徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『新装版 -神々の遺品』& 『海に消えた神々』(双葉文庫)

2022年10月26日 | 書評ー小説:作者カ行

探偵・石神達彦シリーズは、どうやらオーパーツ(それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や加工品などを指す Out of Place Artefacts)をテーマとしているようです。
元警察官の探偵・石神達彦が、ピラミッドの謎などのブログを書いていた人物の行方を探す依頼を受け、調査を始めると、数日前に起こった日本では著名なUFOライター殺人事件と関連性がありそうなことが判明し、否応なしにオーパーツと呼ばれる摩訶不思議な太古の文明の足跡を辿ることになります。リサーチは主に助手の明智小五郎ならぬ大五郎にやらせ、自分は聞き込みに回りますが、突然ロシア系の男に襲われたりします。

一方、アメリカで超常現象研究チーム『セクションO』に極秘の実働部隊をつけるよう国防長官に依頼されたジョーンズ少将は、彼の以前の部下であった男を派遣し、3年間そのことを忘れていた。セクションOで見せられたものの夢を頻繁に見るようになったので、気になりだして、部下にセクションOと担当者のシド・オーエンについて調査するように指示しますが、極秘のことなので調査は難航を極めます。

日本とアメリカのストーリーラインが最後に収斂していき、パズルピースがぴったりと合うようになるのは早いうちから予想できるので、純粋なミステリーとしてはいまいちな作品かと思いますが、約1万1000年前の彗星通過による高度文明の消滅とピラミッドを含むオーパーツや秘数学のオカルト的な蘊蓄が非常に面白く、作品の魅力になっています。


第2弾の『海に消えた神々』では沖縄周辺の海底遺跡がテーマになっています。この巻で展開されるのは「沖縄=ムー大陸」説です。
海底に沈んだ鍾乳洞や超古代遺跡を調査していた地質学者・仲里博士が自殺。捏造の発覚を苦にしてとのこと。その娘の同級生・園田圭介が、「仲里博士の無念を晴らしてほしい」と石神の探偵事務所に依頼に来ます。園田はインターネットで石神が以前にピラミッドやUFOの謎に関わる殺人事件を解決したことを知り、そのような依頼を受けてくれるのではないかと思ったらしい。
石神は最初は気乗りしないものの、助手の明智に押し切られるような形で依頼を受けます。
まずは娘の麻由美に会い、彼女を引き取った叔母と叔父の話も聞き、明智には仲里博士の著作や沖縄の超古代遺跡について調べさせます。
明智の勧めで、石神は3日でダイビングのライセンスを取り、沖縄県警のだれかを昔の同僚に紹介してもらい、明智と麻由美を伴って沖縄へ。
沖縄県警では当然胡散臭がられ、案内役という名の監視役までつけられてしまいます。早急に「自殺」で片付けられてしまった背景には政治的圧力の影が見え隠れし、また、捏造事件も怪しいことばかり。
様々なパズルピースはどのようにつながっていくのか。

この作品は、「沖縄=ムー大陸」説やモアイなどのポリネシア文化と沖縄の関係などが特に興味深いですが、日本の考古学の極端な実証主義も批判されており、警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズの第5巻『ペトロ』にちょっと通じるものがありますね。




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書評:今野敏著、『新装版-膠着-スナマチ株式会社奮闘記』 (中公文庫)

2022年10月25日 | 書評ー小説:作者カ行

『新装版-膠着-スナマチ株式会社奮闘記』は、今野敏の作品としてはかなり異色なのではないでしょうか。刑事も探偵もオカルト的ミステリーも出てこない。接着剤専門会社で新製品開発に失敗して、接着力のない接着剤(それはもう「接着剤」とは言えない)ものができてしまい、これをどうつかえば開発費の回収が可能になるか、引いては株価暴落・乗っ取りを防げるかが課題となります。テーマからすると、まるで池井戸潤の小説と言っても違和感がないような気がします。

主人公は就職難でスナマチしか受からなかったので入社したという新入社員で、彼の視点から、指導役のスーパー営業マンの活躍や、機密のプロジェクト会議の様子、社内の人間関係などが描写されます。
焦点はあくまでも接着力のない接着剤のなりそこないをどうするかということなのですが、接着剤の原理など科学的な説明は大変興味深いものでした。


