徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫)

2016年01月30日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の作品は結構読んでいます。「万能鑑定士Q」シリーズや「特等添乗員αの何事件」シリーズや、「探偵の探偵」など、推理小説としての面白さもさることながら、日常・非日常的に関わらず広範に及ぶトリビア満載なので、雑学教科書のような味わいもあるのが松岡流、でしょうか。もっとも「探偵の探偵」はちょっと暴力シーンが多くて、少々読んでいる最中の不快感があるのですが、「水鏡推理」は主人公の女性が探偵事務所でアルバイトした経験を持つとはいえ、文科省の一般職という役柄なので、きな臭いことにはならず、安心して読める感じです。

さて、その主人公ですが、正義感を発揮するあまり組織の枠をはみ出してしまう文科省ヒラ一般職事務官・水鏡瑞希がひょんなことから文部科学省の研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォースに配属され、その素晴らしい観察眼と推理力で、次々不正研究、捏造実験などを看破していきます。

主人公がちょっと天然で美人さんのところも、観察眼の鋭さや圧倒的な知識に基づく推理力で謎を解き、不正を正していくところなどは「万能鑑定士Q」の主人公と類似し過ぎているきらいはありますが、先入観なしに読めば、勧善懲悪的な爽快感のある推理小説で、面白いエンタメかと思います。

一貫したメッセージは「国民の血税をインチキな研究のために湯水のように使うな」ということですね。正論過ぎて、それ以上何も言うことはございません。

ラブ要素はほんのり、だけですね。どうやら両想いっぽい、というのが分かる程度。

続編が2月に発売されるようですが、今から楽しみです。

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書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)



ドイツ:世論調査(2016年1月29日)~メルケル支持若干復調

2016年01月29日 | 社会

1月29日にZDFの世論調査ポリートバロメーターが発表されました。以下に結果を紹介します。

「メルケル首相の難民政策をいいと思う」:

はい 41%(+2)
いいえ 54%(-2)
分からない 5%(変化なし)

 

「ドイツはたくさんの難民を受け入れることができる」:

はい 39%(+2)
いいえ 57%(-3)

 

難民数減少策

「ヨーロッパ全体の合意は可能」:

はい 17%
いいえ 80%
分からない 3% 

「ドイツだけでも難民数減少が可能」:

はい 19%
いいえ 77%
分からない 4%


「クリョックナー案国境センターについて」:

賛成 66%
反対 28%
分からない 6%

クリョックナー氏(CDU)は次のラインラント・プファルツ州首相候補で、一度連立政権に却下されたゼーホーファー・バイエルン州首相のトランジットゾーン案と酷似した案を出したことで物議を醸しだしました。ゼーホーファー氏は自分の案とどこが違うのか分からないが、彼女の案にもちろん賛意を表しました。メルケル首相(CDU)は国境センターは党全体の議論を経たものではなく、一地方のイニシアチブに過ぎないという立場を貫きました。

「難民政策についての争いはメルケルを任期終了前に首相の座から降ろすことになるかもしれない」:

はい 31%(+12)
いいえ 67%(-12)
分からない 2% 

「貴方の住んでいる地域で難民と問題がありますか?」:

とても大きな問題 3%
大きな問題 13%
特に大きな問題ではない 39%
全く問題ない 38%
難民がいない 6% 

難民と大きな問題があるのは一部だけ(16%)のようです。これは警察側の統計とも一致します。犯罪多発地域は都市部に集中しており、中でもとくに有名なのがケルン中央駅周辺、デュッセルドルフ中央駅近くの「マグレブ地区」です。そういった犯罪集中地区は警察もパトロールを強めています。

 

 

「国境検問を大々的に行えば経済を損なう」:

(非常に)強く 46%
それほどでもない 50%
分からない 4%

「国境検問強化のための警察官が十分に居ると思いますか」:

はい 5%
いいえ 92%
分からない 3%


「難民による犯罪が増えると思いますか?」:

はい 66%
いいえ 31%
分からない 3%


「個人的に難民による犯罪の犠牲になるのではないかという恐怖感がある」:

