徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:エラリイ・クイーン著、青田勝訳『ダブル・ダブル』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年08月31日 | 書評ー小説:作者カ行

『ダブル・ダブル』はライツヴィルシリーズ第4弾。今回エラリイがライツヴィルに赴く理由は、謎めいたライツヴィルで死んだ人のことを報じる新聞の切り抜きが続けて送られてきたことと、その中に「失踪した」と報じられていた「町の乞食」と呼ばれる男の娘リマ・アンダーソンがエラリイに助けを求めてきたことです。エラリイはこの森の妖精のようなリマに恋してしまったようでした。取り敢えずひどい恰好をしていた彼女に服を買い与えて、それから一緒にライツヴィルに向かい、一文無しの彼女に職の世話をするあたり、恋というより保護者のようですが、時々彼女のふるまいにどぎまぎしているのが新鮮です。

エラリイがライツヴィルに滞在するうちに連続殺人とは言い切れないものの、大富豪、貧乏人、乞食、泥棒の順に死んでいくことから古い童謡にちなんだ殺人かもしれない可能性が出てきます。そして次に狙われるであろう医者のドッド博士の家に滞在することにしますが、彼も事故か殺人か分らない死に方をし、次は彼の遺産相続や遺言書を扱った弁護士が狙われるのではと、弁護士に警告しますが、その甲斐なくその弁護士も事故か他殺か分からない死に方をします。

このように童謡になぞらえて次々と人がなくなっていくのはアガサクリスティーの「そして誰もいなくなった」とコンセプトが被るところがあり、一度は出版を断念したそうです。

この物語の特徴は最後の最後まで連続殺人が起きているとは言い切れないところでしょうね。殺人の証拠が挙がらないために警察の協力も今一つ得られず、手掛かりのないまま時が過ぎて行ってしまうところがややもどかしい感じです。

でもライツヴィルの細やかな街の描写やエラリイのこの街に対する愛着、リマに対する保護者的愛情、リマの恋愛と結婚などセンチメンタル・ロマンチックな部分も悪くないですね。

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国名シリーズ

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ライツヴィルシリーズ

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その他

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書評:エラリイ・クイーン著、青田勝訳『十日間の不思議』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年08月24日 | 書評ー小説:作者カ行

『十日間の不思議』(1948)はライツヴィルシリーズの第3弾で、エラリイがパリにいた時にしばらく一緒に過ごしたことのあるハワードの依頼でライツヴィルに赴くことになります。ハワードは一時的な記憶の脱落に悩んでおり、その間に自分が何をしでかすか不安であり、医者では解決できなかったのでエラリイに相談し、彼の実家に来て彼を監視してくれるように頼んだのでした。

この作品は解決すべき殺人事件が話の終わりに近づいてから起こるという点で毛色が変わっています。エラリイはハワードの不倫やその不倫をネタにした脅迫問題に深く巻き込まれていき、まんまと陰謀にはまって殺人を未然に防ぐことができなかったという「エラリイ・クイーンの破滅」を描いた物語でもあります。最後に「もう事件には関わらない」と宣言してライツヴィルを後にしますが、もちろん引退などできるわけもなく『九尾の猫』で復活します。

それはそれとして、ハワードの自殺で事件は一件落着であったかのように見えたのに、1年ほど経過した後にエラリイが行き着く真実は大きなどんでん返しでした。

ライツヴィルシリーズは興味深いシリーズですね。第1・2弾ではエラリイ・クイーンは事件を解決したものの、諸事情から公表を避けたために世間的には「失敗」と見なされており、第3弾では世間的には「大成功」と評価されているにもかかわらず、実際には彼はもっと大きなビッグピクチャーを描いたものの手のひらで踊らされていただけでした。

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国名シリーズ

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その他

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2019年08月21日 | 書評ー小説:作者カ行

『フォックス家の殺人』の殺人は、国名シリーズの最初に殺人が起こって、たまたまクイーン親子またはエラリイ一人がそこに居合わせて調査に乗り出すパターンとは違い、過去の事件を捜査する話ですが、そこに至るまでの前置きが長いため、若干イライラしました。

中国で華々しい戦果をあげたてライツヴィルに凱旋したデイヴィー・フォックス大尉は戦争で「神経をやられた」らしく、なぜか最愛の妻リンダを殺したい衝動に駆られ、その衝動と戦うことに苦心していました。その苦しみの根底には12年前父が母を毒殺したという事件があり、自分がその人殺しの血を引いているということが彼の精神を病ませていたのでした。その苦しみを少しでも和らげてあげたいと願ったリンダがお門違いかも知れないが、イチドライツヴィルで事件を解決した(『災厄の街』)ことのあるエラリイ・クイーンに相談しようと思い立ち、2人で彼を訪ねます。デイヴィーの父ベイアードは無実を主張していましたが、あまりにも状況証拠が彼に不利であったためにそのうち本人も諦めてしまい、刑に服していました。エラリイ・クイーンは若い二人のたがいを思い合う気持ちと冤罪であるかも知れないそのわずかな可能性に挑戦を感じて依頼を受け、その依頼を受けて紆余曲折の後に解決するというストーリーです。

エラリイが事件の再調査に乗り出したところから、フォックス家の様々な語られなかった過去が、息子とその妻の未来の幸福のためになるならばという父親心で「真実を語ろう」と決意したベイアードによって次々と明らかになっていき、ドラマチックな盛り上がりを見せます。長い前置きを我慢して読み通すだけの甲斐はありますね。

また、真犯人は公にされてはならない部類ですね。どうやらライツヴィルシリーズというのはそういう人間ドラマを中心に据えるタイプのシリーズのようです。

 

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