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書評:今野敏著、『機捜235』(光文社文庫)

2022年10月24日 | 書評ー小説:作者カ行

『機捜235』は渋谷署に分駐所を置く警視庁第二機動捜査隊所属の高丸を主人公とする短編集です。公務中に負傷した同僚にかわり、高丸の相棒として新たに着任した白髪頭で風采のあがらない定年間際の男・縞長と組まされるところから始まり、縞長が捜査共助課見当たり捜査班に属していた時に獲得した指名手配犯を一瞬で見分ける特殊能力を発揮して実績を上げて行くうちに、徐々に二人が本当の相棒になっていく過程が描かれます。

刑事ものの小説ばかり読んでいると、機捜は事件の端緒に触れて、刑事が現着したときに報告をしたら姿を消してしまうので、実際の役割・業務内容が見えないものですが、この小説では刑事から下に見られがちの機捜に焦点が当てられ、隊員たちの仕事に対する誇りや葛藤など見えにくい部分が表現されています。


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書評:今野敏著、『わが名はオズヌ』(小学館文庫)&『ボーダーライト』

2022年10月23日 | 書評ー小説:作者カ行

警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズの『パラレル』で登場した修験道の開祖・役小角が降臨する高校生が気になって、オリジナルの『わが名はオズヌ』を読んでみました。
荒れた神奈川県立南浜高校に通う賀茂晶が自殺未遂をして以来、役小角が降臨するようになり、その法力により人を操ってしまう。
元暴走族リーダーで今は後鬼として小角に従う同級生・赤岩猛雄、美人担任教師・水越陽子たちとともに、建設推進派の自由民政党代議士・真鍋不二人と大手ゼネコン久保井建設社長の策謀に立ち向かっていくというのがメインストーリーです。
警視庁から賀茂についての調査要請を受けた神奈川県警生活安全部少年一課の高尾勇と丸木正太は、調査要請が取り下げられた後も調査し続け、賀茂晶の謎に迫ります。

役小角についての蘊蓄がやや冗長なきらいはありますが、『特殊防諜班』シリーズでも取り上げられていたユダヤ人が先史以前の日本に渡来していた説がここでも展開され、出雲族の宗教がユダヤ教のキリスト派であり、その血を引く賀茂氏に連なる役小角もその信仰を受け継いでいたという珍説が登場し、実に興味深い内容となっています。



オズヌシリーズの最新刊である『ボーダーライト』では、なぜか神奈川県内で薬物売買や売春などの少年犯罪が急増しはじめたことが問題となります。県警少年捜査課の高尾勇と部下の丸木正太が一連の事件を洗い始めると、彼らは「普通の高校生」で、いずれも人気バンド「スカG」のボーカル「ミサキ」の信奉者であることが判明します。「スカG」のミサキと高校生たちの犯罪に関係があるのか否か、あるのであれば、それはいったいどのような関係なのか、この謎に迫る際に、賀茂晶に役小角が再び降りてきて、捜査と根本的な問題解決に尽力します。
この巻は『わが名はオズヌ』のような情報過多な部分がなく、テンポよくストーリー展開します。


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書評:もり著、『屋根裏部屋の公爵夫人』全3巻(KADOKAWA)

2022年10月19日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

おすすめとして上がってきて、面白そうなので3冊まとめ買いした上に、一気読みしてしまいました。
政略結婚のすえ公爵夫人となったオパールは、社交界デビューしたばかりの時にやらかしてしまった失敗のため、いわれのない不名誉な噂が立ち、それを真に受けていた公爵およびその使用人たちに剥き出しの敵意を向けられ、邪魔者扱いされたため、拗ねて屋根裏部屋にこもってしまいます。
そこからの逆転劇が語られます。
オパールは伯爵令嬢で、持参金以外にも自分の資産を持っており、子どもの頃から領地の管理人に様々なことを教わっていたので、その知識を生かして、借金にあえぐ公爵家の領地の再建に乗り出そうとしますが、公爵に相手にしてもらえなかったので、法務官の叔父の手を借りて公爵家の領地を自分名義に書き換え、名ばかりの夫に宣戦布告し、公爵領に向かい領地改革に乗り出します。
その仕打ちのせいで自分の甘さを自覚した公爵は、領地を買い戻すために努力を重ねます。

