ハロウィーンの語源は'All hallow evening'(諸聖人の日前夜)で、後ろの語が詰まってHalloweenとなりました。諸聖人の日である11月1日の前夜に行われるお祭りなわけですが、始まりはアイルランドのカトリック教徒のお祭りでした。とはいえ、本来はキリスト教徒は関係のないケルトのお祭りサムハイン祭がキリスト教改宗後にも形を変えて生き延びたのではないかと言われています。死者が帰って来ると言われる収穫期、幽霊に変装して仲間のふりをし、食べ物を供えたのです。かぼちゃを飾るのもアイルランドが起源です。
アイルランドからはたくさんの人がアメリカへ移住したので、このお祭りも一緒にアメリカに輸入され、当地でアイルランド移民以外にも受け入れられ、現在に至っています。
ドイツは本来ハロウィーンのお祭りとは無縁でした。10月31日はプロテスタントの「宗教改革記念日」で、プロテスタントの多い州では祭日。そして11月1日「諸聖人の日」はカトリック教徒が多い州で祭日。ベルリンだけはどちらも祭日ではありません。私の同僚はベルリンにもいますが(大企業ならでは)、毎年この二日を働き続けなければならないことに不平を漏らしています。
それはともかく、10月31日はドイツ・カトリック教徒にとっては何もない日だったのですが、1990年代にアメリカ風ハロウィーンはまずはフランス、それから南ドイツで取り入れられるようになりました。その後徐々にハロウィーン商戦のマーケティング効果もあって、ヨーロッパ全体に普及しつつあるようです。
私の住むノルト・ラインヴェストファーレン州でハロウィーンかぼちゃが目立つようになったのはこの5・6年くらいのことで、自治体によっては子供たちのための催しとして'Trick or Treat'の仮装行列を行うようになりました。ただのお祭り騒ぎなので、宗教的意味合いはなく、参加者も色んな宗教の信者あるいは無宗教だったりします。仮装行列自体はカーニバルのノリで、各家を回って'Trick or Treat'と言ってお菓子をもらうのは聖マルティンの日のノリみたいです。つまり、ドイツの子どもたちにとっては楽しく仮装して練り歩く機会が一つ増えただけなんですね。
ただし、地域によってはアメリカ風ハロウィーンのような催しが諸聖人の日といういわゆる「沈黙の祭日」にそぐわないとして禁止されています。「沈黙の祭日」は州によって多少の違いがありますが、有名なものではKarfreitag(カール・フライターク、復活祭前の金曜日)のダンス禁止があります。
「宗教改革記念日」は、かのマルチン・ルターが1517年10月31日にヴィッテンベルク城教会の正面扉にラテン語で書かれた『95箇条の論題』を貼り付け、免罪符販売などカトリック教会の腐敗を批判し、新宗派を創立するきっかけとなった事件を思い起こすための日です。
Wittenberg Thesentuer Schlosskirche von AlterVista
その日はプロテスタント系の教会でミサが行われ、マルチン・ルター作詞作曲の'Nun freut euch, lieben Christen g’mein'(「さあ、ともに喜べ、愛するキリスト教徒たちよ」という意味ですが、日本のプロテスタント系教会でどのように翻訳されているかは確認していません)などが歌われます。ハロウィーンと同日の祭日ではありますが、趣旨からいって、ハロウィーン的バカ騒ぎの対極にあると言っていいでしょう。
つまり、アメリカ風ハロウィーンは、ドイツ・カトリック教徒にとってもドイツ・プロテスタント教徒にとっても全く「そぐわないもの」なので、近年の若者の「ハロウィーン熱」に両教会とも渋い反応を示しており、ハロウィーンを伝統的な宗教的枠内で説明し、すたれそうな伝統行事のリヴァイヴァルを計ろうと必死なようです。とはいえ、沈黙の祭日も、ただミサで賛美歌を歌うのも若い人たちにはかび臭く感じられてしまうのではないでしょうか。
因みに各家を回ってお菓子をもらうドイツの伝統行事「聖マルティンの日」は11月11日で、聖マルティン行列の日の夕方か、自治体によっては別の日に子供たちがランタンを持って各家を訪問し、聖マルティン賛美歌を歌って、お菓子やその他のプレゼントをもらうというカトリックの行事です。ドイツ語の行事の名称はMartinssingen(マルティンを歌う)です。
プロテスタント教徒の多い北ドイツではマルティン・ルターの誕生日である11月10日にランタンを持って各家を訪問し、「ランタン」の歌を歌って、お菓子やその他のプレゼントをもらいます。紛らわしいですが、ドイツ語の名称はMartinisingenで、意味はMartinssingenと同じですが、マルティンと後部のジンゲン(歌う)を繋げる文法的な方法に違いがあります。北ドイツ方言ではSünne Märten、Mattenherrnなどの呼び方もあり、両者を混ぜて略したMatten Mär'nということもあるようです。MärtenもMattenもMartinがなまった形で、マルティニジンゲンで歌われる歌の歌詞に登場するので、それがそのまま行事の名称となったのでしょう。北ドイツのマルティニジンゲンはカトリックのマルティンスジンゲンとは違い、歌を聴いてもお菓子をあげなかった家には後でいたずらをすることになっていますので、ハロウィーンの'Trick or Treat'近いものがあります。
こうしてドイツの伝統行事を見てみると、ハロウィーンとの相性は悪いようですが、前者は教会主導、後者は学校や町内会や個人の主催なので、併存は可能のようです。2週間の間に2度も訪問を受ける各家ではちょっと迷惑な話かもしれませんが。
私は個人的な好みで言えば、やはり「歌を歌ってお菓子をもらう」伝統行事の方がいいですね
上にハロウィーン商戦のマーケティング効果と述べましたが、実際ハロウィーン関連のグッズの売れ行きは良好で、年間2億ユーロの市場です。うち2800万ユーロはハロウィーン衣装やメイク用品が占めています。またドイツスィーツ工業連合会は今年のハロウィーン特別製品で約1000万ユーロの売り上げを予想しています(ZDFホイテの本日付のニュースより)
どの国もこのままではやっていけない、と悲鳴を挙げているのですが、早急な難民流入減少に繋がる解決策は残念ながらありません。
