徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『スクープ』他スクープシリーズ全5巻(集英社文庫)

2023年03月19日 | 書評ー小説:作者カ行

今野敏のスクープシリーズ全5巻を大人買いして、一気読みしました。
TBNテレビ報道局社会部の看板番組『ニュース・イレブン』所属の遊軍記者、布施京一を主人公とするシリーズは、継続捜査を刑事ではなく記者の視点から描いています。
シリーズ第1巻『スクープ』は短編集で、最初は布施がそもそも何者なのか全くわからない謎めいた存在として登場します。
布施は数々のスクープを飛ばしてきた実績があり、『ニュース・イレブン』のキャスター鳥飼行雄と香山恵理子から頼りにされている一方で、上司である『ニュース・イレブン』のデスク、鳩山昭夫からは素行に問題があるとしてあまり認められていません。四角四面の真面目上司と自由かつ合理的に行動して実績を上げる部下、という典型的な相性悪い組み合わせですが、布施がいつでもどこでもリラックスまたは飄々としているので、深刻な対立には至らず、むしろ上司の方ばかりストレスを貯めていく感じです。
2巻以降の『ヘッドライン』『クローズアップ』『アンカー』『オフマイク』は1巻につき一つの事件を扱っています。

布施がスクープをモノにするのは、デスクの鳩山に言わせると「幸運な偶然」に過ぎず、同僚のキャスターたちに言わせると「嗅覚が鋭い」ことになりますが、本人は「それなりに努力している」と「遊んでいたらたまたまいいネタを拾った」の割合が半々のようです。
日常生活は、夜に飲み歩いて朝方に帰宅し、夕方から出勤というのがデフォルト。ネタを拾ってくるのは、たいてい飲み友達と飲んでいるときなので、本人的にはただ遊んでいただけでも、周りの人からは取材活動だと思われがちです。
「夜回り」する場合は、千代田区平河町にある安くてボリュームが多くて刑事たちに人気がある〈かめ吉〉。そこで、布施が情報交換らしきことをするのは警視庁捜査一課第二係特命捜査班で継続捜査をする黒田祐介。
黒田は布施を鬱陶しがって追っ払おうとしますが、それはポーズに過ぎません。他の記者たちのようにガツガツしておらず、たまに捜査に役立つような情報をこぼしていく布施のことを結構気に入っています。

現実的にはあり得ない遊軍記者と刑事の奇妙な協力関係やテレビ局の報道番組制作現場のやり取り、魅力的な脇役たちがこのシリーズの見どころ・読みどころでしょう。

他の警察小説シリーズでは、記者たちは刑事にとって情報漏洩になりやすい鬱陶しい存在としてしか描かれていませんが、このシリーズでは記者の名誉回復?になっているかもしれません。

 

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その他

書評:藤𠮷 豊・小川真理子著、『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』(日経BP)

2023年03月15日 | 書評ー言語

「文章術」のベストセラー100冊を1冊にまとめた本書は、とかく情報が溢れて取捨選択できずに途方に暮れることの多い現代人にとって、時間節約の福音書です。
文章力や書く技術に関する本は大量にあり、選択肢が多くて選べない典型的な状況です。
そんな中で、藤𠮷 豊・小川真理子氏の『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』は最初の一冊として優れています。
メールや広告、プレゼン、ブログ、作文、論文、小説など。〈書く〉場面は多い。それぞれの目的に応じた書き方の定番があるものです。とはいえ、目的いかんにかかわらず、書く上で留意しなければならないことはあるものです。さまざまな分野のプロの書き手たちの多くが共通して推奨する事項を本書は分かりやすいランキング順で、ポイントを押さえて解説してくれます。

