徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:ピエール・ルメートル著、『悲しみのイレーヌ』&『傷だらけのカミーユ』

2016年10月31日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

去年読んだピエール・ルメートルの『その女アレックス』が実はヴェルーヴェン警部シリーズ3部作の第2作だったと最近気が付き、後の2作を読んでみました。『その女アレックス』が最初に日本語訳されて、後から『悲しみのイレーヌ』&『傷だらけのカミーユ』の日本語訳が発行されたそうです。

さて、シリーズ第一作の『悲しみのイレーヌ』ですが、カミーユ・ヴェルーヴェン警部の奥さんであるイレーヌの運命は先に『その女アレックス』を読んでしまっているので最初から分かっていたとはいえ、どうやってそこに至るのかはまるきり予想がつきませんでしたので、大いにはらはらしながら読むことができました。ストーリーは異様な手口で惨殺された二人の女性から始まり、ヴェルーヴェン班が捜査を始めた後に、過去に起きた事件との関連性が明らかになり、どうやら推理小説の殺人シーンの再現であることが判明していくのですが、それが犯人に繋がる手掛かりになるわけでもなく、捜査は行き詰っていきます。そして途中に衝撃的な転換があり、読者を驚愕の底に突き落とすような感じです。

辛うじて犯人は捕まえられますが、奥さんを救うことはできなかったので、ヴェルーヴェン警部の失意は推して知るべし、です。

原題は”Travail soigné(丁寧な仕事)”で、推理小説の殺人シーンを細部にこだわり再現する殺人犯の行為にスポットを当てています。それに比べると、日本語の題名はあまり説得力がないというか。。。シリーズ作すべてのタイトルに人名を入れようという意図なのでしょうが、中身にそぐわないと思います。

『悲しみのイレーヌ』のすぐ後に、シリーズ3作目で最終巻の『傷だらけのカミーユ』を読んでも殆ど違和感はありません。イレーヌの事件から5年後という設定で、彼の現在の?付の恋人アンヌが武装強盗事件に巻き込まれるところから始まります。

『悲しみのイレーヌ』はもっぱらヴェルーヴェン警部視点で語られていましたが、『傷だらけのカミーユ』では視点がヴェルーヴェン警部と誰だかわからない「おれ」、そして時としてアンヌに交代しながら話が進行していきます。

強盗は本来ヴェルーヴェン警部の管轄ではないはずなのですが、大事に思っている女性が巻き込まれたことを放置しておけず、捜査権を無理やり自分に引き寄せ、規則違反を重ね、捜査1日目、2日目、3日目と、どんどん窮地に追い込まれていきます。

前2作にあったようなまさかの衝撃的大転換はなく、意外性は普通のミステリーの範疇に収まるように思いますが、それでも話の行き着く先はなかなか見えず、大けがを負わされたアンヌがなぜか強盗犯にその命を狙われていることで、いやおうなしに緊張感が高まっていきます。

そして最後の方になって、「おれ」の正体がようやく明らかにされます。

決してハッピーエンドではなく、まさに「傷だらけ」のカミーユ・ヴェルーヴェンだけがあとに残される、というような悲哀漂う物語です。あまり家庭運に恵まれていないようですね。

両作品とも一度読み出したら止まらない牽引力をもつ名作です。

 

 


書評:ピエール・ルメートル著、『その女アレックス』(文春文庫)


書評:広瀬隆著、『東京が壊滅する日 フクシマと日本の運命』(ダイヤモンド社)

2016年10月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『東京が壊滅する日』はなかなか衝撃的なタイトルで、『日本沈没』なんかを連想させるSFのようではありますが、サブタイトルの「フクシマと日本の運命」で分かるように、ノンフィクションです。しかし、フクシマ及び「東京の壊滅」を具体的な現在の東日本のデータをもとに予想することに重点を置いているわけではなく、原爆開発から始まる原子力マフィアの正体を明らかにする、闇の歴史の集大成のような本です。

以下が目次です。

はじめに 冷静に予測しておかなければならないことがある

第1章 日本人の体内で恐るべきことが進行している!

