徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

2018年09月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『隠蔽捜査』シリーズ第2弾の『果断』は第61回日本推理作家協会賞と第21回山本周五郎賞受賞作品。

主人公は引き続き竜崎伸也(46)。今回は大森署署長として銀行強盗犯逃走から立て籠もり事件で活躍します。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立し、異例ながらも前線本部の最高責任者として具体的な指揮はプロに任せつつも、意思決定が必要な時に判断を下し、ちゃんとそのことに対して責任を取る姿勢に心が洗われるようなすがすがしさを感じずにはいられません。「正しいことを正しいと言える珍しいキャリア官僚」と噂のある竜崎という設定ですが、そういう人が変人扱いされるような官僚機構は腐敗しかしないので、現実の官僚によるスキャンダルなんかに嫌気がさしている一般国民にとって、一種のカタルシスが味わえるストーリーです。架空の物語であることが本当に残念なんですけど。

今回は内助の功の奥さんが胃潰瘍で入院してしまい、竜崎の日常生活のダメっぷりが露呈してしまいますが、ちゃんと奥さんを気にかけているし、できることは自分でしようと就職活動で忙しい娘に任せきりにしないあたりが健気で好感が持てます。男女の役割分担に関して非常に封建的な考え方の持ち主ではありますが、それを周りに押し付けようとしないところが評価できます。また息子が目指したいアニメの世界にも、見てくれと言われたDVDを見て、やや認識を改めるところも、なかなか柔軟性のある親父っぷりで拍手したいくらいですね。

ストーリー展開は第1弾よりも緊迫感があり、また責任を取らされて降格されそうになったりしますが、部下の「ひっかかり」を無視せずに事件の洗い直しをすることで一転事件が全く違う様相を示し、SATが突入して犯人を殺したという厳しい批判をひっくり返すことになるのがまた痛快です。きっとこれで部下の心もがっちりゲットできたことでしょう。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作