徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第8・9巻 瀧夜叉姫 上・下』(文春文庫)

2017年09月30日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『陰陽師』シリーズの長編『瀧夜叉姫』上・下は朱雀門で蘆屋堂満が百鬼夜行に行き会い、鬼たちが持っていたバラバラ死体の部位のうちの落とされていった右腕を拾って自分の肉を喰わせる(どうやって???)ところから始まります。このプロローグの謎解きは下巻のかなり最後の方に出てきます。

都では妊婦が次々と殺されていて、小野好古の屋敷には盗らずの盗賊が入り、平貞盛は瘡を患って治らないなど不穏な出来事が起こり、安倍晴明の元にもそれらの話がもたらされ、彼の兄弟子である賀茂保憲から平貞盛の瘡を見るように依頼されます。本人が治療を嫌がっているので、ただの様子見ということでした。

こうして一見関係のない出来事の裏には恐ろしい陰謀が隠されていた、というなかなかハラハラするストーリーです。

ちょっとネタをばらすと、平将門復活劇とでも言いましょうか。でもただの怨霊話ではなく、将門の生前の奇妙な逸話も語られていて、かなり興味深い展開になっています。

表題となっている瀧夜叉姫は下巻の半ば頃になってようやく登場します。確かにキーパーソンの一人であることには違いないですが、他の人がタイトルになっても違和感はなさそうな気がします。

全体的におどろおどろしくてまさしく陰陽師の物語という感じがします。その分晴明と博雅ののんびりと濡れ縁で酒を飲みながら語り合うふわりとした空気がほとんどなくなっているのがちょっと残念な気がしないでもありませんね。

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書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第5巻 生成り姫』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第6巻 龍笛ノ巻』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第7巻 太極ノ巻』(文春文庫)


書評:夢枕獏著、『陰陽師 第7巻 太極ノ巻』(文春文庫)

2017年09月28日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

またあの安倍晴明と源博雅が酒を飲みながら語り合う土御門の濡れ縁に戻ってきました。『陰陽師 第7巻 太極ノ巻』の収録作品は「二百六十二匹の黄金虫」、「鬼小槌」、「棗坊主」、「東国より上る人、鬼にあうこと」、「覚(さとる)」、「針魔童子」の6編。

相も変わらず晴明と博雅は濡れ縁で酒を飲み、誰かの依頼で奇怪な事件の解決に出かけていくパターンですが、事件はいつも違った趣を持ち、マンネリのようでいて決してマンネリ化しないシリーズだな、と7巻まで読んで思っています。

晴明と博雅のやり取りがまた深くて面白いです。博雅は直感的に真理をつかみ取り、それに心を動かされて「不思議だなあ」と思ったことを言うのに対して、晴明は「呪だ」「空だ」と陰陽道や仏教の概念を使って、つまり理屈で物事を説明しようとし、いつも博雅の素直な感動を台無しにするところがまた味わいがあっていいですね。

「二百六十二匹の黄金虫」には6巻の「むしめずる姫」の露子姫が再登場してその鋭い観察眼と記録の綿密さを発揮します。その真相は般若経の文字が読んでもらいたくて経典から飛び出して黄金虫となって別の経を唱えている僧の気を引こうとした、なんとも不思議な、(ありえないけど)なんとなくかわいらしいと思える動機で、思わずふふっと笑ってしまいました。

「鬼小槌」はなんだか因果な話ですが、最後に晴明が「誰も気にしてなかったから」と問題の鬼小槌をちゃっかりがめてきていたのが可笑しかったです。

「棗坊主」は日本昔話の類型のように思いました。

「東国より上る人、鬼にあうこと」では清明が陰陽師らしい活躍をしてます。

「覚(さとる)」は鬼ではなく妖物で、人の心を読晴明むというか食べるというちょっと不気味なやつ。これも陰陽師の退治話ですね。

「針魔童子」は播磨に関係する話なので、晴明のライバル(?)の堂満が当然登場します。ここでも晴明は陰陽師らしいことをしてますが、人が悪いというか、利用された博雅がちょっと気の毒というか。でも最後にみんなで酒を飲んで、「博雅よ、それを飲んだら笛でも吹いてくれぬか」でなんとなく全部うやむやに丸く収まってるのがおおらかでいいですね。

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書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第5巻 生成り姫』(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第6巻 龍笛ノ巻』(文春文庫)

 


書評:恩田陸著、『Puzzle』(祥伝社文庫)

2017年09月28日 | 書評ー小説:作者ア行

『Puzzle』(祥伝社文庫)は2000年に発行された作品。

コンクリートの堤防に囲まれた無機質な廃墟の島・鼎島で見つかった奇妙な遺体達。学校の体育館で発見された餓死死体。高層アパートの屋上には、墜落したとしか思えない全身打撲死体。映画館の座席に腰掛けていた感電死体。しかも、死亡時刻も限りなく近い。偶然による事故なのか、または殺人なのか?というミステリー。

まずは第1章「Piece」で、廃墟の島・鼎島で見つかった3体の奇妙な遺体を報じる記事が提示され、そのあとにそれぞれ関連性のない記事が続き、「なんじゃこりゃ?」と読者に思わせ、関心を抱かせます。

