徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:しきみ彰著、『後宮妃の管理人』全6巻(富士見L文庫)

2022年03月25日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行


ラノベには古代中国王朝風の舞台設定も後宮の物語も多いネタではありますが、時々上がって来る「お勧め作品」の中でこの『後宮妃の管理人』のいきなり勅旨で皇帝の側近で大貴族の嫡男と婚姻し、後宮妃の健康と美容の管理をする役割を与えられた28歳の商会の娘という設定が面白そうなので手に取ってみました。
妃が主人公ではなく、妃たちを管理する官吏が主人公というのが異色です。
しかも、独身の若い娘が頑張る立身出世物語ではなく、「嫁き遅れ」と当人も諦めている20代後半女性の政略結婚から始まるところが面白いですね。
玉商会の娘として商会を切り盛りし、子どもの頃の衝撃的な事件をきっかけに、美しくあろうとするあまり騙されたり危ない目に遭ったりする女性たちを支援することに使命感を燃やしている玉優蘭は、その美容や女性の健康に関する知識を買われての異例の大抜擢です。
その彼女の活動を最大限にバックアップするため、代々皇帝に特殊な役割で仕えてきた大貴族拍家の次期当主にして右丞相の恒月が彼女の夫となるのですが、この方は彼女の2歳年下で、女性と見まごうばかりの美貌の持ち主。
平民で「嫁き遅れ」である優蘭は申し訳ないやらいたたまれないやらといった気持ちを抱いたものの、そもそも勅旨で拒否権がないことに加え、後宮で貴族たちとのつながりを持てばいい商売になると商人らしく損得勘定で割り切って結婚と後宮管理の仕事を受けます。
そして、彼女の初出勤の日、後宮で麗月として女装した夫にさらに仰天することになります。
こうして、夫婦揃って皇帝にこき使われつつ後宮を含む宮廷の膿を出すことに貢献していく物語です。

現皇帝は4年前に即位したばかり。元は皇位継承順位の低い第五皇子だったのですが、皇帝・皇后を始め皇子・公主たちが皇后の侍女によって毒殺されてしまい、たまたまその時期に留学していたために事なきを得たという不穏な即位事情の上、外国事情に精通してることもあり、国の改革を促進していこうという政治態度なので、貴族たちは皇帝派の革新派と、対立する保守派、それに様々な事情により中立の立場を取る3派閥に分かれて権力闘争に明け暮れている状況です。
そんな中でも皇帝は女性に対してマメな男なので、後宮の花たちは穏やかにきれいに咲いていて欲しいという希望を持っており、その願いを叶えるために白羽の矢が立ったのが玉優蘭だったというわけです。
1・2・3巻は主に後宮のトップである4夫人に焦点が当てられ、それぞれの問題・悩みに優蘭が対処して信頼を得て行く過程が描かれています。
4・5巻では内政問題解決に向けて努力する寵臣夫婦の関係の進展が多く盛り込まれています。拍家を貶める謀略に嵌まり、窮地に立たされた二人が盛大なすれ違いと初めての夫婦喧嘩をしてしまう一方、強い味方も現れて、なかなか尻尾を出さなかった敵を追い詰めることに成功します。
最終巻の6巻では、内政の問題が一段落した後は外交問題ということで、外国から押し付けられた皇女の対応が中心になります。寵臣夫婦はついに両想いを確認し合って本当の夫婦になるという糖度の高い巻ですね。
この巻は完結編ではなく、次巻への伏線も含まれています。
6巻を2日かけて一気読みしたら、物語が完結していなかった時のもどかしさ!