セント・ジョージで起こった恐怖の事件
パズルを解いた男ポール・クーパー元軍曹
原爆の選考だけが原因ではなかった
福島第一原発事故では、どれほどの放射能が放出されたか
フクシマ原発事故が起こった
山下俊一と長瀧重信と一番弟子・高村昇

第2章 なぜ、本当の事実が、次々と闇に葬り去られるのか?

放射性物質が持つ長期性と濃縮性
知られざる内部被曝バク問題
20年で100倍に激増した自然界の放射能
食品は大丈夫なのか
中国が日本の10都県の全食品を輸入停止!
次から次へと闇に葬られた科学者と、福島県の「甲状腺癌」72倍のデータ

第3章 自然界の地形がどのように被害をもたらすか

ネバダ核実験による映画人の被害者
被バク者として選ばれた人びと
安倍晋三の長州藩歴代犯罪の系譜
山間部に降り積もり、東京湾に流れ込んだ死の灰
カリフォルニア州の大都会でも大被害が!映画スターはなぜ死んだか
20年以上苦しむ、ナバダ核実験の住民被害者が訴訟を起こした
全ての被害を予測していたAEC(原子力エネルギー委員会)
日本の御用学者、中川恵一と山下俊一

第4章 世界的なウラン産業の誕生

放射線・放射能の危険性は、どのようにして明らかになったか?
X線の発見と知られざるエジソンの素顔
モルガン財閥がエジソンを育て、GEを生み出す
ヨーロッパでキュリー夫人をロスチャイルド家が育てる
夜光塗料が女工を被曝させ、ICRPの母体を生み出す

第5章 原爆で巨大な富を独占した地下人脈

原子爆弾のアイデアが誕生した
第二次世界大戦が勃発して、原爆製造計画が始動した!
真珠湾攻撃で一変した全世界
”マンハッタン計画”はいかにしてスタートしたのか
原爆の実験に成功、そしてヒロシマ・ナガサキ
なぜ広島・長崎に原爆が投下されたか
原爆によって天文学的な利益を得た巨大財閥
日本への原爆投下を勧告した人間は誰だったか

第6章 産業界のおぞましい人体実験

日本敗戦そして東西冷戦の時代から大々的に核実験がスタート
ABCCによる日本の被バク後遺症の調査が始まる
ヒロシマ・ナガサキABCCを受け継いだ日本の原子力第二・第三世代
「プルトニウム人体実験」と組織的50万人殺戮計画
ハーヴァード大学でも組織的な人体実験が!

第7章 国連がソ連を取り込み始めた

ソ連の原爆開発を成功させた二重スパイ集団がいた
マンハッタン計画を始動させた黒幕の正体
ソ連の犯罪”カチンの森の虐殺”に目をつぶったアメリカ
10万の囚人を使ったソ連の原爆開発部隊
”チェリャビンスク40番地”に起こった凄絶な惨劇
ソ連の汚染地帯が現在の日本人に教える4つの危険性
ICRPが誕生し、放射能の危険性を隠しはじめた!
いつまで殺人医師のデータに子供たちの生命をかけるのか

第8章 巨悪の本丸「IAEA」の正体

水素爆弾が生まれ、”原子力の平和利用”なる言葉が登場した
ビキニで第五福竜丸が被バクした ”水爆マグロ”の恐怖!
世界最初の原子力発電がスタートした
核実験で子供の癌死亡率が6倍に
ついにIAEA(国際原子力機関)が誕生し、WHOを支配した
日本における被ばく隠しの黒幕―医療界と七三一部隊
アメリカの首輪をつけた憐れな使用人たち
身の毛もよだつ放射性廃棄物の被害
IAEAがチェルノブイリ原発事故で正体を現し、大被害を隠した
原爆と同じ”核暴走”でプルトニウムを噴出した福島第一原発3号機
29年後にも200万人が苦しむチェルノブイリ事故の現実
食品業界のトップがIAEAの正体だった
原爆と原発は”双子の悪魔”

第9章 日本の原発からどうやって全世界へ原爆材料が流れ出ているのか?