次の章「Play」で二人の検事がくだんの廃墟の島に上陸し、この謎に迫ります。そして第3章「Picture」で種明かしするという構成です。

廃墟の島の情景の描写自体もなかなか興味深いですが、そこで起こったことというのがまた何とも不思議なことで、「そんなことあるの?」と全体の「絵(Picture)」を見せられてもなんだか腑に落ちない、騙されたような気分になりました。「それで終わり?」と軽い失望感も覚えました。

先が気になって一気に読み切ってしまいましたので、話運びが面白くないというわけではないのですが、着地点に疑問を覚えてしまったんです。個人的な好みの問題でしょうか。

ちなみに第2章に登場する関根春は、『六番目の小夜子』や『図書館の海』などに登場する「関根家の人々」の一人らしいです。

恩田作品はまだ読み始めたばかりで、知らないことがいっぱいです。読破するのが楽しみです。

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三月・理瀬シリーズ

書評:恩田陸著、『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『黒と茶の幻想』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『黄昏の百合の骨』(講談社文庫)

関根家シリーズ

書評:恩田陸著、『Puzzle』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『六番目の小夜子』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『象と耳鳴り』(祥伝社文庫)

神原恵弥シリーズ

書評:恩田陸著、『Maze』&『クレオパトラの夢』(双葉文庫)

書評:恩田陸著、『ブラック・ベルベット』(双葉社)

連作

書評:恩田陸著、常野物語3部作『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』(集英社e文庫)

書評:恩田陸著、『夜の底は柔らかな幻』上下 & 『終りなき夜に生れつく』(文春e-book)

学園もの

書評:恩田陸著、『ネバーランド』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『夜のピクニック』(新潮文庫)~第26回吉川英治文学新人賞受賞作品

書評:恩田陸著、『雪月花黙示録』(角川文庫)

劇脚本風・演劇関連

書評:恩田陸著、『チョコレートコスモス』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『中庭の出来事』(新潮文庫)~第20回山本周五郎賞受賞作品

書評:恩田陸著、『木曜組曲』(徳間文庫)

書評:恩田陸著、『EPITAPH東京』(朝日文庫)

短編集

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『私と踊って』(新潮文庫)

その他の小説

書評:恩田陸著、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎単行本)~第156回直木賞受賞作品

書評:恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)

書評:恩田陸著、『まひるの月を追いかけて』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『ドミノ』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『上と外』上・下巻(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『きのうの世界』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『ネクロポリス』上・下巻(朝日文庫)

書評:恩田陸著、『劫尽童女』(光文社文庫)

書評:恩田陸著、『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『ユージニア』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『不安な童話』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『ライオンハート』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『蛇行する川のほとり』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ブラザー・サン シスター・ムーン』(河出書房新社)

書評:恩田陸著、『球形の季節』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『月の裏側』(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

書評:恩田陸著、『酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)


マリア・トレーベンの抗がんハーブレシピ(がん闘病記10)

2017年09月27日 | 健康

がんの民間療法は、怪しいものから将来的に臨床試験に耐えうる有望なものまで様々あり、玉石混交の情報がネットに溢れかえっています。また、自分ががん治療中であることを公表していると、様々な方がそれこそ多種多様の情報を良かれと思って提供してくださいます。ただ、情報発信源が日本語だと、ドイツに住む私には到底実践できないものが残念ながら多くあります。

そこで着目したのがこちらの薬草学(Heilkräuterkunde)です。一時魔女狩りで薬草に詳しい女性たちが弾圧されて多くの知識が失われてしまったものの、修道院などを通じて何百年も脈々と続いてきた長い伝統があります。現在では特にマリア・トレーベン(Maria Treben、1907~1991)というオーストリアの薬草学研究家のレシピが権威を持っています。戦後のチェコスロバキアからのドイツ人追放の結果としてドイツのヴュルツブルクの収容所に収容され、そこでチフスにかかり、薬がないため姉妹がクサノオウの汁を調達し、それを飲んだらすぐに状態改善したという体験から薬草学に興味を持ち、研究に没頭するようになったそうです。彼女の著作は多数ありますが、なかでも有名なのは「Gesundheit aus der Apotheke Gottes – Ratschläge und Erfahrungen mit Heilkräutern(神様の薬局による健康~薬草に関する助言と体験)」という本で、何か国語にも翻訳されたベストセラーとなりました。日本語訳版は「薬用ハーブの宝箱 アドバイスと体験」

また、彼女が有名になったのは Schwedenbitter(シュヴェーデンビッター)と呼ばれるスウェーデンの医師クラウス・サンスト(Claus Samst)によって再発見されたハーブリキュールのレシピとその体験談を出版したことによります。

シュヴェーデンビッターはハーブのネットショップで購入可能です。私が購入したものには「マリア・トレーベンの伝統的レシピによって製造」と書かれてあります。薬局に行けば自分で作れるタイプのドライハーブミックスが買えるそうです(ハーブリキュール作りで薬要らず)。

