徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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読書ノート:栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック 2 (角川文庫)

2022年06月21日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック2』は三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作中に登場した作品の中から13作品をセレクトした本です。

  1. 江戸川乱歩『孤高の鬼』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  2. 小林信彦『冬の神話』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  3. 江戸川乱歩『黄金仮面』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  4. 江戸川乱歩他『江川蘭子』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  5. 江戸川乱歩『押絵と旅する男』~ビブリア古書堂の事件手帖4
  6. 江戸川乱歩『二銭銅貨』~ビブリア古書堂の事件手帖4
  7. 小沼丹『黒いハンカチ』~ビブリア古書堂の事件手帖5
  8. 寺山修司『われに五月を』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖5
  9. 木津豊太郎『詩集 普通の鶏』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖5
  10. 太宰治『駆込み訴え』~ビブリア古書堂の事件手帖6
  11. 黒木舜平(太宰治)『断崖の錯覚』~ビブリア古書堂の事件手帖6
  12. シェイクスピア(河合祥一朗訳)『ヴェニスの商人』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖7
  13. シェイクスピア(河合祥一朗訳)『ハムレット』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖7
巻末に「栞子さんの解説」と題して本書収録作品の『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』での登場シーンが掲載されています。
セレクトブック1の方では作者・三上延の作品への思い入れのようなものが書かれていて、それはそれでファンとしては作家・三上延を知ることのできる嬉しいあとがきでした。
でも、それぞれの作品が『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』本編のどこでどのように使われていたのかを改めて確認するのもとても面白いと思いました。
本編を読んでから何年も経っており、正直詳しいことは覚えていないので、ほんのちょっと「復習」して、ストーリーを思い出すことができてよかったです。

さて、収録作品についてですが、太宰治の『駆込み訴え』(イエス・キリストを裏切ったユダが主人公で、裏切りに至るまでの心情を吐露する話)とシェイクスピア作品は読んだことがあったので飛ばしました。読んだことない方にとっては話の雰囲気が掴めて、先が気になるかどうか分かると思いますので、まずは抜粋を読んでみるというのはいいかもしれません。

江戸川乱歩の『孤高の鬼』は、あり得ない状況で発生した連続殺人事件の犯人を追ううちに、ある一族の残した暗号文の謎に巻き込まれていく探偵小説で、抜粋を読んだだけでも気味が悪い感じで、「傑作」と言われるものでもあまり読みたい気にはなりませんでした。

小林信彦の『冬の神話』は1968年に刊行された長編小説で、作者自身の体験をもとに太平洋戦争中の学童集団疎開を描いた作品です。級長を務める主人公が陰険な暴力に支配されていく生徒たちの中で次第に孤立し、追い詰められていく話らしいのですが、とりあえず、陰で自分たちの食料の上前を撥ねている疎開先の寺の夫婦の悪事を発見して、ある生徒が「もはや、敵は英米じゃない」と言うところが印象的です。
確かに子どもたちにとっては見たこともない英米という敵国よりも目の前で自分たちの食料を巻き上げている人間の方がずっと現実的問題で、憎悪を向けやすいですよね。
あまり先を読みたいとは思いませんでしたが。

江戸川乱歩の『黄金仮面』は『怪人二十面相』に並び称される昭和初期の有名な怪盗の話で、私も題名は知っていたのですが、これまで読んだことはありませんでした。ここでは黄金仮面が当時としてはとんでもない大金の20万円の価値がある真珠を鮮やかに盗み出して逃走する最初の部分だけが掲載されています。全体的な設定の古さや文体の古さに最初こそ違和感を覚えますが、読んでいるうちに慣れてどんどん先を知りたくなります。
ただ、改めて全部読む気になるかと言うと、そこまでの興味は持てませんでした。他に何も読むものがなくて、『黄金仮面』だけが目の前にあったらもちろん読むでしょうけれど、積読本がまだ90冊近くある中でわざわざこれを読む気にはなれません。

江戸川乱歩、横溝正史、夢野久作などそうそうたる顔ぶれが合作した探偵小説『江川蘭子』の江戸川乱歩執筆部分の抜粋がここに掲載されています。幼い頃に両親を惨殺された美少女・江川蘭子が成長して快楽と暴力の世界におぼれて数奇な運命をたどる物語らしいですが、ここでは江川蘭子の幼少期と成長して快楽と暴力の世界に足を踏み入れるところまでが抜粋されています。
こんな合作企画があったのは面白いと思いますが、江川蘭子の異常性に興味が持てなかったので、わざわざ先を読もうとは思えませんでした。