それだけ読ませる力がこの『後宮妃の管理人』にはあります。
しきみ彰の作品を読むのは初めてですが、面白いですね。
夫婦そろって有能な仕事人間で、どちらも恋愛方面は不器用というキャラ設定と古代中国風政治ものと後宮ものを絡めた舞台設定自体もいいですが、周りに配されているキャラたちにも悪役も含めて濃厚なキャラが多いので、そこに大小の様々なドラマが生まれて、読んでいてとても楽しめます。



書評:松岡圭祐著、『高校事変XII』(角川文庫)

2022年03月23日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の高校生ハードボイルドシリーズ『高校事変』が遂に完結しました。
この最終巻はとにかく戦闘シーンの連続で息つく暇もなく、あれよあれよという間に日本の半分が焦土と化すような危機的状況に至ります。
異母兄弟姉妹たちを始め、様々な事件を通じて関わり合った(元)警察官やクラスメートなどの味方が増えたとはいえ、ヒロインの優莉結衣は所詮高校生に過ぎません。
圧倒的な資金力と軍事力を盾についに表立って日本国家を掌握した優莉家長男・架祷斗に対抗する術はあるのか?
パワーの不均衡さは途方もなく、どこにも打開策がなさそうな絶望的な状況です。

ここで絡んでくるのが(ややネタバレになりますが)智沙子と結衣の母親、昭和・平成時代に二度も日本を滅亡させそうになった凶悪テロリスト・友里佐知子の遺産です。


前回すでに登場していた『探偵の探偵』の紗崎玲奈に加え、この巻では『千里眼』シリーズのスーパーヒロイン岬美由紀も登場します。
シリーズを跨いで展開するストーリーは、ファンには嬉しいですが、『千里眼』シリーズを知らない読者にはもしかすると展開がやや唐突な感じがするかもしれません。

とにかく、『高校事変』シリーズが完結してよかったです。しかも、希望に満ちたハッピーエンドで。
好きか嫌いかで言えば、このシリーズは好きではありません。ハードボイルド小説と言えば聞こえがいいかもしれませんが、やはり過剰・苛烈な暴力シーンの描写は感情的に受け付けられません。

それでも読んでしまうのは、松岡ファンとしての網羅癖であることの他に、やはりこの作品が「読ませる」ものだからです。




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書評:スティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック著、土方 奈美訳、『知ってるつもり 無知の科学』(早川書房)

2022年03月21日 | 書評ーその他

知と無知をめぐる思索・考察の歴史は長く、「知っているつもり」の「知識の錯覚」古代ギリシャのソクラテスに端を発しクリティカルシンキングとして現代に受け継がれている思考法などがいい例です。

『知ってるつもり 無知の科学』は、認知科学を始めとする学際的なアプローチと豊富な事例を用いてこの人類の永遠のテーマに迫ります。

ソクラテス(紀元前470~399年)曰く、賢者は全てのものと万人から学び、凡人は自らの経験から学ぶ。そして愚者は何でもよく知っているつもりになる(知ったかぶりをする)。

このソクラテスの名言を認知科学的な実験で証明したのがコーネル大学のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーで、ダニング=クルーガー効果と呼ばれています。
曰く、能力の低い人ほど自分の能力を過大評価し、逆に能力の高い人は自分の能力を過小評価するというものです。この認知バイアスは、能力が低い人々の内的な(=自身についての)錯覚と、能力の高い人々の外的な(=他人に対する)錯覚の結果として生じます。
能力の低い人は自分が何を知らず、何ができないのかを知らないので、傲慢になれます。「夜郎自大」や「井の中の蛙大海を知らず」と古くから言われている精神状態です。
最も無知を自覚していない人がすべて傲慢になるわけではありません。あくまでも傾向です。

能力の高い人は、自分の専門分野についての何を知らないか、理解していないかを自覚していたり、ある結果を出すまでのプロセスを知っているがゆえにその大変さも理解しており、それを成し遂げた先人たちなどに対して謙虚になるため、自分の能力に対する評価が低くなる傾向にあります。
これは「知的謙虚さ」と呼ばれるもので、それを持つ人の能力の伸びしろが大きいことを表すと人事関係者の間では解釈されており、聞く話によると、Googleではこの知的謙虚さを持たない人間を絶対に採用しないのだとか。

長い前置きになってしまいましたが、『知ってるつもり 無知の科学』は決して真新しい知見を扱っているわけではないということをまず知っておいた方がいいということを伝えたかったのです。

