徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『鬼龍』、『陰陽』、『憑物』(中公文庫)

2021年03月29日 | 書評ー小説:作者カ行


昨日読んだ『豹変』がシリーズ物の第4弾であったことが判明したため、気になって、シリーズの前作『鬼龍』、『陰陽』、『憑物』の3作を一気読みしてしまいました。

まずはシリーズ第1弾『鬼龍』ですが、警察小説のヒットでブレイクする以前に執筆した伝奇エンターテインメント(1994年初刊)で、本来は単独作として書かれた祓い師・鬼龍浩一の物語です。出雲族を祖とする鬼道衆に属する祓い師・鬼龍浩一は修行中の身で、陰の気が凝り固まって怒りや性欲に憑りつかれたようになる「亡者」を退治することを生業としています。
濡れ場が多いのにエロくならずに猟奇的になるところが興味深いです。
また、修行中なので、祖父に容赦なくこき使われているところがコミカルでいい味を出してます。


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第2弾『陰陽』はシリーズ物として意識された作品で、これが本来のシリーズ第1弾と言えます。鬼龍浩一は鬼龍光一と改名し、黒づくめの服装がトレードマークとなります。同じく出雲族のトミノアビヒコを先祖とする奥州勢の安倍孝景が新キャラとして登場し、こちらは銀髪に白づくめの服装がトレードマークです。そしてもう一人、警視庁生活安全部・少年事件課・少年事件第三係の巡査部長、富野輝彦が主人公として登場します。警察小説家として評判になった後なので、物語のフレーミングを変更したのでしょうね。警察小説と伝奇小説が合体した独特のエンターテインメントになっています。
富野はその姓からも明らかなように出雲族のトミノ氏の末裔で、本人には自覚がないものの術者としての素質があるという設定です。
若い女性を陵辱のうえ惨殺する異常な事件が東京の各所で発生し、捜査にかりだされた警視庁の富野は、現場に毎度現れる黒ずくめの人物に気づく、というのが二人の出会いです。富野は犯人の少年たちを逮捕しますが、彼らは鬼龍のお祓いの後だととても残忍な強姦殺人を犯した犯人のようには思えない別人になってしまい、犯行のことも夢を見ていたようだと供述していたことから、鬼龍の語る「陰の気」だの「亡者」だのを「祓う」という現象を受け入れざるを得ず、親玉の「亡者」(亡者は他人を惹き込んで新たに亡者を生む)を探し出して事件の根本的解決に努めるため、鬼龍および安倍孝景と協力することになります。

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第3弾『憑物』では、渋谷のクラブで十五人もの惨殺死体が発見され、未成年者が関係していることと、前回の強姦殺人事件での活躍で捜査一課長の田端守雄に見込まれたことで富田が捜査に加わることになります。クラブでは客や店員が死ぬまで斬りつけ合ったようなので、グループ抗争がエスカレートしたものとして捜査が進められますが、間を置かずに同様の事件が2件起こり、どの現場にも六芒星(またの名をかごめ紋)が残されていたため、それらの事件の裏に何者かの意図が隠されているという認識に至ります。
富田は六芒星を最初の現場で見つけた時点で妙な臭いを嗅ぎつけたので、鬼龍に連絡を取り、協力を得ようとします。そこで鬼龍の動きを探り、あわよくば手柄を立てようと目論む奥州勢の安倍孝景も加わり、奇妙な協力関係が結成されます。
ここでもやはり親玉亡者のお祓いをすることで一件落着するのですが、『陰陽』を読んだ後にすぐ『憑物』を読むと、「この人が親玉亡者かな」とかなり早い段階で察しがついてしまうのが玉に瑕です。途中を繋ぐ糸を少しずつ手繰り寄せていく過程にはそれなりにミステリーとしてのエンタメ性がありますが、読み終わった後は「マンネリ」の印象がやや強く残りました。


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書評:今野敏著、『豹変』(角川文庫)

