徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:松岡圭祐著、『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』(新潮文庫)

2021年11月25日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の作品だからと特に注意せずぼんやりと電子書籍で買ってしまいましたが、『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』とタイトルに「ふたたび」がついている以上、その前の『ミッキーマウスの憂鬱』があるはずなことに読んでしまってから気付きました。😅 
ただ、ストーリー上は続き物というわけではなく、単にディズニーランドのバックステージが小説の舞台であるというだけの話なのだろうと思います。重なるキャラもたぶんあるのでしょうが、それは後で確認することにします。

『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』は、東京ディズニーランドで「カストーディアルキャスト」(清掃員)として19歳の永江環奈を主人公としています。高卒で「就職」というには不安定な立場の「キャスト」と呼ばれる雇用形態で、母親からは「所詮、清掃のバイト」とバカにされ、職場ではダンサーなどの華やかなキャストたちに比べて地味で、「カースト最下位」として軽んじられる毎日にだいぶ嫌気がさしてきている中、閉園後に残る謎の客の捜索や園内のカラスを許可なく猟師に打ち殺させているという噂、そしてテーマパークの顔として活躍するアンバサダーの公募といった松岡圭祐の作品にしてはスケール感が小さい事件が互いに絶妙に絡み合って物語が進行していきます。
環奈は他作品のスーパーヒロインとは全く違い割と平凡な等身大の19歳の女の子という感じです。作者の新しい路線なのでしょうか。
分かりませんけど、ディズニーランドのバックステージという閉じられた世界で平凡な主人公にとっては大事(おおごと)のアンバサダーに向けた努力をしながら人間として少し成長するという青春小説です。
舞台設定のリアルさやキャラの深みは「松岡圭祐」という感じがしますが、テーマはあまり「らしく」ないですね。だから面白くないというわけではなく、きちんと「読ませる」作品です。
ただ、好みの問題として、私はもっとスケールの大きい(けれどあまり人の死なない)ミステリー要素の大きい作品の方が好きですね。

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2021年11月23日 | 書評ーその他

松岡圭祐の固定ファンとして小説ではない本書は読むかどうか迷いが生じる「色物」の1つではないかと思います。
しかし、これはただの小説を書くためのハウツー本ではありません。
前半部で小説というか物語の作り方ー「想造」ーについて詳細に説明されています。「想造」という新語も目を惹きますが、何よりもファンとして興味深いのは松岡圭祐がどのようにして創作しているのかが分かる点でしょう。なぜ「書き下ろし」作品が少なくないのかというちょっとした謎も本書で解けます。

後半部は小説家デビューを果たした後に何に注意すべきなのか、どういう心構えを持つべきなのか、といった個人事業主である小説家のための小説ビジネスのハウツーが説明されています。この部分が特に「ここまで書いていいのか心配になるほどノウハウ満載、前代未聞、業界震撼、同業者驚愕の指南書! 」と言われるに値する部分です。
書評やレビューの多さと売上は相関関係にないとか、映画化に際しての原作者の立場とか、コミカライズではどうかなど消費者として普段想像することもないような「ビジネス」の部分が非常に詳しく説明されています。
私自身、最近「会社員+副業」生活を卒業して完全な個人事業主となったので、小説家を目指さないにしても、個人事業主の観点からも非常に興味深い内容です。
様々な舞い上がりそうになるような話には戒め、売れないなど挫けそうになる場合には励まし、本業の「想造」でよりよい作品=商品を作り出すことに専念すべしと激励するところは、「後継者求む!」という著者の熱意がひしひしと伝わってきますね。
「読書を楽しめる層は限られているけれども、それでもミリオンセラーを出し、億万長者になれる可能性がある職業が小説家」ということですね。
ドイツ語学習者を対象とする私のビジネスはもっと客層が狭いニッチな世界なので、億万長者になれる可能性はゼロですけど、将来書籍出版を目指す際の参考になりました。

『小説家になって億を稼ごう』をAmazonで購入する。または、Hontoで購入する

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 十一 其の才、花と共に発くを争うことなかれ』(ビーズログ文庫)