はい 30%
いいえ 70%

女性だけで見ると恐怖感があると答えたのは42%に上ります。やはり大晦日の性的嫌がらせ多発事件が尾を引いているようです。


政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):

  1. ヴォルフガング・ショイブレ(財相)、1.9(-0.1)
  2. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、1.9(-0.1)
  3. アンゲラ・メルケル(首相)、1.0(-)
  4. ジグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.6(-0.1
  5. グレゴル・ギジー(左翼政党)、0.5(-0.2)
  6. ハイコ・マース(法相)、0.5(初ランクイン)
  7. トーマス・ドメジエール(内相)、0.5(-)
  8. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.4(+0.1)
  9. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.4(-0.3)
  10. ザーラ・ヴァーゲクネヒト(左翼政党)、-0.6

 

連邦議会選挙

「もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか」:

CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 37%(変化なし
SPD(ドイツ社会民主党)  24% (変化なし)
Grüne(緑の党) 11%(+1)
FDP (自由民主党) 5%(変化なし
Linke(左翼政党) 8%(変化なし
AfD(ドイツのためのオルタナティヴ) 11%(変化なし) 
その他 4% (-1)


この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.380人に対して2016年1月26日から28日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年2月19日ZDFで発表されます。

 

参照記事: ZDFホイテ、2016.01.29の記事「ポリートバロメーター」 


アウシュヴィッツ解放、国際ホロコースト記念日

2016年01月27日 | 歴史・文化

1月27日は国際ホロコースト記念日です。2005年11月1日、国連総会はナチス・ドイツ政権によって、600万人以上のユダヤ人、200万人のロマ人、1万5千の同性愛者が迫害され大量に殺害されたホロコーストを確認し、憎悪、敵対感情、人種差別、偏見がもつ危険性を永遠に人々に警告することを目的とした国際連合総会決議60/7を採択し、ソ連・赤軍によって1945年1月27日アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所が開放されたことを記念して1月27日を国際ホロコースト記念日と定めました。

ドイツでは1月27日は1996年から法的に定められた記念日です。正確には国民社会主義(ナチズム)の犠牲者たちを偲ぶ日(Tag des Gedenkens an die Opfer des Nationalsozialisumus、ターク デス ゲデンケンス アン ディー オプファー デス ナチオナールゾチアリスムス)といいます。1996年1月3日にローマン・ヘルツォーク独大統領(当時)の宣言によって1月27日をナチス犠牲者たちを偲ぶ法定記念日が導入されたのです。ヘルツォーク元大統領はその宣言の中で「記憶に終わりがあってはならない。それは後の世代も注意深くあるよう警告し続けなくてはならない。だからこそ将来まで効力を発揮するような思い出すための新たな形を見つけることが重要なのです。それは苦しみと喪失を悼む気持ちを表現し、犠牲者たちを偲ぶことにささげられ、そしていかなる過ちを繰り返す危険にも立ち向かうものであるべきです(„Die Erinnerung darf nicht enden; sie muss auch künftige Generationen zur Wachsamkeit mahnen. Es ist deshalb wichtig, nun eine Form des Erinnerns zu finden, die in die Zukunft wirkt. Sie soll Trauer über Leid und Verlust ausdrücken, dem Gedenken an die Opfer gewidmet sein und jeder Gefahr der Wiederholung entgegenwirken.“)」と法定記念日の意味とその在り方について述べました。

記念日には毎年ドイツ連邦議会で追悼式典が行われます。今年はクリスチャンシュタット強制収容所に12歳の時に連行され、運よく生き延びたというオーストリア・ウィーン生まれ、現在アメリカ国籍の文学者であり、作家でもあるルート・クリューガー氏(84)が追悼式典で演説をしました。彼女が生き延びられたのは、収容所について仕分けを待つ行列の中で、ある女性に「15歳だと言いなさい」とこっそりささやかれたことによります。もし彼女が本当の年齢を言っていたら、即ガス室送りになるはずでした。年を誤魔化すことで即死ではなく強制労働によるゆっくりとした死が選択されたのでした。