これで、夫婦としての愛情も芽生えてハッピーエンドなのかと思いきや、そうはならないところが捻りがあって面白いです。


2巻では、行方不明になっていた幼馴染のクロードが隣国の侯爵の地位を受け継いで帰国し、離婚したオパールにプロポーズします。かくして二人は隣国に向かいますが、国王はクロードを重用し、オパールを歓迎するものの、他の貴族たちはそれが面白くなく、二人を歓迎しません。
また、反国王派の動きも活発になり、クロードは国王の命を受けてその対処に当たり、オパールは新たに受領した公爵領の改革に乗り出すものの、誘拐・軟禁されてしまいます。
3巻でオパールの救出と反乱軍の逮捕および裁判等の事後処理が描かれます。様々な伏線が回収され、ようやく平穏が訪れるというハッピーエンドです。

身分と資産があり、伯爵令嬢・公爵夫人にあるまじき商才と管理能力と闘争心を持つオパールのキャラクターが面白いですね。
金儲けのことしか考えてなさそうなオパールの父も、実は感情表現が不器用なだけで、情に厚いキャラクターもなかなかいいです。
国王とクロード、それからオパールの兄のキャラもなかなか面白いのですが、もう少し深掘りされていてもよさそうな印象を受けました。






書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十三 十年飛ばず鳴かず』(B's‐LOG文庫)

2022年10月18日 | 書評ー小説:作者ア行

『茉莉花官吏伝』の最新刊が出ていたので早速読んでみました。
絶対に失敗すると思われていた任務でとんでもない成功を収めた茉莉花は、足を引っ張ろうとする敵ではなく、味方につけようという魂胆を持ったお見合い攻勢を受けることになります。
この巻は、そのお見合いの対処と、商工会主催の花祭の準備が描かれます。
花娘の長女に指名された茉莉花は、街の人々との親交を深めつつ、犯罪者の視点を学んで街の治安対策を考える一方で、花娘の長女には本来必要のない舞と琵琶を真剣に練習します。

さて、彼女は花娘の大役を成功させられるのか。
そして、根本的なお見合い話対策とはどんなものなのか。
この二つがこの巻の鍵です。

ミッション自体はこれまでの外交ミッションに比べてかなりやさしいもの。そんな中で、皇帝・白陽との恋の甘味が増していき、なんとも微笑ましい限りです。

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茉莉花官吏伝

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 8 三司の奴は詩をうたう 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 9 虎穴に入らずんば同盟を得ず』(ビーズログ文庫) 

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 10 中原の鹿を逐わず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十一 其の才、花と共に発くを争うことなかれ』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十二 歳歳年年、志同じからず』(ビーズログ文庫)


十三歳の誕生日、皇后になりました。

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 2』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。3』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。4』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。5』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。6』(ビーズログ文庫)


おこぼれ姫と円卓の騎士

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


女王オフィーリア

書評:石田リンネ著、『女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け』(富士見L文庫)

書評:石田リンネ著、『女王オフィーリアよ、王弟の死の謎を解け』(富士見L文庫)


書評:今野敏著、『警視庁捜査一課・碓氷弘一』シリーズ全6巻(中公文庫)

2022年10月15日 | 書評ー小説:作者カ行

警視庁捜査一課の中年刑事・碓氷弘一を主人公とする本シリーズは、最初からシリーズとしてコンセプトが練られたわけではなさそうな印象を受けました。
というのは、6冊全部一気に2日半かけて読んだせいで、作風や構成の違いを強く感じたからかもしれません。