前置きが長くなってしまいましたが、マリア・トレーベンのレシピ集には抗がんハーブのレシピも紹介されているのです。「Heilkräuter aus dem Garten Gottes(神様の庭の薬草)」という本はスタンダードな薬草処方ばかりでなく、絶対に医者にかからなければならないような病気に対する薬草処方も扱っています。その章のタイトルは「信仰は山をも動かす」( ゚Д゚)

そこで紹介されているのが、いくつかのがんを抑制するまたは予防する効果のある薬草です。

Labkraut (Galium verum)

残念ながら日本語名は見つかりませんでしたが、昔から民間では抗がん効果が高いといわれている薬草だそうです。この薬草のジュースをバターと混ぜて外用薬として病巣(腫瘍のある場所)に塗るといいそうです。

皮膚がんなどにはもしかしていいかも知れませんが、体の奥のがんには外用薬でどれほどの効果があるものかかなり疑問ですね。

 

Mistel(Viscum album、ヤドリギ)

推奨されているのはヤドリギのお茶の6週間療法です。

最初の3週間は日に3杯、次の2週間は日に2杯、最後の1週間は日に1杯のヤドリギ茶を飲むというものです。

ヤドリギ茶のつくり方は、乾燥したヤドリギの葉を10~12時間水に浸し、葉を取り除いてから温めます。

お湯を注いで終わりではないのが少々面倒ですが、夜に次の日の分(1杯は150㎖)を準備して、朝になったら温めてポットまたは水筒に入れて夕方までに飲み切るようにするのがよさそうです。

ヤドリギは通常、めまいや関節の病気、または軽度の高血圧に効果があると言われています。

この6週間療法は体の抵抗力を高めるためのものだそうです。

 

Ringelblume(Calendula officinalis、キンセンカ)

がん患者は長期間このキンセンカのお茶を飲むといいそうです。

キンセンカ茶はヤドリギ茶ほど手間がかかりません。乾燥したキンセンカの花をティースプーン大盛り1杯取り、カップ1杯の熱湯を注ぎ、30秒間おいたら完成です。それを毎日3~4杯飲むのだそうです。

また、キンセンカのジュースは外用薬として皮膚がんの患部につけるとよいとか。

 

Zinnkraut(別名多数。Equisetum arvense、スギナ)

スギナは癌を抑制する効果があるそうです。スギナ茶を1日1杯飲むとよいとのことです。

スギナ茶は乾燥スギナをティースプーン大盛り1杯取り、カップ1杯の熱湯を注ぎ、30秒間おいたら完成です。

 

ミックスティー

がん抑制効果があるというミックスティーは次の3つの薬草から作られます。

  • Brennessel(Urtica、イラクサ)100g
  • Schafgarbe(Achillea millefolium、セイヨウノコギリソウ)100g
  • Ringelblume(Calendula officinalis、キンセンカ)300g

イラクサ

セイヨウノコギリソウ

 

この3種のハーブミックスをティースプーン6杯取り、1.5リットルの熱湯を注ぎ、30秒おきます。ハーブを取り、煮だしたハーブティーをポットに入れて、20分毎に一口飲むといいそうです。

 

Schwedenbitter(シュヴェーデンビッター)

最後にシュヴェーデンビッターの登場です。

ヤドリギ茶、キンセンカ茶、スギナ茶のうちのどれかと一緒に毎日シュヴェーデンビッターをスプーン3杯飲みます。

スプーン1杯のシュヴェーデンビッターは食前と食後に分けてハーブティーのカップ半分ずつと共に飲むのだそうです。

 

以上がマリア・トレーベンの抗がん薬草処方です。

私自身効果のほどは半信半疑なのですが、基本的に体の抵抗力を高めることを目的としているので、その点では間違いはないということと、お値段がさほど高くないということの2点を以ってやる価値があると判断しています。

退院してから上記のハーブティー各種を不定期にしか飲んでませんでしたが、これから本格的に飲もうと思っている次第です。

これまでは免疫力を高める要素が多く含まれるパイナップルやマンゴーをフルーツサラダにしてよく食べてましたが、これから冬に向かうに連れて新鮮なフルーツが少なくなっていくので、その代わりにハーブティーを飲むのがいいかなと考えてます。

子宮がん(卵巣転移、+腹膜がん)の診断以来、食生活も多少変えました。「多少」しか変えなかったのは、もともと添加物を避け、オーガニックのものを気を付けて食べていたからです。変えた部分は:

  • 砂糖を完全に排除したこと、
  • 4脚動物の肉を排除したこと(鶏肉は時々食べる)、
  • 乳製品を完全に排除したこと、
  • 精製小麦粉を完全に排除したこと、
  • 代わりに新鮮な野菜・果物を多く食べる
  • パンは白パンの代わりに全粒粉パンを自作
の6点です。
乳製品は元々乳糖不耐症のためにそれほど多くは取っていなかったのですが、時々乳糖フリーのチーズやバターやヨーグルトを食べていたので、これを止めたわけです。完全にベジタリアンというわけではなく、魚を食べ、また時々鶏肉や卵も食べるという、「ペスコ・ベジタリアン」もどきの食生活になりましたが、消化不良を起こしたり、下痢したりすることが全くなくなりました。
白米から玄米に替えたのは1年以上前ですが、その効果を実感するようなことはありませんでした。でも子宮がん診断後の食生活チェンジにははっきりと効果が表れています。主に消化器系の問題の解消で、抗がんという観点でどれほどの効果があるものなのかは不明ですが、ハーブティー同様に基礎体力・免疫力を高めるという観点から有意義なことだと解釈しています。
 