© Michael Sohn/AP/dpa

「1944-45年の冬は私の人生で最も寒い冬でした。私たちは森を開墾し、木を割り、レールを運びました。何かを建てるつもりだったようです。それが何かは私たちには教えられませんでした。」それが完成することはなかったという。
食糧不足、寒さ、採石場あるいは森での重労働。 収容所での厳しい条件。奴隷労働と呼ぶにはその状態は相応しくない、とクリューガー氏は語りました。「奴隷の主人なら、奴隷が生き延びることにそれなりの価値を見出しているものですが、ナチスの略奪が続く限り代用はいくらでも来たのです。≪人間材料(Menschenmaterial)≫ならいくらでもある、と彼らはよく言ったものでした。」「終戦後、村の誰も収容所で何が起こっていたか知らなかったというのです。」

クリューガー氏はまた強制売春婦たちの運命にも言及しました。「収容所によっては特別バラックがあり、それなりに優遇された囚人たちに提供されていました。外には男たちが行列を作り、中では女性たちが性行為を強制されていたのです。この女性たちは強制労働者として認定されず、補償を受ける権利が認められませんでした。もし私たちが今日強制労働について顧みるならば、彼女たちのことも含めて考えなければなりません。」

演説の終わりにクリューガー氏はメルケル首相の難民政策を褒め称えました。「80年前に世紀最悪の犯罪を犯したドイツが今日ではその開かれた国境とシリアをはじめとする難民たちを受け入れた、そして今も受け入れている心の広さで世界の称賛(拍手喝采)を得たのです。」

連邦議会議長であるノーバート・ラマート氏を始め、この日ドイツの政治家達は外国人排斥、反ユダヤ主義、レイシズムなどに反対する態度を示し、現在台頭しつつある難民排斥などの動きに警告を発しました。

ホロコースト記念日を意識してのことかどうか分かりませんが、今日極右的思想を持つ人たちのプラットフォームとなっている「アルタメディア(Altermedia)」というインターネットポータルが禁止となり、そのポータルを運営していたという容疑者二人が逮捕されました。サーバーはロシアにあるとのことで、その完全停止にはもう少し時間がかかる模様です。そのポータルでは排斥思想が拡散されたばかりでなく、積極的に誰かを標的にした暴力や殺害を教唆していたため、ポータルの禁止と運営者の家宅捜査・逮捕に踏み切ったとのことです。ポータル自体は既に1997年に立ち上げられていました。

トーマス・ドメジエール内相は今回の禁止・逮捕でインターネットが無法地帯ではないこと及び国が断固として極右思想と戦うことを示す明確なシグナルを送ることができると考えているようです。一つのポータルを禁止しても、またどこかで違うポータルが立ち上がるのは分かり切っているし、イタチごっこになるのは承知の上だが、無法地帯にはさせない、という強い意志を示しました。

ヨーロッパの右傾化が懸念されていますが、極右勢力が社会のメインストリームになることを許さない勢力も断固戦う姿勢を強めていますので、社会の緊張感は高まるにせよ、排他的な動きはある一定レベルで抑制されることが期待できそうです。

参照記事:

ツァイト・オンライン、2016.01.27日付の記事「今日のドイツは世界の称賛を得ました
ディー・ヴェルト、 2016.01.27日付の記事「メルケルの「私たちは成し遂げられる」に感動的な讃嘆
ターゲスシャウ、2016.01.27日付の記事「貴方たちは世界の称賛を得た」(ターゲスシャウの記事は規定により一定期間を過ぎると削除されます)
ターゲスシュピーゲル、2016.01.27日付の記事「ドメジエールは極右扇動家たちを止める」 

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ドイツ連邦刑事庁発表、大晦日・元旦の女性襲撃多発事件全容報告

