徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:関裕二著、『新古代史謎解き紀行 消えた蝦夷たちの謎 東北編』(ポプラ社)

2016年12月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『新古代史謎解き紀行 消えた蝦夷たちの謎 東北編』(ポプラ社)、2010年5月、第1刷発行。

目次

第1章 三内丸山遺跡と縄文人の謎

第2章 蝦夷とは何ものなのか

第3章 大和の政争と東国の知られざるつながり

第4章 蝦夷受難の時代

第5章 なぜ蝦夷征討は始まったのか

 

この本を2014年の大晦日に読んでいたことはFBの記録に残っているのですが、感想はどうやらFBに投稿しなかったようです。

重要ポイントは関東編と同様、東北も「野蛮で未開の地」ではなかったということですね。それは東北地方北部にまで広がる古墳群によって、考古学的に証明できることですし、またヤマトタケルの物語にもあるように、「エミシ」たちは武力制圧されたわけではなく、ヤマトに「恭順」を示すことで決着をつけていました。それ以降の支配体制ももともと東北と繋がりの強かった安倍(阿部)氏を通しての部族支配で、武力による弾圧ではなかったらしいです。

きな臭くなったのはやはり大化の改新後の藤原氏が実権を握った後で、日本書紀はその政権交代を正当化するためのプロパガンダだった可能性が非常に高いということ。


書評:関裕二著、『新古代史謎解き紀行 継体天皇の謎 信越東海編』(ポプラ社)

2016年12月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『新古代史謎解き紀行 継体天皇の謎 信越東海編』(ポプラ社)、2008年11月、第1刷発行。

目次

第1章 名古屋と尾張氏の謎

第2章 継体天皇と北陸の謎

第3章 信州と健御名方神の謎

第4章 越の奴奈川姫と天日槍

終章 弥彦神社と尾張氏の正体

 

以下2年前FBに投稿した記事より転載。

なかなか興味深い内容だったが、すっきりと謎解きができてないからか、実にまとめづらい。
要は、越から来た(近江出身説もあるが、当時は近江より越のほうが栄えていたので、越出身説を採用)継体天皇が出雲を逃れて越に移って根を張った蘇我系の氏族三国氏の血縁で、中部地方の尾張氏も継体天皇擁立に一役買ったが、日本書紀は例によってこれらの動きを黙殺している、ということになるのだが、その根拠が実にややこしく、複雑。どれもこれも謎解きのカギの仄かな暗示程度で、「これなら確かに辻褄は合う」と納得できるものが今一つないのが残念だ。
しかし、ヤマトタケル伝説が実はヤマト建国の歴史そのものを一人で体現しているのではないか、という推理は面白い着眼点ではあると思う。
 

以上転載。

この2年前の短い感想には書いてませんが、この本のもう一つの重要な点として、古代日本は決して、近畿地方=先進的文化的地域、その他(特に東国)=未開の地というヤマト中心主義的な見方が成り立たないということが挙げられます。

もっともこうした自画自賛的な自国観は何も大和朝廷に限ったことではなく、そのお手本となっているのは中国ですし、ヨーロッパでも、古代ギリシャではギリシャ以外の民族を全て「Barbaroi(野蛮人)」と見做していたことにも通じるものがあります。ローマ帝国においてもギリシャ的見方が踏襲され、ローマ帝国以外の文化・民族はやはり「Barbari」と十羽一絡げに称されていました。中国の方が東西南北の「野蛮人」を区別している分、文化レベルが高いように思えてくるくらいです。


書評:関裕二著、『古代史謎解き紀行 V 関東・東京編』(ポプラ社)

2016年12月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『古代史謎解き紀行 V 関東・東京編』(ポプラ社) 、2007年12月、第1刷発行。古代史謎解き紀行シリーズ1の最終巻。