5兆円をドブに捨てた日本の原発政策
日本の原発からフランスの核弾頭がつくられる!
日本の原発からパキスタンへ原爆材料が流出
オイルショックで原子力発電ブームを巻き起こしたフランス
何もせずに数百億円を日本から盗み取った会社の正体
フランスと一体化したイギリスの原子力産業
イスラエルの原爆とイラン・トルコ・イラク・インド・パキスタン・中国・台湾・韓国・北朝鮮と日本の玉突き現象

あとがき

目次を読んでいるだけでも原爆・原発関連の闇の深さと陰惨さが伝わってくるのではないかと思いますが、中身を読めば、更なる絶望が待っています。なぜなら、ことは東電と安倍政権に留まらないからです。歴史は第二次世界大戦前に遡り、ウラル鉱山採掘・原爆製造に深くかかわってきたロスチャイルド財閥、モルガン財閥、ロックフェラー財団は「原子力の平和利用」のスローガンの下、原発を世界中に広めて大儲けをしてきました。第8章の「原爆と原発は”双子の悪魔”」というのはこのことです。そしてこれらの悪魔の財閥はIAEAとICRPを占拠し、「放射能は安全」キャンペーンを展開し、勝手な「基準」を設け、原爆実験で多くの住民を被曝させてきたように、原発事故後も被曝地域をわざと放置しているわけです。

この本は、マンハッタン計画から、戦後のABCC、ICRP、IAEA、そして日本の731部隊、放医研、科学技術庁・原子力局に至るまでの悪の人脈を明らかにします。そしてイスラエルの核保有には沈黙し、イランの核開発、北朝鮮の核の脅威ばかり批判の対象となるおかしさも指摘しています。

フクシマの影響に関しては、特にネバダ核実験時に風下にあった広大な過疎地の一つセント・ジョージ(実験場から220㎞離れているところ)を始めとする周辺地域を例に挙げ、一番直接的に被曝した「アトミック・ソルジャー」たちの被バク総線量がおよそ8-9.5ミリシーベルトであったことと、次々に癌や白血病で子どもも大人も倒れ、死亡していった事実を指摘し、その事情を日本に当てはめてどうか、と論じています。注目すべきはやはり、核実験現場に駆り出され、軍事訓練をして被曝したアトミック・ソルジャーたちの被バク量でしょう。8-9.5ミリシーベルト。そして、それよりは被ばく量が少ないはずの220㎞離れたセント・ジョージ。セント・ジョージの葬儀屋が町内の癌死者の激増に気付いたのは原爆実験開始から5年後だったそうです。チェルノブイリ事故の際も、甲状腺癌をはじめとする様々な癌が「激増」したのはやはり事故から5年後でした。フクシマの事故からも既に5年が経過しています。被曝は福島県に限られたものではなく、東京を含む東日本一帯に広がっています。そして、徐々に「なんだか死んでいく人が多すぎるような気がする」と思い出している人たちが増えてきているようです。この著書にはそういうことはまだ書いてありませんが、別ソースでそのような報告が集まっていることを私は知っています。

恐ろしいのは、原水爆実験の被害者たち(アメリカばかりでなく、フランス、中国、ソ連も含めて)が長い間放置されている、あるいは特殊病院に集められ、黙らされてきた歴史、そしてチェルノブイリ事故の健康被害を克明に研究してきた研究者たちの辿った運命、その研究成果を認めず、それを批判攻撃ばかりするIAEAなどを考えると、日本の被曝被害者たちも同じように放置され、「放射能のせいじゃない」となだめすかされ、補償を受けられないまま20年以上も苦しむことになるのが予想されることです。

書評に戻りますが、この本の良いところは、原爆・原発の裏にある闇の歴史と人脈が総括的に扱われている点です。断片的には知っていることがあったとしても、それぞれを関連付けたりすることは必ずしも容易ではありません。それらのピースがここに集められて、パズルが完成することができるのは非常に勉強になります。