江戸川乱歩の『押絵と旅する男』は昭和4年に発表された幻想的な短編で、作者自身も深い愛着を持っていたという代表作の1つ。魚津の蜃気楼を見に行った主人公が帰りの汽車の中で大きな押絵を持った奇妙な男に会い、ずっとお互い無言だったものの、主人公が好奇心に負けてついに男に近づき声をかけたら、その男がその押絵を見せてくれ、なぜそれを持って旅をしているのか身の上話をしてくれるという話です。その男の話す思い出話も実に現実離れした(兄が押絵の中に入ってしまっているという)話でしたが、その男自身も語り終わった後に汽車を降りて闇の中に消えて行くという謎めいた去り方をするので、狐につままれたような印象が残ります。
私が持つ江戸川乱歩のイメージとはかけ離れた作品で意外な驚きでした。

江戸川乱歩の『二銭銅貨』は日本最初の本格推理小説と言われ、傑作に数えられているものです。友人と二人暮らしの貧乏青年が主人公で、主人公が手に入れた二銭銅貨の中が空洞になっていて、その中に暗号文のようなものが入っていることを友人が発見し、その暗号文を読むうちに最近逮捕された紳士怪盗が隠した大金5万円の隠し場所が記されていると確信し、やがて大量の紙幣を持ち帰って来るという話です。この二人は普段から知恵比べのようなことをしていて、その友人は得意がって自分がいかに暗号文を説いて大金を手に入れたかを語ってくれるのですが、実はそれは全て主人公が仕組んだことだったという結末が小気味いいですね。
暗号文に南無阿弥陀仏の六文字のみを使っているところが実に凝っています。

小沼丹の『黒いハンカチ』は若い女教師が周りで起こった小さな事件を次々と解決していくシリーズ作品の1つで、たまたま試験中の生徒たちを監視しながらクロスワードをやって考え事をしてふと窓の外を見たら男女二人組の訪問者が学校に入ってくるところを見かけ、その後、女の方が教室の横を通ってお手洗いに行き、出てくるときに黒いハンカチを持っていたのを見て、さらにその数分後に今度は黒いハンカチを胸ポケットにしまった男が裏門から出て行くところを見たのでおかしいと呼び止め、それが事件解決につながるという話です。
他愛もないと言えば他愛もない話で、どことなくアガサクリスティーのミスマープルのシリーズを彷彿とさせます。

8、9の詩集は一応目を通しましたが、私とは相性が悪いようで、読んでも何も入って来ないという感覚でした。

それはともかく、このような作品集には普段の自分の読書傾向とは違う本との出会いがあって面白いですね。
本の概要を解説してくれるYouTube動画も多くありますが、このように作品そのものを集めて提示してくれるセレクトブックの方が自分で読んで味わいながら判断できるので、本好きとしてはこちらの方がありがたいです。





書評:石田リンネ著、『女王オフィーリアよ、王弟の死の謎を解け』(富士見L文庫)

2022年06月18日 | 書評ー小説:作者ア行

『女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け』に続く第二弾『女王オフィーリアよ、王弟の死の謎を解け』が発売されたので、早速買って読みました。

前回は、オフィーリア女王が殺され、死の間際、薄れゆく意識の中で 「私は、私を殺した犯人を知りたい」 と強く願ったため、王冠の持ち主にだけ与えられる“古の約束”により、妖精王リアによって10日間だけ生き返り、その間に犯人探ししてついに「呪い」を発動させることに成功し、彼女の代わりに彼女を殺そうとした犯人たちが妖精王リアに殺されてしまいましたが、今回はオフィーリアの弟ジョンが何者かによってブロンズ像で後頭部を殴られて殺されてしまいます。
ところがジョンは二日後の葬儀の際に息を吹き返すのです。
そこでオフィーリア女王は妖精王リアにとっての「王冠の所有者」の定義について考えるのですが、もしかしたら「王冠を最後に直接触れた人」なのかもしれない、そしてジョンがそれに当てはまることに思い至ります。