バイエルン州首相ホルスト・ゼーホーファーはまさしくそうした不可能な「早急解決」を求めて、メルケル独首相に「最後通牒」を宣告しましたが、彼にメルケル首相をどうこうする力はないので、意味のないパフォーマンスに過ぎません。ただ、解決策の一つとして提案されているドイツ・オーストリア国境でのトランジットゾーンの設置は議論の余地があります。最新のポリートバロメーターというZDFの10月23日の世論調査でも71%がトランジットゾーンの設置に賛成でした。
トランジットゾーンでドイツに入国する前に簡易審査を行い、亡命申請資格がないと判断されればその場で入国拒否、つまり申請者を追い返してしまうことが可能になることが期待されているわけですが、現実問題として、一日当たり数千人規模の難民申請希望者を処理できるだけのキャパシティを持つトランジットゾーンを設置するのはほぼ不可能です。キャパシティの不十分なトランジットゾーンを設置すれば、簡易審査を待つ難民たちがあっという間に溢れかえり、狭い空間で、十分な宿泊設備のないところに何万人もの人が閉じ込められてしまうことになります。難民の流れのほぼ終着点に当たるドイツが先陣を切ってトランジットゾーンを設置することは人道的に許容し難い状況を生むことになるので、トランジットゾーンを設置するなら、まずトルコ・EU国境、つまりギリシャが最初でなければいけません。EU特別サミットで取り決められた難民ホットスポットの設置・拡張がまさしくその役割を負うことになるわけですが、それが実現されるまでは難民の流れを緩やかにすることすらできないのが現状です。それをさもできるかのように喧伝する政治家たちは大衆扇動的なポピュリズムに陥っているにすぎません。私は個人的にはメルケル首相を支持ししてませんが、「早急に難民数減少に繋がる解決策はない」という彼女の言葉は真実以外の何物でもないのです。
ドイツ世論も「ドイツはこれだけ多くの難民を消化できない」(赤線、51%)がついに「消化できる」(緑線、46%)を上回り、歓迎ムードはもう風前の灯火と言えるでしょう。
「これだけ多く」の規模が既に前例のないレベルをとっくに超えてしまっているので、できる派とできない派が逆転するのも当然の成り行きと言えます。
ドイツ内相ドメジエールは、アフガニスタン出身者が2番目に多いことを問題視し、今後難民認定拒否された人たちのアフガニスタン送還を強化すると宣言しました。また彼は、アフガニスタンの若者は祖国を出ることなく、祖国再建に貢献するように呼びかけました。ドイツは10年かけてアフガニスタンを安全な国にするために尽力してきたし、ODA援助も多くなされてきた、ということが理由として挙げられています。ドイツへの亡命が可能なのは通訳などでドイツをはじめとする外国軍に協力をして、タリバンに目を付けられているような人たちだけ、ということになります。ここでは、タリバンの復活を許してしまった連合国側の失政の責任は問われないらしいですね。
アフガニスタンだけでなく、シリアでもロシアの軍事介入が意味のない破壊しかもたらさないことが明らかになりつつあります。アサド政府軍が弱すぎて、ロシアの空爆で勝ち取った陣地を維持することができないとか。結局破壊が進んだだけです。
攻撃する側に犠牲者が出にくいという理由で「魅力的な」軍事介入手段である空爆ですが、誤爆も多く、本来攻撃対象でないはずの人たちまで巻き込まれるため、長引くほど現地住民の反感を強めることになります。病院を空爆したり、結婚式に集まっている人たちを空爆したりという例はアフガニスタンでもシリアでも枚挙に暇がありません。結局のところ軍需産業の儲けが増えるだけで何の解決にもならないことはこれまでの数々の紛争が示しています。この為、軍事介入は軍需産業の儲けのためだけに行われているとしか私には思えません。これに関するありがちな陰謀論を鵜呑みにするわけでは勿論ありませんが、軍事介入が内戦の解決に繋がった例がないというのは厳然たる事実です。従って、現在の難民危機の根本的解決にもなり得ないのは確かでしょう。
かと言って、代替案があるわけではないのが悲しいところです。当事者たちの誰もが平和的解決を望んでないところにきれいごとを持ち出しても無視されるのがおちですからね。
止まらない難民の流入。どんどん厳しくなる西バルカンルートを通る難民の状況。過去数週間、欧州連合はこの問題に関して一致団結して措置を講じることができずに混乱がつづいてきました。10月25日(日)に、欧州委員会委員長ジャン・クロード・ユンカーの招集した西バルカン首脳会談が開催されました。
そこで合意された事項は以下の通りです(欧州委員会プレスリリース2015年10月25日より)
1.難民の保護
可及的速やかな措置が必要なのは、西バルカンルートにおいて宿泊施設を確保し、難民たちの人間的な扱いを保証することです。
各国首脳は臨時宿泊施設、食料、衣料、飲料水及び衛生設備を手配することを約束しました
各国のキャパシティーで足りない場合は、欧州災害防護手続きが講じられることとなります。
収容キャパシティは10万人分まで拡張されます。
サミット参加国はギリシャが年末までに収容キャパシティを3万人分まで拡張する計画を歓迎し、またギリシャ及び国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対し、賃貸補助金提供や最低2万人の収容のためのホストファミリープログラムの実施の際の支援を約束しました。
UNHCRはキャパシティ拡張措置をサポートすることを約束しました。5万人分の追加キャパシティは西バルカンルート上の難民の流れのマネージメント改善とその他の措置をより計画しやすくするためのものです。
2. 難民の流れの共同マネージメント
現在の状況で秩序を取り戻す唯一の道は、コントロールを外れた難民の流れを緩慢化させることです。
各国首脳は、難民の流れに関する情報を相互交換し、他国が尻拭いをしなければならないような単独措置を控えることを確約しました。
その為、政府レベルでの情報交換のための各国コンタクト先を月曜までに確定・提出することになりました。
3. 国境マネージメント
各国首脳は国境マネージメントのための措置をよりよくコーディネートすることを確約しました。具体的には以下の2点です:
・ギリシャと旧ユーゴスラビア共和国マケドニア間の国境における協力体制強化などをはじめとする2国間国境協力措置を直ちにとること
・二国間相互援助の枠内で1週間以内に400人の警察官と必要な装備をスロベニアに提供すること
