9月24日投開票だったドイツ連邦議会選挙の結果が出ました。
最初の予想が出た時点で、右翼ポピュリズム政党である AfD(ドイツのための選択肢)の躍進(得票率13%)が明確になっていたため、「右傾化」「不満分子によるアンチ・メルケル投票」「二大国民政党、歴史的敗北」などなど大騒ぎでした。
投票率は76.2%で、前回(2013年)よりも4.7ポイント改善されました。投票率には東西で差があり、西側が78%(+5.6)、東側が74%(+6.4)となっていました。
各政党の得票率
CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟) 33%
SPD(ドイツ社会民主党) 20.5%
Linke(左翼政党) 9.2%
Grüne(緑の党) 8.9%
FDP(自由民主党) 10.7%ー>連邦議会復活
AfD(ドイツのための選択肢) 12.6%ー>初連邦議会入り
Andere(その他) 5.0%
2013年度の得票率との比較
CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟) ー8.6
SPD(ドイツ社会民主党) -5.2
Linke(左翼政党) +0.6
Grüne(緑の党) +0.5
FDP(自由民主党) +6.0
AfD(ドイツのための選択肢) +7.9
Andere(その他) -1.2
以上の結果を見てわかるように、これまでの政権与党であった CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)および SPD(ドイツ社会民主党)が大きく票を失ったため、政府に対する不満が爆発したと見られています。三政党全てにとって史上最悪の結果となりました。それは下の1949年以降の連邦議会選挙結果の推移を表すグラフを見ても一目瞭然です。
これまでポピュラーだった「国民政党」から小さな政党へ大きく票が流れましたが、中でも目を見張る躍進を遂げたのが今回初めて国政政党として連邦議会入りすることになった AfD(7.9ポイント上昇)および連邦議会カムバックを果たした FDP(6ポイント上昇)です。
左翼政党の9.2%は史上最高の結果とは言え、二桁の数字を目標に掲げていたので、目標未達に終わりました。緑の党も期待ほどの結果が出せなかった点では同じです。
議席配分
比例票の配分を議席に反映するための超過議席や調整議席のために今期は総数709議席の史上最大の議会となります。過半数は355議席。
過半数を得るための連立には計算上二つしか選択肢がありません。
可能な連立
しかしながら、マルチン・シュルツ SPD 党首が最初の選挙結果予想が出てすぐに連立与党となることを断固拒否したため、実質的にはいわゆる「ジャマイカ連立(CDU/CSU、FDP、緑の党の連立)」しか選択肢が残されていません。三勢力連立は国政レベルでは初めての試みとなります。
SPD が連立与党となることを拒否したのは、政権参加によって党本来のプロフィールが失われたと考えられていることから、野党で党の再建を図るという意図と同時に極右傾向の強い AfD が野党第一党となることを阻止する目的もあるとのことです。
選挙の争点
毎日新聞の9月22日の記事では「好景気が続くドイツでは経済・社会保障政策について国政政党間で大きな対立点がなく、15年以降135万人が入国した難民問題が主要争点だ」などと報道されていましたが、そんなことはありません。好景気の恩恵に預かれない人たちはたくさんいますし、将来の年金の心配も切実なもので、各党のそれに対する政策プログラムもかなり大きな相違点があります。また「15年以降135万人が入国した難民問題」は問題を限定し過ぎており、実際のドイツ国民の問題意識とかなりずれがあります。「135万人の難民」はあくまでも問題のほんの一部に過ぎず、高度経済成長期から継続的に増加している移民および難民認定を受ける可能性がゼロの犯罪化しやすい北アフリカ系不法滞在者、およびイスラム過激派によるテロなどの脅威を含めた漠然とした「外国人問題」が多く人々(44%)の心配の種となっているのです。
連邦議会選挙における最重要問題:
難民/外国人 44%
年金 24%
社会的公正 16%
教育/学校 13%
犯罪/治安 9%
労働 8%
AfD(ドイツのための選択肢)
さて、一躍第三会派となった AfD(ドイツのための選択肢)ですが、一体どんな人たちが投票したのでしょうか?
