『ツナグ』は第32回(2010年)吉川英治文学新人賞受賞作品で、2012年には映画化されたらしいですね。「アイドルの心得」、「長男の心得」、「親友の心得」、「待ち人の心得」、「使者の心得」の5編からなる連作長編小説ですが、最初の「アイドルの心得」は映画化はされなかったそうで。

一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者(ツナグ)」のお話。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員。

もし一生に一度だけ死者に会えるとしたら、誰に会いたいか、まずはそこからして重い問いです。それができるという前提で進行する物語ですが、依頼者にはそこに至るまでのそれぞれの事情と葛藤があり、それを描写する筆致が素晴らしいです。「アイドルの心得」と「長男の心得」はどちらかというと「ほっこり」する展開ですが、「親友の心得」はどちらかというと心をえぐられるような痛みのある展開、「待ち人の心得」は切なく、そのすべてのエピソードの裏側を描く「使者の心得」で諸々の事情に合点が行き、また仲介者としてその邂逅の前後を目の当たりにする17歳の少年・歩美の感じ、考えたことは何かが語られますが、彼の出した結論は祖母に対する思いやりに溢れていて「ほっこり」できます。

辻村深月の作品を読んだのはこれで3作目ですが、この方は人と人の関りとその関係の中で生まれるあらゆる感情を細かな心の襞まで言語化できる鋭い観察眼と筆力を持っているのだと思います。そして彼女の言葉から感じられるのは包み込むような優しさで、今回もまた泣かされました (´;ω;`)

娯楽性やエンタメ性が極めて低く重いテーマですが、心が震えて、癒される作品です。

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書評:辻村深月著、『鍵のない夢を見る』(文春文庫)~第147回(2012上半期)直木賞受賞作

書評:辻村深月著、『かがみの孤城』(ポプラ社)~生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊



書評:辻村深月著、『かがみの孤城』(ポプラ社)~生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊

2018年01月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『かがみの孤城』(ポプラ社)は2017年5月発行で、辻村深月の最新刊。私には珍しく文庫ではない本を読みましたが、これは名作です。

言えない。だけど助けてほしい・・生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊。涙が止まらない、感動溢れる一冊です!」と商品紹介にあるように、きめ細やかな愛情をもって描かれたこの小説には癒しと勇気づける力が溢れています。

主人公・こころおよび主要人物たちが中学生なので、最初は感情移入がどれほどできるかちょっと疑問だったのですが、あっという間にストーリーに引き込まれました。

「鏡の国のアリス」か?と思えるような感じで、5月末のある日、不登校になっているこころの部屋にある鏡が光り出し、彼女はその鏡の中に引き込まれてしまいます。最初は何が何だかわからなくて、いきなり現れた狼面の少女の説明も聞かずに逃げ帰ってしまいましたが、次の日も同じように鏡は光り、もう一度中に入ってみると、そこには狼面の少女以外に6人の同じ年頃の子たちがいました。狼面の少女の説明によると、そこは鏡の城で、日本時間の午前9時から午後5時まで自由に使ってよく、「願いの部屋」の鍵を探して、見つかれば、願いを一つ叶えられるという。城は翌年の3月30日まで開いていて、それまでに鍵が見つからなければ、そのまま参加者7人はそれぞれの現実に帰っていくが、それ以前に鍵が見つかり、願いが叶えられれば、その時点で城は閉じられるというルールです。また午後5時を過ぎても城に残っているとオオカミに食べられてしまうとか。

この不思議な城は何なのか、なぜこの7人が選ばれたのか、本当に鍵があって願い事が叶うのか。という謎解きの枠組みの中で、7人それぞれの事情が徐々に明かされて行きます。

たとえば、こころが「心の教室」とかいう不登校の子供たちのためのスクールに通い、そこの仲間たちとだんだん親しくなって、また理解のあるスクールの先生に癒され、母親の理解と援護を得ながら立ち直っていくという筋書きでも十分ドラマは成立すると思うのですが、それはリアルである一方、もしかしたら平凡で味気なかったかもしれません。けれど、こころはそのスクールにすら足がすくんで行けなかったのです。

そこに「鏡の城」というファンタジーの異空間を最後の逃げ場のように出現させ、そこに集められたの子たちの意外な繋がりが(最後に)明かされる仕掛けが加えられることで、こころの成長物語にぐっと面白味が増しているように思います。