2016年01月25日 | 社会

ドイツ連邦刑事庁が大晦日から元旦にかけての夜各地で起きた女性襲撃多発事件の全容を報告した、と1月23日に各紙で報道されました。

通常なら、その日のうちにブログに書くのですが、週末はどうしてもそういう気分になれず、月曜日、気分も新たにこの記事を書いております。

さて、連邦刑事庁の報告では被害届は各州で以下のようになっております。

  • ノルトライン・ヴェストファーレン州(ケルン、デュッセルドルフ、ビーレフェルトを中心に):1,076件(傷害692件、性的嫌がらせ384件)
  • ハンブルク州:218件(ほとんどが性的嫌がらせ)。容疑者8人が突き止められた。
  • ヘッセン州(フランクフルトなど):31件(性的嫌がらせおよび窃盗)
  • バイエルン州(ミュンヘン、ニュルンベルク中心):27件
  • バーデン・ヴュルッテンベルク州(シュトゥットゥガルトなど):25件
  • ブレーメン州:11件(傷害、窃盗のみ)
  • ベルリン州:6件
  • ニーダーザクセン州、ブランデンブルク州、ザクセン州、ラインラント・プファルツ州及びザールラント州もそれぞれ何件か届けがあったようですが、まだ捜査中で、数字が確定していないとのことです。
  • メクレンブルク・フォアポンメルン州、ザクセン・アンハルト州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州及びチューリンゲン州では被害届なし。
現在ドイツ人12人、その他の国籍60人の容疑者に対して捜査中です。容疑者たちは17-30歳の男性ばかりです。捜査は監視ビデオや個人のスマホによるビデオなどの検証が主に行われています。被害者証言は犯人の外見について「南国風」とか「アラブ系」など曖昧で、そこから犯人を割り出すのはほぼ不可能に近い。
警察の見解では各地の事件は「組織犯罪」ではないそうです。いくつかのグループがばらばらにSNSを通して集まったに過ぎず、大晦日以前に犯罪計画があった形跡はないとのことです。

参照記事の一つ:ZDFホイテ、2016.01.23日付の記事「12州で大晦日襲撃

ドイツ:世論調査(2016年1月21・22日)~バーデン・ヴュルッテンベルク州&ラインラント・プファルツ州

2016年01月25日 | 社会

バーデン・ヴュルッテンベルク州

バーデン・ヴュルッテンベルク州の州議会選挙が間近です。そのため州の世論調査も行われました。以下に1月21日に発表されたZDFポリートバロメーター・エクストラの結果を簡単にご紹介します。

次の日曜日が州議会選挙だったら?

投票先は以下のグラフの通りです。SPD(社会民主党)、CDU(キリスト教同盟)、Grüne(緑の党)、FDP(自由民主党)、Linke(左翼政党)、AfD(ドイツのためのオルタナティヴ=右翼ポピュリズム政党)、Andere(その他)。

AfDの支持率の伸びが+5ポイントで、まさに「右翼政党躍進」と言えます。

最重要課題は?

最重要課題としては『難民問題』がトップに挙げられています(77%)。州政府の管轄下だけでどうにかできる問題でもないのですが。

2番目は州議会選挙の古典的テーマである「学校・教育」(11%)。3番目に「環境問題」が挙げられているのはバーデン・ヴュルッテンベルク州の特徴です。これは緑の党の支持率の高さ(28%)に表れています。4番目は「交通」(9%)。

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1069人に対して2016年1月18日から20日に電話で実施されました。

参照記事:ZDFホイテ、2016.01.21の記事「ポリートバロメーター・エクストラ


ラインラント・プファルツ州

ラインラント・プファルツ州も州議会選挙が近づいています。そのため州の世論調査も行われました。以下に1月22日に発表されたZDFポリートバロメーター・エクストラの結果を簡単にご紹介します。

次の日曜日が州議会選挙だったら?

投票先は以下のグラフの通りです。SPD(社会民主党)、CDU(キリスト教同盟)、Grüne(緑の党)、FDP(自由民主党)、Linke(左翼政党)、AfD(ドイツのためのオルタナティヴ=右翼ポピュリズム政党)、Andere(その他)。

ここでもAfDが支持を伸ばしています(+3ポイント)が、全国レベルの11%、ザクセン・アンハルト州の15%にはまだまだ及びません。SPDが30%台なのも特徴的です(全国での支持率は24%で低迷)。

最重要課題は?