難点は、話が前後したりして、通しで読んだ時の流れが悪く読みづらいこと。系図も何度も登場するのはいいのですが、必ずしも血縁関係が明白に読み取れるわけではないので、あまり理解の助けにならないこと。そして、情報量が多すぎ、各章ごとの「まとめ」のようなものが欠けているため、読者が自分でメモでも取らない限り、頭に入れて整理することが難しいことです。もうちょっと構成を改善してもよかったのではないかと思います。

非常に平易に書かれた小出裕章著の『騙されたあなたにも責任がある』を読んだ後だと、特にその難解さが際立ちます。文章そのものが難解というわけではありませんが、構成上のまとまりの悪さがやはり理解を妨げている感じがします。

私なりにまとめると:

  1. 原爆・原発は人体実験の歴史とも深くかかわっている(ABCC、原水爆実験、プルトニウム人体実験など)
  2. その裏にはロスチャイルド財閥、モルガン財閥、ロックフェラー財団系の企業の利権がある。
  3. その彼らは国際機関IAEA、ICRP等を牛耳っている。
  4. 日本政府、日本企業(電力会社、日立製作所、東芝、三菱重工)はその国際的原子力マフィア構造に組み込まれているばかりでなく、「お財布」の役割も果たしている。
  5. 放射能の被害は今後も隠蔽され、被曝者は見捨てられる。

というところでしょうか。これで、絶望せずにいられましょうか?

 


CETA ~いつから反対者が悪者になった?

2016年10月24日 | 社会

CETAとはComprehensive Economic and Trade Agreement(総括的経済貿易協定)というEUとカナダの自由貿易条約で、かねてより、そのISD条項が民主主義の根幹を揺るがすと問題にされてきました。問題の根はTPPと同じです。たとえそれが、「仲裁裁判所」から「国際貿易裁判所」に名称が変更されたとしても、そもそも企業が国家の定める法律・規制を経済活動の障壁として裁判に訴えることができ、勝訴すれば賠償金を受け取ることができるというその可能性の存在自体が問題なので、本質的には何も解決されていないのです。多国籍企業に支払われる賠償金はもちろん敗訴した国の納税者が払うことになるわけです。つまり、国民が議会によって決めた、例えば環境規制とか、原材料表示義務などの法律が、その国で商売しようとする外国の多国籍企業の障害になるからという理由で、その規制によって失う利益オポチュニティーを、その規制を決めた国民が税金で補填することになるわけです。どう考えてもおかしいと思いませんか?カナダの企業がEU内で活動したいならば、EUの法律その他の規制にただ従うべきでしょう?関税が貿易障壁だから、それを下げろ、という要求とは全く次元の違う問題で、民主主義に基づく法制度そのものを揺るがすレベルのものです。

EU貿易総局長セシラ・マルムストレームは7月5日、これまでの欧州委員会の方針を曲げて、CETAを「混合条約」扱いにし、加盟各国の議会で審議することを認めました。それを受けて各国議会で審議され、ドイツでも先日連邦憲法裁判所が「解釈説明および加盟国ごとの追加記録をもって留保案件を解決すること」を条件に「一先ず」ゴーサインを出したところです。そして反対者はベルギーのワロン及びブリュッセル地方議会を残すのみとなりました。ベルギー政府は地方議会の承諾なしに条約に調印することができないので、月曜日までにワロン地方議会の説得に当たる時間を得ていたのですが、これまで7年間交渉にかかわってきた人たちや各国の経済相などから、並々ならぬプレッシャーをかけられる中、今日「ベルギーは調印できない」とミシェル首相が発表したので、「木曜に予定されているEU・カナダサミットはキャンセルか?」「CETAはまだ救えるか?」等と大騒ぎになっています。 

何としてもCETAを成立させたい政治家たちの言い分は、「カナダとの貿易条約すら調印に持っていけないなど、EUの機動力がないことの証明になってしまい、国際的に恥をかく」「ワロンはEUを人質に取った」などというようなものです。人によってもちろん若干のニュアンスの違いはありますが、とにかく「調印ありき」が大前提で、それを邪魔するワロン人たちがまるで物わかりの悪いバカ者のような扱いです。それが、ここ2・3日、私がテレビのニュースや主要メディアのオンラインニュースから受けた印象です。