ジョンは頭を強く打ったせいで死ぬ間際に何を強く願ったのか覚えておらず、オフィーリアも妖精王の話を出すわけにはいかないので深く追求はしないのですが、ジョンは妖精王リアによって生き返ったという前提のもとに犯人探しとジョンが願いそうなことを探り、できる限りその願いを10日以内に叶えて例の「呪い」が発動するように動きます。

前回、野心家で浮気者のろくでなしとして登場していたオフィーリアの夫デイヴィットは、今回は離婚されて王配としての地位まで失ってしまわないように懸命にオフィーリアに協力し、犯人探しやその他諸々を手伝います。しかし、ややもすると不謹慎に状況を楽しむそぶりを見せるので、いくら有能でもオフィーリアが彼にほだされることはなく、王の義務として子をつくるなら、そのための愛人を探そうと動き出したりして、「王弟の死の謎を解く」だけに始終しないところが面白いです。

しかし、今回の「呪い」の発動はいささか後味が悪いですね。
精霊王リアは王家を守護すると言われているとはいえ、実際には人外の感覚で面白がっているだけなので、祝福ではなく「呪い」をかけています。だから王冠所有者が生き残れても、全体的にいい結果にはならないのです。

オフィーリア女王とデイヴィットの仲の行方が気になりますが、精霊王リアの呪いが物語のコアのままならば、王家の人間は2人だけなので続編はなさそうですね。



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茉莉花官吏伝

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 5 天花恢恢疎にして漏らさず』 (ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 6 水は方円の器を満たす 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 7 恋と嫉妬は虎よりも猛し 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 8 三司の奴は詩をうたう 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 9 虎穴に入らずんば同盟を得ず』(ビーズログ文庫) 

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 10 中原の鹿を逐わず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十一 其の才、花と共に発くを争うことなかれ』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十二 歳歳年年、志同じからず』(ビーズログ文庫)


十三歳の誕生日、皇后になりました。

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 2』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。3』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。4』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。5』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。6』(ビーズログ文庫)


おこぼれ姫と円卓の騎士

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)



書評:石田リンネ著、『女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け』(富士見L文庫)


栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック 1 (角川文庫)

2022年06月17日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック』は三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作中に登場した作品の中から12作品をセレクトした本です。
  1. 夏目漱石「それから」抜粋
  2. アンナ・カヴァン「ジュリアとバズーカ」
  3. 小山清「落穂拾い」
  4. フォークナー「サンクチュアリ」抜粋
  5. 梶山李之「せどり男爵数奇譚」抜粋
  6. 太宰治「晩年」
  7. 坂口三千代「クラクラ日記」抜粋
  8. 国枝史郎「蔦葛木曽桟」抜粋
  9. アーシュラ・K・ル・グイン「ふたり物語」抜粋
  10. ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」
  11. F・W・クロフツ「フローテ公園の殺人」抜粋
  12. 宮沢賢治「春と修羅」抜粋
巻末の「収録された作品についての諸々」で三上延ご本人のこれらの作品に対する思いや注釈が書かれています。

つくづく著者と私の読書暦が重ならないなと思いつつ太宰以外は興味深く読ませていただきました。

中でもロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」はタイムマシンを扱う割にはとてもロマンチックなお宝掌編で、こんないやな世相で荒んだ心にふわっと香るミントティのような癒しを与えてくれます。四十男の視点で描かれた純愛物語なのに男の身勝手さが感じられず、女性に対する独り善がりでない優しさが感じられ、とても好感が持てました。

小山清の「落穂拾い」は、しがない物書きの「僕」の些細な日常の出来事を綴った日録・交友録の体裁で、特に古本屋を経営している少女との交流を描いています。その彼女から誕生日に耳かきと爪切りを贈られたというささやかな幸せに心温まるようです。

坂口三千代の「クラクラ日記」や梶山李之の「せどり男爵数奇譚」、F・W・クロフツ「フローテ公園の殺人」は抜粋だけでは物足りず、もっと読んでみたいと思わせる作品です。
ただ、現在、積読本をある程度減らすまではシリーズ続刊以外の新しい本を買い控えているので、そちらに手が回るのはずっと後のことになりそうです。


Frenkel & Kang著、An Ugly Truth: Inside Facebook's Battle for Domination (The Bridge Street Press)

