徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語 第零幕 四、星降る夜に見た未来』(富士見L文庫)

2019年11月30日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行


『紅霞後宮物語』の最新刊が出た!と思ったら、今回は番外編というか過去編・零幕シリーズの方の続編でした。過去編は過去編で面白くはあるのですが、やはり本編の先の方が気になります。

『第零幕 四、星降る夜に見た未来』では、小玉が母親の喪に服すために故郷に帰り、故郷でのトラブルから兄嫁・陳三娘(ちん・さんじょう)とその息子とともに故郷を出て帝都に家を借りることになるエピソードと、小玉の従卒・楊清喜と小玉の部下でなぜか女装している黄復卿(こう・ふくけい)の間の奇妙な恋愛とその悲しい終わりのエピソードが盛り込まれています。
「星降る夜」は三娘と小玉の子供の頃の思い出の1つで、二人が森の中であった不思議な老婆の残した予言にかかわっています。予言は小玉が水を汲みに行っている間に三娘だけが聞いたもので、小玉には「貴相」が出ているとか、彼女の男性関係についてとかいうものでした。予言された4人の男性関係はすでに終了していて、予言にはなかった文林という存在が小玉を不幸にするのではないかと三娘は心配するのですが、この二人が結婚し、文林は皇帝に、小玉は皇后になる未来を知ることなく儚くなってしまう気の毒なエピソードでもあります。
彼女の残した息子・丙はそのまま帝都に居続けることになります。この丙は実は小玉が里帰りするまで「名無し」だったというから驚きです😱 三娘と小玉の間の様々な行き違いによるものでしたが、結局三娘の望み通り小玉が名付けして「丙」となったというエピソードも「いいのかそれで?」というおかしみがあってよかったです。
その他にもファンには嬉しい様々な小さいエピソードが盛り込まれています。明慧がまだ健在なのも懐かしさすら感じられます。

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書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語』第零~七幕(富士見L文庫)

書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語 第八幕』(富士見L文庫)

書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語 第九幕』(富士見L文庫)

書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語 第零幕 三、二人の過誤』


レビュー:長岡良子著、『暁の回廊』全4巻( ミステリーボニータ)

2019年11月19日 | マンガレビュー


『暁の回廊』は、「古代幻想ロマンシリーズ」に通じるものがあります。中心人物は古代の神々・三輪神の血をひく阿刀(あと)少年(のちの道昭)と葛城皇子(中大兄皇子)で、古代ファンタジーの独特の妖しい雰囲気を醸し出しています。山岸涼子の『日出処の天子』の若き厩戸皇子(聖徳太子)の神がかり的な超能力に通じる力がこの作品でも重要な要素となっています。上宮王家の滅亡や乙巳の変などの史実と絡めて物語が進行していきます。
絵柄もステキでファンタジーストーリーとして魅力的ですが、中大兄皇子を肯定的に描きすぎているかな、とも感じました。


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レビュー:長岡良子著、『古代幻想ロマンシリーズ』全15巻(秋田書店)

2019年11月11日 | マンガレビュー


「古代幻想ロマンシリーズ」は『葦の原幻想』、『夜の虹』、『天離る月星』、『玉響』、『眉月の誓い』全4巻、『夢の奥城』、『月の琴』、『天ゆく月』、『初月の歌』、『昏い月』、『春宵宴』全2巻からなります。壬申の乱後の藤原不比等の生きた時代とその少し後あたりの幻想的な昔語りの集大成のようなマンガです。藤原不比等(史)は主人公として、また脇役として何度も出てきますが、『ナイルのほとりの物語』のラーモセのように一貫した語り手はいません。しかし時を超越して生きる三輪神人であるまゆりとオビトは何度か登場します。彼らはラーモセのように時の輪にとらわれているわけではなく、神人だから少々不思議なことができ、また長生きでもあるという設定です。
また不比等が自分の外戚としての地位を築き上げてから編纂した「日本書紀」に対して、かつて彼の史(フミヒト:書記官)として育てた田辺氏が「よくもあのような嘘を」と非難しているところが印象的です。それに対して不比等が「歴史とは勝者の書くものだ」と答えているのは想定内ですが。
古事記にもあちこちに歴史改竄の跡が見られますが、日本書紀の方は改竄がもっとひどく、故意的に蘇我氏の系譜を貶めて悪者にし、藤原氏を正当化するように歴史が書かれているのは周知のことです。この二つをまるで日本の正史または聖書のように崇め、そこにこそ日本人のルーツがあると思い込んでいる輩がいるのはちゃんちゃらおかしいですが、もしそこに何らかのルーツがあるとしたら、「改竄のルーツ」だけじゃないですかね。文書隠滅と改竄が今でも政治の世界に脈々と受け継がれているという意味なら、確かに記紀にそのルーツを見るのも間違いではないでしょう。
まあ、そうした政治的なものはともかく、このシリーズは幸福な恋も悲恋も無常の時の流れの中で感動的に描き出されており、歴史ロマンとしてもスケールが大きいですね。
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レビュー:長岡良子著、『ナイルのほとりの物語』全11巻(ミステリーボニータ)