目次
Part1 100冊を集めてわかった本当に大切な「7つのルール」
1位 文章はシンプルに
2位 伝わる文章には「型」がある
コラム 「型」を使えば、誰でも1時間でブログ記事が書ける
3位 文章も「見た目」が大事
4位 文章は必ず「推敲(すいこう)」する
5位「わかりやすい言葉」を選ぶ など
Part2 100冊が勧めるスキルアップ「13のポイント」
8位 思いつきはメモに、思考はノートにどんどん書く
9位「正確さ」こそ、文章の基本
10位「名文」を繰り返し読む
11位 主語と述語はワンセット
12位 語彙力をつけろ、辞書を引け など
Part3 さらに文章力を高めるための「20のコツ」
21位 とりあえず、書き始める
22位 「何を書くか」を明確にする
23位 文末の「である」と「ですます」を区別する
24位 体験談で説得力を高める
25位 書き始める前に「考える」 など
おわりに(1) 「文(ぶん)ハ 是(こ)レ 道(みち)ナリ」 藤吉豊
おわりに(2) おわりがはじまり。さあ、書き始めよう 小川真理子
参考にさせていただいた名著100冊 書籍リスト

私自身、プロとは言わないまでも書く機会が多く、書くこと自体には抵抗を感じません。しかし、自分の文章の良し悪しはあまり自分では判断できないものです。誰に向けて書いているのか明確でなければ、ポイントがずれたり、ブレたり、ことばや表現の難易度に揺れが出てきてしまいます。
本書の第1位に挙げられている〈シンプルさ〉は、ことばにしてしまうと月並みですが、これが具体的に「1文は60字以内」と数字で言われると、途端に実用性が増します。
また、逆説ではない単純接続の「~が」は使わない、と決めてしまうだけでも、文が短くなります。「XXXが話題になっています、皆さんはどう考えていますか。」のような「~が」の用法は、話しことばでは柔らかい感じがするかもしれません。けれども、文章の場合は、1文が長くなりすぎる一因。これを削除するだけでも文章がずいぶんとシンプルになりそうです。

梅棹忠夫氏の『知的生産の技術』のあとがきには次のような一節があります。「くりかえしいうが、実行がかんじんである。実行しないで、頭で判断して、批判だけしていたのでは、なにごとも進展しない。(略)安直な秘けつはない。自分で努力しなければ、うまくゆくものではない。」
肯定しかできない真理です。
ただ、ムダな努力も確かにあるので、正しい努力の仕方を学ぶ目的で本書を読むことから始めるのがおすすめです。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十四 壺中の金影』(ビーズログ文庫)

2023年03月15日 | 書評ー小説:作者ア行

『茉莉花官吏伝』の最新刊『壺中の金影』では、茉莉花は大きな仕事もなく首都・宮廷で日常業務をこなしていま。ところが、上司の礼部尚書のくじ運の悪さがもとで、工部の行った運河建設予定地の視察の不備を補うため、再度視察に行くことになります。
情報収集で視察先には『夜に通ると呪われる』という噂のある森があり、これに怯えた官吏のせいで視察が不備になったことが分かります。
運河建設予定地の変更を求めている安州の州牧を訪ねると、「禁色」の御威光もあってやたらと豪華な接待を受けてしまい、その金遣いの荒さに茉莉花は不振を抱きます。
切羽詰まった急ぎの仕事ではないので、官吏として困っている民の手助けをする余裕ができ、任務とは関係のない【骨董品盗難事件】【妓楼のねずみ捜し】【仮母の追い出し計画】 などをついでに受けたりしているうちに、御史台の友人官吏・苑翔景が安州の州牧および州牧補佐たちの不正の有無を調べにやってきたので情報交換・協力することになります。

今回は公的に認められるような大手柄を立てるわけではなく、むしろ、官吏は人助けをする力があるということを茉莉花が再認識する旅という位置づけです。
十三巻で皇帝が禁色を持つ側近に宣言した「商工会を壊す」という案件は、今回は切り口の議論と茉莉花が商工会にちょっとした働きかけをするだけにとどまります。次回はこの蒔いた種が開花する展開なのでしょう。
茉莉花がどのように活躍するのか楽しみなところです。