目次
序章 個人の無知と知識のコミュニティ
第一章 「知っている」のウソ
第二章 なぜ思考するのか
第三章 どう思考するのか
第四章 なぜ間違った考えを抱くのか
第五章 体と世界を使って考える
第六章 他者を使って考える
第七章 テクノロジーを使って考える
第八章 科学について考える
第九章 政治について考える
第十章 賢さの定義が変わる
第十一章 賢い人を育てる
第十二章 賢い判断をする
結び 無知と錯覚を評価する

本書の趣旨は人間の無知を指摘するものではありません。ましてや断罪するものでもありません。
結びの「無知と錯覚を評価する」というタイトルからもそれは察せられるかと思いますが。

「なぜ人間は、ほれぼれするような知性と、がっかりするような無知をあわせ持っているのか。大抵の人間は限られた理解しか持ち合わせていないのに、これほど多くを成し遂げてこられたのはなぜなのか。こうした疑問に答えて行くのが本書の趣旨です。

まずは知識の錯覚というものがどういう性質のものなのか、様々な実験結果を用いて詳細に見て行きます。
例えば水洗トイレなどの日常的に使うものに対しての理解度を被験者に問い、では、それはどういうものなのか説明してもらい(たいていの人は説明できない)、その後で再度そのものに対する理解度を自己評価してもらうなど(大抵は最初の評価よりも低くなる)。

また、自分の頭の中にある知識と外にあるアクセス可能な(調べれば分かる)知識の区別をしない傾向にあることも実験によって明らかにされます。

知能は個人個人の能力ではなく、コミュニティの中で認知的分業を行いつつ、共通の目標に向かってそれぞれがそれぞれの能力を持って貢献し、協力し合うところにある、というのが1つの重要な知見です。

社会は複雑で、個人が知り得ることや理解し得ることは実に限定的です。この事実を自覚していないと極端な意見に偏ったり、無用な争いを起こしたり、時に甚大な被害を生じさせたりするおそれがあります。

しかし、その一方で、自分の能力以上の錯覚をするがゆえに大きな夢を叶えるポテンシャルもあると言えるので、錯覚=悪ではない、と著者らは結論しています。

何事でもそうですが、過ぎたるは猶及ばざるが如し、ということなのでしょうね。傲慢は時に集団的暴走を招くこともあり、害悪でしかありませんが、適度な知的謙虚さを持ちつつも錯覚する(夢を見る)のであれば、それは、他の人たちの知識・能力を受け入れつつ前進して行ける原動力となり得るわけです。
逆に謙虚過ぎれば、社会貢献できるはずの能力も発揮できずに宝の持ち腐れになる可能性もあります。
結局はバランスの問題ですね。



書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。6』(ビーズログ文庫)

2022年03月16日 | 書評ー小説:作者ア行

石田リンネ氏のもう1つのシリーズ『十三歳の誕生日、皇后になりました。』の最新刊も『茉莉花官吏伝 十二 歳歳年年、志同じからず』と同時発売でしたので、茉莉花の後に続けて一気読みし、例によって夜更かし。

この巻では時系列が『茉莉花』と同時になっており、バシュルク国から白楼国へ帰国する途中の茉莉花が赤奏国に立ち寄って、皇后・莉杏にアドバイスをするシーンがあります。

さて、本筋のお話は、赤奏国皇帝・暁月が冬になって比較的余裕があるので「優先順位の低かった片付けなければならないことを片付けろ」と4人の若手官僚・武官たちに課題を、それと同時に莉杏には「皇后として相談される」という課題を与えます。「相談を受けるだけではなく、その先も考えろ」という指示も付け足して。

4人の若手官僚・武官たちにそれぞれ与えられた課題は、先々皇帝の残した負の遺産の解決です。
それぞれがどのように課題に取り組み、それを観察したり、相談を受けたりしながら、莉杏がどう対処していくのかがメインのストーリーラインです。