サミット参加者はアルバニア、オーストリア、ブルガリア、クロアチア、マケドニア、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、ルーマニア、セルビア、スロベニアの首脳と欧州議会議長、欧州理事会議長、欧州連合理事会の現議長国および次の議長国の代表、国連難民高等弁務官でした。
また欧州対外国境管理協力機関(Frontex)や欧州亡命支援事務所(EASO)も参加してしました。
4. 統計資料
Frontexの統計資料によると今年の4月からヨーロッパへ向かう難民数が例年平均を上回り、7月に10万人を超え、8月・9月と増え続け、10月は21日までにすでに22万人を超えています。
西バルカンルートではシリア出身者が43%、アフガニスタン出身者が26%、コソヴォ出身者が12%で、東地中海ルートではシリア出身者が65%、アフガニスタン出身者が21%を占めています。
下図の赤丸に囲まれた数字はそれぞれの国でカウントされた難民数です。セルビアの場合は不法入国・通過者はカウントされていません。ドイツの70万人という数字は難民申請を希望した人の数です。
まさに現代の民族大移動の感があります。
難民にとっては寒さも冷たい川も国境警備する警察や軍隊も障壁にならないようです。バルカンでは現在日中でも10度を超えることはなく、夜は零度前後まで冷え込みます。そんな中、夜中にクロアチアからスロヴェニア国境に到着した難民たちが冷たい川を歩いて渡ったことには驚きを隠せません。歩いて渡れると言っても身長によって胸や肩・首まで水の中です。子供は大人に肩車などで抱えられて渡ったようですが、零度前後の気温でずぶぬれになっては風邪をひいてしまいます。けれど、それを押しても先に進もうとする気力の方が大きいようです。クロアチア国境に近いスロヴェニアの難民キャンプ、Breziceでは火事でテントの3分の2が焼失したそうです。なかなか進まない登録とオーストリアへの搬送に不満を抱いた難民による放火、と地元のメディアでは報道されたそうですが、スロヴェニア警察からの確認は取れていないようです。スロヴェニア当局は水曜午前中1万千人の難民を確認しました。政府は一日に処理できる難民数は2500人だとしていました。キャパ越え4.4倍です。
日曜日にまたEU難民特別サミットが開催されるようですが、対策が現実に全然追い付かない状態です。
以下に各国の国境警備の状況を紹介します。ZDFホイテの本日付の記事を参照しました。
ギリシャ
ギリシャは2012年末、陸続きのトルコ国境約10㎞に約3メートルの高さの二重有刺鉄線フェンスを完成させました。残りの200㎞弱の国境線はエヴロス川(トルコ語メリチ)に沿っています。国境警備隊がこの部分を監視しています。夏の数か月は1600人弱がこのルートでギリシャに入国しました。その大部分は西・北ヨーロッパに向かいました。エヴロス国境は一部地雷原があるため非常に危険です。過去数年間で十数名の難民が重傷を負いまた死亡しました。今年に入ってからはまだ一人も犠牲になっていません。
ブルガリア
10月半ば、ブルガリア・トルコ国境でアフガニスタン人が一人警察の銃弾で死亡しました。警告のための発砲がそれたためとのことです。この国境は警察によって厳しく監視されています。トルコからの難民グループの入国は繰り返し拒否されています。
9月半ばにブルガリア政府は国境に、最初は50人、後に千人までの兵士を配備すると宣言しました。
マケドニア
マケドニアはEU非加盟国です。ギリシャ及びセルビアとの国境の警備は実質上機能停止しています。警察官は国境に配備されていますが、難民たちはコントロールされることなく通過できるようになっています。
止めようとするだけ無駄、と悟ったのかも知れません。
事実、以前のベルリンの壁のように国境を越えようとするものは容赦なく射殺、というのでもなければ、どれだけフェンスを築こうと、軍隊が通せんぼしようと、なんとしても先を進もうとする難民たちを止めることなどできません。無駄な抵抗を止めた方が低予算で済みます。
ウクライナ
ウクライナは9月15日に175㎞に及ぶセルビアとの国境をフェンスで閉鎖し、不法な国境越えは【犯罪】としました。それ以前は単なる【秩序違反】でした。
現行犯逮捕された難民は裁判にかけられ、通常ウクライナ入国の前に通過した国へ戻されます。
ハンガリー
ハンガリーも10月16日に300㎞以上に及ぶクロアチアとの国境を閉鎖しました。うち3分の2はドラウ川及びムール川の流れが国境をなしており、そういう部分ではフェンスがないところもあります。
法改正により、軍隊が危機的状況の場合国境警備隊を補助することができるようになりました。
セルビア
セルビアはEU非加盟国です。
マケドニアとの国境は警察とEUから提供された赤外線機器で監視されています。
難民の流入に対しては何の対策も採られていません。マケドニア同様早々にギブアップです。
クロアチア
クロアチア警察は今週初めて難民の入国を阻止するための措置を取りました。国境通過地点バプスカで警察が難民の流れを止めました。
スロヴェニア
スロヴェニアは難民が到達できるすべての国境通過地点に特別装備の警察官を配備し、今度は軍隊も国境警備に投入します。
数千人の難民を小さなグループに分けて通過させています。
クロアチアとスロヴェニアは両国の国境をもっと厳しくコントロールすると表明しました。オーストリアとドイツも同様のコントロールをすることが条件です。
オーストリア
オーストリアは9月半ばから警察をサポートするために軍隊を補助として投入しました。数百人の兵士が警察補助のためにハンガリー国境に配備されました。現在はスロヴェニア国境にも配備されています。最大2200人までの兵士の投入が可能です。国境警備の他に難民の宿泊や食料提供の手伝いもしています。
オーストリアでの軍隊の国境投入は既に1990年から2011年にもありました。当時兵士たちはハンガリー及びスロヴァキア国境をパトロールしていました。
シェンゲン圏境が2007年に開かれてからは軍隊の任務は国境通過の監視に限られるようになりました。
ポーランド
現在約1万人の国境警備隊がベラルーシ、ウクライナ国境及びロシアの飛び領土カリニングラードとの国境を巡回しています。国境警備強化は既に2014年からありました。ウクライナからの難民が来ることが予想されていたからです。
これまでのところ、不法入国しか報告されてません。ウクライナ人は通常国境で難民申請をせず、ツーリストビザでひとまず祖国の状況がどうなるか様子見をしているようです。ポーランド東部国境から入国するのは大抵チェコ人かグルジア人です。