 

 


書評:恩田陸著、『ドミノ』(角川文庫)

2017年09月26日 | 書評ー小説:作者ア行

夢枕獏の『陰陽師』シリーズをちょっと休憩して、久々に恩田陸作品を読みました。『ドミノ』(角川文庫)は2004年発行のちょっと古い作品です。

1億円の契約書を待つ締め切り寸前の関東生命八重洲支社。八重洲支社からお菓子の買い出しに出た柔道女子。子役のオーディションに出る少女たちとその付き添いの母親たち。ホテルのカフェで変装して人を待つ女。推理力を競い合う大学生たち。女との別れを画策する青年実業家と別れのためのだしとして引っ張り出されたいとこ。初めて東京に来て、東京駅の待ち合わせ場所に行き着けない老人。老人の句会仲間の警察OBたち。千葉県の顧客のところから1億円の契約書を持ち帰ろうとする関東生命八重洲支社営業部長。来日中のホラー映画監督とそのペット等々。爆弾の試作品を試そうとする過激派。本来お互いに全く関係のない人たちがすれ違い、交錯する運命の一瞬に向かっていくストーリー。

最初は無関係の細切れのシーンがちょこちょこ切り替わって、何がどうなっているのかよくわからないので戸惑いますが、その細切れのカメラワークが繰り返されていくうちに段々全体像が見えてきてスピード感に溢れたストーリー展開になっていて、読み出したらダーッと一気に最後まで読まずにはいられない面白さです。『常野物語』シリーズや『夜の底は柔らかな底』シリーズのような説明なしの不思議ワールドが展開する恩田作品とはかなり違って、「こういう作品も書くんだ」と驚きながら楽しませてもらいました。

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三月・理瀬シリーズ

書評:恩田陸著、『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)

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関根家シリーズ

書評:恩田陸著、『Puzzle』(祥伝社文庫)

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連作

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学園もの

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書評:恩田陸著、『きのうの世界』上・下巻(講談社文庫)

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書評:恩田陸著、『劫尽童女』(光文社文庫)

書評:恩田陸著、『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『ユージニア』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『不安な童話』(祥伝社文庫)

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書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

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書評:恩田陸著、『球形の季節』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『月の裏側』(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

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書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)


医者が満足する患者?(がん闘病記9)

2017年09月26日 | 健康

あんまり「闘病」という感じがしない日々を過ごしています。先週の3回目の抗がん剤投与の二日後くらいから脚の付け根や腰や脛などが激しく痛み出し、鎮痛剤を服用せざるを得ませんでしたが、土曜日にはもう散歩にも行けるくらい回復しました。歩く際に多少のぎこちなさを感じることはありましたけど。

それ以外の副作用といえば、睡眠障害くらいでしょうか? 平均睡眠時間は5時間くらいで、昼寝することも殆ど無くなりました。

抗がん剤の典型的な副作用といえる吐き気や食欲不振、便秘、その他感染症による発熱など一切ないので、ありがたいことです。

今日は血液検査と担当医の教授との面談でがん専門クリニックに行ってきました。

今回はCVポートの扱いのうまい看護師さんが不在で、ポートからの採血がうまくいかず、仕方なく腕の静脈からの採血となりました。担当した看護師さんはこちらには熟練しているようで、一発でうまくいきました。

血液の解析機にかけてあっという間に結果が出ました。白血球の値がやや低めですが、問題のない範囲。血小板の値も順調に下がっていました。血栓症防止のための注射をしなくなってから大分経ちますが、注射がなくなっても体は順調に手術の傷跡から回復しているということなんでしょうね。

血液検査の後しばらく待ってから担当医教授との面談がありました。私の具合や副作用について聞かれましたが、「関節痛と若干の睡眠障害以外は何もない」と答えると、うんうんと頷いて、「血液も問題ないし、私はあなたに満足してます」とおっしゃっいました。そして11月末までの治療日程を書いたメモを渡してくれました。面談時間は1・2分といったところでしょうか。

なんとなく「そうか、私は医者が満足する患者なんだ」と妙な気がしました。まあ要するに「手間がかからない」という意味合いだとは思いますが。

抗がん剤投与後の1週間弱を除けば比較的元気なので、ずっと就業不能証明書を出してもらって自宅療養しているのには若干気が引けるのですが、2週間働いて1週間休むという働き方も会社の同僚には迷惑な話だと思わなくもないです。

健康保険組合の方からは就業不能証明書に記載されている最後の日付から2日後にきっちりと傷病手当が給付されました。今日が2つ目の就業不能証明書の最終日なので、また2日後には傷病手当が振り込まれていることでしょう。