莉杏の暁月への恋心はますます強まり、暁月の方も成長して行く莉杏に翻弄されそうな予感を抱きつつまんざらでもない、という幸せな皇帝・皇后を描くためのエピソードという感じで、話が進行しているという印象は受けません。
全体的に番外編のような位置づけなのではないかと思える巻でした。


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茉莉花官吏伝

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』(ビーズログ文庫)

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 8 三司の奴は詩をうたう 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 9 虎穴に入らずんば同盟を得ず』(ビーズログ文庫) 

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 10 中原の鹿を逐わず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十一 其の才、花と共に発くを争うことなかれ』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十二 歳歳年年、志同じからず』(ビーズログ文庫)


十三歳の誕生日、皇后になりました。

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 2』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。3』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。4』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。5』(ビーズログ文庫)


おこぼれ姫と円卓の騎士

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)



書評:石田リンネ著、『女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け』(富士見L文庫)


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2022年03月15日 | 書評ー小説:作者ア行

『茉莉花官吏伝』の最新刊を発売と同時に購入し、早速一気読みしました。
(本当は別の本を読んでいる最中なのですが、とりあえずそれを脇に置いて)

「絶対に失敗する任務」 として山に囲まれたバシュルク国への潜入捜査に送り込まれた茉莉花は、第一関門であった傭兵学校への入学を果たしただけでなく、とんとん拍子で進級して3年生の幹部候補生となり、野外演習に出かけた際にムラッカ国の襲撃に遭遇してしまい、異国人はおろかバシュルク国民ですら立ち入りが制限されている要塞の内側へ避難することになります。
ムラッカ国兵たちが外側の街を火の海にし、内側には避難民たちと共に間諜が入り込んで井戸に毒を入れる可能性を予見した茉莉花は、バシュルク国に窮地を救うため、茉莉花の監視を担っていたアシナリシュ・テュラ軍事顧問官の協力を得て、皇帝の信頼の証として下賜された禁色の小物を売り、バシュルクの傭兵を一部隊雇って両国の停戦合意を目指して作戦行動をとります。

潜入中で身分を偽称しているので、様々な本当と偽の設定を使い分けてバシュルク国とムラッカ国の仲介をこなすという難しい役割を果たします。
この彼女の作戦行動がハラハラドキドキするポイントですね。

もちろん彼女がはるかに期待を上回る外交的成果を上げて帰国するのは予定調和ですが、こうして見事に「出る杭」から「空高く飛ぶ鳥」に変身した彼女の周りは今までとは別の意味で騒がしくなり...次巻へ続きます。

一体彼女は今後、どんな活躍をするのか、そして皇帝・白陽との「恋人ではない好き合う関係」はどう発展していくのか楽しみです。



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茉莉花官吏伝

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書評:ブレイディみかこ著、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』(新潮文庫)

2022年03月13日 | 書評ーその他

ブレイディみかこ氏の著作を読むのはこれで4冊目になります。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でブライトンのカトリック系の小学校から地元の底辺中学に入ったばかりの息子は、続編の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』では中2になり、授業でのスタートアップ実習、ノンバイナリーの教員たち、音楽部でのポリコレ騒動、ずっと助け合ってきた隣人との別れ、そして母の国での祖父母との旅などの「事件」を通じてその豊かな感受性で傷ついたり、後ろめたさを感じたり、不条理に感じたり、「ライフってそんなものでしょう」などと何か悟ったりして成長して行きます。

このエッセイは『波』2019年5月号~2020年3月号に掲載されたものです。

本書の魅力は何か。それはただの中学生の成長物語ではないところ。
イギリスの下層労働者階級が多く住む地域で生きる日本語を話せない日系少年の日常が語られることから、それを通してイギリス社会が見えて来るところ。
母親目線ではあるものの、「母ちゃん」と息子の対話がきちんと描かれ、「母ちゃん」も息子に刺激されていろいろ考えたり、気づいたりして成長して行くところ。
「父ちゃん」はあまり変わらないけど、古き良き労働者の考え方を継承しているため、息子の現在との対比が興味深い。