それを表すのが次のグラフです。今回 AfD に投票した人が2013年にはどこに投票していたかを示しています。
2013年連邦議会選挙の時は AfD は得票率5%を超えられなかったので、議会入りを果たせませんでしたが、今回 AfD に投票した人のうちの24%は前回も同党に投票したコアな支持者のようです。CDU/CSU から21%、SPD から10%、左翼政党から6%票が AfD に流れたようですが、35%と一番大きかったのはやはり前回投票しなかった人(または他の小政党に投票した人)たちを動員できたことでしょう。
特に東ドイツでの得票率の伸びはすさまじく、なんと16.6ポイント増で、CDUに次ぐ第二の勢力となりました。西ドイツでは6.6ポイント増加しただけでした。6.6ポイント増加もすごいのですけど、それが小さく見えてしまうのだから不思議です。
AfD の東ドイツでの人気は、Tagesspiegel の記事にあるように「30年の東西統一政策の崩壊宣言(Bankrotterklärung für 30 Jahre Wiedervereinigungspolitik)」と解釈できます。難民問題はきっかけに過ぎず、そもそもの東ドイツの構造的な経済問題が底にあり、好景気の恩恵を受けられずに取り残されている不満が「保護され、支援される難民」を妬み、敵視する土壌を形成しているといえます。
小さな政党の候補者が小選挙区で勝利して議会入りするのは稀なことなのですが、AfD はザクセン州の選挙区3か所(ゲルリッツ、バウツェン1区、シュヴァイツ・オステルゲビルゲ)で勝利を収めました。比例票もザクセン州では30%以上が AfD に入っており、最大勢力を形成しています。その意味では AfD は「東独(ザクセン)の声」と見ることもできます。かねてより難民・イスラム教徒排斥運動「ペギーダ PEGIDA = Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes(ヨーロッパのイスラム化に反対する愛国的なヨーロッパ人)」が盛んなザクセン州とその首都ドレスデンにおける極右傾向が懸念されてきましたが、今回の選挙でそれが改めて確認されたといえます。
しかしながら、AfD の評判は非常に悪いです。FDP の連邦議会入りを歓迎しない人が16%しかいないのに対して、AfD の連邦議会入りを歓迎しないとする人は69%もいます。
歓迎されない理由は同党内の極右勢力にあります。ホロコースト否定論者や歴史修正主義者的な発言で問題視され、「扇動罪」で操作されている党員や州議会議員もおり、追放処分となった議員も出ています。
連邦議会では94議席を獲得した AfD ですが、4年後に何人が扇動罪などでリタイヤしているかある意味見ものです。
AfD 投票者の社会学的分析(数字は全てZDFの記事より)
AfD 投票者を年齢別に見ると、働き盛りの30~59歳の年齢層が多いことが分かります。必ずしも若い人たちに希望を与えている政党ではないということですね。
年齢別 |
CDU/CSU |
SPD |
左翼政党 |
緑の党 |
FDP |
AfD |
<30 |
25% |
19% |
10% |
11% |
13% |
11% |
30-44 |
30% |
17% |
9% |
11% |
11% |
16% |
45-59 |
31% |
21% |
9% |
11% |
10% |
15% |
>60 |
41% |
25% |
9% |
5% |
10% |
10% |
職業別ではいわゆるブルーカラーが多くなっています。
職業別 |
CDU/CSU |
SPD |
左翼政党 |
緑の党 |
FDP |
AfD |
労働者 |
29% |
24% |
10% |
5% |
7% |
19% |
会社員 |
33% |
22% |
9% |
10% |
11% |
11% |
公務員 |
36% |
22% |
6% |
13% |
12% |
10% |
自営業 |
34% |
12% |
8% |
12% |
17% |
12% |
学歴別では低学歴の投票者が目立っています。それに対して大卒の AfD 投票者はかなり少ないですね。
学歴別 |
CDU/CSU |
SPD |
左翼政党 |
緑の党 |
FDP |
AfD |
基幹学校終了 |
36% |
29% |
6% |
4% |
7% |
14% |
中等教育終了 |
34% |
20% |
9% |
6% |
9% |
17% |
大学入学資格 |
31% |
18% |
10% |
11% |
13% |
11% |
大卒 |
30% |
16% |
11% |
18% |
14% |
7% |
総合すると働き盛りの低学歴ブルーカラーたちが自らの不満を表明するために AfD に一票を投じた、ということのようです。
世論調査研究所 Dimap の調査によると AfD 投票者たちの投票理由は、テロ対策が69%、犯罪対策が61%、難民流入が60%でした。
彼らの投票決断は、政党に納得しているからという人が31%、他政党に失望したからという人が60%で、AfD 投票者が必ずしも AfD 支持者ではないことが窺えます。
他政党の投票者においては数字が逆転しており、正当に納得して投票したという人が63%、他政党に失望したという人が30%でした。
参照記事:
ZDF heute, 25.09.2017, "Nach der Bundestagswahl: Live: Zahlen, Analysen, Reaktionen(連邦議会選挙後:ライブ:数字・分析・反応)"
Spiegel Online, 25.09.2017, "Bundestagswahl 2017: Alle Ergebnisse(2017年連邦議会選挙:全結果)"
ZDF heute, 25.09.2017, "AfD stärkste Partei in Sachsen: Suche nach Gründen(AfD はザクセン州で最大政党。その理由とは)"
Statista, 25.09.2017, "Bundestagswahl 2017: Warum die AfD drittstärkste Kraft wurde(2017年連邦議会選挙:なぜ AfD が第3会派となったか)"
Tagesspiegel, 25.09.2017, ”Die AfD boomt im Osten(AfD は東でブームに)”