その構成力の秀逸さもさることながら、言葉の通じない同級生や無理解な担任の先生等から受けるこころの衝撃や恐怖や憤懣がきめ細やかな愛情をもって描写されているところも素晴らしいです。是非とも「生きにくい」と感じている人ばかりでなく、10代の子供を持つ親御さんたちや学校の先生や学校教育にかかわるすべての大人たちに読んでもらいたい一冊ですね。そのメッセージが果たして通じるのか、やっぱりかなり疑問ではあるのですが。

私も中学時代の一時期不登校でした。知らない先輩に目を付けられたり、クラスの中心的女子グループに目を付けられて、いちゃもんつけられたり、友達だと思ってた子たちに裏切られたり、で教室に居場所を失くした結果でした。自殺未遂経験もあります(たいして本気ではありませんでしたが)。しばらくして生来の負けず嫌いと口の達者さで立ち直って反撃に出ましたけど、トラウマになった部分もありますし、中学卒業後もどこにも属せず、【普通】という型が理解できずに苦悩し、人間の裏表に失望した時期もありました。「人は人、私は私」という開き直りと、「なぜ自分は【普通】からはみ出してしまうのか」という劣等感の混じった疑問との間で揺れた青春時代でした。。。

作中の「毎日闘っている」という描写がまさに自分の過去にも当てはまり、すごく共感しました。主人公のこころみたいに「言えない子」ではなかったですけど。キャラ的にはしっかりして、ちょっと肩肘張ってしまってる「アキ」が近いかな、と思います(笑)


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書評:辻村深月著、『鍵のない夢を見る』(文春文庫)~第147回(2012上半期)直木賞受賞作



書評:林真理子著、『みんなの秘密』~第32回吉川英治文学賞受賞作

2018年01月20日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

林真理子の本3冊目は、1998年第32回吉川英治文学賞受賞作の『みんなの秘密』。受賞からちょうど20年ですね。内容で時代を感じさせるものがあるとすれば、登場人物たちの連絡方法くらいだと思います。それ以外の人間ドラマ、人妻の不倫、夫の浮気、親子問題、兄弟問題、嫁姑問題、ご近所問題などはそうそう変わるものでもないのではないでしょうか。

先に読んだ『不機嫌な果実』と『葡萄が目にしみる』は1人称の小説でしたが、『みんなの秘密』は12編の1人称短編連作小説で構成されています。スタートを切るのは「爪を塗る女」の倉田涼子、34歳。キスに対して少女よりもおぼこな人妻は、不倫という甘い蜜を手に入れ、キスだけの淡い恋に酔いしれ、その先の関係におそれおののくという不倫に関する秘密。その後に、「悔いる男」で彼女の夫の倉田紘一の秘密に話が移ります。その次の『花を枯らす』は倉田紘一の「悔い」の対象となっていた女性・篠田博子の独白。というように、次々に語り手がバトンタッチして、それぞれの秘密を独白していきます。このため、共有体験したはずの同じ事象に対する捉え方の違いも浮き彫りになることが多々あって、非常に興味深いです。人って、夫婦でも家族でも近しい間柄でもその内面はやっぱり分からないものですね。通常触れられるのはほんのわずかなので、相手を「分かったような気になって」しまうと思わぬ落とし穴がある、ということでしょうか。それでもこの連作の最後が「二人の秘密」というタイトルで、夫婦二人が大きな秘密を共有しようと約束する(つまりまだ共有していない)ところで終わるところに、ある種の希望と言いますか、「人間同士の関わり合いがそう捨てたもんでもない」と思える余韻を残しているように思えます。

林真理子の描く恋愛・性愛ドラマとその心情描写はとてもリアルで、あまり夢がないと言えばそれまでですが、身近にありそうだから親しみやすく共感できるまたは「自分だけじゃない」と思えるのが魅力なのかな、と思います。セックスレスになる夫婦、増える贅肉、失われていく肌の張り、衰えていく勃起力(?)等の老いの兆候を前に必死に自分のプライドやアイデンティティを保とうとあがく様は、あんまり連続で読みたいものではないのですが。

人間諦めが肝心、とは思いますが、私はリアリティのない夢物語のハーレクイン的なものも好物です(笑)

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書評:林真理子著、『不機嫌な果実』(文春文庫)

