徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『千里眼の教室』(角川文庫)

2021年06月25日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

酸素欠乏症を引き起こす時限式爆発物を追い、名古屋の中心街をF1で疾走する臨床心理士・岬美由紀は最悪の事実を突きつけられる。それが高校に仕掛けられたと。そして残された時間は1時間を切っていると――。いじめや自殺、社会格差など、現代日本の抱える問題に鋭く切り込みながら、美由紀の新たな側面を描き出す。 

という煽りのシリーズ第5巻は、「酸素欠乏症によって主に前頭葉の神経細胞が破壊され、理性による自制が働かなくなるため、暴力性が増し、校内暴力やいじめなどの一因となる」という説を唱える脳神経外科医・五十嵐哲治が自説を実証するために酸素欠乏症を引き起こす時限式爆発物を仕掛けて逃走し、説得役として派遣された岬美由紀は彼の追跡を開始するところからストーリーが始まりますが、最初の追跡ラリーの激しさや、爆発物を仕掛けた場所へまた最寄りの自衛隊基地からF15Jを拝借して飛んで行く非常識なスピード展開に比べ、中盤はその爆発物を仕掛けられた氏神工業高校の高校生らが「氏神工業高校国」の独立宣言をし、校内の様子の描写が大半を占めるため、激しい動きがありません。高校生たちの自治の進展と、校内に踏み込めずに敷地の手前の待機場所で責任の押し付け合いをする教師・親・教育委員会などの大人たちの大人げなさの対比が特に興味深いです。
美由紀は「日本国側の特別大使」としてたった一人「氏神工業高校国」へ入り、生徒たちの様子を探る一方で、爆発物の残骸を探し、五十嵐哲司の本当の意図を見い出そうとします。
この巻では美由紀と敵対するすべてを超越した組織・メフィストはまったく無関係なので、その意味では異色と言えます。
世界史未履修問題やいじめ問題など、全国で問題視されているものに対してまともな対応を取らず、すべて隠蔽して、表面上「お上に従っている」というふりをする地方の学校の隠蔽体質に対して、高校生たちが突如反乱を起こすというプロット自体はありそうな感じがしますが、独立国を樹立し、ネットを通じて独自の収入源を確保し、独自の通貨を発行して労働に見合う対価を支払うシステムまで樹立するところまで行くと、想像を絶する展開ですよね。
リアル過ぎず、ファンタジー過ぎず、絶妙な匙加減はさすがというところでしょうか。

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