『触発』と『アキハバラ』は構成が明らかに似ています。両作品とも犯人を含めた関係者の視点で語られる断片的なエピソードがパズルのように折り重なっていく手法です。それぞれ無関係に思われる人物たちがそれぞれの考え、行動していき、そうした話の糸が何本も絡み合ってやがて一つの大きな事件・事案(爆発テロと秋葉原のとある大きなショップでの爆弾予告と立てこもり事件)に収斂していきます。
このため、碓氷弘一は登場人物の1人に過ぎず、「主人公」というほどの比重がありません。事件解決にかなり決定的な役割を果たしていることは確かなのですが、そうかといって、他のストーリーストリングで語り手または視点を担っている人物たちの比重もかなり大きいのです。
この2作の特徴は、視点が固定されていないことですね。
これはこれで、パズルピースを少しずつ嵌めて行くような楽しみがあります。


第1巻『触発』

第2巻『アキハバラ』



第3巻の『パラレル』では、先行2作ほど視点が分散しておらず、『パラレル』のタイトルに相応しく、碓氷弘一側と『鬼龍』シリーズの白黒コンビ祈祷師+富田刑事側の2本立てでストーリーが進行します。途中から両方のストリングが合流して一気に事件の確信に迫るパターンは他の作品にもあったかな、という感じです。
非行少年たちが次々と見事な手際で殺されていく連続殺人事件で、鬼龍が登場する以上、犯人たちは「亡者」にされてしまっており、「親亡者」を探すことになるのが大筋パターンとなります。
そこに碓氷・高木コンビの武闘家の線からのアプローチが絡んでいきます。


第4巻『エチュード』から他の警察小説シリーズのように碓氷弘一に視点が固定されて物語が進行します。
渋谷の交差点、交番のすぐ近くで通り魔事件が起こり、善意の協力者によって現行犯逮捕されることから物語は始まります。それだけであれば、捜査一課が扱うような事案にはならないのですが、その二日後に新宿でそっくりな事件が起こり、碓氷はたまたま日曜日で家族サービスに勤めているときに現場のすぐ近くに居合わせたので臨場し、いわば「端緒」に触れたのでそのまま事件担当になる流れです。新宿でもやはり善意の協力者による現行犯逮捕だったのですが、どちらの場合もその協力者は姿を消してしまっており、逮捕に当たった警官が全員その協力者の人着を覚えておらず、思い出そうとすると逮捕した被疑者のことが思い浮かんでしまうという。
そこで心理調査官・藤森紗英が新たに登場し、碓氷とコンビを組み、この奇妙な共通性の謎を解きます。



第5巻『ペトロ』では考古学教授の妻兼教え子で教員していた女性が自宅で殺された事件から始まります。現場には謎めいた日本のペトログリフ・桃木文字が壁に残されていました。
さらに数日後、同教授の弟子が発掘現場で扼殺されてしまい、その現場にもヒッタイトのペトログリフ・楔形文字が残されていました。
これを受けて碓氷はこの両文字の調査の特命を受け、歴史学・言語学・象徴学研究者のアルトマン教授を相棒に連続殺人の真相を追うことになります。
これらのペトログリフは何を意味し、何の目的で誰が残したのか。
考古学的なシンボルが使用されるところは、ダン・ブラウンの「ダビンチコード」や「ロストシンボル」を連想させますが、学術的考証の深さはダン・ブラウンほどありません。
それでも十分に興味深いミステリーで楽しめます。


第6巻『マインド』では、タイトルですでに暗示されているようにマインドコントロールがカギです。
ある日の夜11時頃に一人の警官と一人の中学生が自殺を図ったというニュースを聞いた碓氷がそんな「偶然」があるのだろうかと疑問に思うのですが、さらに時間が経って、同じ日ほぼ同じ時間に2件の殺人があったことが判明します。そこで捜査一課の田端課長が不審に思い、それら4件の事件に何らかの関係性があるのかどうか、ただの偶然なのか調査するための特命班が作られます。
殺人犯の二人は程なく逮捕され、どちらも自分のしたことの記憶がないと供述したため、心理調査官・藤森紗英の再登場となります。
これが鬼龍シリーズでしたら、「親亡者はどこか?」になりますが、このシリーズでは、どこでどのようにマインドコントロールのようなものを受けたかが焦点となります。
私は最初、ネット経由のゲームか何かを介在して暗示のようなものを受けたのではないかと想像していたのですが、意外とオーソドックスな手段でした。



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書評:今野敏著、任侠シリーズ1~6巻(中公文庫)