2022年06月15日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

Blinkistというドイツ語書籍の要旨を聴けるアプリで「Inside Facebook: Die hässliche Wahrheit(フェイスブック・インサイド 醜い真実)」という本が紹介されていたので聞いてみました。
ここではオリジナルの英語版「An Ugly Truth: Inside Facebook's Battle for Domination(醜い真実:フェイスブックの覇権争いの内実)」の方を挙げておきます。2021/7/13刊行で、未邦訳です。



フェイスブックがヘイトスピーチなどを一切規制しなかったことで問題になっていたことを覚えている方は多いかと思います。
私も記憶の片鱗に留めておいた程度で、その影響力や問題の深刻さについて大して考えたことはなかったのですが、かなりの実害があるようです。
2016年にはすでにフェイスブックは米国内外合わせて数千万人の一次情報源になっており、そのユーザーたちの「いいね」を押す行動からその人の好みや行動傾向を割り出して、それに合ったコンテンツや広告を優先的に提示するアルゴリズムのせいで、ユーザーは自分の信念の正しさの確信をどんどん深めていき、過激化する傾向が見られます。
SNS内での思想の過激化が実際の暴力に発展するケースが往々にしてあり、例としてはミャンマーにおける2017年8月のロヒンギャ虐殺事件や2021年1月のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件などが最も有名な例です。
また、2016年の米大統領選挙においてロシアからのフェイクニュースが無制約でばら撒かれ、かつ民主党議員のデータがハッキングされたため、トランプ当選に有利となったと言われています。

こうした対外的な弊害はメディアでもだいぶ報じられていますが、社内事情も酷いもののようです。ホイッスルブロワーを徹底的に探し出して解雇することを専門にする専任エンジニアの存在など、ぞっとする企業ガバナンスです。

問題の根源はマーク・ザッカーバークその人にあります。企業成長すれば何でもありという態度は社内でも反感を買っているらしいのですが、ぎりぎりまで「言論の自由」の建前の元に明白な誤情報や誹謗中傷・ヘイト投稿などの規制に反対の立場を取り、世間の非難をかわすためだけの実効性の少ない措置ばかり講じてきたとのことです。
2020年以降、フェイスブックはデータ保護や投稿・広告のコンテンツ規制に注力するようになりましたが、どの程度本気で、どの程度実効性があるのかについては時が経ってみないことには分かりません。


書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 V 信頼できない語り手』(角川文庫)

2022年06月11日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

本シリーズ『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』のIV巻が出たのは4月半ば。2か月も経たないうちにもう続巻が書き下ろされ、しかも先月は新たにシリーズ化しそうな『JK』が上梓され、相変わらずの著者の著作スピードに頭が下がる思いです。

私はこのシリーズを自動購入に設定しており、昨晩V巻が私の電子書籍ライブラリーに追加されたので、就寝前に「出だしだけでも」と本当にちょっと見るつもりで読み始めて、結局、止まらなくなって気が付いたら最終章まで読み終わり、小鳥たちのさえずりを聴くことになってしまいました。
恐るべし、松岡圭祐。その読者牽引力は驚異的です(もちろん全作品ではありませんが)。

さて、V巻の事件は大規模な惨劇から始まります。日本小説家協会の懇親会会場で大規模火災が起き、小説家をはじめ多くの出版関係者が亡くなった。生存者はわずか2名。現場には放火の痕跡が残されていたため、大御所作家を狙った犯行説が持ち上がる。
ネット上では“疑惑の業界人一覧”なるサイトが話題になり、その中には李奈の名前もある。本当に放火犯はいたのか?

沈痛かつ不穏な空気が漂う出版業界の中、III巻のクローズドサークル編で殺されそうになったところを李奈に救われたベストセラー作家・櫻木沙友理が李奈に一緒に真相を解明しようと言い、沙友理と同じ町内に住む「万能鑑定士Q」莉子も協力することになる。

著者はこのシリーズでは本格派推理小説にチャレンジしているようで、この巻も「信頼できない語り手」というミステリーの手法を取り入れているのですが、それを堂々とタイトルに使うというのは前代未聞と言えます。
このため、読者は事件の謎解きと同時に、一体誰が信頼できない証言者なのか頭を悩ますことになります。

また、ファンには嬉しい「万能鑑定士Q」の凛田莉子改め小笠原莉子の登場。30代前半で二児の母になった彼女は探偵となった小笠原の協力を得ながら鑑定士の仕事を継続しているという近況が知れて、懐かしい知り合いに再会したような喜びがあります。