バルト三国
欧州対外国境をなすバルト三国エストニア、ラトビア、リトアニアはロシアとベラルーシに接しており、不法入国による逮捕者が増えつつあります。他のEU諸国に比べれば、難民の数は非常に少ないです。
国境侵入を阻止するためエストニアとラトビアは今後東部のロシア国境を強化する構えです。より良い国境警備のために最新の監視設備が設置され、特定の国境区域ではフェンスが設置される予定です。
以上、各国の国境状況でした。
この難民危機はユーロ危機やギリシャ財政危機よりもずっと深くヨーロッパに亀裂を生じさせています。ヨーロッパの連帯がまさに試されているのです。このまま止まらない難民の流入をどうするかはっきりしない状態が続けば、本来通行自由のはずのシェンゲン圏内で次々フェンスが築かれ、取り払ったはずの各国国境が一部の国で完全復活し、シェンゲン自体意味のないものにしてしまいかねません。
「難民は最初に入ったEU加盟国で難民申請をしなければならない」というダブリン協定の条項は事実上機能停止しています。難民登録チェックポイントをギリシャやイタリアに設置することになっていますが、十分な人材と場所が早急に提供されないことには難民の流れを変えることができません。登録が遅々として進まなければ、難民たちは自力で先へ進もうと躍起になり、そうなると軍隊でも彼らを止める手立てはありません。まさか射殺するわけにはいきませんからね。
あとは、先へ進んでも、絶対に100%最初のチェックポイントに送り返されるという厳しい方針が難民たちの間に十分に告知され、待つしかないということを理解してもらうようにするしかありません。ただ、現実問題として、一日数千人単位でEUに入ってくる人の波を捌けるスペースと人員を確保するのは不可能ではないかと思われます。
ロシアのシリア介入は問題の原因を取り除くどころか、新たな難民を生んでいます。予想されていたことですが、本当に余計なことをしてくれています。
難民たちの行進は言葉通りの意味で泥沼化しています。クロアチア・スロヴェニア間の「緑の国境」は舗装されていない農耕用道路のため、雨のせいで「泥沼」になっているからです。正規の国境チェックポイントでは入国者数を制限しようとするスロヴェニア警察のためになかなか入国できず、しびれを切らした難民たちがチェックポイントを避けて緑の国境を通過するのです。
スロヴェニア当局によれば、10月19日月曜だけで8000人が入国、本日20日(火)は昼までですでに6000人が入国したため、一時的にクロアチアとの国境を閉鎖しました。6000人はそのままオーストリアに向かったとのことです。
スロヴェニアはコントロール可能な範囲として1日に2500人までの入国を許可する予定でしたが、現実はそうはいかなかったので、本日国会で警察を補助するために軍隊の大量投入が審議されました。水曜日から軍隊の投入が開始されるとのことです。「この法改正は≪緊急事態≫を意味するものではないが、人口200万人の小国が、もっと大きな国がなしえなかったことをなし得るなど幻想にすぎない」とスロヴェニア首相Miro Cerarは発言しました。
国家間の非難の応酬も「泥沼」と言えるかもしれません。スロヴェニアはオーストリアが難民をスムーズに入国させないと責め、オーストリアは1日当たりの入国最大数など設けていないと返しました。スロヴェニアはまた、クロアチアが取り決めに反して難民たちをどんどんスロヴェニア国境に運び、そこに放置すると非難し、クロアチア側はスロヴェニアが1日の最大受け入れ数を24時間経たないうちに2回も変更して、8000人から2500人に減らしたと非難し返しました。クロアチアは他方で、セルビアのクロアチア国境に運んでくる難民数が多すぎるとセルビアを非難しています。
スロヴェニアはクロアチアとの国境を、クロアチアはセルビアとの国境をハンガリーに倣って有刺鉄線で閉鎖することをすでに検討しています。EUにも国境警備のための警察官を派遣するように要請しています。
セルビア当局によれば、10月19日(月)セルビアから約5000人クロアチアへ入国したとのことです。
マケドニアには週末2万人以上、10月18日(日)だけで1万3千人の難民が押し寄せ、新記録となりました。ギリシャ国境に接するマケドニアのゲヴゲリヤ駅からはセルビア駅行きの電車が運航していますが、定員700人なため、電車に乗り切れなかった難民たちはバスやタクシーなどを利用して先を急ぎます。ギリシャ・マケドニア国境のギリシャ側ではアテネからさらに7000人来ると報告が入っていたそうです。
国連難民高等弁務官事務所によれば、現在1万人以上がバルカンルート上で動けない状況にあるようです。それだけでなく、10月19日(月)にトルコからギリシャの島々に到着した8000人以上の難民についても警鐘を鳴らしています。10月16日(金)から合わせて約2万9千人になるそうです。10月20日(火)も約8000人フェリーでレスボス島などに到着する予定で、難民の流入が切れることがありません。
ギリシャには今年だけですでに50万人以上の難民が到着し、現在約27.500人がトランジット施設に収容されているとのこと。
トルコは特にシリア難民をヨーロッパへ妨げることなく向かわせていると国境警備隊及び沿岸警備隊は推測しています。どんどん難民を送り込むことで、ヨーロッパにプレッシャーをかけ、支援金やビザ義務に関する交渉をトルコに有利に運ぼうとしている、と見られています。
以上のような状況なので、ドイツが国境を閉鎖することは不可能で、バルカンルート出来る難民たちを毎日数千人規模で入国させざるを得ないのです。小さく経済力のないバルカン諸国にこれ以上難民の渋滞を酷くするわけにはいかないので。だからこそ重要になってくるのが難民審査の簡素化・スピードアップと不認可難民の早期送還です。少なくとも送還率5%のままでは大国ドイツと言えど早晩パンクするでしょう。国内の状況は既に緊迫しています。詳しくは拙ブログ記事「ドイツの難民排斥運動」、「難民危機~ドイツ亡命法厳格化本日連邦議会で可決」、「難民危機~ドイツ亡命法厳格化本日連邦参議院で可決」などをご覧になってください。
難民を大量に受け入れれば、勿論それを不安に思うばかりではなく、排斥に向かう人たちも残念ながら少なからずいます。