「ちょっと待て」と言いたいです。7月に「CETAはEUレベルで締結・施行可能」という見解を強調した欧州委員会委員長ジャン・クロード・ユンカーを非民主的とやり玉に挙げ、何が何でも各国議会の承認を得るよう要求したのはあなたたちではなかったか?それで、ワロン人がノーと言ったから、今度はそちらを批判し、EUの機動力云々と脅しをかけるのはお門違いというものです。それなら最初からユンカー委員長の言うとおり、EUレベルで、欧州委員会及び欧州議会のみで条約締結すればよかったのです。でもそこでは民主主義の建前を振りかざし、今回はワロン議会の民主主義的な決議を全く尊重せずに、脅しすかして「イエス」と言わせようとする、えげつないダブルスタンダードです。

しかも、報道上なんだかすっかり無きものにされてしまっていますが、依然としてCETAとTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ条約)に反対する小さくない勢力は全欧で300万筆以上の反対署名を10月6日までに集めました(ヨーロッパ市民イニシアチブの主催団体の一つであるコンパクトのサイトより)。ワロン地方議会はたまたま議員たちが民衆に近いスタンスを持っていたから、「反対」多数となったのでしょう。ドイツでは明らかに民衆の声と議会の決定に乖離が生じています。CETAとTTIPの反対運動はドイツが最も盛んなのです。それなのに、ドイツ連邦経済・エネルギー相ジグマー・ガブリエルは、「TTIPはどうなるか分からないが、交渉の終わっているCETAだけは調印すべきだ」という謎の主張をして、社会民主党(SPD)党内からも顰蹙を買っています。「謎」なのは、根本的な条約の非民主性はどちらにも共通することなのに、交渉の進捗状況のみで違う扱いをしている根拠が不明だからです。ISD条項を含む限り、相手国がどこであろうと民主主義の危機であることに違いはないのです。それなのに、「何この空気!?」と非常に不快な違和感を感じる報道ばかりです。全欧から集まった300万筆以上の反対署名を無視し、あたかも問題点・批判点は全て解決されたかのように喧伝し、いまだに反対する人たちが、―現在はワロン地方議会が矢面に立っていますが―頑固で物わかりの悪い人間であるかのような議論の展開があちこちに散見されます。

ベルギーでは、社会保障予算が削られるなどの政策で社会的緊張が高まっており、ゼネストが頻繁に行われていたところなので、社会主義陣営の態度の硬化が顕著になっており、そのせいでCETAに関する妥協も受け付けなかったのではないかと、少なくともドイツ左翼系メディアTAZは報道しています。ツァイトオンラインは、ワロン地域の失業率の高さや、地元農業へのデメリットや消費者・環境保護スタンダードの低下が心配されていることを指摘していますが、その心配が正当なものであることは一切認めていないように見受けられます。正面から否定はしていませんが、肩を持つこともしていないので。

ワロン側は交渉のやり直しによって、いくつかの条文の変更を要求しましたが、EU側はそれを完全却下し、「条文は一切変更しない」としており、問題点は解釈説明や追加記録で解決すべしという態度を崩していません。

果たしてそのような条件つき承認が後に歯止めの役割を果たせるのか大いに疑問です。一度調印されれば、後はなし崩し的に新自由主義が一般市民の福祉を蹂躙していくのではないかと不安を覚えずにいられません。

参照記事:

TAZ(ドイツの左翼系新聞)、2016.10.24、「ベルギーはCETAサミットをおじゃんに
ツァイトオンライン、2016.10.24、「EUはCETA救済がまだ可能との見解」 
その他さまざまな2016.10.21-24間のニュース 


CETA:やっぱり加盟各国の国会で審議・批准 ー 欧州委員会の妥協

英EU離脱から何も学ばないEU—CETA&TTIP及びグリホサート

 


書評:小出裕章著、『騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実』(幻冬舎)

2016年10月23日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

小出裕章著、『騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実』(幻冬舎)もフクシマの翌年、2012年に発行された著書です。