問題は、会社が出してくれるはずの補助金(固定給と傷病手当の差額)です。うちの会社は月初めの1週間くらいにその月の給与計算をして16日に給与が振り込まれるように処理します。このため、8月分は給与全額が振り込まれてしまって支払い超過となりましたが、9月分は8月分の支払い超過分が情報として記載されているのみで、固定給の支払は無しとなっているところまではよかったのですが、なぜか変額給の一部前払い分(ボーナスの一部が毎月前払いされて年間を通じての月収の安定化が図られている)だけが給付されることになっており、傷病手当への補助金についての記載は一切無しだったのです。長期病欠の社員は初めてというわけでもあるまいに、なんだかやってることが無茶苦茶です。人事サービスに問い合わせたら、「健康保険組合から傷病手当の給付額の通知が来てないので補助金の計算ができない」ということだったので、こちらに来ている通知をスキャンして人事の方にメールで送ることになりました。さてこれで10月分の給与明細で全部修正されて、かつ補助金の給付となるのかちょっと心配です。ルーチンを外れると、修正に2・3か月かかるなんていうことはざらにあるので。。。

傷病手当がもらえるだけでも日本で病気休職している多くの人たちから見たらうらやましいことなのかもしれませんが、もらえる権利があるものはやはりきっちりと回収しておかないと やはり傷病手当だけだとこれまでの月収の55%くらいしかなくて、若干赤字になってしまいます。

さっさと治療を済ませて、できるだけ早く復職したいものですね。

がん闘病記10へ。


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

抗がん剤投与3回目(がん闘病記8)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)

 


書評:夢枕獏著、『陰陽師 第6巻 龍笛ノ巻』(文春文庫)

2017年09月25日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『陰陽師』シリーズ第5巻・生成り姫は元々は朝日出版社から発行されたものだそうで、短編集ではなく1冊で1篇の小説となっていましたが、6巻の『龍笛ノ巻』は1~4巻同様の短編集となっています。

収録されているのは「怪蛇」、「首」、「むしめづる姫」、「呼ぶ声の」、「飛仙」の5編。

「怪蛇」はミステリー風で、晴明・博雅コンビの他、ライバル陰陽師・堂満も活躍し、晴明と堂満でお宝を分けて事態が収束します。なんやかやと意外と仲がいいのかな?と思われる二人ですね。「拝まれれば、どのようなものにも魂が宿る。蛇じゃ蛟じゃと言われて、百年も経を聞かされれば、石も動こうというものさ」に集約される不思議譚。

「首」はどちらかというと怪談ですね。人が何人も取り殺されてしまって、正直怖い話。

「むしめづる姫」はおよそ平安のお姫様らしくない変わった、学術的とも言えるお姫様のエピソード。

「呼ぶ声の」は琵琶の良い音が人ならぬものとも縁を結ぶというお話。平和的に解決するエピソード。

「飛仙」は仙人になり損なった妖(?)が丸薬の入った袋を落としてしまうことで始まるお騒がせエピソード。

どれもそれぞれに味わいがありますが、最初の蛇のお話が一番面白いと思いました。

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書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

書評:夢枕獏著、『陰陽師 第5巻 生成り姫』(文春文庫)


ドイツ:2017年連邦議会選挙結果

2017年09月25日 | 社会

9月24日投開票だったドイツ連邦議会選挙の結果が出ました。

最初の予想が出た時点で、右翼ポピュリズム政党である AfD(ドイツのための選択肢)の躍進(得票率13%)が明確になっていたため、「右傾化」「不満分子によるアンチ・メルケル投票」「二大国民政党、歴史的敗北」などなど大騒ぎでした。

投票率は76.2%で、前回(2013年)よりも4.7ポイント改善されました。投票率には東西で差があり、西側が78%(+5.6)、東側が74%(+6.4)となっていました。

各政党の得票率

CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟) 33%

SPD(ドイツ社会民主党) 20.5%

Linke(左翼政党) 9.2%

Grüne(緑の党) 8.9%

FDP(自由民主党) 10.7%ー>連邦議会復活

AfD(ドイツのための選択肢) 12.6%ー>初連邦議会入り

Andere(その他) 5.0%

 

2013年度の得票率との比較

CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟) ー8.6

SPD(ドイツ社会民主党) -5.2

Linke(左翼政党) +0.6

Grüne(緑の党) +0.5

FDP(自由民主党) +6.0

AfD(ドイツのための選択肢) +7.9

Andere(その他) -1.2

 

以上の結果を見てわかるように、これまでの政権与党であった CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)および SPD(ドイツ社会民主党)が大きく票を失ったため、政府に対する不満が爆発したと見られています。三政党全てにとって史上最悪の結果となりました。それは下の1949年以降の連邦議会選挙結果の推移を表すグラフを見ても一目瞭然です。

これまでポピュラーだった「国民政党」から小さな政党へ大きく票が流れましたが、中でも目を見張る躍進を遂げたのが今回初めて国政政党として連邦議会入りすることになった AfD(7.9ポイント上昇)および連邦議会カムバックを果たした FDP(6ポイント上昇)です。

