徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『グアムの探偵』1~3巻(角川文庫)

2019年03月12日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の久々の探偵ものが立て続けに発売されたので一気に3巻買って読み切りました。

このところ歴史エンタメ小説が続いていましたが、「探偵ものに戻って来たのかな、でも、なぜグアム?」というのが私に限らず多くの松岡ファンの疑問だったのではないでしょうか。

1巻の冒頭で『探偵の探偵』シリーズや『探偵の鑑定』シリーズの登場人物スマ・リサーチ代表取締役・須磨康臣が日本とグアムの探偵の関りに言及し(浮気調査対象が愛人と好んでグアムに行くので、追跡を現地探偵事務所に依頼する必要がある)、グアムで活躍する日系人探偵事務所「イーストマウンテン・リサーチ社の事件簿のいくつかを、出版という形でここに紹介できることは、私にとって誇りである。本場の探偵の活躍ぶりが広く知られ、日本の探偵業法の見直しや権限拡大につながれば、これ以上の喜びはない。」と述べていることから、グアムの探偵が日本の探偵と違って準州政府公認の私的調査官であり、れっきとした法の執行者として警察ほどではないものの、それなりの権限を持ち、刑事事件に関わることができ、その調査結果は公判に正式な証拠として採用され、また拳銃の携帯も許可されていることを短編の事件簿を通じて広く日本で知らしめることが作者の目的であるようです。

3巻まで立て続けに発行され、各巻に5編ずつ収録されています。

イーストマウンテン・リサーチ社の社長ゲンゾー・ヒガシヤマ(77)は血筋から言えば純粋な日本人で、子どものころに渡米してアメリカ国籍を取得し、フランス系アメリカ人の奥さんエヴァと結婚し、その息子デニス(49)は一時LA市警で警察官を務めたものの、諸事情によりゲンゾーの探偵事務所の副社長に収まります。日本人女性ケイコと結婚し、一人息子のレイ(25)はグアムで生まれ育ち、最初から探偵を目指して資格を取り、祖父・父の経営する探偵事務所に就職しました。この経営者一家3代が当シリーズの主人公で、これまでの若く美しく、なんらかの特殊能力を持つ女性をヒロインにしていたシリーズとは一線を画しています。そういう意味では歴史エンタメに続く作者にとっての新境地開拓の一環なのかもしれません。シリーズに重要な女性の登場人物はなく、あくまでも「男たちの事件簿」として展開します。また主人公3人が祖父・父・孫の身内であるという関係ならではの打ち解けた悪態の付き合いおよび緊急事態発生時の阿吽の呼吸が魅力的です。

さらに、ストーリーの中に北朝鮮のミサイルの標的にされたことや、グアムの1/3が米軍関連施設で占領されていることなどのタイムリーな話題やグアム独特の事情がさりげなく盛り込まれており、事件簿を楽しみながらグアムの事情通にもなれる感じです。

エピソード同士の関連性・連続性はないので、どのエピソードから読み出しても支障はないと思います。日本語を話せる人がいるのが探偵事務所の売りの一つであるため、日本人の浮気調査や日本人移住者または観光客のトラブルなどの相談・依頼が多いですが、現地の観光局やその他ローカルな依頼もあり、シリーズの定型というものがなく、一話一話に事件の意外性、ローカル事情、ぐっとくるポイントが盛り込まれていて全く退屈しません。

1巻の収録内容:

前書きにかえて

第1話 ソリッド・シチュエーション

第2話 未明のバリガダハイツ

第3話 グアムに蟬はいない

第4話 ヨハネ・パウロ二世は踊らず

第5話 アガニアショッピングセンター

解説 村上貴史

2巻の収録内容:

第1話 スキューバダイビングの幻想

第2話 ガンビーチ・ロードをたどれば

第3話 天国へ向かう船

第4話 シェラトン・ラグーナ・グアム・リゾート

第5話 センターコート@マイクロネシアモール

解説 吉野仁

第3巻の収録内容:

頼りになるグアムの探偵

第1話 ワームホールへのタンデムジャンプ

第2話 メモリアル・ホスピタルの憂鬱

第3話 ラッテストーンは回らない

第4話 スプレッド・ウインズSNS

第5話 きっかけはフィエスタ・フードコート

事件簿は血生臭くないものがほとんどですが、『万能鑑定士Q』シリーズのように徹底的に「人が死なないミステリー」ではないらしく、2巻第4話の『シェラトン・ラグーナ・グアム・リゾート』と3巻第5話『きっかけはフィエスタ・フードコート』は殺人事件を扱っています。『シェラトン~』の方は最初に殺人が起こり、犯人も明確なのですが、犯人が自分の地位と顧問弁護士を利用して不起訴どころか逮捕すらされない状況を作り出し、ヒガシヤマ一家が庶民の味方としてその状況を以下に覆すかに焦点が当てられています。推理の対象が犯人探しではなく、逮捕されない決め手となったものであるところが新鮮と言えます。『きっかけは~』の方は世間知らずの若い日本人女性・渡邊梨奈が白タクのカモにされ、レイが匿名の電話を受けて現場に駆け付けるところからはじまり、殺人が明らかになるのは中盤以降です。このため、やはり典型的な殺人推理小説の定型からは外れていますが、ストーリーの構造自体にはそれほど新鮮味があるわけでもありません。しかし、犯人がいかに罪を他人になすりつけようとしたか、そのトリックが面白いと思いました。世間知らずで騙されやすい渡邊梨奈が事件に巻き込まれているうちにレイの進言通りにブラフを使えるまでに成長するところも見逃せないポイントです。彼女はその後イーストマウンテン・リサーチ社にひと月だけ手伝いに来ます。なので、シリーズの続編には彼女がまた登場することになるのかもしれません。

全体的当シリーズでは、「筆がのってる」印象を受けました。シリーズ完結までにレイ、25歳、恋人なし、が恋人を見つけられるのかもちょっとした注目ポイントですね(笑)

 

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