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茉莉花官吏伝

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 8 三司の奴は詩をうたう 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 9 虎穴に入らずんば同盟を得ず』(ビーズログ文庫) 

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 10 中原の鹿を逐わず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十一 其の才、花と共に発くを争うことなかれ』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十二 歳歳年年、志同じからず』(ビーズログ文庫)


十三歳の誕生日、皇后になりました。

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 2』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。3』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。4』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。5』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。6』(ビーズログ文庫)


おこぼれ姫と円卓の騎士

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


女王オフィーリア

書評:石田リンネ著、『女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け』(富士見L文庫)

書評:石田リンネ著、『女王オフィーリアよ、王弟の死の謎を解け』(富士見L文庫)


読書メモ:中森誉之著、『外国語はどこに記憶されるのか 学びのための言語学応用論』(開拓社 言語・文化選書37)

2023年03月14日 | 書評ー言語

本書は言語学応用論・臨床言語学の視座から日本人にとっての外国語学習のあり方を論じるものです。「外国語学習」とは銘打っているものの、著者の視野にあるのは、近年低年齢化の進んでいる英語教育です。

目次
まえがき
序章 外国語学習への不思議
第1章 ことばの萌芽
第2章 記憶されていく外国語
第3章 記憶された外国語の活性化
第4章 記憶されている外国語の安定化と保持
第5章 記憶に沈殿していく外国語と消滅する外国語
終章 日本の外国語学習のすがた
推奨文献
あとがき
索引

第1章と2章で母語の習得と外国語の習得の仕組みや記憶のされ方について論じられており、第3章から終章までは、言語習得や記憶の仕組みを踏まえた上で、外国語の運用能力を身につけられるような教育とはどのようなものか、現在の日本の教育の現状を振り返りつつ論じられています。

外国語教育に関わる者なら読むべき良書の一冊と言えるでしょう。

私にとって特に興味深かったのは、小学校低学年までの英語教育に関する指摘です。ここで英語教育を行う教師が英語ネイティブであり、教育者としての素養を持ち合わせているのであれば、子どもにとって有益であると言えるのに対して、教育者が日本人あるいは英語を母語としない外国人であったり、教育者として素人である場合は、間違った知識が「潜在記憶」に暗黙知として蓄積されてしまい、後で修正するのが困難になってしまう問題点があるという。
子どもの認知的成長に即した教授法でないと認知的な負担が大きくなり、害にしかならないとの指摘は、なんとなく「子どものうちから英語をやっておけばうまくなる」といった安易なイメージとは相対立するもので、ぜひとも子どもを持つ親たち並びに教育委員会のお歴々に知っておいてほしい知見です。

逆に、成人後に集中的に外国語を学び、それを活かして国際的に活躍する人間はいくらでもいるので、学習を開始する年齢は問題の本質ではないという指摘も声を大にして強調すべき知見でしょう。

少々専門的でお堅い本なので、一般の方にお勧めできるような本ではありませんが、外国語教育に携わる方であればぜひ読むべきだと思います。


書評:藤𠮷 豊・小川真理子著、『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』(日経BP)

2023年03月13日 | 書評ーその他

本書は「ベストセラー100冊のポイントを1冊にまとめてみた」シリーズ第3弾です。シリーズ第1弾は「文章術」、第2弾は「話し方」。
同じテーマに関する本100冊のうち、数十冊に共通して述べられていることはそれだけ重要・本質的である、という考えに基づいて、項目ごとに掲載されていた本の冊数をカウントして順位づけ、ベスト40までがまとめられています。
そのベスト40はさらに次の3つに分割されています。
  • 1位~8位のルールで、「脳に合った学び」ができる。
  • 20位まで身につければ、「学ぶ楽しさ」を実感できる。
  • 40位まで身につければ、「望み通りの結果」が手に入る。
 トップ8は以下の通り。
  1. 繰り返し復習する
  2. 「目的」と「ゴール」を明確にする
  3. 上手な「休憩」で学びの「質」が上がる
  4. 「ごほうび」でドーパミンを活性化する
  5. ゴールから「逆算」して計画を立てる
  6. スキマ時間を活用する
  7. 「集中しやすい空間」をつくる
  8. 一夜漬けしない。よく眠る
私自身が読んだ本の中にもよく挙げられていた内容なので、確かに腹落ちする順位だと思いました。