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歴史小説

書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『八月十五日に吹く風』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『生きている理由』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『ヒトラーの試写室』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『黄砂の進撃』(講談社文庫)


推理小説 

水鏡推理シリーズ

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理4 アノマリー』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理5 ニュークリアフュージョン』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理 6 クロノスタシス』(講談社文庫)


探偵の鑑定シリーズ

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)


高校事変シリーズ

書評:松岡圭祐著、『高校事変』1&2(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変Ⅲ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変』IV+V(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 VI』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 VII』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 VIII』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 IX』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 X』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 XI』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変XII』(角川文庫)


千里眼シリーズ

書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼の復活』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 The Start』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 ファントム・クォーター』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼の水晶体』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ミッドタウンタワーの迷宮』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼の教室』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 堕天使のメモリー』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 美由紀の正体 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 シンガポール・フライヤー 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 優しい悪魔 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 キネシクス・アイ 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 ノン=クオリアの終焉』(角川文庫)



万能鑑定士Qシリーズ

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの事件簿 0』


特等添乗員αの難事件シリーズ

書評:松岡圭祐著、『特等添乗員αの難事件 VI』(角川文庫)


グアムの探偵シリーズ

書評:松岡圭祐著、『グアムの探偵』1~3巻(角川文庫)


ecritureシリーズ

書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 II』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 III クローズド・サークル』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに』(角川文庫)


その他

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『瑕疵借り』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『マジシャン 最終版』&『イリュージョン 最終版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『小説家になって億を稼ごう』(新潮新書)

書評:松岡圭祐著、『ミッキーマウスの憂鬱』(新潮文庫)

書評:松岡圭祐著、『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』(新潮文庫)

書評:松岡圭祐著、『アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『出身成分』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『JK』(角川文庫)


パリ食べ歩き

2022年06月03日 | 旅行

コロナパンデミックのせいで旅行ができず、2020年1月末にブリュッセルに行ったのを最後にずっとおこもりしていましたが、5月26日から29日まで祭日を含めて4連休にしたフランス住まいのお友だちと一緒にパリに行きました。
パリは何と32年ぶり!

「食べ歩き」というタイトルからもお分かりのように、大した観光はしていません。今回の旅行の目的は、女同士で楽しくおしゃべりしながら美味しいものを食べることと、ついでに私のつたないフランス語の実地訓練でした。

ホテル
さて、泊まったホテルはメトロのConvention駅から徒歩2・3分くらいの二つ星ホテル「Hôtel Avenir」でした。パリ北駅からは30分近くかかり、どこへ行くにもメトロまたはバスに乗る必要があります。
この意味で交通の便は悪くはないという程度です。

このホテルはパリの安ホテルにありがちな老朽物件です。シャワーキャビンが小さい上にガラス板半分で仕切られているだけなので、気をつけていてもシャワーのお湯がキャビンの外に飛んでしまい、洗面台の下を水浸しにしてしまうくせものです。そのせいで、洗面台の下の棚に物を出し入れするために屈むとかなり黴臭かったです。

タオルもきちんと替えてくれず、畳んでごまかすのがデフォルト(?)のようです。わざわざホテルの人に言えば替えてくれる感じです。

ベッドはまあまあの寝心地でした。
周辺の騒音が結構あるので、神経質な人はなかなか眠れないかもしれません。

総じて立地の良さだけで持っているような劣悪の部類のホテルでした。
老朽化していても清潔には気を使って欲しいものですね。😑 

食事

食事は朝はコーヒーのみか抜きで、昼・夜にいろいろといただきました。

初日の夜はサンジェルマン・デプレ地区でタパス(っぽいもの)を出すレストラン Freddy's で何品もいただきました。フランスなだけあって、ソースが絶品。コックは日本人とのこと。

ブロッコリーの揚げ物

焼きナス

ピメント

アボカドと何か(忘れてしまいました)

魚料理(スズキともう1つは何だったか失念)




タマラ(合成着色料なし)

