『黄砂の進撃』の進撃は『黄砂の籠城』上・下と対を成す、義和団事件を中国側から描いた歴史小説です。ただし前作のように現代から始まらず、いきなり義和団の「天下第一壇大師」であった張徳成の「子供のころ、辮髪が嫌いだった」という回想から始まります。そして彼が義和拳に指導者の一人として合流し、「天下第一壇大師」となるまでの経緯が一貫して彼の視線で語られます。外国公使館区域(東交民巷)を包囲し、逆に列強諸国の援軍に包囲されて敗れるまでの経緯は清朝や清軍の重要人物の視点も交えて描写されます。そして会津藩出身の駐在武官で、籠城の際に活躍した柴五郎が、義和団の女性組織の一つである紅灯照の棟梁として戦っていた紗那に「英雄・張徳成」について聞くところで締めくくられます。
この最後の柴五郎と紗那の対話は非常にメッセージ性が強く、柴五郎の言葉からは日本軍の横暴なやり方や驕りに対する批判、紗那からは漢民族の成長の速さや民族としての誇りが迸っています。
そして「英雄・張徳成」は非常に思慮深く、様々な疑念や迷いを持ちつつもいきがかり上なってしまった「天下第一壇大師」として大きくなった義和団を導き、本来の目的であるキリスト教宣教師による内政干渉と横暴を止めさせるにはどうしたらいいか考え、また遠い未来の理想像としてみんなが平等に百姓か労働者で、等しく教育を受け、平和に共存する社会を描く人物として語られています。実際にどういう人だったのかは知りませんが、ところどころカリスマ性を発揮するものの、妙に等身大の人間臭さを感じる英雄という印象です。
この作品は『黄砂の籠城』よりも構成がしっかりとしており、小説として完成していると思います。
歴史小説
書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(角川文庫)
書評:松岡圭祐著、『八月十五日に吹く風』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『生きている理由』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『ヒトラーの試写室』(角川文庫)
書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『水鏡推理4 アノマリー』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『水鏡推理5 ニュークリアフュージョン』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『水鏡推理 6 クロノスタシス』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)
書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)
書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)
書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)
書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)
書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)