州議会選挙は通常は州に決定権のある教育や交通関係などが争点になるのですが、今回の重要争点はやはり『難民問題』です(69%)。

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1034人に対して2016年1月19日から21日に電話で実施されました。

参照記事:ZDFホイテ、2016.01.22の記事「ポリートバロメーター・エクストラ


書評:楠原佑介著、『この地名が危ない 大地震・大津波があなたの町を襲う』(幻冬舎新書)

2016年01月24日 | 書評ーその他

楠原佑介の「この地名が危ない」を読んだのはもう2・3週間前のことですが、なかなかためになる本なので、ちょっとご紹介させていただきます。

日本は言わずもがなですが、災害列島です。地震、津波、火山、台風、土砂崩れなどなど。同じ場所が災害に合う頻度は何十年、百年、あるいは何百年に一度のことでしょうが、その災害の記憶が地名に残されていることが多々あります。市町村合併や観光開発などで地名変更され、次々に古い地名が消えつつある今こそ、その地名の意味を考える必要があるのではないでしょうか。

以下は目次です。

序章 原発は津波常襲地に建設された

1章 地名が教えていた東日本大津波

  1. 「名取」は津波痕跡地名だった
  2. 女川・小名浜も津波痕跡地名だった
  3. 旧国名「石城」を巡る災害史
  4. ケセン(気仙)地名の謎が解けた
  5. 迷走する地名問題

2章 地名は災害の記録である

  1. 平成十六年、新潟県中越地震
  2. 芋川は「埋もれる川」だった
  3. 華麗に変身した『濁川』
  4. 「妙見」に託した故人の祈り
  5. 薬師信仰と「十二神」信仰

3章 災害にはキーワード地名がある

  1. 阪神・淡路大震災はナダ地名が予言していた
  2. アハ(暴)は地震痕跡地名だ
  3. 石は現れ、岩は流されない
  4. 石が動く、大地が揺らぐ
  5. 危険地名の「加賀」になぜ原発が立地する

4章 災害危険地帯の地名を検証する

  1. 「湘南」は大丈夫か
  2. 遠州灘沿岸は津波の常襲地帯だ
  3. 土佐の高知は大丈夫か?
  4. 隠れた断層を教える古代の群・郷名

5章 〈最大都市圏〉怪しい地名を検証する

  1. 〈東京首都圏〉都心直下・湾岸沖に活断層が眠る
  2. 〈京阪神〉大阪の弱点は「水の都」ということ
  3. 〈中京圏〉名古屋も津波の危険性がある

 

さて、反原発の方は特に序章の「原発は津波常襲地に建設された」が気になるところなのではないでしょうか?
序章では福島第一原発とそこから120キロ離れた宮城県牡鹿郡女川町にある女川原発の想定津波高の違いが指摘されています。福島原発は5.7m、女川原発は9.1mです。その違いはどこから来るのか、著者は次のように書いています。

原子力開発関係者の面々には、「女川など三陸海岸では津波は異様に巨大化するが、福島県浜通りなどの長汀海岸ではそんなに大きくはならない」という誤った確信があった、としか考えられない。こうした態度は、津波というものの実態に目をつむり、自然の脅威を軽視あるいは無視したものと言うしかない。
原子力といえば最先端の科学であり、最新鋭の技術を総動員しなければ制御できない分野であるはずだった。ところが津波という最も恐るべき自然現象に対し、俗世間並みの誤解と無理解のまま対処しようとした―――そこに今回の福島第一原発が破綻した最大の要因があると思われてならない。