翌朝はConvention駅前のビストロで Café noisette。

お昼は quartier japonais にあるお弁当屋さん Restaurant Yasubé でエビフライ弁当 Crevettes pannées。

味噌汁が美味しかったです。

刺身と酢の物は美味でしたが、エビフライは普通でした。

メニュー

6月27日の夜は「Comptoir Du Marché」というマルシェに隣接したレストランでディナー。
まずはマルシェで珍しいビワをゲット。1個1ユーロ。

店内


前菜は Rouleau du printemps au gravlax 生春巻き。グラブラックス・サーモン、フレッシュチーズ、柚子ソースが絶妙のハーモニーでした。

メインは Chickin Caesar チキンカツとシーザーサラダ。
前菜で感動しすぎてメインはいまいちに感じてしまいました。

食後はミントティー(新鮮なミントの葉使用)

28日は朝抜きでブランチ。セーヌ川クルーズの集合場所に近い「La Marine」というレストラン。
Menu du jour ランチメニューは前菜+メインまたはメイン+デザートのいずれかのセットで19.50ユーロ。
それぞれ選択肢が6~8つあって、結構迷います。

前菜に Tartare d'avocats et crevettes アボカドとエビのタルタルと Rillette de maquereaux à l'estragon, pain grillé サバのエストラゴン入りリエット、焼いたパン付き。

アボカドの方は普通に美味しく、サバのリエットは抜群に美味しかったです。

メインは Filet de lieu noir à la moutarde ancienne, riz blanc シロイトダラのフィレのマスタード和え、ライス。

友だちの方は Filet de saumon label rouge, sauce à l'estragon, riz blanc ラベルルージュのサーモンのフィレ、エストラゴンソース、ライス。

やはりフレンチはソースなのだなと納得できる逸品でした。

食後は Café gourmand コーヒーとミニデザート盛り合わせ「カフェ・グルマン」。クレームブリュレ、パンナコッタのラズベリーソース掛け、ガトーショコラ。
どれも美味しすぎて、きれいに平らげました。😋 

セーヌ川クルーズの後に休憩で Samaritaine というデパートの最上階レストランに入りました。
1階売り場

最上階


ロゼワイン(友だち)と Chocolat chaud ショコラ・ショ。ヌガーは友だちが持って来てくれたもの。
ショコラ・ショ1杯に9ユーロ。さすが一等地のデパートの最上階レストランというお値段ですね。

休憩後、Muji(無印良品)でちょっとお買い物をして、夕食はそのお向かいにある Le Voltigeur で軽く取りました。
レストラン前に鎮座するクマとロバ(?)のぬいぐるみ。


店内のあちこちに大きなクマのぬいぐるみが置いてあってなごみます。

ホウレンソウのキッシュと野菜スープ(ガスパッチョ)
すでに舌が肥えてしまっているので、このキッシュは「普通に食べられる」程度にしか感じませんでした。

最終日の29日も朝抜きでランチは quartier japonais にある Udon Jubey で天ぷらうどんを食べました。前菜に焼きナスとほうれんそうのお浸し。


冷ほうじ茶

天ぷらうどん
レンコンのから揚げもエビ天ぷらも美味でした。汁もしっかりと御出汁が効いており、麺もこしがあって美味しかったです。
こんなにうどんらしいうどんを食べたのは何年ぶりでしょうか。

ただ、お酒の衛生管理はあまりよろしくないようで、友だちが異物が入っていたと文句を言っていました。それで10%値引き。
う~ん、そこは無料か、せめて半額にするべきところでは?

メトロの Pyramide駅にほど近い quartier japonais 日本街にはそう呼ばれるにふさわしく日本食レストランが密集しています。中華や韓国料理店もちらほらあります。
今回はお弁当屋さんの Yasube とうどん屋 Jubey の2軒にしか行けませんでしたが、他のところもぜひ試してみたいですね。😋 

食後の散歩の後、デザートを Grand Café Fauchon でいただこうとしたのですが、まだ時間が早すぎてランチタイムだったので、食事でないなら入れないと言われました。残念。

少し歩いて Café de L'Olympia で Café crème gourmand を頂きました。ここのはミニデザートが4つついて13ユーロくらいでした。


