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書評:今野敏著、横浜みなとみらい署暴対係シリーズ『逆風の街』、『禁断』、『臥龍』

2019年12月09日 | 書評ー小説:作者カ行


このシリーズは神奈川県警みなとみらい署の暴力犯係係長諸橋を主人公とした警察小説です。
これまで『逆風の街』、『禁断』、『防波堤』、『臥龍』の4冊が文庫化されているのですが、残念ながら『防波堤』は電子書籍化されていないため、シリーズをコンプリート出来ずにます。

諸橋は「ハマの用心棒」と呼ばれ、暴力団に一目置かれる存在ですが、両親を暴力団のせいで亡くしたため、若いころは暴力団を憎悪するあまりにかなりやんちゃをした経歴があって、県警の上層部や監察官から目を付けられています。信念に頑ななところがあり、人間関係を円滑に運ぶことを苦手としています。諸橋とは対照的に、係長補佐である城島はラテン系のおおらかさを持ち、さまざまな面で諸橋をサポートします。彼の口癖は「まずは飯だ」😆 ちょっと言い回しは変化がありますが、食事を提案するのはいつもこの人の役割のようです。「腹が減っては戦はできぬ」をもろに実践している感じです。
この名コンビが日々横浜の安全のために尽力します。マル暴である彼らが取り締まる対象である暴力団「マルB」の中には昔ながらの任侠としてかなりの力を持つ「神野のとっつあん」と呼ばれる貴重な情報源がいます。諸橋は任侠も暴力団の一種として、神野に対しても話は聞きに行くが慣れ合わないように頑なな態度を保とうとしますが、城島の方はそういうこだわりがないので、諸橋の態度を毎度ちょっとだけ批判するのがお決まりの儀式のようになっています。

第1弾の『逆風の街』は、潜入捜査官がテーマです。地元の組織に潜入捜査中の警官が殺され、あわや「警察への挑戦か!?」と沸き立ちます。暴対係の管轄から外れるような対象でも気になることを追いかけていくので、笹川監察官から文句を言われたり、捜査中止を言い渡されたり、逆風の中を首を覚悟で真実を追求します。
寺川印刷という零細企業の経営者寺川が街金に借金したのがもとで、暴力団から「金返せ」攻勢をかけられ、それまで地域課で相手にされなかったのを諸橋が捜査中の暴力団関係から担当することになり、警察を信用しようとしない寺川の説得にあたります。この寺川は最初はただの零細企業の暴力団被害者のように見えますが、結構したたかな曲者ですね。

第2弾の『禁断』は麻薬と華僑または中国系のマフィアをテーマとしています。横浜・元町で大学生がヘロイン中毒死した事件に、暴力団・田家川組が関与していると睨んだ諸橋は、ラテン系の陽気な相棒・城島と聞き込み調査を開始します。事件を追っていた新聞記者、さらには田家川組の構成員まで本牧埠頭で殺害され、事件は急展開を見せます。それらすべての背後で糸を引いているのは誰なのか、「麻薬」は暴対の管轄じゃないと揶揄されつつも真相に迫ります。

第4弾の『臥龍』は、横浜に流入する不穏分子と元からいる勢力の対立や勢力図がテーマですが、関東進出を目論む関西系の組長が管内で射殺された事件で、捜査一課があげた容疑者は諸橋たちの顔なじみである神風会の神野とその唯一の子分岩倉でした。捜査一課の短絡的な見立てにまったく納得できない諸橋以下暴対係は独自に捜査を進めますが、捜査一課から「捜査妨害」と批判され、対立を深めることになります。
この巻での読みどころは笹川監察官が諸橋の「敵」ではなく、実はともに冤罪を憎む同志と見られるところです。また、上層部にも話の分かる人がいて、筋さえ通せば諸橋の捜査の仕方に理解を示し、便宜を図ることができる人がいるのは心強いですね。

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