左翼政党の9.2%は史上最高の結果とは言え、二桁の数字を目標に掲げていたので、目標未達に終わりました。緑の党も期待ほどの結果が出せなかった点では同じです。

議席配分

比例票の配分を議席に反映するための超過議席や調整議席のために今期は総数709議席の史上最大の議会となります。過半数は355議席。

過半数を得るための連立には計算上二つしか選択肢がありません。

可能な連立

しかしながら、マルチン・シュルツ SPD 党首が最初の選挙結果予想が出てすぐに連立与党となることを断固拒否したため、実質的にはいわゆる「ジャマイカ連立(CDU/CSU、FDP、緑の党の連立)」しか選択肢が残されていません。三勢力連立は国政レベルでは初めての試みとなります。

SPD が連立与党となることを拒否したのは、政権参加によって党本来のプロフィールが失われたと考えられていることから、野党で党の再建を図るという意図と同時に極右傾向の強い AfD が野党第一党となることを阻止する目的もあるとのことです。

 

選挙の争点

毎日新聞の9月22日の記事では「好景気が続くドイツでは経済・社会保障政策について国政政党間で大きな対立点がなく、15年以降135万人が入国した難民問題が主要争点だ」などと報道されていましたが、そんなことはありません。好景気の恩恵に預かれない人たちはたくさんいますし、将来の年金の心配も切実なもので、各党のそれに対する政策プログラムもかなり大きな相違点があります。また「15年以降135万人が入国した難民問題」は問題を限定し過ぎており、実際のドイツ国民の問題意識とかなりずれがあります。「135万人の難民」はあくまでも問題のほんの一部に過ぎず、高度経済成長期から継続的に増加している移民および難民認定を受ける可能性がゼロの犯罪化しやすい北アフリカ系不法滞在者、およびイスラム過激派によるテロなどの脅威を含めた漠然とした「外国人問題」が多く人々(44%)の心配の種となっているのです。

連邦議会選挙における最重要問題:


難民/外国人 44%
年金 24%
社会的公正 16%
教育/学校 13%
犯罪/治安 9%
労働 8%

 

 

AfD(ドイツのための選択肢)

さて、一躍第三会派となった AfD(ドイツのための選択肢)ですが、一体どんな人たちが投票したのでしょうか?
それを表すのが次のグラフです。今回 AfD に投票した人が2013年にはどこに投票していたかを示しています。

2013年連邦議会選挙の時は AfD は得票率5%を超えられなかったので、議会入りを果たせませんでしたが、今回 AfD に投票した人のうちの24%は前回も同党に投票したコアな支持者のようです。CDU/CSU から21%、SPD から10%、左翼政党から6%票が AfD に流れたようですが、35%と一番大きかったのはやはり前回投票しなかった人(または他の小政党に投票した人)たちを動員できたことでしょう。

特に東ドイツでの得票率の伸びはすさまじく、なんと16.6ポイント増で、CDUに次ぐ第二の勢力となりました。西ドイツでは6.6ポイント増加しただけでした。6.6ポイント増加もすごいのですけど、それが小さく見えてしまうのだから不思議です。

AfD の東ドイツでの人気は、Tagesspiegel の記事にあるように「30年の東西統一政策の崩壊宣言(Bankrotterklärung für 30 Jahre Wiedervereinigungspolitik)」と解釈できます。難民問題はきっかけに過ぎず、そもそもの東ドイツの構造的な経済問題が底にあり、好景気の恩恵を受けられずに取り残されている不満が「保護され、支援される難民」を妬み、敵視する土壌を形成しているといえます。

小さな政党の候補者が小選挙区で勝利して議会入りするのは稀なことなのですが、AfD はザクセン州の選挙区3か所(ゲルリッツ、バウツェン1区、シュヴァイツ・オステルゲビルゲ)で勝利を収めました。比例票もザクセン州では30%以上が AfD に入っており、最大勢力を形成しています。その意味では AfD は「東独(ザクセン)の声」と見ることもできます。かねてより難民・イスラム教徒排斥運動「ペギーダ PEGIDA = Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes(ヨーロッパのイスラム化に反対する愛国的なヨーロッパ人)」が盛んなザクセン州とその首都ドレスデンにおける極右傾向が懸念されてきましたが、今回の選挙でそれが改めて確認されたといえます。

しかしながら、AfD の評判は非常に悪いです。FDP の連邦議会入りを歓迎しない人が16%しかいないのに対して、AfD の連邦議会入りを歓迎しないとする人は69%もいます。

歓迎されない理由は同党内の極右勢力にあります。ホロコースト否定論者や歴史修正主義者的な発言で問題視され、「扇動罪」で操作されている党員や州議会議員もおり、追放処分となった議員も出ています。

連邦議会では94議席を獲得した AfD ですが、4年後に何人が扇動罪などでリタイヤしているかある意味見ものです。

AfD 投票者の社会学的分析(数字は全てZDFの記事より)