目次

第1章 古墳王国群馬の実力

第2章 関東の出雲の謎

第3章 東京古代史散歩

第4章 ヤマトタケルと東国

第5章 雄略天皇と東国

第6章 武の王家と関東の秘密

以下、2年前に投稿したFB記事からの転載。

この本で展開される説の概要:
出雲から逃れた貴種は東国で活躍(例えば上毛野氏は出雲国造家と遠戚関係)。この人たちが関東で出雲神崇拝を広げた(例:大宮の氷川神社)。
ヤマトタケルノミコトも関東で人気がある(つまり、ヤマトタケルをまつる神社が多い)。ヤマトタケル信仰と伝説のヤマトタケルの東国における足跡とは必ずしも重ならないが、纏向型前方後円墳の分布と重なる。大和朝廷との密な関係が推測可能。
ヤマトタケルは架空の人物ではない。東国のヤマトタケル信仰もさることながら、持統天皇・藤原不比等コンビがヤマトタケルの祟りを畏れ、持統天皇は老体にムチ打ってまでヤマトタケル終焉の所縁の地を回って、帰郷した後に亡くなっている。架空の人物なら、ここまでするのはおかしい。
ヤマトタケルは固有名詞ではなく(ヤマトの勇者という意味。クマソタケルはクマソの勇者、イズモタケルは出雲の勇者)、「武」の所縁の人たち(武内宿禰を祖とする出雲勢力、及び「武」をおくり名に冠する王たち)を指していた可能性あり。「武」を冠する天皇神武、武烈、雄略(宋書の倭の五王の「武」)、天武、聖武などは日本書紀での扱いがかなり悪いか、微妙で、東との結びつきの強いという共通点を持つ。日本書紀は東国もただ「未開で野蛮」という以外全く沈黙している。東国は四世紀から急激に発展し、五世紀には古墳の量や大きさで西日本を追い抜くほどの力をつけていたにもかかわらず、だ。また、当時すでに霊山として有名だった富士山も無視している。天武天皇が尾張氏の協力を得て近江朝の正規軍を圧倒したにもかかわらず、日本書紀には尾張氏のおの字も言及されていないため、藤原氏が隠したい事実が東国にも盛りだくさんだったに違いない。その隠したかった事とは、出雲の末裔たちの東国での活躍・発展とその武力による朝廷への影響力の強さではなかったか。

推論の域は出ていないが、実に興味深い説である。

日本の古代史を紐解く、ということは、「古事記」や「日本書紀」に何が書かれていないかを探ることでもあると思います。日本の長い「隠蔽史」ですね。


書評:関裕二著、『古代史謎解き紀行 IV 瀬戸内編』(ポプラ社)

2016年12月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『古代史謎解き紀行 IV 瀬戸内編』(ポプラ社)、2007年4月、第1刷発行。

目次

第1章 日本史を変えた関門海峡

第2章 ヤマト建国と吉備の活躍

第3章 しまなみ海道と水軍の話

第4章 吉備の謎 物部の正体

第5章 没落する瀬戸内海・吉備

FBに2年前に投降した記事から転載:

ここでは瀬戸内とその複雑な海流を支配する海人(水軍、海賊)と吉備の意味及び物部氏との関係が明らかにされる。
吉備と出雲は一度、畿内ヤマト建設に協力するが、吉備は大和に力を入れ、出雲はむしろ北部九州と関係を深めようとした。卑弥呼亡き後、トヨ(=神功皇后)は出雲・北部九州連合を形成しようとしたため、関門海峡を抑えられると干上がってしまう瀬戸内・吉備・大和はトヨの追い落としにかかった。そしておそらく吉備物部氏がヤマトの王になった。物部の始祖ニギハヤヒは天皇家よりも先にヤマトに根を張っていたという古事記の記述と辻褄が合う。対して日本書紀は沈黙。
しかし、ヤマトは疫病と天災が続き、人口半減。占うと、大物主神(出雲神!)の意志の表れで、その子である大田田根子(神武=応神天皇=日向御子)に祀らせれば収まる、という神託が出たため、その人物を探して王に据えたら国が収まったという。これが天孫降臨神話、神武東征、神功皇后・応神の東遷神話に反映されている。
この時、物部は恐らく名より実を取って王座を出雲勢力に譲り、朝鮮半島・瀬戸内ルート及び朝鮮半島・日本海・琵琶湖ルートを抑えるために河内に移って、要所に物部の拠点を作っていった。出雲は間もなく没落。そのあたりが、出雲の国譲り神話に反映されている。
日本書紀が吉備と物部の関係に沈黙しているのは、藤原が滅亡させた氏族が大和建国の根幹をなしていたことが都合が悪かったから。

