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書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』(角川文庫)

2021年11月20日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


23歳の新人ラノベ作家 杉浦李奈を主人公とした文芸ミステリーは、すでに第2弾も発売告知されており、松岡圭祐の執筆スピードは一体どういうことになっているのだろうかと毎度のことながら感心しつつ新シリーズを読んでみました。
20代前半の若い女性を主人公にするのは安定の松岡ワールドと言えますが、今回は文芸、純文学の世界で物語が展開します。文学作品からの引用や芥川や太宰などの日本の代表的な作家にまつわる事件などが織り込まれている雰囲気は少し三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズに似通った匂いがあります。けれども主人公の杉浦李奈はまだ3作しか出していない「Z級ラノベ作家」でビブリアの栞子さんのように古書に詳しいわけでも、松岡圭祐自身のこれまでの作品に登場するスーパーヒロインのように特殊な身体能力や膨大な知識量と推理力があるわけでもなく、文学的素養はあるけどまだ未熟な作家に過ぎないところが特徴的と言えます。
新進気鋭の小説家・岩崎翔吾との雑誌対談に出席し、テーマの「芥川龍之介と太宰治」について互いに意見を交わした李奈は、これを縁に次作の帯に岩崎からの推薦文をもらえることになりましたが、新作発売直前に岩崎の小説に盗作疑惑が持ち上がり、せっかく郵便で送られてきたばかりの献本の帯を外して出版社に返却を求められます。それどころか、このスキャンダルを利用して岩崎の盗作の真相に迫るノンフィクションを書くように担当編集者から指示され、事件に深くかかわっていくことになります。
杉浦李奈がノンフィクション作家としての取材など右も左も分からないところから始め、様々な人に関わって取材を重ねて行くことを通じてどんどん逞しくなり、人間的に成長するというストーリーラインと作中のところどころにスパイスとしてちりばめられた文学談義の魅力もさることながら、どんどん掘り下げられていく岩崎翔吾という人物像も実に興味深いです。
しかし、メインディッシュはやはり、盗作疑惑が持ち上がってからしばらくして岩崎翔吾は失踪し、後に李奈に死体として発見される展開も目を惹きますし、その後、岩崎に盗作されたと主張していたフリーライターの嶋貫克樹も死んでしまうことで事件が新展開を見せ、謎が深まっていくミステリー性の高さですね。
出版業界の裏事情も巧みに織り交ぜられているところも興味深いです。

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李奈が今後どう成長して行くのか、早くも次巻が楽しみです。

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