2022年10月14日 | 書評ー小説:作者カ行

最近読んだ『マル暴甘糟』シリーズの甘糟がちょい役で登場しているという任侠シリーズ既刊6巻を一気読みしました。

語り手は日村誠二。30代半ばで、今時珍しい任侠道をわきまえたヤクザ・阿岐本組の代貸です。組は組長を含めて総勢6名ですが、阿岐本組長が異様に顔が広く、全国のヤクザの組長に収まっている人たちと若い時分に兄弟の盃を交わしているため、大きな指定暴力団の傘下に入らないまま独立で生き残っています。
甘糟はこの阿岐本組の様子見に来ており、時には阿岐本組に対する警察側の理不尽な扱いがあった際に助けてくれたりするので、「ちょい役」というほど小さな役割ではありません。

さて、甘糟刑事のことはともかく、この任侠シリーズの面白いところは、組長が損得ではなく人情で様々な面倒ごとの解決を引き受け、そのたびに振り回されている心配性の日村の人間性と、組長のヤクザらしからぬ行動の手伝いを嬉しそうにする若い衆の意外な可愛さでしょうか。

とにかく、阿岐本組長の弟分の神永が毎回処理に困った旨味のない債権などを持ち込み、阿岐本組長がお人よしなのか道楽なのか理由はともかく、それを引き受けるのがこのシリーズのお約束です。

最初に持ち込まれるのが、倒産寸前の出版社です。(任侠書房)

潰してしまえばそれなりに処分できる財産はなくはないものの、それそれで面倒なことも起こるということで、阿岐本組長が経営を引き受けて出版社を立て直すというストーリーです。
阿岐本組がどのように出版社の問題点を見極めて解決していくかが見ものです。
問題自体は極めて現実的で生臭いのですが、それらを阿岐本組長の体現する理想論でスカッと解決し、解決後は見事に身を引くところに大きなカタルシス効果があります。


次に持ち込まれるのは廃坑寸前の学校法人・井の頭学院高校で、絵に描いたような「荒れた学校」です。
窓ガラスは割れ放題、校庭も花壇も荒れ放題、生徒はやりたい放題という状態で、先生方はとにかく「生徒たちが卒業してくれさえすればいい」というスタンスで生徒を教育する気がなく、校長も生徒たちをお客さん扱いし、とにかく親から苦情が来るようなことをしないのが第一と考えているところに阿岐本組長たちが理事長と理事として乗り込んでいくわけです。
まずは掃除から、というのがとてもシンプルですが、効き目が絶大なのが読んでいて気持ちがいいです。
ロクに学校に通ったことがなく高校中退の日村が、花壇の手入れや割れたガラスの始末などをしながら、少しずつ生徒たちと交流して、彼らの心を掴んでいくのがいいですね。擦れて全然大人の言うことなんか聞かないような子たちでも、真剣に向き合ってくれる大人にはだんだん心を開くようになるというメッセージが強く込められているように感じました。
学校に対して発言力を持つモンスターペアレンツの問題にも切り込んでいて、本当にこんなふうにうまく解決出来たらどんなにいいだろうという夢が語られています。


3つ目のエピソードで持ち込まれるのは、倒産寸前の病院です。
こちらは「地域の病院を失くしてはいけない」という信念のもと、医療法人の理事として阿岐本組が乗り込むことになります。
この巻では最初から病院内の清掃を始めとするあらゆるサービスをまとめて受けている業者ときな臭いことになります。このサービス業者がヤクザのフロント企業で、割高な料金を請求し、病院の経営を悪化させてたので、あわや抗争か?という緊張があります。
ここでは病院が抱える人手不足や医療制度のしわ寄せなどの問題も扱われてはいますが、制度的なことはどうにもできないので、問題のサービス業者を切ることと、病院長を始めとするスタッフの気持ちを向上させることに尽力しています。

出版社、学校、病院と続けて見事に立て直した後、阿岐本組はその実績を見込まれて?今度は赤坂にある銭湯の立て直しの相談に乗ることになります。
現代の日本人にはゆっくり風呂に入ることが重要だ!という強いメッセージが込められているようです。
同時に、「子どもには子どもの人生がある」という建前の元に家業を手伝わせようとせず、話し合いも持たなかった経営者と家族の問題も描かれており、親に聞かれないから言わないだけで、子どもは子どもで結構自分なりに考えていることが明らかになるのがいいですね。