以上転載。

こうしてみると、古事記と日本書紀はわざと歴史のピースをバラバラに散りばめられたパズルのようですね。その背景にあるのは藤原一族の政治的野望です。


書評:関裕二著、『古代史謎解き紀行 III 九州邪馬台国編』(ポプラ社)

2016年12月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『古代史謎解き紀行 III 九州邪馬台国編』(ポプラ社)、2006年5月、第1刷発行。

目次

第1章 久留米の謎と邪馬台国論争

第2章 大和の台与と山門の卑弥呼

第3章 宗像三神と北部九州の秘密

第4章 宇佐八幡と応神天皇の秘密

第5章 天孫降臨神話と解脱王の謎

以下FBに2年前に書いた記事から転載。

邪馬台国論争の決着として著者が取るのは一応九州説だが、単純な話ではない。卑弥呼の国は北部九州でもちょっと西側に奥まった山門(ヤマト)で、自然の要塞高良山を抱えた土地。纏向に形成されつつあったヤマト連合に危機感を抱いて、対抗手段として外交策に打って出て、親魏倭王の称号を獲得した、とする【偽潛論】を継承しているわけだが、話がそこで終わらない。時代背景としては鉄の流通路の争奪戦があり、南朝鮮が鉄の産地として有名で、倭人も鉄を取りに朝鮮半島に盛んに出入りしたが、畿内のヤマトは北部九州や吉備に意地悪され、鉄欠乏症に陥っていたことが考古学的に物証をもって証明されている。
魏志倭人伝では卑弥呼のあとに男王が立つが、国が収まらず、卑弥呼の宗女である台与(トヨ)が立って、おさまったとある。著者の結論から言えば、卑弥呼は「親魏倭王」のタイトルを狙った畿内のヤマト勢力に殺害され、その後を先ず天日矛(アメノヒボコ、新羅王子であるが、元は朝鮮半島に鉄を取りに行った倭人の子孫らしい)が王となったが、本人は倭人のつもりでも、倭人にとっては外国人だったので受け入れられなかった。この人は、様々な神話や神社伝、民間信仰の言い伝えから、「武内宿禰」と同一人物だったとされる。その彼の代わりに王に立ったのが彼の妻トヨ=神功皇后であった。彼女は祟ることで恐れられていたことから、非業の死を遂げたことが推察される。神功皇后は日本書紀の本文記述に従えば、大和建国期や邪馬台国の時代とは関係ないことになっているが、日本書紀の神功皇后の異伝の談にこっそり魏志倭人伝が引用されているため、著者はそこに「うっかり洩らされた真実」を見る。ヤマトは彼女を裏切り、彼女は九州南部へ逃れる。その後ヤマトで疫病が流行り、人口が半減した。それを神功皇后の祟りだと考えたヤマトは彼女の御子、応神天皇(日向御子)をヤマトに迎え、王に据えることで漸く大和朝廷が完成した。考古学的にも九州の要素が最後に纏向に入って、古墳文化の完成を見るので、辻褄が合う。
問題は、これにより、天皇家が新羅の系統であることと、蘇我氏がその系譜を同じくしている、つまり畏れ多い血筋であることが分かってしまうことだ。藤原氏は百済系なので、天皇家が敵対する新羅系であることも、蘇我氏がその系譜に連なることも実に都合が悪かったために、歴史を改ざんし、本来一つの史実を二つ、または三つの物語に分割したり、人物の時代を恣意的に動かしたりして、大和朝廷の成り立ちをうやむやなものにしようとしたという。
これは私が今まで読んだ中で最も説得力のある大和朝廷成立説だ。