こちらも読んでから大分時間が経ってしまってしますが、ここで提示されている問題は何一つとして解決されておらず、何が何でも原発推進の方向性が変わっていません。この本の帯にかかれている煽り:「この国に、もはや安全な食べ物はない」「原発即時全停止しても電力不足にはならない」「メルトダウン3・11から1年、次なる放射能拡散の危機が迫る」~3・11から5年以上経った現在も有効です。いくつかの、事故直後の隠蔽事実は徐々に明るみに出てきていますが、政府の基本姿勢は「隠蔽」の二文字に尽きます。だからこそ、甲状腺がんスクリーニングの規模を縮小、などと言い出し、これ以上の甲状腺がんの発覚が明るみに出ることを避けようという魂胆が丸見えです。

そして、アベノミクスとやらのすでに崩壊している経済政策もどきに騙され、原発問題・環境問題・被災者支援や被災地復興(すでに東北だけの問題ではない)などを二の次に回して、自民党に投票しようとしてるあなた、後で痛い目に遭って、「騙された」と言っても遅いのですよ。今一度、思い込みではなく、事実関係を勉強してください、と私は訴えたい。まさしく「騙されたあなたにも責任がある」です。

再稼働問題は、その後悪い方向にしか動いていないようです。そのうちこういった出版物にも検閲が入るようになるのではないかと懸念されるほど、日本の政治は随分とおかしな方向に突き進んでいるように見受けられます。

こうした背景を前に、今一度この本を俎上に載せることは意味があるのではないかと思い、読んでから随分立っているとはいえ、書評を書くことにしました。

以下目次です。論旨が分かるように第2レベルの見出しも書きだしました。

まえがき

1 なぜ東電と政府は平気でうそをつくのか

01 安定的な冷却を達成!?しかし冷やすべき燃料はすでにない?

02 千葉にも立ち入り禁止レベル。汚染は首都圏まで広がっている?

03 4号機は危険な状態が続く。影響は横浜まで及ぶ可能性も?

04 西日本も汚染されている。文科省は、なぜデータを公表しない?

05 基準の100万倍!ストロンチウムが海を汚染している?

06 「安全な被曝」はありえない。政府は法律を反故にしている?

07 食べ物からの内部被曝だけで「一生涯100ミリシーベルト以内」の根拠は?

08 汚染物質は東電に返却すべき?

09 フクシマの除染は事実上不可能。政府の嘘に騙されている?

10 セシウムは誰のもの?東京電力に除染の責任なし?

11 汚染がれきの再利用、100ベクレル以下で本当に大丈夫?

12 東京や大阪のがれき受け入れ問題。今の方法では住民を守れない?

13 福島第一原発はちょうど40年だった。もっとも危ないのは九電・玄海?

14 「溶け堕ちた燃料は水につかり、冷やされている」東電の解析結果に根拠なし?

15 廃炉の方法はいまだわからず。工程表はバカげている?

16 原発を60年まで認める政府。チェルノブイリは運転2年で事故

17 2号機、3号機には、いまだ水蒸気爆発の危険が残る

18 「首都圏直下型地震は4年以内に70%」の衝撃

2.更なる放射能拡散の危機は続く

19 広島原発の100発分を超える放射性物質が放出された?

20 事故後の「最悪のシナリオ」はなぜ隠ぺいされた?

21 米軍には9日も早くSPEEDIを提供していた?

22 「個人の責任追及はやめて欲しい」原子力学会はどこまで無責任なのか

23 「もう帰れない」ことを国は伝えるべき?

24 津波は3年前から想定されていた?

25 東電の黒塗りの文書。国も同じことをやっている?

26 事故は「津波が原因」はウソ。地震で機器が壊れていた?

27 SPEEDI公表の遅れで余計な被曝をした住民。しかし誰も責任を取らない?

28 コメ買取りは無意味。福島の東半分は居住も農業も不可?

29 原子力発電所は、3分の2の熱を海に捨てている?

30 核分裂は止められても「崩壊熱」は止められない?

31 原子力の世界は誰も責任を取らないルール?

