徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『八月十五日に吹く風』(講談社文庫)

2017年08月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『八月十五日に吹く風』は今月9日に発売されたばかりの松岡圭祐の最新刊です。

【8月15日】という表題の日付が暗示するように第二次世界大戦、特に太平洋戦争の一幕を取り上げた歴史小説。『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)といい、今作といい、この頃著者は新たな分野「歴史小説」に挑戦しているようですね。

『八月十五日に吹く風』も『黄砂の籠城』同様、プロローグは現代です。北米局・日米安全保障条約課に務める筒井亮司が上司から、米軍の「命を軽視し玉砕に向かう」という野蛮な日本人観を変え、戦後の占領政策を変える鍵となった「1943年8月15日に関するロナルド・リーンの報告」とは何かを探る仕事を上司から一任されます。色んなつてを頼って、ロナルド・リーンにコンタクトを取ろうと画策していたある日、菊池雄介というロナルド・リーンと面識がある元ジャーナリストからの手紙が届きます。そこには筒井が知りたいことが全て記してあったのです。

そして場面変わって、時代は1943年に飛びます。まずはアリューシャン列島の「熱田島(アッツ島)」における玉砕が描写されます。隣の「神鳴島」と呼ばれたキスカ島には約5200名の兵士たちが米艦隊に囲まれていました。彼らにも玉砕命令が下るのか否か?

心ある、「命を大切にする」何人かの司令官の努力によって、北の最果てに残された5200名の救出作戦が決定されます。時期はミッドウェー海戦で敗退した後なので、燃料も巡洋艦を始めとする海戦力資源も不足している中で、陸・海軍の人員と資源を割き、知恵を絞って不可能と思われた大規模撤退作戦を実行する様子が力強い筆致で描かれています。

日本側は何人かの司令官及び従軍記者の菊池雄介の視点、米軍側の様子はロナルド・リーンの視点で描写されており、その対比も本書の面白さのエッセンスの一つだと思います。

恐らくこのような人命尊重のための救出作戦は当時の日本軍にあって非常に例外的な事象であると思います。司令官の努力と知恵で実現した作戦。それはつまり、その他の玉砕戦線も司令官の努力次第では大本営を説得して、回避できたかもしれない可能性を示唆し、それをしなかった司令官たちの責任の重さを改めて浮き彫りにするものでしょう。

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