以上転載。

第3巻は『古代史謎解き紀行』の中で最もおいしい部分ではないでしょうか。やはり日本古代史研究始まって以来の論争点だっただけはあると思います。


書評:関裕二著『古代史謎解き紀行II 出雲編』(ポプラ社)

2016年12月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『古代史謎解き紀行II 出雲編』(ポプラ社)、2006年4月第1刷発行。

目次:

第1章 出雲神話と言う迷路

第2章 出雲の謎を旅する

第3章 出雲の考古学に迷い込む

第4章 出雲と「境界」の謎

第5章 アメノヒボコと出雲の謎

 

これの感想も2年前の自分のFB記事からの転載です。

この本では主に日本書紀のカラクリ、ヤマト朝廷の対立軸としての【出雲】が実は、出雲ばかりでなく、吉備(=物部氏)や越等のヤマト(=まき向)建国に関わった様々な勢力を十把一からげにして史実をうやむやにするための改竄であることをひもとき、蘇我と出雲そして九州北部(=邪馬台国)の卑弥呼の後を継いだトヨ(台与=神功皇后?)や蘇我氏の始祖とされる竹内宿禰の関係が明らかにされていく。でも重要な謎は九州編に譲っているので、お預けをくらってる感じです。

以上転載。

なかなか不満が溜まっていたようです。この後すぐにシリーズ第3巻の「九州編」を読んだのは言うまでもありません。



書評:関裕二著、『古代史謎解き紀行 I ヤマト編』(ポプラ社)

2016年12月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『古代史謎解き紀行 I』(ポプラ社)、第2刷、2006年6月発行。

古本屋で揃えてもらったシリーズの第1巻を読んだのは丁度2年前で、FBに「2年前。。。」というリマインダーとして当時書いた感想が現れたので、いい機会だからこちらに転載しておこうと思います。FBだと古い記事は二度と見つからないので。

まずは目次から。

第1章 神々の故郷 奈良の魅力

第2章 元興寺界隈の夕闇

第3章 法隆寺夢殿の亡霊

第4章 多武峰談山(とうのみねだんざん)神社の城壁

第5章 反骨の寺東大寺の頑固な茶店

第6章 当麻寺と中将姫伝説の秘密

第7章 日本の神・三輪山の正体

 

以下、FBより転載:

内容は知ってることが半分以上で、同著者の「蘇我氏の正体」と「日本を不幸にした藤原一族の正体」の内容を紀行文中の史跡描写の中に取り込んでいる感じ。
要するに日本書紀は時の実力者、藤原不比等による藤原、特に彼の父親中臣鎌足の所業の正当化の為の【正史】であるということであり、嘘、事実の沈黙及び改竄が幅を利かせているということ。蘇我氏は、いかに蘇我憎しと悪者扱いする日本書紀ですら沈黙せざるを得ないほど正統な血筋の豪族であった。対して中臣鎌足は百済から来た人質王子豊彰その人で、中大兄皇子(天智天皇)と組んで要人暗殺を行わなければ、朝廷で権力を握ることが到底できない身分であった。だから正当化の必要性がより強くあった、というのが著者の説。

以上FBからの転載。

因みに「蘇我氏の正体」は新潮文庫、2010年10月発行の第8刷。

「日本を不幸にした藤原一族の正体」はPHP文庫、2011年8月発行の第1版第2刷。

つまり、順番としては、こちらの2冊の方が後で、古代史謎解き紀行の内容をベースにそれぞれの分野を少し掘り下げたてこの文庫2冊になった、ということではないかと思います。

どれも、「古事記」や「日本書紀」を日本の真の歴史だと信じてる人たちにぜひ読んでもらいたいものです。


書評:松岡圭祐著、『水鏡推理5 ニュークリアフュージョン』(講談社文庫)

2016年12月25日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『水鏡推理』シリーズ最新刊を翻訳が忙しい中の隙を作って休憩がてら(?)読みました。副題の「ニュークレアフュージョン」の日本語訳「核融合」がこの巻のテーマです。