32 20ミリシーベルト以下に除染、そこに人を住まわせてはいけない?

33 アメリカの原発が放出したトリチウム。毒性は低いが危険度は高い?

34 「SPEEDIは避難の役に立たない」班目発言をどう受け止めればいい?

3.汚染列島で生きていく覚悟

35 今すぐすべて廃炉にしても生活レベルは落ちない?

36 原発は電力会社が儲かるだけ。やめれば電気代は下がる?

〈参考〉立命館大学大島堅一教授の資料より 大島教授の資産では原子力発電が一番高い

37 汚染のない食べ物などない。責任に応じて分配すべき?

38 体内に取り込んだセシウム、そのエネルギーは全て体内に?

39 緩すぎるコメの規制基準値。子どもに食べさせて大丈夫?

40 お茶からも放射性物質。このまま飲み続けて大丈夫?

41 放射線測定器を買いたい。どうやって選べばいい?

42 内部被曝の測定は難しい?子どもを守るにはどうすれば?

43 出荷できないコメは東京電力の社員食堂で食べる?

44 粉ミルクからセシウム検出。30ベクレルは安全なの?

45 花粉の時期に子どもにマスクを着けさせるべき?

46 有機農法よりも化学肥料の野菜の方が汚染は少ない?

47 1兆円使った「もんじゅ」は1キロワットも発電していない?

48 福島第二原発の敷地を核のゴミ捨て場にするしかない?

49 沖縄国際大学ヘリ墜落事故。そこでも放射能が?

50 騙された人間には騙された責任がある

小出裕章元京都大学原子炉実験所助教は、長年一般人相手に原発の危険性を説いてきて、特に原発事故後はあちこちに講演に引っ張り出され、質問攻めにあってきた経験があるためか、この本も実に平易に、分かりやすく書かれています。

子育て中のお母さんたちの関心事は、おそらく38-46あたりのテーマだと思いますが、それだけでなく、もっと広い視野でだれも責任を取らない社会構造というもの自体も考えてほしいなと思います。

まだまだ散発的ですが、行政に頼らずに自分たちで放射能を測定して、できる限りの被曝回避をしようという動きが少しずつでてきています。例えば、ホワイトフードはかなり早い段階から食品の放射能測定を独自に行い、安全な食品の提供に努める一方、下のような放射能検査地図を定期的に公表し、汚染状況を見える化しています。

 

また、岩城には認定NPO法人 いわき放射能市民測定室 たらちねが立ち上がっています。

他にもいろいろな運動があるかと思いますが、結局行政は誰も責任を取らず、隠蔽することしか考えていないので、自己防衛のために自分たちで何とかしていくしかないというのは、現状仕方ないとはいえ、民主主義にあるまじき悲しい現状と言えます。

『騙されたあなたにも責任がある』は、国民一人一人の責任を示唆し、政府・行政の情報操作を鵜呑みにせず、自分で考え、調べ、行動する成熟した民主主義社会人となることを促す本だと私は解釈しています。日本人は特にこの点に関してかなり未熟さが目立つので、この手の注意喚起はいくらしても足りないくらいなのではないでしょうか。


書評:一ノ宮美成・小出裕章・鈴木智彦・広瀬隆他著、『原発再稼働の深い闇』(宝島社新書)

2016年10月23日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『原発再稼働の深い闇』(宝島社新書)は福一原発事故の翌年、2012年9月に発行された新書です。反原発運動にかかわりのある人にはすでに有名な小出裕章氏の名前につられて、発行間もなく買った本です。

再稼働問題は、その後悪い方向にしか動いていないようです。そのうちこういった出版物にも検閲が入るようになるのではないかと懸念されるほど、日本の政治は随分とおかしな方向に突き進んでいるように見受けられます。

こうした背景を前に、今一度この本を俎上に載せることは意味があるのではないかと思い、読んでから随分立っているとはいえ、書評を書くことにしました。

まずは目次:

第1章 原発再稼働の深い闇 

― 世論を無視した暴挙のカラクリ なぜ大飯原発3,4号機が再稼働の突破口になったのか(一ノ宮美成)