銭湯の次に持ち込まれたのは街の小さな映画館。娯楽が多様化し、映画も家で見れる時代、わざわざ映画館で映画を見る人たちは激減し、大きな映画館は次々閉館の憂き目にあっているものの、小さなミニシアターのような映画館は細々と生き残っています。「千住シネマ」もその一つで、閉鎖の噂に対して存続を願う「ファンの会」 がクラウドファンディングで資金を募ってなんとかしようという動きもあり、千住興行の社長も迷っている状態のところに阿岐本組が乗り込みます。
この「ファンの会」は嫌がらせを受けているため、最初阿岐本たちは嫌がらせの犯人と勘違いされるのですが、実は阿岐本組長自身も映画、特に任侠映画が好きで、高倉健のファンということで、本当に映画館存続の相談に乗るつもりであることが理解してもらえます。
この嫌がらせの犯人と、社長が悩む理由がこのエピソードのメインテーマです。


最新刊『任侠楽団』で持ち込まれる相談事は、タイトルの通りオーケストラなのですが、今回は経営危機ではなく、大切な公演を控えているのに内部対立が激化しているのをなんとかするという話です。
阿岐本組長たちはコンサルティング会社の人間として招待を隠して事態に当たることになります。
お門違いもいいところではないかと思わなくもないですが、その辺りが阿岐本組長のおおらかさというか、モノ好きというか、面白いところです。
ここでは乗り込んで早々に常任指揮者に任じられたばかりのエルンスト・ハーンがオーケストラ内でいきなり殴られて気絶させられるという事件が起き、所轄が事件で済ませたがっているのに、ハーンは「殴られたんだから絶対に犯人を見つけろ」と言ってきかなかったため、捜査一課の碓氷弘一が1人で捜査に乗り出してきます。
この碓氷という刑事は『警視庁捜査一課・碓氷弘一』というシリーズの主人公で、こちらに客演した形です。こちらのシリーズは読んだことがないので、次に読むものはこれで決まりましたね(笑)
ここで、ハーンを殴った犯人を捜すことは、オーケストラ内の対立問題を解決することに繋がるだろうということで、碓氷と阿岐本が手を組み協力するところが、また味があって面白いです。
またここで、阿岐本が実はジャズも好きという事実が判明します。
つくづく奥の深い人ですね。

このシリーズで阿岐本組が解決していく問題は、本当に現実にありそうなものでリアルである一方、そこに乗り込んでいく阿岐本組は「そんなヤクザが実際にいるのか?いや、いないでしょ」というようなフィクションが交錯しており、それでいて彼らはやはり蛇の道は蛇という彼らにしかできない解決の糸口を持っているところが妙に説得力があるのも魅力の一つだと思います。
また、「オヤジの言うことは絶対」とほぼ盲目的に従う心配性・苦労性の日村もいろんな事案に関わるうちに学んで成長して行く物語であることもシリーズの大事な要素ですね。
今野敏の作品はどれもそうですが、キャラクターたちが非常に魅力的です。


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書評:岡本裕一朗著、『哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』(文春e-book)

2022年10月12日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

タイトルからものすごく壮大な歴史的俯瞰的な考察を想像しますが、そこまで網羅的なものではなく、「技術」「メディア」という観点から見た人類の発展略史のような感じでした。

中心となるのは3つの技術革新とそれに影響を受けた思想の発展です。
一つ目は文字の発明。ここではギリシャ哲学者のソクラテスの「書き言葉」に対する否定的な見方と、それでもなお「対話」としてソクラテスの教えを書き留めたプラトンについて考察されます。
しかし書き留めて書物にするトレンドは変わらず、ついに「聖書」がベストセラーに。キリスト教の広がりは「書物」というメディアなしにはあり得なかったという考察。