研究不正を追及する、より高度で専門的な部署へ異動になった一般職・水鏡瑞希は、上司の女性キャリア官僚と組んで、核融合研究の検証に取り組むことになったのですが、大した仕事もできないうちにトラブルに巻き込まれてしまいます。

ネタバレにならないように感想を書くのはちょっと難しいのだけど、「味方と思ったら実は騙されてた」パターンで瑞希はかなりの人間不信に陥ってしまいます。その疑心暗鬼がストーリー展開をよりサスペンスなものにしていると思いました。やたらと専門用語も登場しますが、瑞希自身が、「難しいことは分からない」と言っているのだから、そこは主人公と同レベルの(無)理解でスルーするのがお話を楽しむコツかと思います。

この巻は瑞希の内面にも結構踏み込んでます。やたらと推理が得意で、おばあちゃんの知恵袋的な雑学も豊富にある彼女ですが、キャリア官僚に囲まれて、常に下に見られる一般職という立場にある彼女は、自分が偏差値の低い大学出であることに劣等感を持ち、「人の役に立ちたいのに」と焦りながら、特有の正義感で結構向こう見ずな行動に走ってしまいます。これまではそれで結構結果が出せてきましたが、さて今回は?本人はかなり葛藤してます。

葛藤の末に到達した心境は:「必要とされる存在になりたい、そんなことは考えずに生きよう。必要を感じるかどうかは他人の自由だ。そんな他人の思いに自分の願いを託しても意味がない。」

ようやく自立した価値観を確立した、と言うところでしょうか。今後の活躍が楽しみですね。

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書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理4 アノマリー』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)



書評:ダン・ブラウン著、『Angel & Demons』(Simon + Schuster)

2016年12月15日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『Angel & Demons(天使と悪魔)』は、「ロバート・ラングドン」シリーズの第1作。映画化は「ダヴィンチ・コード」の方が先だったため、物語の時系列は原作とは逆転しているらしいです。映画の方を見ていないので何とも言えないのですが、「ダヴィンチ・コード」は日本語翻訳を何年か前に読んだことがあります。

この第1作は、Simon + Schuster出版の原文(2005.05)に挑戦です。実はシリーズ4作とも英語のeBookで買いました。

Angel & DemonsはChapter 137まであります。かなりのボリュームですが、ストーリーは「ロバート・ラングドンの長い一日」ともいうべきもので、朝5時(ボストン時間)に謎の電話で叩き起こされ、「飛んで1時間のところだからすぐ来い」と呼び出され、様々なやり取りの後結局行くことに決めて、空港に行くと、迎えだという飛行物体はロケットのようで、「飛行1時間」でスイスのジュネーヴへ連れて行かれ、続けてヴァチカンへ送り込まれ、大事件の解決のために最後の最後まで奮闘して、ボロボロになって夜が明ける…みたいな実に忙しい話。

大事件を起こすのはIlluminatiという近世の科学者たちによる秘密結社の末裔(?)。Illuminatiとはラテン語で「明るく照らされた者たち」という意味で、単数形(男性)はIlluminatus。日本語でもある分野に詳しいことを「~に明るい」と言うように、ラテン語のIlluminatiも真実を追求する科学者たちを指しており、ガリレオ・ガリレイ、ミケランジェロ、ベルニーニ、ラファエッロなどがその結社の会員だったようです。後に教会の弾圧のために地下に潜ることになり、フリーメーソンに入り込んで生き延び、そればかりでなくその中枢で影響力を発揮したとか。

ロバート・ラングドンは、宗教的象徴学の専門家で、このIlluminati研究の権威でもあったために事件に巻き込まれます。

Illuminatiはスイス・ジュネーヴにある学問の殿堂CERN(原子力研究機関)から秘密裡に開発されたAntimatter(反物質)を盗み出し、開発者であるレオナルド・ヴェトラは殺され、彼の胸にはIlluminatiのアンビグラム(180度ひっくり返しても同じように読めるようにデザインされた文字)が刻印されており、ラングドンはこれの説明を求められるわけです。