書評:林真理子著、『葡萄が目にしみる』(角川文庫)~第92回(1984年下半期)直木賞候補作


書評:林真理子著、『葡萄が目にしみる』(角川文庫)~第92回(1984年下半期)直木賞候補作

2018年01月19日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『不機嫌な果実』に続いて林真理子2冊目は『葡萄が目にしみる』。辻村深月の『鍵のない夢を見る』に掲載されていた対談で言及されていた作品です。両作家の出身地である山梨が舞台になっています。ヒロイン・乃里子はブドウ農家の娘。彼女の中学3年から大人になるまでの青春記録小説といったところでしょうか。

容姿にコンプレックスを抱き、異性の目を気にしながら、男子受けのいい女子(今風に言うと、「クラスのヒエラルキー上位の女子」だろうか?)に憧れと侮蔑とが入り混じった感情を抱き、ある男子には淡い恋心を抱き、別の男子には恋とは違った意味で興味を持ち、さしたる将来のビジョンもないまま憧れで東京の大学に行き、ラジオ局に就職。30になって結婚こそしなかったけど、確固とした目標なしに上京した割には比較的うまくいった人生と言えるのではないでしょうか。

この彼女の目を通した1970年代後半から1980年代前半の世相がまた興味深いですね。高度経済成長期で、周りがみんな景気の良さを謳歌し、テレビを買ったり、電化製品を買ったり、車を買ったり、家をリニューアルしたり。でもその贅沢にどっぷりつかってるわけでもなく、乃里子の父をして「百姓が贅沢してどうする」と言わしめる程度には距離感があり、「これでいいのか」というそこはかとない不安も漂っているんですね。

自意識過剰なおデブちゃんがどう変わっていくのかな、どういう恋をするのかな、などと思いながら読んでたので、高校卒業寸前で「小川君が…」と言ってた第8章「窓の雪」から、いきなり大学時代もすっ飛ばしてすっかり「マスコミの女」になった乃里子が登場する第9章「再会」の展開にちょっとびっくりしました。ついて行けない程ではないけれど、もうちょっと彼女の途中経過を追っていきたかったのに残念という感じがしましたね。乃里子はどちらかというと純朴なので、すれた感じのある『不機嫌な果実』のヒロインより好感が持てます。まあ、年齢も違いますが。

最後の、恋ではないけど気になっていた同級生で有名なラグビー選手になった彼にひょんな縁で再会して、故郷の言葉で親しげに話すシーンには「ほっこり」します。

私はそういえば高校の同級生には再会してないですねぇ。たまり場だった「図書室」やとある喫茶店繋がりの先輩や同学年の子には再会したり、SNSで繋がってますが、同級生は見事に無縁です。ベルリンに住むFB友達から「今度ボンに行くことになってるFB友達がいるからよろしく」と紹介された人が、実は高校の先輩で交友関係も重なってる知り合いだった、というのが高校繋がりでは一番不思議なめぐり合わせでした。人の縁とはわからないものですね。

『葡萄が目にしみる』は高校生時代がメインになっているので、自分のちょっと恥ずかしい高校時代を思い出さずにはいられませんでした。もっともそんなに具体的に覚えていることはそれほどないんですけど、当時考えていたことや悩んでいたことや、憧れた人や、付き合った人など、「高校生的感覚」とでもいうものが自分の中で呼び戻される感じです。こうして振り返ると確かに青春時代の輝きが「目にしみる」かも(笑)

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書評:林真理子著、『不機嫌な果実』(文春文庫)


書評:林真理子著、『不機嫌な果実』(文春文庫)

2018年01月19日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

林真理子という名前だけ知っていた作家の『不機嫌な果実』というやはりタイトルだけ知っていた小説を読んでみました。1996年に単行本が発行されたようなので、もう20年以上前の作品なんですね。ドラマ化も映画化もされたようですが、その頃はもうドイツに来ていたので、見てません。

この前辻村深月の『鍵のない夢を見る』を読んだときに林真理子との対談が載っていて、それで林真理子の本を何冊か買ってみた次第です。

結婚6年目、夫の拒絶にささやかな復讐心をおぼえたヒロイン・麻也子(32)が不倫に走るというのが大筋ですが、まずは無難な相手として昔関係を持ったことのある妻子持ちの40代の男性と関係を持ち、その関係に慣れてくると、また不満を抱き、その後に出会った相手にはどうやら本気で恋をして、ついに離婚してその相手と結婚することになるというドラマ展開に驚きつつもどうなるのかドキドキし、彼女の思考や感じ方の詳しい描写に納得したり違和感を感じたり。そして結末は、意外のようでもあり、麻也子のキャラならそれも「あり」かなと思ったり。なんだか彼女の今後が心配になるラストでしたね。

