徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:今野敏著、『去就―隠蔽捜査6―』&『棲月―隠蔽捜査7―』(新潮文庫)

2018年09月15日 | 書評ー小説:作者カ行

ついに『隠蔽捜査』シリーズの最新巻まで読破してしまいました。

『去就―隠蔽捜査6―』ではストーカー殺傷がテーマです。警察庁の指示により、各署でストーカー対策チームを立ち上げることになり、大森署だけが立ち上げが遅れているということでまず赴任間もない弓削第二方面本部長とひと悶着。早急な対処を約束した直後に大森署管内で殺人事件とストーカー犯による女性の連れ去り(殺人犯とストーカー犯の被疑者は同一人物)が起こり、例によって伊丹刑事部長が捜査本部長、捜査本部の場を提供する大森署署長の竜崎が副本部長のコンビで捜査本部が運営されますが、途中から弓削第二方面本部長にが割り込み、主導権を握ろうとします。竜崎のプライベートでは、娘の美紀が交際中の男性からのメールなどによるアプローチがしつこくてうんざりしているという話があり、付き合っている相手でもストーカー行為は犯罪なので警察に相談するように娘に助言します。

殺人と連れ去り事件の解決後に、弓削の画策によって竜崎が特別監察の対象となってまたひと悶着があるという展開で、形式的なことに囚われずに合理的な捜査を進める竜崎に次から次へと降りかかる組織的障壁にうんざりしますが、最後は正義が勝つみたいな結末なので一種のカタルシスが味わえますが、フィクション臭さが強く感じられるとも言えるかもしれません。

『棲月―隠蔽捜査7―』ではサイバー犯罪がテーマ。私鉄のシステムダウンによる運行停止、そして間もなく起きた銀行のシステムダウンの関連性と事件性を疑った竜崎は所轄の管内ではないものの捜査員を送り込んで事実確認をしようとするところからストーリーは始まります。そして、リンチ殺害と見られる少年の遺体が発見されたために捜査本部が立ち上げられます。このシリーズのパターン通りサイバー犯罪と殺人事件は徐々に相互関連性が見えてきます。組織的な対立軸はサイバー対策課を仕切る「薩摩」出身の生安部長。竜崎のプライベートは息子のポーランド留学と竜崎自身の異動の噂。以前なら異動に対して感傷的になるようなことはなかった竜崎は、自分がうろたえていることに戸惑います。最初のころ公務員ロボットのようだった竜崎も随分人間的になった感じですね。

ついに異動の内示が出て、大森署を去るところでこの巻は終了します。おそらく舞台を神奈川県警に移して『隠蔽捜査』シリーズ第2期としてまだ竜崎シリーズが続くものと思われます。『宰領(隠蔽捜査5)』で竜崎と関わり、「いつかあなたの下で働きたい」と言ってた捜査官もいたので、その人がまた登場するのかな、と楽しみにしています。

ただまあ、番外編を含めてシリーズ9作目ともなると少々定型的になってきて、エンタメ性はまだまだ高いと思いますが、作品1つ1つのインパクトは薄れてきたかな、と思います。


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