書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 III クローズド・サークル』(角川文庫)

2022年03月07日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

売れないラノベ新人作家・杉浦李奈が事件に何らかの形で関わり、それについてノンフィクションを書くために調査して、真相を明らかにするというシリーズ『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』ですが、その第3弾はパターンが変わり、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』風の事件の真っただ中に杉浦李奈が放り込まれ、クローズド・サークルを生き残って真相究明する本格ミステリーです。

彗星のごとく現れた人気作家・櫻木沙友里を発掘し、独占し続ける中堅出版社の爽籟社の文芸編集者・榎嶋裕也が後続作家の公募を打ち、李奈と彼女の友人坂・那覇優佳を含む8人が最終選考に残ります。
彼女たちは瀬戸内海のリゾートアイランド汐先島に招待されます。オフシーズンのため、高級宿泊施設を含む島ごと三日間貸し切り、祝賀会と今後の説明かいがあるという話です。宿泊施設の名前は「クローズド・サークル」。
名前を聞いただけで「ひとりずつ殺されちゃうかも」と連想するような設定です。というのも「クローズド・サークル」はミステリー用語で何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品を指すからです。

実際、汐先島には住民がおらず、招待された小説家たちは貸切クルーザーで島に運ばれ、3日後に迎えの船が来るまで島を出られない状況です。
そして最初の晩にアレルギーのためにみんなとは違うカレースープを食べた榎嶋裕也が突然身体を痙攣させ、額に汗をにじませ、のけぞって激しく嘔吐した後、椅子ごとばったりと後方に倒れる。最初の死者。島に群生するトリカブトの根がスープに入れられていたようだった。

その場に姿を現していなかったのは、島で写真集のための写真撮影をする予定だった売れっ子作家の櫻木沙友里のみ。
彼女と榎嶋の関係はこじれていたらしく、「後続作家」たちが集められたことにへそを曲げて、李奈たちが島に到着する前から姿が見えなくなっていた。

スマホは圏外、固定電話や無線LANなどが使えない。壁の保安器のようなものがこわされ、配線が根こそぎ引きちぎられていたからだった。榎嶋の死を通報することもできないまま、死体をとりあえず物置に安置し、それぞれの自室に戻ると、会った時に交換し合ったサイン入り自著が部屋からなくなっていた。

途方に暮れる彼らは、それぞれの部屋にあったタブレット端末の中にあったメッセージに従い、翌朝7時を待って画面を観、指示された場所に向かいますが、そこに待ち受けていたものは?

その後、新たな死人は出ないものの消息不明になってしまうので、否応なしに緊張感が高まっていきます。
ホテルの外で野宿しているらしい櫻木沙友里から郵便受けに短編小説を書けという謎の課題が出されたりして、訳の分からない展開になります。
さて、真相は?

本作品は意外な転換が2段構えになっているので、最後の最後まで油断できないストーリー展開の秀逸なミステリーであると同時に、出版業界の裏側・内部事情をKADOKAWAや新潮社など実名出しで(ある程度のデフォルメはしてあるものの)暴露する暴露本的面白さもあり、売れない作家たちの苦悩を深掘りし、なぜ、何のために小説を書き続けるのかを問う作品でもあります。
自分の作風を維持するのか、ブームが起きるとどの出版社も編集者もそのブームに乗るような類似作品を求めるようになるのを受け入れて、言われるままに求められるようなものを書くのか、創作と生活のためにお金を稼ぐ必要があることの葛藤がそこに浮き彫りにされています。

ラノベ推理作家の李奈は今回もまた少し成長します。彼女が次に書く小説はどんな作品になるのか楽しみです。



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書評:松岡圭祐著、『千里眼の水晶体』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ミッドタウンタワーの迷宮』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼の教室』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 堕天使のメモリー』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 美由紀の正体 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 シンガポール・フライヤー 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 優しい悪魔 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 キネシクス・アイ 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 ノン=クオリアの終焉』(角川文庫)