ヒロインは派手なバブリー世代の女性たちの先駆けの世代のようですが、あの外見へのこだわりとか、見栄っ張りなところとか、男性観とかがその世代の典型であるようでいて、だけど薄っぺらでない「麻也子」という個性的な心情描写があるのが深みがあっていいと思いました。自分で主導権を握っているようでいて、結局自分の価値観や見栄やそういったものにとらわれて振り回されているところもリアルな感じがします。あまり友達になりたいタイプではありませんが(笑)

幸せになれるタイプでもないですね。やはり人間関係、特に男女関係を「損得」でとらえているのと、「与えられること」しか眼中にないから、「自分は損している」という感覚にとらわれてしまうのだろうと思います。人というのは人から与えられることを求めている限り幸せにはなれないものです。望んだものが与えられれば一時的な喜びとかはあるかも知れませんが、何かの拍子に何かと比べて、その与えられたものが色褪せて見えてしまえば、あっという間に喜びは失望と不満に取って代わられてしまいます。不倫がどうのというところよりも、麻也子のそういうメンタリティがちょっと気の毒な感じがしました。

男性読者はこの作品をどう感じるものなのか想像できませんが、女性読者にとってはこの主人公の近くて遠い感じがドラマとして面白いのではないかと思います。

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書評:『秘密保護法は何をねらうか 何が秘密?それは秘密です』(高文研)

2018年01月18日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『秘密保護法は何をねらうか 何が秘密?それは秘密です』は、2013年12月に発行された、清水雅彦・日本体育大学憲法学准教授、臺宏士・毎日新聞記者、半田滋・東京新聞論説兼編集委員の共著です。

すでに法律は成立してしまっていますが、だからといって悪法であることには変わりなく、政権交代が叶うなら可及的速やかに廃止すべきです。その意味で、本書は法案の歴史を振り返り、だれがどういう思惑で働きかけ、何をどう言ったかというような歴史的記録としての価値があると思います。

目次

はじめに

「知る権利」「報道の自由」を“圧殺”する秘密保護法制 - 臺宏士・毎日新聞記者

「情報統制」が真の狙いかー防衛省・自衛隊取材の現場から - 半田滋・東京新聞論説兼編集委員

憲法の諸原理を否定する秘密保護法 - 清水雅彦・日本体育大学憲法学准教授

おわりに

【資料編】

    • 秘密保護に関する現行法の罰則規定比較一覧
    • 秘密保護法案(2013年10月25日閣議決定)
    • 国家公務員法
    • 自衛隊法
    • 自衛隊法施行令
    • 日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法
    • 日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法施行令
    • 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法
    • 防衛秘密にかかわるスパイ行為等の防止に関する法律案(1986年自民党公表「国家秘密にかかわるスパイ行為等の防止に関する法律案」修正案)

 

明らかなのは、この秘密保護法が米国の要請に基づいていることです。

おかしいと思いませんか?安倍首相は一方では日本国憲法が「米国からの押し付けだから変えるべき」と改憲に意欲を見せ(その他の国内問題は放置)、日米地位協定を始めとする様々な米国の要請による既存の法律には黙認するばかりか、進んで新しい法案をそれこそ数の力で強引に通してきました。これほど「従米」意識の強い政権は今までになかったくらいです。それなのに憲法だけは「米国からの押し付けだから変える」とは矛盾以外の何ものでもありません。

もちろん憲法の成立過程をきちんと検証すれば「押しつけ」でないことは明らかになりますが、それを置いておくとしても、現行の憲法は現在の米国の要請に合致しないということが本当の改憲の動機なのではないでしょうか。これならば少なくとも「従米」という論理の一貫性・整合性があります。安倍首相の言う「愛国」は「売国」に等しいということですね。米国の言い値でいくらでも武器を買い、どれほどの財政赤字であろうと在日米軍のための「思いやり予算」は削らずにその額は米国同盟諸国で最大、在日米軍関係者の「治外法権」を他の同盟国と比べても異常なくらい広範に認め続けています。その犠牲となっているのは日本国民です。

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