そしてその盗み出された反物質はヴァチカンのどこかに仕掛けられたという情報が入り、ラングドンは殺されたヴェトラの娘であり共同研究者でもあるヴィットリア・ヴェトラと共に反物質を取り返して、大惨事を防ぐためにヴァチカンに飛ぶことになります。

反物質の物理的説明はともかくとして、次期ローマ法王を選出するためのコンクラーヴェの真っ最中で、カトリック教会の主な司祭たちが世界中から集まり、もちろん報道陣も集まっているその中に24時間以内に爆発する爆弾を仕掛けられたようなものですので、カウントダウンがされる中の展開はハラハラドキドキのスリル満点です。新教皇の有力候補(プレフェリーティ)の4人が揃って失踪しており、1時間ごとに彼らを殺害するという殺人予告電話までIlluminatiを名乗る者からあって、事件は拡大していきます。一方ではスイスガードがヴァチカン内にあるらしい爆弾もどきの反物質を探索、他方ではラングドンがIlluminatiの文献を頼りに殺害場所のヒントを探索。

しかし、この話はただのサスペンスではなく、科学と信仰に関する深い哲学的・倫理的な考察が含まれており、科学の在り方にも、信仰の在り方にも疑問を投げかけています。両者の和解・融合が可能なのか否か。


またこの作品には、ラテン語、イタリア語、ドイツ語、フランス語のセリフあるいは名称が登場します。ヴァチカンが舞台なので、教会用語としてラテン語が登場するのは当然ですし、スイスガードや周辺住民などのイタリア語が出るのも当たり前ですが、CERN所長の回想場面ではドイツ語もかなり混じっています。フランス語はスイスでのワンシーンで意味もなく(たぶん雰囲気を出すためだけに)出てきます。このマルチリンガルぶりが日本語にどう翻訳されたのか興味があります。

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書評:木村草太著、『憲法の創造力』(NHK出版新書)

2016年12月09日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

木村草太著、『憲法の創造力』(NHK出版新書、2013年8月10日第6刷に基づく電子書籍)を読み終わったのは、実はもう1週間ほど前なんですが、仕事の関係上ようやく今日落ち着いて書評を書く時間ができました。

まずは目次から。内容が分かりやすいように第二見出しも書きだします。

<目次>
はしがき 憲法を創る

序章   憲法とは何か?

    1. 国家と憲法の定義
    2. 近代主権国家と立憲主義
    3. 統治機構の原理
    4. 憲法上の権利保障
    5. 本書の課題

第1章  君が代不起立問題の視点ーなぜ式典で国歌を斉唱するのか?

    1. 嫌いな歌が国家だったら
    2. 平成19年のピアノ伴奏拒否事件判決
    3. 平成23年の起立・斉唱命令判決
    4. 原告の本来的主張と「保守派」の反論
    5. 最高裁の考える君が代斉唱の意義
    6. 最高裁の肩透かし
    7. しかし詭弁のような…
    8. 教育目的を実現する最善の手段か?
    9. 安全配慮義務に反しないか?
    10. これはパワハラではないのか?
    11. 第1章まとめ

第2章  一人一票だとどんな良いことがあるのかークイズミリオネアとアシモフのロボット

    1. 「足による投票」
    2. 1人別枠制に対する従来の見解
    3. 唐突な最高裁判決
    4. 投票価値の均衡は絶対の要請か?
    5. 一人一票の根拠
    6. 「全国民の代表」の概念
    7. クイズミリオネア
    8. 「正解」の発見
    9. われはロボット
    10. 「正統性」の感覚
    11. 1人別枠制の評価
    12. 第2章のまとめ

第3章  最高裁判所は国民をナメているのか?-裁判員制度合憲の条件

    1. 「それは、あなたのためだから」
    2. 裁判員制度
    3. 三つの違憲論
    4. 「迅速な」裁判を受ける権利
    5. 憲法上の自由権
    6. 「意に反する苦役」からの自由
    7. 国民の司法参加が必要な理由
    8. 制度提案時の議論
    9. 足りないのは国民の理解?
    10. 刑事裁判は近寄りがたい?
    11. 「裁判所の判断」には二種類ある
    12. 国民のための勉強会?
    13. 裁判員制度はやはり必要?!
    14. 第3章まとめ