 そして、福一の立地する「浪江」町も福島第二原発の立地するところの大字「波倉」も津波痕跡地名であることが指摘されています。「浪」あるいは「波」と津波の関連性は言わずもがなですが、「倉(蔵)」の方も実は危ない地名の代表格で、動詞クル(刳)が名詞化し、「地面が抉られたような地形(刳られた地)」を意味しています。つまり「波倉」とはまさに「波の刳った土地」をさすので、そんな危険地に原発を建設するなどもっての外、というわけです。もっとも、建設予定だったころならともかく、建ってしまっているものをいまさらどうこう言ってもどうにもなりませんが。今となっては、早急に廃炉にし、危ない使用済み核燃料をより安全と思われる場所に移す以外有りません。日本にそんな「安全な場所」などあるわけありませんが。

「倉」地名で有名なのは神奈川県の鎌倉。例の「イイクニ(1192)作ろう鎌倉幕府」の鎌倉です。こちらも津波によって「釜状に刳られた地=カマクラ」を意味し、鎌倉時代の13世紀の100年間に7回も地震・津波に襲われた記録が残っています。幕府の立地としては最低の選択だったようですね。

このように探っていくと、当て字で隠れてしまっている地名本来の意味が明らかになるわけです。この本では特に災害由来の地名を集めて解説されています。「簡潔で読みやすい」文章とは言えませんが(少し脱線が目立つので)、興味深い一冊です。


書評: 菅原高標女著、『更級日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラシックス)

2016年01月24日 | 書評―古典

清少納言の「枕草子」に続き、菅原高標女「更級日記」を同じビギナーズ・クラシックスシリーズで読みました。日本の古典文学を代表する女流作家なのに、どちらも本名が分からないのは残念なことですね。父の菅原高標は菅原道真の5代目、母は「蜻蛉日記」の作者である藤原道綱母の異母妹、ということで菅原高標女はなかなかのインテリ家庭で育ったようです。父の赴任先である上総の国で10-13歳の間過ごし、その間に継母や姉から今はやりの物語(源氏物語など)を断片的に聞いて、その物語をいつか読みたいと強く願うところから日記が始まります。やがて父の任期終了で京に上ることになり、上総の国から京までの3か月の大旅行の様子が日記に記されています。当時女性がそんな旅をすることなどあり得なかったので、彼女の天地のひっくり返るような感動とかが生き生きと伝わってきます。

そしてこの彼女、京に着くなり、家人は引っ越しの片づけに大わらわだというのに、お母さんに物語が読みたいとねだるんですね。これ、すごく気持ちが分かります。私も本の虫なもので。ただ私は人にねだるわけではなく、自分で勝手に買い込んでくるわけですが。とにかくお母さんのおかげで早速いくつかの本が手に入り夢中になって読んだ、と菅原嬢はのたまうわけです。

でも源氏物語など断片的で、話が見えないので、一度最初から最後まで全部読みたいと切に望む菅原嬢。うん、うん、そうだよね、とうなずく私。

この菅原嬢はこと文学に関しては縁故に恵まれていたようで、なんとおば様から源氏物語全巻といくつかの現在では散逸してしまっている物語をプレゼントされたのです! 彼女はそれこそ昼も夜もなく自室に引きこもって物語を読みふけったそうで。またしても、うん、そうだよね、一気読みするよね!とうなずいている私。

菅原嬢は光源氏のような男性が現れることを夢見、また浮舟のように愛し隠され儚くなりたいと願ってましたが、そこはまあ現実になるわけでもなく、彼女も後年反省するわけです。だんだん信心深くなってきて、何それの夢を見た、とかいう段になってくると、さすがに共感できなくなってきますが、日記と言うだけあって、気取ったところもお堅いところもなく、彼女の願いや喜びや悲しみや迷いなどがかなりストレートに書かれていて、人としての親しみを覚えます。それと比べると、清少納言の「枕草子」は【上から目線】の感じが強いように思えます。

原文の方で、おや?と思ったのは、自分の子供のことを「幼き人々」と言っていたり、姉のことを「姉なる人」、兄弟のことを「はらからなる人々」、夫のことを「児(ちご)どもの親なる人」と言っていること。この「人(人々)」の用法はなんでしょう? 分からなくはないのですが、不思議な感じがします。