ドイツにおいては、難民排斥運動はドレスデン発のペギーダ運動が現在最も活発と言えます。ドレスデンを含むザクセン州は伝統的に排他的な気風が強く、ネオナチの巣窟とも言われていますが、ペギーダ運動は保守的な一般市民をかなり取り込み、昨年から定期的なデモで話題になっています。ペギーダPEGIDAはPatriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes(ヨーロッパのイスラム化に反対する愛国的なヨーロッパ人)の略で、昔のネオナチのように外国人一般に対するものではなく、ヘイトの対象は基本的にイスラムに絞っているようですが、こと難民に関しては全ての難民をその宗教に関わらずヘイトの対象としているようです。事の始まりは、ルッツ・バッハマンという人が開いたFacebookの閉鎖的グループで、創設は2014年10月11日。今年の一月に首脳部の分裂騒ぎで運動は一時下火となり、それきり消滅したかのように見えましたが、9月にメルケル独首相が大量の難民受け入れの決断を受け、毎日数千人のペースでどんどん入国する難民たちに刺激されたように、ペギーダの定期デモも9月半ばに復活し、過激さを増しています。
先週はメルケル独首相とガブリエル経済・エネルギー相を対象にした絞首台、今日はメルケル独首相のナチスのような制服姿のポスターなど反メルケル色を濃厚に打ち出しています。
2015年10月12日、ドレスデン、テアータープラッツ前。メルケル独首相とガブリエル経済・エネルギー相を対象にした絞首台© Hannibal Hanschke/Reuters
2015年10月19日、ドレスデン、テアータープラッツ前。ナチス風の制服姿のメルケル独首相ポスター@dpa
因みにこの絞首台を掲げていた人に対して検察は「特定個人に対する殺人教唆」として罪に問えるかどうか審査中とのことです。恐らく告訴には至らないでしょう。ナチ風の制服姿のメルケルポスターもきわどいところですが、鉤十字の代わりにユーロマークが入っているので、これも罪に問われることはないでしょう。例え攻撃的な内容のポスターやオブジェを持っていたとしても、平和的にデモをするのは市民の権利ですので、私はとやかく言いません。ペギーダのデモがあるときは必ずその対抗デモが行われ、通常対抗デモの参加者数の方がペギーダデモ参加者数を相当上回ります。警察としては、両デモグループの衝突を避けるのに尽力しなければならないので、単独デモよりもずっと大変です。
近頃はペギーダデモ参加者たちの一部が確実に過激化しており、「平和的な」行進ではなく、破壊活動やジャーナリストたちへの攻撃もあり、既に集会の自由の範疇を超えています。
ジャーナリスト攻撃はペギーダのもう一つの側面であるメディア批判「嘘ジャーナリズム(Lügenpresse)」に基づくものです。ジャーナリストたちに対する敵愾心が充満した空気の中を取材するのはかなり危険になりつつあるようです。
ペギーダは各地に支部がありますが、ライプチヒ支部だけは、ライプチヒのLをPの代わりに入れて、レギーダ(LEGIDA)と言います。
反難民を動機とした犯罪統計
さて、反難民のデモや集会は平和的に行われている限り、そしてヘイト発言の度が過ぎない限りにおいて容認できるものですが、中には実力行使に出る過激派もおり、今年の8月までに難民収容所・収容予定地などの放火や傷害事件が500件以上を記録しました。
下の地図は赤のピンが放火事件、青のピンが傷害事件を示しています。
(注1)
難民に対する収容所に対する攻撃や傷害事件はザクセン州が最多となっています。
各州の統計は以下の通りです。(注1)
シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州:放火2件、収容所攻撃5件
メクレンブルク・フォアポンメルン州:収容所攻撃9件、傷害7件
ニーダーザクセン州:収容所攻撃12件、障害1件
ブレーメン州:0件
ブランデンブルク州:放火3件、収容所攻撃19件、傷害7件
ベルリン州:放火2件、収容所攻撃17件、傷害5件
ザクセン・アンハルト州:放火3件、収容所攻撃12件、傷害5件
ノルトライン・ヴェストファーレン州:放火4件、収容所攻撃30件、傷害2件
ヘッセン州:放火1件、収容所攻撃14件
チューリンゲン州:収容所攻撃13件、傷害5件
ザクセン州:放火4件、収容所攻撃61件、傷害32件
ラインラント・プファルツ州:放火2件、収容所攻撃8件
ザールラント州:0件
バーデン・ヴュルッテンベルク州:放火3件、収容所攻撃13件、傷害1件
バイエルン州:放火7件、収容所攻撃24件、傷害4件
ブレーメン州とザールラント州の2州だけが今までのところ反難民を動機とした犯罪が一件も起っていません。面積が小さいばかりでなく人口も少ないので、難民受け入れ割り当ても少ないということが影響しているのかも知れません。人口最大のノルトライン・ヴェストファーレン州は難民受け入れ割り当ても最大になりますが、犯罪件数は人口も難民の割り当ても少ないザクセン州より少ないので、難民受け入れ量と犯罪件数は全く比例していないことになり、やはりザクセン州のメンタリティーの問題なのではないかと思われます。
ドイツでは9月だけで16万4千人の難民申請希望者が入国しました。登録までに都市によってはかなりの待ち時間(ベルリンでは3-4日並んで登録の順番を待つのが日常化しています)があるのと、ドイツを素通りしてスウェーデンなどの他国を目指す人も少なくないこともあるので、実際の入国者はこれよりもずっと多いです。10月に入っても毎日数千人単位で難民申請希望者がドイツに入国してきています。
公式な統計はまだありませんが、難民臨時収容施設における難民同士の傷害やレイプ事件なども多発しています。殆どのところで定員数を大幅にオーバーして難民たちが収容されているのでプライバシーもなく、空気はかなり緊迫しているようです。ただでさえ収容場所が不足しているのに、その予定地などを放火や破壊行動などで台無しにし、難民たちの収容状況の悪化に輪をかける行動は本当に許しがたいです。いまだに何千人もの難民たちが暖房の効かない、または効きづらいテントで湿気と寒さの中寝泊りすることを余儀なくされています。多くの子どもたちがインフルエンザや肺炎など病気になっています。難民登録前だと医者にもかかれないのでかなり悲惨な状況です。放火とかがなければ、より多くの人が暖房の効く屋根の下で寝泊まりすることができただろうに、と思うと心が痛みます。