本書はトップ40すべてを身につけることを推奨しているわけではなく、あくまでも自分の勉強法を見直し、自分に合った勉強法を試すためのアイディアを提供することを目的にしています。このため、《結局は「自分に合った勉強法を探すのが近道」》という一文が結論となっています。

付録では、「人間の学びの仕組み」をより理解できる項目だけ抜き出したまとめ、勉強のステップごとに項目を整理したもの、推薦図書、著者たちの意見や参考文献などがあり、単純なランキングではないところが親切です。

シリーズものとは知らずに買いましたが、第1弾・第2弾も読んでみようと思いました。

書評:今野敏著、『最後の戦慄 〈新装版〉』(徳間文庫)

2023年03月12日 | 書評ー小説:作者カ行

『最後の戦慄 〈新装版〉』は『最後の封印』の続編で、「ミュウ・ハンター」だった日系人シド・アキヤマが再び特殊な戦いの中に身を投じる話です。
21世紀後半、世界は相変らず血と硝煙に満ち、レッド・アメリカと呼ばれるキューバ、ニカラグア地帯で息を吹き返した左派勢力に対抗するアメリカ合衆国軍は苦戦を強いられて、ヨーロッパ共和国連合軍のコマンド部隊一個中隊が救出に向かいますが、彼らが発見したのは敵味方の区別なく築かれた死体の山だった。
その後、イランで独裁体制を敷くアブドル・カッシマーが要塞のような私邸で「平和守備隊」と呼ばれる親衛隊の守りがあっという間に突破されて殺された。
この2件の事件を起こしたのは〈サイバー・アーミー〉と呼ばれる四人組テロリストだった。
その時、テヘランでカッシマーの使いに会う予定だったシド・アキヤマは、ほとんど拉致に近い形で内閣官房情報室の黒崎と名乗る男の元へ連れて行かれ、そこでこの〈サイバー・アーミー〉のことを聞き、この四人組の処分を依頼されます。その四人は、死んだとされていたテロリストたちで、そのうちの一人であるジョナはアキヤマのかつての恋人だった。彼らと彼女は瀕死の状態で、世界を牛耳る多国籍コングロマリット・ゲンロク社の研究所に運ばれ、改造手術によって生き返ったのだった。
アキヤマはそんな四人に太刀打ちできるとは思わず、依頼を断ろうとしますが、断れば直ちに過去の殺人罪等のために逮捕されるが、依頼を受ければそれらの罪が帳消しになると脅され、仕方なく受けることにし、1人では無理なので、チームを組むため、かつて組んだことのあるジャック・”コーガ”・バリー に連絡してほしいと黒崎に頼みます。
この後すぐにバリーはアキヤマを訪ねてきます。アキヤマはチームにあと3人必要であると言い、かつてミュー・ハンターとして活動していた時に敵対していた70歳を超えた中国人の東隆一、メスを手術だけではなく武器としても使う外科医の白石達雄、チベット仏教の高僧からミュウ・ハンターに転身したらしいギャルク・ランパの現在の居所を突き止めるように頼みます。
こうして『最後の封印』で戦った者たちが勢揃いし、新たな敵〈サイバー・アーミー〉との戦いに挑みます。

SF系ハードボイルドなので、戦闘シーンは生々しく血生臭い描写が多く、少々辟易しますが、それでもストーリー展開に牽引力があり、最後まで一気に読めます。
ただ、結末はやや拍子抜けになるかもしれません。


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