2019年11月11日 | マンガレビュー


エジプトのトト神の神官ラーモセは時空を超えて存在し続ける賢者にして魔法使いで、彼の時を超えて出会ってきた人たちの人生・役割が揺蕩い悠久のナイル川の流れのように語られていきます。アクナトン、ツゥト・アンク・アメン、モーセ、クレオパトラ、イエス、ヘロドトスなどの歴史上の重要人物が現れては消え、最後にラーモセ自身の物語が明かされ、彼が「捉えられていた」時の循環から解放されるというストーリーです。
非常に壮大なファンタジーですが、歴史的な背景と哲学的・宗教的な問いが含まれた深みのある作品です。
一つ一つのエピソードは関連があったり、まったく関係がなかったりして【ストーリー展開】と呼べるような大きな流れは、ラーモセがまだただの人間で王子であった頃に話がいたって初めて少し見えてきます。
実に興味深いコンセプトの作品だと思いました。

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レビュー:ヤマザキコレ著、『フラウ・ファウスト』全5巻(講談社)

2019年11月10日 | マンガレビュー


ドイツ語ゆかりのタイトルと絵柄の怪しさに惹かれて全5巻大人買いして一気読みしてしまいました。
かの有名なファウスト博士が実は女性だった、という設定も、彼女が死ぬはずだった時にメフィストフェレスが契約を履行せずに彼女に不死の(しかしケガをすれば、治癒するたびに肉体が減って小さくなる)呪いをかけて、自分を探し出すようにというゲームを始めるという設定も新鮮で面白いです。この呪いのせいでフラウ・ファウストは100年もの間さまよいながらバラバラにされて封じられているメフィストフェレスの体を集めていくストーリーに、知識欲旺盛で勝手にフラウ・ファウストについていくことに決めた少年マリオンや、彼女と同級生だった人形師(諸事情によりまだ存命)のサラ、強い意志を持ったホムンクルスのニコ、異端審問官のロレンツォなど魅力ある登場人物たちの交錯する人生も面白いですね。
そしてやはり、ファウストとメフィストフェレスの一筋縄ではいかない恋愛にも似た濃密でこじれた関係というのが一番美味しかったです😊 


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書評:アーサー・コナン・ドイル著、『英語原文で味わうSherlock Holmes4 恐怖の谷/THE VALLEY OF FEAR』

2019年11月08日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行


シャーロック・ホームズシリーズの4冊目『恐怖の谷』は、Porlockポーロックと名乗る男からシャーロック・ホームズに暗号文が届くところから始まります。それはBirlstoneバールストン館のDouglasなる人物に危険が迫っていることを警告するものでしたが、ちょうどやってきたスコットランドヤードのMacマック警部からその人物が前夜に殺されたことを知らされます。
この最初の暗号文を解くシーンはなかなか面白かったです。

この巻は、かの有名なProfessor Moriatyモリアーティ教授が初めて言及される巻でもあります。3巻と4巻の間に執筆された短編にはもしかしてすでにモリアティが登場してたのかもしれませんが。。。
とにかく、第1部でバールストンの事件が扱われて、ホームズが例によって解決して終わり、第2部でダグラスなる人物がワトソン博士に手渡した手記の物語が展開されます。第2部の方は舞台がアメリカということもあり、西部劇さながらで、違うサスペンスがあります。
そして最後のエピローグはシャーロック・ホームズの「モリアーティを倒すための時間をくれ」ーI don't say that he can't be beat. But you must give me time--you must give me time! という決意表明で終わっています。

BBCのBenedict Cumberbatch主演のドラマシリーズではモリアーティが最初から絡んでいたので、原作では全然登場しないなーと疑問に思ってたのですが、4巻でようやくご登場するわけですね。
私は実はドラマの方に登場するシャーロックのお兄さん、マイクロフトが結構好きなんですが、原作にはないキャラですよね。😅 

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ドイツの冬のボーナス「Weihnachtsgeld クリスマス手当て」

2019年11月07日 | 社会


クリスマスが近づいています。11月は多くの企業でクリスマス手当てが支払われます。日本でいうところの冬のボーナスでしょうか。
86,9 Prozent der Tarifbeschäftigten bekommen Weihnachtsgeld
Der/Die Tarifbeschäftigte とは Tarifvertrag 賃金協定のもとに beschäftigt 雇用されている労働者を指し、形容詞変化するのでご注意を。「正社員」と了解してもいいかと思います。
tariflich beschäftigt  賃金協定に則って雇用されている。
これには賃金協定に含まれない管理職は入っていませんので念のため。
管理職の人たちは、außertariflich beschäftigt (賃金協定外で雇用されている)です。

そうしたまともな賃金をもらっている労働者の86.9%がクリスマス手当てももらっているという統計です。
クリスマス手当ての全業種平均は2632ユーロですが、Energieversorgung エネルギー業界の4923ユーロと Gastgewerbe 接客業の1034ユーロを比べると格差の激しさがはっきりとわかりますね。😢
クリスマス手当てはたいてい月給に相当し、das 13. Monatsgehalt 13番目の月給と呼ばれています。つまり、クリスマス手当ての格差は賃金格差をそのまま反映しています。

Information und Kommunikation 情報通信業界のクリスマス手当て給付率が59.7%と断トツに低いのも目を引きますね。もらっている人たちの給付額は3955ユーロで悪くないですが。この業界はクリスマス手当てではなく、成功報酬としてのボーナスが一般的です。会社の売上高や経常利益にリンクしていることが多いです。