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注1:ツァイト・オンラインの2015年8月26日の記事より。元記事はこちら。
10月11日付で「日本に尽くす気はないけれど、これが私の帰化して理由です」が公表され、
10月17日付で「そうだ、在日しよう!」イラストが「犯罪犯したわけでもないのに実名報道された私に謝れ(爆)」というコメントとともに公表され、続いて今日は「(どうせ白人には判別できない。まさか偽者だとは思うまい。だから海外でも…)そうだ日本人しよう!」。
私はこの「続編」についてとやかく言うのは止め、無視するのが一番という判断を下していました。なぜなら、作者はいかなる批判にも全く反省を見せず、デマ情報を真実の如く垂れ流しにしようとするため、たとえ批判というネガティブな取り上げ方であれ、話題にするだけ本人を喜ばせてしまうように思えたからです。(その厚い面の皮をちょっと分けて欲しいくらいです)
しかしながら、SNS利用ルールを守っていないという意味で、差別イラストを垂れ流しにする「はすみとしこの世界」というFBアカウントを削除させる、というのは意味のあることのように思えますので、Change.orgで2日前に始まった削除運動に賛同することにしました。
このブログを呼んでいただいている皆様も、削除運動に賛同していただければ幸いです。
FBアカウント「はすみとしこの世界」削除運動に賛同する。
内容については昨日の記事に書きましたので、ここでは割愛しますが、各州の声をいくつか紹介します。
ドイツの連邦参議院は州政府の代表者たちで構成されます。つまり連邦参議院は各州の利害を調整する場で、日本の参議院とは全く性質を異にします。
ブランデンブルク州では社会民主党(SPD)と左翼党(Linke)の連立政権ですが、州政府内ではぎりぎりまでバルカン諸国を「安全な国」リストに加えるかどうかで議論があり、左翼党はこれに反対していました。また国の州・市町村に対する難民対策の助成金が不十分である、と批判しました。州厚生相ディアナ・ゴルツェ(左翼党)は、「国が補正予算で10億ユーロ追加拠出すると言い、その小さな一部をブランデンブルク州が受け取るというなら、左翼党としては否と言わざるを得ない。これによって発せられるシグナルは間違っている。」と発言しました。(注1)州首相ディートマー・ヴォイトケ (SPD)は改正法案は必要で、賛成派。州政府内での合意が成立しなかったので、参議院では棄権しました。
チューリンゲン州は社会民主党(SPD)、緑の党、左翼党(Linke)の3党連立政権で、やはり政府内での合意に至らず、連邦参議院で棄権しました。チューリンゲン州首相ボードー・ラメロフは、「州は2016年度4億6900万ユーロの予算を難民の世話とインテグレーションプログラムに宛てているのに、国から補助金としてもらえるのはその22%以下だ。州は4億のコストを自己負担しなければならない。この為本来の州政府の行政が立ちいかない。改正法案での国の各州に対する支援補償は不十分」と南西放送(SWR)で発言しました。(注2)
また移住相ディーター・ラウインガー(緑)は臨時収容施設の滞在期間が最長6か月まで延長可能になることに懸念を示しました。「子供のいる家族に対しては、子供の就学義務が滞在3か月目から生じるので、滞在期間を短縮するべきだ。子供は一つの場所で学校に行くべきだ」と発言しました。(注2)
ブレーメン州は社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権で、改正法案に関して意見が割れたため、両党の連立契約に則り、連邦参議院で棄権しました。ブレーメン州緑の党は難民審査の簡易化を部分的に容認できないと主張しました。(注3)
ブレーメン州では今年1月から8月までに3200人が難民申請をしました。うち約1300人が安全とされるバルカン諸国出身者で、通常申請は不認可となります。これまでSPDと緑の党は自主帰国の方針を取ってきましたが、1300件の認可の可能性のない申請に対してたったの72件の自主帰国、30件の送還という実績です。その為SPDも野党のキリスト教民主同盟(CDU)も送還措置強化を含む亡命法改正法案に賛意を示しました。(注4)
ニーダーザクセン州は社会民主党(SPD)と緑の党の連立政権で、SPDは法案に賛成、緑の党は断固反対で州政府内で意見がまとまらず、やはり参議院で棄権しました。
社会民主党(SPD)と緑の党が政権を握っている州は特に、内閣・州首相会議で合意したこと全てを改正法案に反映してないと内相トーマス・ドメジエール(CDU)を批判しました。しかし、緑の党が与党に参加している州のいくつかは改正法案に最終的には賛成しました。「民主的な政党は協力し合うものだ。これは国内に向けての重要なシグナルで、デマゴーグや右翼ポピュリストたちに対抗するもので、同時にヨーロッパに向けてのものでもある」とバーデン・ヴュルッテンベルク州首相ヴィンフリート・クレシュマン(緑の党)ははつげんしました。(注5)
ラインラント・プファルツ州首相マル・ドライアーは「私たちはずっと難民を収容することに重点を置いてきましたし、これは今後もそうですが、私たちが既に難民統合の真っ最中であることも考慮しなければいけません」と発言しました。(注5)
法案に賛成した州も、国の補助や助成金が十分でないと考えているところが多く、今回の改正法案を「第一歩」としか見做してないようで、さらなる措置を講じる必要があることを訴えています。一先ず、何もないよりはまし、ということでしょうか。
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注1:ベルリン・ブランデンブルク放送の2015年10月16日付の記事より。原文はこちら。
注2:チューリンゲン・アルゲマイネの2015年10月16日付の記事より。原文はこちら。
注3:ラジオ・ブレーメンの2015年10月16日付の記事より。原文はこちら。
注4:ラジオ・ブレーメンの2015年10月14日付の記事より。原文はこちら。
注5:ZDFホイテの2015年10月16日付の記事より。原文はこちら。
ベルリンで難民登録を待つ行列 © Kay Nietfeld/AP/dpa
亡命法改正法案の内容を以下にご紹介します。
1.安全な出身国