第4章  日本的多神教と政教分離ー一年は初詣に始まりクリスマスに終わる

    1. キリスト教徒の方でも大丈夫です?!
    2. B氏は仏教徒…なのか?
    3. 日本的多神教
    4. 宗教とは何か?
    5. 「信じる」という言葉の意味
    6. 「信じていない」けど「信じている」ーーボーアの蹄鉄
    7. 日本国憲法と信教の自由
    8. 日本国憲法と政教分離
    9. 国家は宗教を一切利用してはならないのか?
    10. 結局は目的だけ?
    11. 日本的多神教は利用しやすい
    12. 「悪意」のない冒涜
    13. 厳格な判断基準の必要性
    14. 第4章まとめ
    15. 第4章補論 空知太神社事件と白山ひめ神社事件

第5章  生存権保障の三つのステップー憲法25条1項を本気で考える

    1. ある若手建築家の発言
    2. 憲法25条とは何か?
    3. 生存権の保障の根拠
    4. 生活保護法はどんな制度?
    5. 生活扶助基準を変えた朝日訴訟
    6. 憲法25条第1項は十分に実現された?
    7. 住居の質と住宅市場
    8. 「みんなの家」とコミュニティー回路
    9. 他者からの承認という社会問題
    10. 被災者支援の三つのステップ
    11. 国家は生存権保障コストをどこまで負うべきか?
    12. 第5章まとめ

第6章  公務員の政治的行為の何が悪いのか?-国民のシンライという偏見・差別

    1. プロをナメるな!
    2. 公務員法の政治的行為規制
    3. 大阪市条例による規制範囲の拡張
    4. 公務員の中立性
    5. 権限・地位の濫用は絶対に許されない
    6. 私的な政治的行為も許されない?
    7. 推定をめぐる「専門的」な議論
    8. そもそも「国民の信頼」は目的として正当なのか?
    9. 国民のシンライ
    10. 平成24年の二つの判決
    11. 管理職かどうか、は事案を分けるか?
    12. 第6章まとめ

終章   憲法9条の創造力

    1. 小久保蝶を保護する隊
    2. 憲法9条の政府解釈
    3. 憲法9条は意外と柔軟
    4. 憲法9条の本当の意義
    5. 憲法9条は「ふつう」ではない?
    6. 憲法9条と集団安全保障
    7. 「非武装を選択できる世界」の創造

文献案内

 『憲法の創造力』(NHK出版新書)は、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)や『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)に比べると、法学的専門性がぐっと上がる感じです。扱われている問題は、「君が代」や「生存権」や「信教の自由」など、意識するかしないかは別として、比較的日常的な問題ですが、そうしたものを憲法的視点から切り込んで、関連する判例を引き合いに出しながら論じていくという構成なので、パッと見て分からない部分が割と多くなります。そのまま引用されている判決文などはその「分からない部分」の最たるものですが、そこで途方に暮れることはありません。そうした小難しいものはちゃんと「木村節」ともいえる解説スタイルで噛み砕いて説明されていますし、各章のまとめで復習もできるため、内容が比較的記憶に残りやすい構成です。

この本は法律専門書でないことは確かですが、本当に「一般向け」なのかどうかは一般人にどれだけの知性・理解力・忍耐力を前提とするかで意見の分かれるところでしょう。

この本を読むと、「最高裁はそれでいいのか」という疑問が強くなります。ここで扱われた判例では、意外と基本的人権に含まれる様々な権利が軽視される傾向が強いことが窺われます。「大義」があれば個人の権利はある程度制限されても仕方がないことはあるでしょうが、その「大義」が本当に正当性を持つものなのかという検証が疎かにされてはいけないはずなのですが、実際には疎かにされがちなようです。

大変勉強になりました。