2021年03月28日 | 書評ー小説:作者カ行



久々の今野作品です。
私は1人の作家が気に入るとその作品をコンプリートしようとする癖があり、今野作品もかなり買い込んでありました。もちろん、多作家なので全部というわけにはいかないのですが。
今回手に取ったの『豹変』は、実は「祓師・鬼龍光一」シリーズの第4作ということでした。商品紹介に特にシリーズのことが言及されていなかったので知らずにこの作品だけ読んでしまったのですが、前作を知らなくても特に支障はないです。
主人公は祓師・鬼龍光一ではなく警視庁生活安全部・少年事件課・少年事件第三係の巡査部長、富野輝彦なので、今野氏の警察小説の1つと捉えていたのですが、世田谷の中学校で同級生を刺した角で補導された14歳の少年が何かに取り憑かれたような言動と行動で警察署から忽然と消えてしまい、少年の行方を追おうとした富野の前に鬼龍が登場するところで、普通の警察小説とは違う話運びになってきます。
その後、さらに2件の中学生による傷害事件が起こり、いずれも狐憑きのような言動を示したため、その元は何なのか相棒の有沢と、鬼龍ともう1人の同業者の安倍孝景の協力を得ながら探っていくストーリーです。
鬼道衆(鬼龍)だの奥州勢(安倍)だの大国主の末裔(富野)だのという神秘的な神道系の話が出て来るので、ファンタジーか?と思いきや、かなりドライな科学的な説明がされていたりするので、やはり警察小説の範疇?と分類しがたい絶妙な匙加減で興味深いですね。

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書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)

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書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 エピソード1<新装版>』(講談社文庫)

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書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 黄の調査ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 緑の調査ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 黒の調査ファイル』(講談社文庫)

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書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 沖ノ島伝説殺人ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 プロフェッション』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 エピソード0 化合』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『同期』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『欠落』(講談社文庫)

書評:今野敏著、横浜みなとみらい署暴対係シリーズ『逆風の街』、『禁断』、『臥龍』


書評:松岡圭祐著、『高校事変 X』(角川文庫)

2021年03月26日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


この高校生・優莉結衣を主人公にしたバイオレンス小説もついに10巻まで来ました。
結衣の異母妹である凜香の実母・市村凜は意識不明の重体に陥っているはずでしたが、彼女が入院している病院で看護師が殺害され、捜査が進むうちに入院患者が意識を取り戻し、市村凜ではないことが判明します。さて、本物の市村凜はどこで何を企んでいるのか?
一方で、結衣はなぜか国際文化交流のためのホンジュラス訪問を予定している慧修学院を訪問し、校長に面会しますが、あっという間に追い返されます。彼女のこの謎の行動は、後にホンジュラスでの武装集団による襲撃の裏に優莉家長男の架祷斗があったことで理由が明らかになります。父・匡太の遺志を実現しようと着々と力をつけ準備を進めてきた架祷斗はホンジュラス訪問中の慧修学院3年生の生徒たちを人質に日本政府に要求を突きつけますが、政府は極秘裏に自衛隊特殊部隊を結衣とともにホンジュラスへ派遣します。こうして結衣は人質の生徒たちを救い、兄の愚行を止めるためにまた戦闘の只中に突入するわけですが、本物の統率の取れた軍人相手にほぼ全く歯が立たず、何度も「これまでか」という状況に追い込まれます。
この巻の特徴は、結衣の独壇場ではなく、明らかな味方による助けがあることでしょう。
長男との戦いは次巻へ持ち越されますが、次は最終回でしょうか?いよいよクライマックスという印象を受けますが、ひょっとしたらあと2巻くらいあるのかもしれません。どう決着がつくのか楽しみです。





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歴史小説

書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)

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推理小説 

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高校事変シリーズ

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その他

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書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

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書評:天藤真著、『星を拾う男たち』(東京創元社・天藤真推理小説全集13)