AfD 投票者を年齢別に見ると、働き盛りの30~59歳の年齢層が多いことが分かります。必ずしも若い人たちに希望を与えている政党ではないということですね。

年齢別 CDU/CSU SPD 左翼政党 緑の党 FDP AfD
<30 25% 19% 10% 11% 13% 11%
30-44 30% 17% 9% 11% 11% 16%
45-59 31% 21% 9% 11% 10% 15%
>60 41% 25% 9% 5% 10% 10%

職業別ではいわゆるブルーカラーが多くなっています。

職業別 CDU/CSU SPD 左翼政党 緑の党 FDP AfD
労働者 29% 24% 10% 5% 7% 19%
会社員 33% 22% 9% 10% 11% 11%
公務員 36% 22% 6% 13% 12% 10%
自営業 34% 12% 8% 12% 17% 12%

学歴別では低学歴の投票者が目立っています。それに対して大卒の AfD 投票者はかなり少ないですね。

学歴別 CDU/CSU SPD 左翼政党 緑の党 FDP AfD
基幹学校終了 36% 29% 6% 4% 7% 14%
中等教育終了 34% 20% 9% 6% 9% 17%
大学入学資格 31% 18% 10% 11% 13% 11%
大卒 30% 16% 11% 18% 14% 7%

総合すると働き盛りの低学歴ブルーカラーたちが自らの不満を表明するために AfD に一票を投じた、ということのようです。

 

世論調査研究所 Dimap の調査によると AfD 投票者たちの投票理由は、テロ対策が69%、犯罪対策が61%、難民流入が60%でした。

彼らの投票決断は、政党に納得しているからという人が31%、他政党に失望したからという人が60%で、AfD 投票者が必ずしも AfD 支持者ではないことが窺えます。

他政党の投票者においては数字が逆転しており、正当に納得して投票したという人が63%、他政党に失望したという人が30%でした。

 

参照記事:

ZDF heute, 25.09.2017, "Nach der Bundestagswahl: Live: Zahlen, Analysen, Reaktionen(連邦議会選挙後:ライブ:数字・分析・反応)"

Spiegel Online, 25.09.2017, "Bundestagswahl 2017: Alle Ergebnisse(2017年連邦議会選挙:全結果)"

ZDF heute, 25.09.2017, "AfD stärkste Partei in Sachsen: Suche nach Gründen(AfD はザクセン州で最大政党。その理由とは)"

Statista, 25.09.2017, "Bundestagswahl 2017: Warum die AfD drittstärkste Kraft wurde(2017年連邦議会選挙:なぜ AfD が第3会派となったか)"

Tagesspiegel, 25.09.2017, ”Die AfD boomt im Osten(AfD は東でブームに)


ドイツ・ノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙(2017)

ドイツ:シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議会選挙(2017)

ドイツ:3州同時選挙。右翼政党「ドイツのための選択肢」大躍進

ドイツ:世論調査(2017年9月21日)~どの連立が可能か?

ドイツ:世論調査(2017年9月1日)~2030年からの内燃エンジン禁止反対多数

ドイツ:メルケル&シュルツTV対決

ドイツ連邦議会選挙直前世論調査(2017年9月15日)~CDUは支持率低下


書評:夢枕獏著、『陰陽師 第5巻 生成り姫』(文春文庫)

2017年09月24日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『陰陽師』シリーズ第5巻『生成り姫』は、4巻までとは違い、短編集ではなく1冊で一つのお話になっています。第3巻の短編「鉄輪(かなわ)」の長編版とのことですが、第2巻に収録されていた「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」も物語の一部としてリサイクルされてます。男に捨てられ、それを恨んで貴船神社へ丑の刻参りをする徳子姫が般若になりかける「生成り」というわけですが、なんとも哀れな女性です。

このエピソードでは安倍晴明の活躍の場はそれほどなく、源博雅の笛と琵琶、そしてその純粋な思いが憐れな女の魂を救います。博雅は本当に「いい漢」ですね。

徳子姫の境遇は世の無常を体現しているかのようです。人がいとも簡単に流行り病で亡くなり、家があっという間に没落し、住居も瞬く間に荒れ屋と成り果てる無常。その「いかんともしがたい」人の生にあって、楽を奏で、草花を愛おしみ、人を愛おしむ心を忘れない優しさがなおも溢れている時代。

現在の医学・科学が進歩してものに溢れた世にあって、「自己責任」と弱者叩きをする思いやりのない冷たい世の中と比べると、平安時代のいかんともしがたい無常さが何と豊かに感じられることか!