この本も、段ごとに現代語訳・原文・注釈という風に構成されていて、古文が苦手な人でも原文に触れつつ意味が分かるようになっています。

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書評:藤原道綱母著、『蜻蛉日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

書評:谷知子編、『百人一首』(角川ソフィア文庫)&あんの秀子著、『ちはやと覚える百人一首(早覚え版)』

書評:大友茫人編、『徒然草・方丈記』(ちくま文庫)

書評:清少納言著、『枕草子』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラシックス)


書評:清少納言著、『枕草子』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラシックス)

2016年01月23日 | 書評―古典

ビギナーズ・クラシックスという角川書店から出ている日本の古典シリーズの一つである清少納言の「枕草子」をつらつらと読みました。

私は「徒然なるままに」という徒然草の冒頭をブログ名に採用している割には、実は古典は苦手です。嫌ってはいませんが、とにかく苦手なのです。どこが苦手かと言えば、主語が省かれ過ぎて文脈がつかみづらいところです。古典に精通した方なら、尊敬語や謙譲語などの敬語体系がしっかりしている古文は主語が明記されてなくてもよく分かる、というのでしょうが、その敬語体系を覚えられなかった私には残念ながら全くちんぷんかんぷんなのです。

とはいえ、枕草子のように有名な古典は現代語訳もたくさんあり、漫画すらあるので、ただ内容を知りたいだけなら、そういうものを手に取る方がいいでしょう。ですが、私のように古文が苦手でも原文に触れたい、しかし今更古文を勉強するのはちょっとという方にはこのビギナーズ・クラシックスシリーズがお勧めです。抜粋ではありますが、まずは現代語訳、次に原文、その後に必要に応じて当時の行事や文物、あるいはその段が書かれた背景などを説明する解説部が続きます。こうして現代語訳と原文を読み比べると、古文の方も「ちんぷんかんぷん」さが緩和されてきて、原文を味わう余裕も少し出て来るようです。

清少納言は本名不詳の一条天皇の中宮定子に仕えた女房という10世紀末―11世紀初頭の人物ですが、華やかな宮廷生活を描き、あくまでも当時の貴族女性という規制の枠内で知り得たこと、感じ得たことを書き留めているという意味で、文化的・時代的な隔たりを感じずにはいられないところも多々あるのですが、こと人情に関してはいつの時代も人間は大して変わらないので1000年の隔たりを超えて共感できる部分も結構あります。たとえば、「ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜き。主そしらぬ従者。(めったにないもの 舅のほめられる婿。また、姑にほめられるお嫁さん。毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人の悪口を言わない使用人)」(笑)

もし彼女が現代に生きていたとしたら、最低でもブログなどで日々思うこと感じることを発信していたでしょうし、もしかしたらその知性・教養を活かして批評家として日本の情けない有様を一刀両断にしていたかも、と想像するのもまた、いとをかし。


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書評:藤原道綱母著、『蜻蛉日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

書評:谷知子編、『百人一首』(角川ソフィア文庫)&あんの秀子著、『ちはやと覚える百人一首(早覚え版)』

書評:大友茫人編、『徒然草・方丈記』(ちくま文庫)

書評: 菅原高標女著、『更級日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラシックス)


ドイツ:2015年度難民申請&認定数統計

2016年01月18日 | 社会

ドイツ連邦移住難民庁発表の2015年度難民申請統計を簡単にご紹介いたします。

2015年度はトータル441,899件の難民申請がありました。難民申請希望者として入国した数は100万人を超えますが、当局の人手不足が解消されるのに時間がかかるので、申請希望者が正式申請までに何か月も待たなければならないケースが少なくありません。

この申請数は前年比155.3%増で、過去最高を記録しました。これまで難民申請数最多だった年は旧ユーゴスラビア内戦勃発時の1993年で、438,191件でした。

下のグラフは過去5年の難民申請数を示しています。

 

2015年度は難民申請者の71.1%が30歳以下で、男女比は男性69.2%、女性30.8%でした。

出身国別でみると:

シリア 35.9%
アルバニア 12.2%
コソヴォ 7.6%
アフガニスタン 7.1%
イラク 6.7%
セルビア 3.8%
不明 2.7%
エリトリア 2.5%
マケドニア 2.1%
パキスタン 1.9%
その他 17.5%

 

難民申請手続きが終了したのは282.726件で、うち難民(準)認定されたのは140.915件で、認定率は49.8%となりました。


2016年3月21日のアップデート:EU全体の難民申請数統計をブログに書きましたので、そちらも併せてご参照ください。「EU難民申請統計(2015):ハンガリーが人口比最大


2016年度の統計はこちらです。


書評:ストラベーナ・アレクシエービッチ著「チェルノブイリの祈り」

2016年01月17日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

ストラベーナ・アレクシエービッチ著「チェルノブイリの祈り」は電子書籍で読みました。本当は紙書籍で欲しかったのですが、在庫切れとのことで、電子書籍で購入せざるを得なかったのです。これもノーベル文学賞効果でしょうか。

原文での刊行は1997年。日本語版の初刊行は1998年。311ページ。訳者松本 妙子

目次は以下の通り:

孤独な人間の声

見落とされた歴史について

第1章 死者たちの大地

兵士たちの合唱

第2章 万物の霊長

人々の合唱

第3章 悲しみをのりこえて

子どもたちの合唱

孤独な人間の声

事故に関する歴史的情報

エピローグに代えて

訳者あとがき

岩波現代文庫版訳者あとがき

解説 広河隆一

 

この本は普通の人たちのチェルノブイリ原発事故についての証言を集めています。データや情報としてのチェルノブイリ原発事故ではなく、それを普通の人たちがどう受け止めていたのか。もちろんベラルーシの田舎の「普通」ですから、文化的な違和感は否めないのですが、科学でも医学でもない人々の心が見えてきます。インタヴューを受けた人の中には物理学者や放射能の影響力を理解している人たちもいましたが、大半は放射線と言われてもなんのことか分からない、ジャガイモや牛乳はだめと言われても、他の食糧なんか買えない貧しい農村の人々や、やれと言われたら義務だと思ってやるあるいは特別報酬のためなら(危険がきちんと理解できないために)危険な仕事を引き受けた軍人や技師や運転手など。戦争のひどさは知ってるし、どういう風に振る舞ったらいいか分かるけど、放射能なんてわからない。だけどチェルノブイリに駆り出された男たち、夫たちが次々死んでいくことをまじかに体験せざるを得なかった妻たち。事故後に生まれた子どもは死産だった、子供の死体は取り上げられ、放射性廃棄物のごとく埋葬されてしまった母親。「私は健康な子供が欲しいの」と振られてしまったチェルノブイリ出身の若者。自分たちが死ぬことを分かってる子どもたち。何が起こったのか分からない、これからどうしたらいいのか分からない、ただ祈るしかない人たち。そういう人たちの思いのたけがつづられています。

証言からは、いかに兵士たちや技師たちの命が使い捨てられたか、党内の出世や弾圧の恐怖から情報を隠蔽しようとする役人たちの身勝手さや、中央の指示にきちんとは従わずに適当な放射性廃棄物の処理をする現場の人たちのいい加減さも見えてきます。日本の福島でもそれは繰り返されているようです。さすがに普通の服装で長靴とゴム手袋をはめただけの装備で放射能が溢れている中に人を送るようなことは日本では起こりませんでしたが…

読んで気持ちの良い本ではありません。でも歴史を伝える大切な証言集です。もちろん現在汚染地域に住んでいる人たちにとってはチェルノブイリは「歴史」ではなく現実以外の何物でもないでしょうけど。ベラルーシではチェルノブイリ原発事故後485の村や町を失い、うち70の村や町は永久に土の中に埋められました。それでも5人に1人(約210万人)は汚染された地域に住んでいるといいます。被ばくの影響は1代では終わらないことも多々あるので問題は深刻です。