右からバニラアイス、ヨーグルト(?)のラズベリーシロップ掛け、クリームブリュレ、フルーツサラダ 。
一緒に写っているシャンペンはお友だちの。

甘いもの脂っこいものお構いなしに美味しいものを食べまくったので、1.5kgほど太りました 😅 
ダイエットとダンスでなんとか体重を落とさないといけませんね。

アクティビティ
6月27日に La Monnaie de Paris パリ造幣局で「Zoom sur les 20 ans de l'euro ユーロの20年間の歩み」特別展示を見てきました。
常設展示も興味深いです。
普段冶金などとは縁がありませんので、それぞれの金属の特性や冶金技術の歩みなど勉強になりました。
パリ造幣局は864年6月25日にシャルル2世による勅命で設立された非常に長い歴史を持つ機関です。現在の場所 Palais-manufacture du quai de Conti に移転したのは1775年のことだそうで、革命や戦争を生き延びたツワモノですね。

     

   


6月28日は豪華ランチの後にセーヌ川クルーズ。これが唯一の観光らしい観光だったと言えるでしょう。
出発場所は Quai de Valmy という運河の船着き場で、セーヌ川本流に出る前に地下水路に潜ります。2か所の水門で水面を低くして地下水路に入るところはなんだかワクワクしました。結構時間がかかるので、観光客でもなきゃ乗らないのではないでしょうか。

     

  

     

   

小さい自由の女神像(中央)とエッフェル塔(右後ろ)

自由の女神像は本当に小さくて、思わず笑っちゃいました。ニューヨークの自由の女神像の何分の1なのか分かりませんが。

最終日29日は気まぐれ散策。
昼食前に通ったオペラ座。空がどんより。

Fauchon に行く途中に通りがかった Place de la Madeleine.
 

ギリシャ神殿風の建物は Eglise de la Madeleine マドレーヌ教会(マグダラのマリアを守護聖人とするカトリック教会)。

カトリックなのにギリシャ神殿風というのが奇妙ですね。多神教の異教なのに。
Café de L'Olympia で Café crème gourmand を頂いた後、日曜日なのに開いていたIkeaなどに寄り、さらに Place de la Concorde コンコルド広場の横にある Jardin des Tuileries チュイルリー公園へ。
ここでまだ買い物をしたいお友だちとは別れ、1人で公園内をふらふら散歩しました。
     


交通手段
パリ旅行には Thalys を利用しました。旅行を思い立ったのが遅かったため(2か月ほど前)、安い2等席は売り切れで、ケルンからパリ北駅行きで残っていたのはプレミアムクラスのみでした。お食事などがついて175ユーロ。
ケータリングは飛行機の機内食みたいな感じでした。
 

約3時間半の旅は快適で、ゆったりと読書できました。

帰りは日曜日ということもあってパリからケルンへの直通便はすでに売り切れでした。仕方なくブリュッセルまで Thalys のコンフォートクラス、ブリュッセルからケルンまで ICE の2等席で帰ることにしました。トータルで157.90ユーロだったので、ケルン・パリ間直通のプレミアムクラスと17ユーロしか差がないのが腑に落ちませんね。ICE が割高なのでしょうか。
ブリュッセルでの乗り換えはスムーズで遅れもなく、ICE も運よく5分未満の遅れでケルンに到着し、その後のボンまでのローカル線も3分くらいの遅れでほぼ時間通りに帰って来れました。

4月末にハンブルクに行った時の帰りの電車では工事中で遠回りになったり、他の電車でホームが塞がっているという理由で駅の手前の線路で待たされたりで、トータル2時間くらいの遅れとなり、ひどい目に遭いましたが、今回は幸運でした。

ちなみに Thalys のチケットは4か月前に販売開始され、早いうちならケルン・パリ直通の2等席で36~41ユーロという格安枠があります。
次は10月末に行く予定ですが、その時はこの格安枠を利用するつもりです。



書評:澤村御影著、『准教授・高槻彰良の推察』1~7巻+EX (角川文庫)

2022年06月01日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『准教授・高槻彰良の推察』全7巻(未完結)と番外編のEXの計8冊を一気に読みました。このため、各巻個別の書評を書くのが困難なので、7巻までの全体的な書評を書きたいと思います。