コソヴォ、アルバニア、モンテネグロは新たに安全な国リストに加えられます。安全と認定された国から来た人の難民申請は、その反対が証明されるまで「明らかに理由がない」とみなされます。今回の改正で西バルカンの全ての国が「安全な国」となります。
「安全な国」出身者がドイツで難民または亡命申請をする場合は、その審査手続きが終了するまで各州の臨時収容施設に留まることが義務付けられます。臨時収容施設は兵舎、体育館、旧工場や旧ホームセンターなどで、最悪の場合テントです。そういうところで審査手続き終了までの数か月過ごさなければならないわけです。また今までは入国から最初の3か月が過ぎた後は就労が許されていましたが、法改正後は審査期間中就労不可となります。
難民の代わりに労働移民
バルカン諸国(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソヴォ、マケドニア、モンテネグロ、セルビア)出身者は、難民申請ができなくなる代わりに、仕事のオファーがある場合は合法的にドイツに入国できるようになります。今まではドイツで不足している専門職や高級職の人にしか開かれていなかった道ですが、今後は低学歴でも可能となります。
ただし、求人に対して同じ経歴を持つドイツ人が応募者の中にいる場合は、ドイツ人が優先されます。バルカン諸国出身者が同年に既にドイツで難民申請をしていた場合は、一度国外退去して、祖国からドイツの求人に応募する必要があります。
2.現金支給の代わりに現物支給
これまでは州と市町村が難民申請者に宿泊先、衣服及び食料品などを提供し、更に現金月143ユーロ(約1万9400円)支給していましたが、この現金支給分が今後は商品券などの現物支給に切り替えられます。この改正により、支給された現金(いわゆる「お小遣い」)を難民審査手続きが終わるまで貯めて、審査終了後この貯金を祖国へ持って帰るなどの悪用を防ぐことが目的です。
現金支給を維持するか現物支給に切り替えるかは今後州の自由裁量で決定できることになります。
3.連邦からの助成金
市町村は法改正後受け入れた難民一人当たり月670ユーロの助成金を国から受け取ることになります。この助成金は難民申請者の宿泊先調達や食料支給及び市町村職員、保育士、教師の新規雇用に充てられます。バイエルン州ではすでにこの助成金で官庁職員及び警察官3772人の増員を決定しました。
連邦移住難民庁の見積もりでは年間80万人の難民申請者がドイツに来ると想定して、約30億ユーロの難民助成金が必要となると見られています。
ジグマー・ガブリエル経済・エネルギー相は既に年間100万人以上と予想しています。助成金は難民の数によって変わるので、国の負担総額が見積もりより多くなる可能性もあります。
また各州は低価格住宅の建設のために、国から5億ユーロの助成金を受け取ります。
更に3億5000万ユーロの助成金が両親不帯同でドイツに入国した未成年者の手当と収容のために各州に支給されます。
4.スピーディーなインテグレーション
認可の可能性が高い難民申請者は早急にインテグレーションプログラムに参加できるようになります。また派遣労働者として働くことも許可されます。
ただし、新しいインテグレーションプログラムや語学コースがまず組織されなければいけません。そのための教師が不足しています。
派遣労働が可能になることで労働市場へのインテグレートが早まる可能性はありますが、低賃金セクターから抜け出せなくなるリスクもあります。
5.ヘルスカード
社会民主党(SPD)と緑の党が連立政権を持つブレーメン、ハンブルク及びノルトライン・ヴェストファーレン州では既に難民申請者のためのヘルスカードがありますが、それ以外の州では難民申請者は医者にかかる前に役所で証明書をもらわなければならず、それが認められるのは緊急事態の時だけです。ヘルスカードを全州で導入することで、それが改善され、一般の健康保険の被保険者のようにカードをもって医者に掛かり、料金は医者と保険会社の間で生産されるようになります。ただし保険料は州あるいは市町村が負担することになります。
全州でのカード導入の義務付けは保守党キリスト教民主同盟(CDU)及びキリスト教社会同盟(CSU)が反対したため、カード導入は各州の自由裁量に任されることになりました。反対の背景にはもちろん医療コストの急な上昇のリスクがあります。
6.臨時収容施設の滞在期間延長
臨時収容施設の滞在期間はこれまで最長3か月に制限されていましたが、最長6か月に延長されることになりました。この決定の背景には、難民申請者を市町村に配分する前に審査手続きを完了し、不認可の場合は臨時収容施設から直接祖国送還できるようにするという目論見があります。しかし臨時収容施設はプライバシーがない上に定員を大幅に超過して難民たちが収容されており、頻繁に暴力沙汰やレイプなどの犯罪が起こっているため、そういうところでの滞在期間延長は人道的とはいいがたいです。
難民審査手続きの簡素化及び最長3か月を目標にすることが同時に決議されているので、この3か月目標が本当に達成されれば、これまで通り3か月で臨時収容施設から出られて、普通のアパートなどに移れるようになるはずですが、人員増員するにもそれなりに時間がかかりますし、溜りに溜っている難民申請25万件の山を処理するのにも増員後数か月はかかるのではないでしょうか。その上次々と新たな難民が到着しているので、当分3か月で審査終了というのは夢物語にすぎないでしょう。速くなるのはバルカン諸国出身者の審査だけに違いありません。
臨時収容施設に関しては、冬に対応した収容場所15万人分(現在の4万5千人分の代わりに)拡張するために国が補助することを確約しました。その為に国はあらゆる国有地所を必要に応じで即座に無償で提供し、収容準備のための費用も負担するとのことです。
7.国外退去・送還
難民申請が不認可となった人のうち国外退去が明らかに可能な人に対しては、住居・食料などの提供を最低限に抑制し、速やかな退去を促します。
この場合、「社会給付は本人の需要に応じて人間らしい必要最低限の生活が保障されるべきであり、移民政策的な道具として使われてはならない」という2012年の連邦憲法裁判所の判決に反する可能性があるため、かなり批判されています。
国外退去が遅れる理由として、役所や警察の人員不足や飛行機などの容量不足、あるいは本人が有効なパスポートを持っていないまたは病気であるなどが挙げられます。このような場合は難民申請が不認可となった後も滞在が容認されており、それが不認可難民送還率の低さにもつながっています。