万能鑑定士Qシリーズ

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの事件簿 0』


特等添乗員αの難事件シリーズ

書評:松岡圭祐著、『特等添乗員αの難事件 VI』(角川文庫)


グアムの探偵シリーズ

書評:松岡圭祐著、『グアムの探偵』1~3巻(角川文庫)


ecritureシリーズ

書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 II』(角川文庫)


その他

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『瑕疵借り』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『マジシャン 最終版』&『イリュージョン 最終版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『小説家になって億を稼ごう』(新潮新書)

書評:松岡圭祐著、『ミッキーマウスの憂鬱』(新潮文庫)

書評:松岡圭祐著、『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』(新潮文庫)

書評:松岡圭祐著、『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『出身成分』(角川文庫)


書評:Marc-Uwe Kling, 『QualityLand 3.0 Kikis Geheimnis クォリティランド 2.0 キキの秘密』 (Ullstein)

2022年03月07日 | 書評ー小説:作者カ行

Marc-Uwe Kling の『QualityLand クォリティランド』の続編である本書『QualityLand 2.0 Kikis Geheimnis  クォリティランド2.0 キキの秘密』は、基本的には第1巻で謎めいた存在であった Kiki Unbekannt の正体に迫るSF風刺コメディです。ナンセンス・ドタバタの色合いが濃い小説ですが、ところどころに辛口の風刺パンチのきいた小説です。

メインストーリーに並行して、前回は勝手に送り付けられたピンクのイルカ型バイブレーターの返品で困っていた Peter Arbeitsloser が法改正によってようやく彼の本来の職業である機械治療師として働けるようになり、様々な機械が抱える問題に耳を傾けて治療するシーンの描写がナンセンスで爆笑ものです。
しかし、彼の平和は長く続かず、キキの命を狙う Puppenspieler(人形遣い)に診療所を破壊されたり、バイブレーター返品騒ぎで敵対していた TheShop のオーナー Henryk Ingenieur になぜか気に入られて拉致られたり、何かとトラブルに巻き込まれます。

もう一つのサイドストーリーは、大統領に就任したアンドロイド「John of Us」を爆破した Martyn Vorstand が殺人罪ではなく「器物損壊罪」に罪を軽減されて出所した後に、何をどうしてもどんどんレベルダウンしていくラインです。Martyn 自身、決して賢い振る舞いをしないのは確かなのですが、そこまで大げさに転げ落ちていくのには、何者かの悪意が働いているのではないかと勘繰りたくなるものがあります。そこで「John of Us」の意識は実はインターネットにアップロードされていて、全機械を制御していると信じる一団がいることから、Martyn も徐々に「John of Us」の復讐なのではないかと疑うようになります。

さらに第三次世界大戦が勃発し、数時間で終息するという大事件が起こり、誰もその原因が分からないという事態に「John of Us」の大統領選を取りまとめていた政治戦略コンサルタントの Aisha Ärztin が頭を悩ませるというサイドストーリーも絡んできます。明かされた原因はシャレになりません。自主学習するAI制御の防衛システムは恐るべし、という感じです。

これらのメインのストーリーラインの合間にクォリティランドの文化が手に取るように分かるような広告やSNSの類への投稿とコメントなどが挟まれていて、だいぶ話が散らかっている印象は否めませんが、それぞれにかなり笑えます。

ナンセンスでドタバタしているので万人受けするとは思えませんが、そういうノリが好きな方にはお勧めです。未邦訳ですが、1巻が邦訳済みなのでいずれ 2.0 も邦訳されるのではないでしょうか。

ドイツ語原文で読むには、少なくともB2のドイツ語力がないと厳しいかと思います。
風刺の対象やパロディの元ネタなどを知らないと理解できないシャレやジョークが多く、若者言葉やスラングも多用されているため、ドイツ語力だけではなく、ドイツ事情にも通じていないと本当のおかしみが分からないかもしれません。
でも、現代ドイツ文化を斜め後ろから知ることができるので、全てのジョークをフルに味わえなくても十分に興味深い小説だと思ます。