主人公は大学1年生(途中進学して2年)の深町尚哉。彼は10歳のときに祖父母の住む田舎でお盆祭りに熱を出したために行けなかったのですが、夜中にふと目が覚め、太鼓の音を聞きつけて、まだ盆踊りをしているのかと思って外に出て行くと、そこでは死者たちが面をかぶって踊っていたのです。尚哉も従兄からお土産にもらったお面を付けていたので最初は気づかれなかったものの、昨年死んだはずの尚哉の祖父に見咎められ、帰ろうとしたものの、他の死者たちにも見つかってしまったので、代償を払うことになります。その時彼は「孤独になる」というべっこう飴を選んでその場で食べます。
気が付いたら朝で、(祖父母宅の)自分の部屋で寝ていたのですが、間もなく人が嘘をつくとその声が歪んで聞こえることに気づきます。
人は頻繁に嘘をつくので、人の多いところではたくさんの声が歪んだ音として聞こえてきて、尚哉は時に気持ち悪くなって倒れてしまうこともあります。
このため、人ごみを避け、人付き合いを当たり障りのない程度に抑えざるを得なくなります。これが「孤独になる」という代償だったのです。

尚哉の通う青和大学の文学部民俗学の準教授・高槻彰良は30代半ばの超イケメンで、好みの怪異に出会うとついテンションが上がってしまう変人です。この人は子どもの頃に1か月間ほど行方不明となり、遠く離れたところで意識を失くして発見されたという経験を持ち、当時の記憶を失くしてしまっています。誘拐か神隠しの怪異か明らかではありませんが、発見された時に背中に羽根をもがれたかのように皮膚を引き裂かれた傷があり、また異常に記憶力が良くなったり、極度の鳥恐怖症になったり、目の色が時に藍色に変わるようになったため、高槻彰良の母親は彼が天狗にさらわれたのだと思い込み、一時期「天狗の子」として彰良を崇拝の対象とします。
しかし、彰良はしばらくして母の思い通りに「天狗の子」であることを止めると、母親はそれに耐えられず、自分の子はまだ行方不明のままであり、目の前にいる彰良は別人と考え、その存在すら見えなくなってしまいます。
母親との同居が困難となったため、彰良は叔父のいるロンドンに預けられ、そこで高校時代を過ごしますが、日本の怪異を研究するために大学は日本に戻ってきます。こうしてありとあらゆる怪異・怪談・都市伝説などを研究し、青和大学民俗学准教授となります。
高槻彰良は<隣のハナシ>というサイトを運営し、「あなたの隣で話されていた不思議なハナシを、教えてください」と一般からハナシを公募しているので、そこから怪異現象に関する相談を持ち掛けられることもあります。

深町尚哉はなんとなく取った〈民俗学II〉で高槻彰良と出会います。レポート課題の提出の際、不思議なハナシがあれば書くように言われたので、そこに死者の盆踊り体験を書いたことがきっかけで気に入られ、彰良の受けた怪異現象に関する相談の聞き取り調査を手伝うことになります。尚哉の役割は、怪異の話を聞くと理性が吹っ飛んでしまう彰良を抑える「常識担当」と、初めて行くところでは方向音痴で迷子になってしまう彰良の「ナビ担当」です。

また、彰良の幼馴染・佐々倉健司こと「健ちゃん」は刑事で、可能な限り彰良の調査に車の運転などで協力します。彰良が鳥に遭遇して倒れたときの運び役も担っています。


ストーリーは主に尚哉と彰良と佐々倉の3人による怪異(事件)調査によって展開していきます。さまざまな怪異事件が彰良の元に持ち込まれますが、大抵の場合は人為的なもので、時に犯罪も関わっているので、この場合佐々倉が活躍しますが、「探偵役」は彰良です。

1巻は大抵3章立てで、それぞれ独立した短編ミステリーとなっています。
しかし、最大のミステリーは高槻彰良の失われた1か月間に何が起こったのかということです。
尚哉の「死者の盆踊り」は、5巻『生者は語り死者は踊る』で解明されますが、彰良の過去は、何かの約束事によって記憶が戻らないようになっているらしく、解明はかなり厄介なようです。
5巻で尚哉と共に黄泉の国へ降りかけた際、その問題の記憶が戻ったのですが、無事生還した後に彰良の中にいる何者かによって「それは約束違反だ」と記憶を抹消されてしまいます。
それでもなお彰良は諦めずに本物の怪異を求めて探求を続けます。
尚哉と佐々倉もずっと彰良の調査活動に付き合い続けるようですね。

このシリーズは民俗学准教授のフィールドワークがストーリーの核であるため、古事記・日本書紀・日本霊異記を始め、様々な文献が引用されており、それだけでも大変興味深いです。



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