2021年03月25日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行


『星を拾う男たち』(東京創元社・天藤真推理小説全集13)は1963年~66年発表の11編を収めた短編集です。
  • 天然色アリバイ
  • 共謀者
  • 目撃者
  • 誘拐者
  • 白い火のゆくえ
  • 極楽案内
  • 星を拾う男たち
  • 日本KKK始末
  • 密告者
  • 重ねて四つ
  • 三匹の虻
「天然色アリバイ」は殺人の準備段階から実際に実行に移すまでのお話。
「共謀者」は一種の産業スパイストーリーではあるものの、技師の自宅に保管してある重要書類を盗み出すために技師そっくりの偽物が本人に成りすまして侵入するというちょっと変わった企みの計画から実行までのお話。
「目撃者」は、オペラ歌手が昔関係した男に再度肉体関係を持つように脅され、現夫が相手の男を殺す計画を立て、手下に実行させるお話。
「誘拐者」は、奥手の男が思いを寄せる女を誘拐・換金するお話。推理小説に分類されるのかどうか少々疑問に思える話運びです。
「白い火のゆくえ」は、誤刷の記念切手「白い火」を偶然手に入れた中学生がその切手を巡って取り合い・盗み合い(?)のトラブルに巻き込まれるお話。
「極楽案内」 は予告殺人がテーマで、ターゲットは有名画家。万全の警備で衆目の見守る中、本人の誕生日パーティーで予告通り死亡してしまうお話。
表題作「星を拾う男たち」は、4時起きで仕事に向かう拾い屋コンビが朝一番に通り道にある二階屋の窓から落ちてきた死体に出くわすお話。
「日本KKK始末」は、完全犯罪の計画から実行までのお話で、推理小説では通常後から種明かしされるようなトリックが先に計画の一部として開陳され、それが成功するか否かを追っていくため、「推理」部分がないのですが、サスペンスで面白いです。何とも皮肉な結末で、なかなか味わい深いです。
「密告者」「重ねて四つ」の二編にはシリーズキャラクターのひとり、中央探偵社の仙石達子部長が登場し、ミステリー風コメディ?のような感じで、オチがまた皮肉です。
「三匹の虻」は、何やら争っている様子の男二人がどぶんと工業排水でどろどろの川に落ちて死亡する事件のお話で、果たして殺人なのか事故なのかが争点となります。最初に発見された死体の妻が怪しまれますが、果たして彼女の招待は?素人探偵として事件を嗅ぎまわり、警察に邪魔者扱いされる謎の男は何者なのか?
この短編集の中で一番泥ついて後味の悪いストーリーです。


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書評:天藤真著、『死角に消えた殺人者』(東京創元社・天藤真推理小説全集8)

2021年03月02日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行


天藤真推理小説全集8の『死角に消えた殺人者』は、千葉県銚子の屏風浦というところが舞台で、数十メートルの断崖から海に落ちた車から同乗四名の遺体 が見つかるという事件の謎を解く推理小説で、犠牲者の1人の娘・塩月令子が母の仇を取るべく素人探偵として真実に迫ろうとします。
彼女はその過程で、母子家庭で不審な殺人事件で母を失って天涯孤独となった自分に対する世間の偏見や冷たい風を次々と味わうことになります。いつも一緒にいる「心の中のお母さん」の励ましがあるために彼女の悲劇性は抑えられ、手段には問題があるものの素人探偵をする健気さの方が前面に出ています。

4人の犠牲者同士の間に生前の関係があったのかどうか、誰か一人の周辺に殺人動機を持つものがあり、他の人は巻き添えになっただけなのか、はたまた異常者による偶然の選択だったのか、ということが捜査の焦点となります。
真実が意外なところにあるのは推理小説の醍醐味です。この作品はまさに王道の推理小説と言えるでしょう。

気になる点と言えば、時代が違うので、女性の役割や女性に対する考え方などにやはり強い違和感を持たざるを得ないことでしょうか。

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