2021年11月21日 | 書評ー小説:作者ア行

『茉莉花官吏伝』の最新刊が出ていたので早速購入して一気読みしました。😊 
ラノベは軽く読めていい気晴らしになりますよね。

さて、『茉莉花官吏伝』のヒロイン・茉莉花はこれまで無理難題をいくつも乗り越え手柄を立てて、破竹の勢いで出世しているため、嫉妬という名の“やっかいごと”に巻き込まれないよう皇帝・珀陽が次に出した課題は「絶対に失敗する任務」で、山に囲まれたバシュルク国への潜入捜査です。その首都トゥーリは難攻不落な要塞都市として知られており、いざという時は外側(アオセン)を切り捨てて内側(イネン)に籠れるように設計されています。外国人に対して鷹揚で、外側ならば比較的自由に外国人の出入りができるものの、立てこもるための要塞機能を持つ内側はどんな間諜でも手に入れられなかった機密情報であり、情報管理は徹底しているという。茉莉花の任務はそうした機密情報を掴み、首都攻略の方法を探るというもの。
この任務のため、茉莉花は以前恩を売っておいた赤奏国で戸籍を作り、サーラ国でジャスミン・ラクテスとしての滞在記録を偽造してもらい、「内乱や戦争のせいでその両国にいられなくなって仕方なく異国人でも入れるというバシュルク国の傭兵学校で勉強するよう知人に勧められた」という設定で傭兵学校への潜入に成功し、順調に優秀さを認められて進級していきますが、想定外の事態に巻き込まれて「次巻に続く」になります。
「え、もう終わり?」という物足りなさが残ってしまう感じですね。

ところで、外側(アオセン)はドイツ語の außen、内側(イネン)は innen だということにだいぶ後になって気づきました。「バシュルク」という国名も何かドイツ語と縁のあるものからもじったものなのでしょうか。山に囲まれ資源に乏しいという国のイメージからすると、スイスがモデルになっているように思えます。だからドイツ語の単語をほんの少し採用したのでしょうか。他にも「ユール」という冬の祝祭に言及されており、これは北欧起源のお祭りで、やはりゲルマン系と言えるので、古代ゲルマン風のファンタジー世界観が構築されているようです。
漢字+カタカナで表記されたドイツ語単語は、アルファベット表記に馴染んでいる私にはある意味新鮮でした。


『茉莉花官吏伝 十一 其の才、花と共に発くを争うことなかれ』をAmazonで購入する。またはHontoで購入する

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2021年11月20日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


23歳の新人ラノベ作家 杉浦李奈を主人公とした文芸ミステリーは、すでに第2弾も発売告知されており、松岡圭祐の執筆スピードは一体どういうことになっているのだろうかと毎度のことながら感心しつつ新シリーズを読んでみました。
20代前半の若い女性を主人公にするのは安定の松岡ワールドと言えますが、今回は文芸、純文学の世界で物語が展開します。文学作品からの引用や芥川や太宰などの日本の代表的な作家にまつわる事件などが織り込まれている雰囲気は少し三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズに似通った匂いがあります。けれども主人公の杉浦李奈はまだ3作しか出していない「Z級ラノベ作家」でビブリアの栞子さんのように古書に詳しいわけでも、松岡圭祐自身のこれまでの作品に登場するスーパーヒロインのように特殊な身体能力や膨大な知識量と推理力があるわけでもなく、文学的素養はあるけどまだ未熟な作家に過ぎないところが特徴的と言えます。
新進気鋭の小説家・岩崎翔吾との雑誌対談に出席し、テーマの「芥川龍之介と太宰治」について互いに意見を交わした李奈は、これを縁に次作の帯に岩崎からの推薦文をもらえることになりましたが、新作発売直前に岩崎の小説に盗作疑惑が持ち上がり、せっかく郵便で送られてきたばかりの献本の帯を外して出版社に返却を求められます。それどころか、このスキャンダルを利用して岩崎の盗作の真相に迫るノンフィクションを書くように担当編集者から指示され、事件に深くかかわっていくことになります。
杉浦李奈がノンフィクション作家としての取材など右も左も分からないところから始め、様々な人に関わって取材を重ねて行くことを通じてどんどん逞しくなり、人間的に成長するというストーリーラインと作中のところどころにスパイスとしてちりばめられた文学談義の魅力もさることながら、どんどん掘り下げられていく岩崎翔吾という人物像も実に興味深いです。
しかし、メインディッシュはやはり、盗作疑惑が持ち上がってからしばらくして岩崎翔吾は失踪し、後に李奈に死体として発見される展開も目を惹きますし、その後、岩崎に盗作されたと主張していたフリーライターの嶋貫克樹も死んでしまうことで事件が新展開を見せ、謎が深まっていくミステリー性の高さですね。
出版業界の裏事情も巧みに織り交ぜられているところも興味深いです。

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李奈が今後どう成長して行くのか、早くも次巻が楽しみです。

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