徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『千里眼の復活』(角川文庫)

2021年06月22日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


『千里眼』シリーズも12年ぶりの新刊が出ました。
私は5年ちょっと前に『千里眼完全版クラシックシリーズ』12巻16冊 を一気読みしたのですが、実はこれには「新シリーズ」と呼ばれるものが10巻14冊あるんですね。『千里眼の復活』はこの「新シリーズ」の続編なので、その存在を始めて知ったのでした。知ってしまったらもう読むしかないですね(笑)

『千里眼の復活』はコロナ禍後の日本が舞台で、航空自衛隊基地百里基地から仮配備されていた最新鋭戦闘機F-70が盗み出されるところから始まります。このF-70は架空の戦闘機ですが、欠陥だらけなのにトランプ元大統領にほとんど強引に売りつけられたF-35の完全改良版という設定で、1機だけ日本に購入させたことになっています。
F-70は在日米軍普天間基地にも配備されており、そこからも同様に盗み出されてしまいます。このF-70は性能が良すぎて味方でも発見できないほどステルス性に優れ、F-35が束になってもかなわない戦闘機。これが2機、謎の敵の手にわたり、東京と青森が空爆されます。
自衛隊の方ではF-70のデータ流出に関わったと目される情報処理官に対する捜査が行われますが、催眠誘導で消されたらしい記憶を呼び起こすために臨床心理士の嵯峨がことに当たったものの、機密情報が明かされないままでの誘導には限界があったため、彼の提案で元自衛隊パイロットであるこのシリーズの主人公・岬美由紀が担当することになります。これによって国家の危機に深くかかわることになった美由紀が独自ルートで捜査をすることになります。

このストーリーは、日本の離島が中国やロシア勢に売却されてしまっていることの問題点を浮き彫りにします。現行法では日本の土地の売買に買い手の国籍制限や使用目的制限などがなく、外国勢が無人島を購入してそこに軍事拠点を作ったりすることを阻止できない現状です。日本領土なので、日本の法支配は受けますが、完全私有地であるため、所有者の同意なく警察権力が介入することはできず、監視もできないという都合の悪い状況です。
実際に軍事拠点が作られているかどうかはもちろん不明ですが、可能性として領土内に敵の拠点を抱え込むリスクがあるのは確かです。
本作には言及されていませんが、水源を含む土地も外国勢にどんどん売り渡されている現状は国防の観点からだけでなく、国の将来の存亡にかかわる資源問題です。きちんと危機感を持って対策を講じないと、少子高齢化による人員不足、経済力低下、兵力低下で最低限の自衛すらままならない状況に陥るのではないでしょうか。
この作品はそういう意味で政治批判的な「警鐘」と解釈できます。

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