二つ目は印刷技術の発明。手作業で書き写していた書籍がグーテンベルクの印刷技術によってある程度大衆化したこと。ここでの「大衆化」はラテン語・ギリシャ語ではなくドイツ語やフランス語などの現地語で書かれることと、ナショナリズム・国民国家の概念の誕生に結びついているという考察。

三つ目は、視覚情報を視覚情報のままに、音声を音声のままに保存・再生できる写真技術や畜音技術の発展、映画というメディアの登場。これらの技術革新と、それぞれ異なる種類の「無意識」がマルクス・ニーチェ・フロイトによって発見されたことが無関係ではないという考察。

そして、現在進行中のメディア革新は管理者を持たない分散型で、少数が他者を監視することと、多数が少数(の有名人など)を見ることの双方向性が成り立っている特異な環境と言え、今後、AIの発展に従って人類の終焉に向かっているのかもしれないと考察します。

目次
第1章 「21世紀の資本主義」の哲学
     ――メディアの終わりと世界の行方
第2章 「人類史」を世界の哲学者たちが問う理由
     ――ホモ・サピエンスはなぜ終わるのか?
第3章 私たちはどこから来たのか
     ――「ホモ・サピエンス」のはじまり
第4章 ギリシア哲学と「最大の謎」
     ――「文字」の誕生
第5章 キリスト教はなぜ世界最大宗教になったのか
     ――中世メディア革命と「書物」
第6章 「国民国家」はいかに生まれたか
     ――活版印刷術と哲学の大転回
第7章 「無意識」の発見と近代の終わり
     ――マルクス、ニーチェ、フロイト
第8章 20世紀、メディアが「大衆社会」を生んだ
     ――マスメディアの哲学

 メディアの哲学、または技術の哲学という切り口が興味深く、新鮮でした。


書評:今野敏著、『特殊防諜班』全7巻(講談社)

2022年10月08日 | 書評ー小説:作者カ行

『連続誘拐』に始まる『特殊防諜班』シリーズは1980年代の作品で、米ソ冷戦真っ最中の時代に始まり、最終巻でベルリンの壁崩壊に至り、ドイツ統一に対する恐怖が描かれているあたりにものすごく時代を感じさせますが、7巻一気に読み切ってしまうくらいには面白いです。

大きなテーマは、ユダヤ人の「失われた十支族」の1つの系譜が出雲の山奥に質素な神社を構える芳賀家の家系に伝えられており、この支族こそが黙示録で記されているところの人類滅亡の危機を生き延びる「新人類」と目されていることです。
そしてそれを何が何でも滅ぼしたい謎の団体「新人類委員会」がその財力・組織力を駆使して暗殺・テロ行為を仕掛けて来ます。
それを迎え撃つために「特殊防諜班」が試験的に結成され、自衛官の真田武男が引き抜かれて、緊急事態に限り総理大臣直属の捜査官となって巨大な権限を行使できるようになります。

最初の宗教者連続誘拐事件の時に真田が出会ったイスラエル大使館員兼モサドの調査員ザミルと狙われている芳賀家の当主代理である理恵(17)がその後ことあるごとに協力して戦う戦友となります。
芳賀理恵は超能力者なので、立派な戦力であるところがラノベ風の設定で興味深いですね。

主人公の真田武男は孤児として育っていますが、後に彼が芳賀一族を古代から守ってきた山の民の末裔だということが分かります。山の民には芳賀一族とは違う特殊能力が備わっているので、真田の並外れた能力はそのせいということのようです。

今野敏は警察小説の方が知られていますが、時にミステリアスなオカルト的な作品も書いており、この「新人類戦線」改め「特殊防諜班」もその系譜に属しています。

特殊能力を持つ主人公たちが巨大な敵組織と戦う図式や、話がだんだん大きくなり、敵組織の全貌が徐々に解明されていく展開、最後にラスボスと対峙して、闘い終結となるのはある意味お約束のストーリーラインである程度読ませてしまうような昨品のため、キャラクターたちの性格や思いの掘り下げがそれほど深くならず、味わい深さが足りないという印象を受けました。

シリーズ作品一覧:
  • 連続誘拐 
  • 組織報復 
  • 標的反撃 
  • 凶星降臨 
  • 諜報潜入 
  • 聖域炎上 
  • 最終特命


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