そんなことを考えさせられた作品でした。


ところで秋の土御門の庭はこんな感じだったのでしょうか。

女郎花(オミナエシ、Patrinia scabiosifolia、Goldbaldrian)

竜胆(リンドウ、Gentiana scabraJapanischer Herbstenzian)

撫子(ナデシコ、D. superbus L. var. longicalycinus )

尾花(ススキ、Miscanthus sinensis、Chinaschilf)

萩(ハギ、Lespedeza、Buschklee)

葛(クズ、Pueraria lobata、Kudzu)

藤袴(フジバカマ、Eupatorium fortunei

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書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)



書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

2017年09月23日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

馴染みのオンライン書店での【ポイント50倍】キャンペーンにつられて夢枕獏の『陰陽師』シリーズ全17巻を大人買いしてしまいました。取り敢えず最初の4巻を読み終えたので感想を書いておきたいと思います。

第1巻の『陰陽師』はなんと昭和の作品なんですね。2巻が出るまでに7年の間隔があいたそうで。ただ、舞台は平安時代、陰陽師・安倍晴明の怪異エピソード集というようなものなので、書かれたのが昭和でも平成でも全く差はないかと思います。

収録されているのは6話で、「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」、「梔子の女(ひと)」、「黒川主」、「蟇(ひき)」、「鬼のみちゆき」、「白比丘尼」。うち第1話は今昔物語の「玄象琵琶為被取語 第二十四」からのエピソードであることが明らかにされていますが、その他のエピソードも様々な昔話がベースになっていると思います。白比丘尼は人魚の肉を食べてしまって不老不死になってしまった女性の言い伝えがベースにあり、ネタとしてはかなり有名な部類かと思います。

主人公の安倍晴明は「当代一の陰陽師」の名声を確立しているとはいえ、まだ30代くらいで独身。かの有名な土御門の屋敷に1人暮らしらしい様子。そこに用事があったりなかったりで訪ねて来るのが源博雅という醍醐天皇の血筋の武士。彼は「今昔物語」を始めとする様々な文献に言及されている非常に雅を解する笛などの名手だったようですが、そういうやんごとないご身分にも拘わらず供もつれずに徒歩で清明宅にやって来て酒を酌み交わし、そして二人で問題の場所へ出かけて行き、怪異を解決するというのがエピソードのパターンになっています。

二人で出かける際のやり取りが、

「ゆかぬか」

「うむ」

「ゆこう」

「ゆこう」

そういうことになった。

と実にのんびりと平安的な感じがして、物語全体に感じられる牛車と徒歩のゆっくりとしたペースと草花の匂いで満たされた湿った空気と夜の平安京の深い闇によく調和しています。

第2巻『陰陽師 飛天ノ巻』は、1995年に単行本発行された作品。清明と博雅の話がホームズとワトソンの話のようにファンを集めているとあとがきに書いてあります。実際に「清明と博雅の話」という感じはします。寒くても暑くても土御門の屋敷で特に手入れされているとは思えない特殊な趣の庭を眺めながら、酒を飲み、つまみを食しつつ、「いい夜だ」、「それも呪(しゅ)よ」などと噛み合ってるような噛み合ってないような会話を交わして、「ゆこう」「ゆこう」と出かけていくのは毎度のことなので。

収録エピソードは、「天邪鬼」、「下衆法師」、「陀羅尼仙」、「露と答へて」、「鬼小町」、「桃園の柱の穴より児の手の人の招くこと」、「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」の7話。

特に前巻の話の内容を踏まえていないと分からないというようなことはなく、淡々と平安時代不思議物語が展開されています。

 

第3弾「付喪神ノ巻」は、「瓜仙人」、「鉄輪(かなわ)」、「這う鬼」、「迷信」、「ものや思ふと……」、「打臥の巫女」、「血吸い女房」の7篇が収録されています。

うち「ものや思ふと」は「今昔物語集」巻第二十七、「於京極殿 有詠古歌音語第二十八」を元にしたエピソードで、天徳4年(960年)に村上天皇によって催されたという内裏歌合が事の発端になっています。そこで競われたという和歌、壬生忠見の

「恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか」

と平兼盛の

「忍ぶれど色にいでにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで」

は百人一首の40・41番として収録されており、内裏歌合での勝負の話は有名なエピソードですが、ここでは負けた方の壬生忠見の方にスポットがあてられています。この勝負に負けたのが悔しくて、ものも食べられなくなり、死して鬼と化したというのです。勝負の裏話とでもいうのでしょうか、非常に興味深いエピソードだと思いました。

他のエピソードも淡々と「日本昔話」風に清明・博雅コンビのやり取りが展開されていて定番の面白さがありますが、私はこの「ものや思ふと…」が一番面白いと感じました。

 

第4弾「鳳凰ノ巻」には、「泰山府君祭」、「青鬼の背に乗りたる男の譚」、「月見草」、「漢神(からかみ)道士」、「手をひく人」、「髑髏譚」、「清明、堂満と覆物の中身を占うこと」の7編が収録されています。安倍晴明のライバルと言われる蘆屋道満(または道摩法師)が最初と最後のエピソードに登場します。この巻で初登場というわけではないのですが、二つのエピソードに登場する重要キャラとして以前よりも親しみが湧くような気がしました。変わり者で、「退屈しのぎ」にちょっと人としてどうよ、と思うこともしてしまう、人を喰ったところがある人物ですが、清明には何やら同類の親しみのようなものを感じているようで、彼との付き合いを楽しんでいる風があります。

「清明、堂満と覆物の中身を占うこと」では方術対決という朝廷の見世物という舞台設定のため、珍しく比較的派手な術が披露されていて、なかなか面白い展開になっています。

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