送還率を上げるため、難民法改正法案によって予告なしの送還も可能となりました。送還予告を受けた不認可難民たちが直前で行方不明になってしまうのを阻止するためですが、送還自体が大きな心理的負担となるのに、それを予告なしで、例えば真夜中に行われるとしたらより残酷な措置となる、という批判もあります。やはりそこは個々の事情を十分に考慮するべきでしょう。
以上の点の他に、難民収容施設の建設を速めるために複雑な建設法規を一部緩められることが決まりました。
改正法案には難民たちにかなり厳しい状態を強いるものが含まれています。「歓迎する文化(Willkommenskkultur)」といって暖かく難民たちを迎えたその精神はどこかへ消えてしまったようです。
難民申請をする権利のない人たちを早急に国外追放したい、またこれ以上そういう人たちが来ないようにしたい、という意図は理解できますが、だからといって、一律臨時収容施設の滞在期間を延長してしまうのは考えものですし、ただでさえ少ない難民支援(お小遣いなど)を不認可になったからと言って個々の事情を十分に考慮せずに給付を抑制するのも問題です。こういう場面でははっきりと給付短縮対象とその前提条件を具体的に決めて各担当部署に指示を配布しておかないと、杓子定規になりがちなお役所仕事のせいでとんでもない悲劇を生み出すことになってしまいます。願わくば役人の一人一人に人道主義が行き渡るように対策を講じてもらいたいものです。
さて、本日は連邦議会での亡命法改正法案審議と同時に欧州難民サミットも開かれました。そちらの方はヨーロッパ対外国境の守護を強化することとその際に欧州対外国境管理協力機関Frontexが中心的役割を果たすこと以外の合意は得られなかったと言っていいので、詳しく言及するに値しないと考え、ここでは割愛させていただきます。
また新たな進展、例えばトルコとの交渉など、があればブログで報告したいと思います。
廃炉と核廃棄物処理コスト
9月26日のブログ記事で言及した「永久責任法」、正式名称「原子力エネルギー部門における廃炉及び廃棄物処理コスト事後責任に関する法案(Gesetzentwurf zur Nachhaftung für Rückbau- und Entsorgungskosten im Kernenergiebereich)」が本日10月14日に閣議決定されました。概ねジグマー・ガブリエル経済・エネルギー相の計画通り議決されたようです。
この法律は、コンツェルンが組織改編、例えば原子力部門をアウトソースするなどで今後発生する数約億ユーロの脱原発コストから逃れることを不可能にします。また、子会社設立などで引当金が目減りするようなことも阻止します。
これにより≪エー・オン≫、≪RWE≫、≪EnBW≫、≪ファッテンファル≫の4大電力コンツェルンは所属する原発の停止および解体そして核廃棄物の最終処理が終了するまで経済的な責任を果たすことになります。原発事業の売却あるいは倒産の場合も、コンツェルン本体がその全財産をもって責任を負うことになります。また特別規則により、国及び自治体の財政、つまり納税者にとってのリスクを可能な限り小さくする予定です。
政府は同時に「脱原発のための資金調達審査委員会(Kommission zur Überprüfung der Finanzierung des Kernenergieausstiegs (KFK))」の設置を決定しました。委員会は最低でも475億ユーロ(約6兆4777億円)と見積もられる脱原発プロセスを集約的に管理サポートすることになります。委員会は元環境相ユルゲン・トリッティーン、元ブランデンブルク州首相マティアス・プラツェック、元ハンブルク市長オレ・フォン・ボイストらを始めとする19名で構成されるそうです。
連邦経済・エネルギー省の10月14日付のプレスリリースによれば、10月10日に公表された原子力エネルギー部門における引当金審査報告書(いわゆる「ストレステスト」)が脱原発のための資金調達審査委員会の最初の検討資料となるそうです。委員会は2016年1月末までに資金調達方法に関する提案をまとめることを目標としています。
法案原文はこちらからダウンロードできます (PDF: 335 KB) 。
原子力エネルギー部門における引当金審査報告書の欺瞞
10月10日に公表された原子力エネルギー部門における引当金審査報告書は補遺も含めて140ページの文書で、ありていに言えば、4大電力コンツェルン≪エー・オン≫、≪RWE≫、≪EnBW≫、≪ファッテンファル≫が原発廃炉及び核廃棄物最終処理のために積んでいる総額358億ユーロの引当金が十分であるとお墨付きを与えるものです。
もちろん、そのような結論はかなり楽観的なシナリオを前提にしていなければ出ません。例えば資産運用のベース税率が高めに設定されており、現在の超低金利政策が続かないことが前提となっていたり、電力取引市場EPEXで得られる電力販売価格がかなり高めに設定されていたり(このところ記録的な安値になっているにもかかわらず!)。
原発廃炉及び核廃棄物最終処理にかかるコストは最低でも475億ユーロと見積もられていますが、この見積もりも眉唾物です。原発の廃炉・解体コストくらいはそれなりに現実的な見積もりができそうですが、イギリスのセラフィールド核燃料再処理工場群の廃炉コストなどを鑑みると、銅も前以て正確に見積もることは難しそうです。因みにセラフィールド廃炉コストは、BBCニュースによれば、廃炉開始時の50億ポンドから現在530億ポンドに10倍以上膨張しています。
核廃棄物最終処理に関しては、最終処理場がどこにどのような形で建設されるのかすら明らかになっていないので、そのための建設コストの見積もりは空想の産物としか言いようがありません。もちろんフィンランドの最終処理場建設コストは参考になるでしょうが、地層の性質の違いや周辺住民への配慮として必要になる措置など不確定要素がたくさんあります。処理しなければならない核廃棄物の量もフィンランドとは規模が違うので、ドイツでの最終処理場建設は相当高額になりそうです。
最終的に納税者が原子力「平和利用」のツケを払うことになるのは確実な確定事項で、不確定要素はツケはどのくらいになるか、ということくらいでしょう。少なくとも金銭的には。
放射能汚染による健康被害等はまた別の大問題。全く、原子力ほど愚かしい人間の「文明の利器」はないのではないでしょうか?