― 協力会社エンジニアたちの証言 福島第二の水素爆発疑惑を隠し、柏崎刈羽を再稼働させたい東電(鈴木智彦)

— 地元経済に深く食い込む原発マネー 若狭湾「原発銀座」買収工作の実態(一ノ宮美成)

― 現職道知事は経産省と電力会社の”傀儡” 北電「泊原発3号機」再稼働計画に蠢いた金と票(一ノ宮美成)

第2章 世論操作の深い闇

― 血税を使った国民洗脳 やらせ官庁「経産省資源エネルギー庁」原発推進PRの大罪(神林広恵)

— 原子力文化振興財団、電力中央研究所ほか 原子力ムラの公益法人に”天下り”した新聞社幹部たちの実名(高橋篤史)

第3章 汚染隠しの深い闇

— フクシマの原発事故は終わっていない 「冷温停止」「除染」という言葉に誤魔化されてはいけない(語り手=小出裕章、聞き手=明石昇二郎)

— 国連もぐるになった国際原子力マフィアの罪 年間被曝線量の規制値を操る「ICRP」の闇(語り手=広瀬隆、聞き手=大泉実成)

第4章 原子力ムラ復興の深い闇

— 脱原発の壁、天下りコネクション解剖 原子力系「独法」「公益法人」の巨大資産力(高橋篤史)

— 20人中16人が東電救済法案の採決で利害関係者として賛成 東電&関電株を保有する国会議員ランキング(佐々木奎一)

— 手放しでは喜べない「再エネ法」の成立 電通連&永田町”自然エネルギー潰し”の手口(李廉)

— 失敗しても原発業界は取っぱぐれがない仕組み(李廉)

— 原発利権の本丸を追う 「核燃料サイクル」を止めなければ、原発は止められない(李廉)

 

なんかもう、目次の見出しを見ているだけで、どろどろとした黒~い闇が目に浮かんでくるようです。各章ではその見出しに沿って、それを裏付けるデータ、例えば寄付金額とか、推進事業の受注額とか、団体名などが具体的に提示されます。

これらの利権ブロック、原子力マフィアにはいかなる理性的な正論、例えば、日本が地震大国であること、活断層の危険性、放射能汚染による健康被害の危険性などなどがまるっきり無視されてしまうほど、強く甘い利権構造があるわけですね。

東電株を所有する国会議員が多い中で、エネルギー政策に関する議論がなされればどういう結果になるか、推して知るべし、ですし、「団体票」という現象が許されている日本の選挙制度にも問題が大ありです。

ある閣僚経験者(自民党)の元秘書の証言:「電力は今もって、関連業種の裾野の広い巨大産業です。彼らと気脈を通じておくことは、再選こそが最大の関心事である議員にとって、極めて重要なことと言える。解散総選挙が近づき、票の流れが見えない現在のような時期にはなおのことです。
世論の手前、電力業界は以前ほど派手には動けませんが、水面下では活発に議員への働きかけを行っている。とくに、フクシマの原発事故後も種子替えをせず、原発推進に賛同している議員には手厚い支持を約束しているはずです」

これはこれで行動原理として議員自身にとっては筋が通っているのでしょうが、国民のための代議士としては倫理的にダメダメです。こうしたエゴイストに、どういう理由であれ投票してしまう国民の責任もあります。民主主義とは選挙のみで成立するわけはなく、常に自分たちが選んだ代表が不正なく、公約を守っているかチェックする必要があります。その一端を担うはずのジャーナリズムが、日本では政権に飼いならされてしまっており、国民の自覚も薄いなか、どこまで追い詰められれば方向転換するのかと、外からハラハラ見守っている私です。 


書評:孫崎享著、『日本外交 現場からの証言』(創元社)

2016年10月23日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

孫崎享著、『日本外交 現場からの証言』(2015.8 第一版第一刷)は比較的新しい本ですが、実は20年以上前、1993年発刊の同タイトルの著作に大幅加筆したものです。加筆部分はPART1にまとめられており、96ページ。1993年発刊部分はオリジナルのままPart2にまとめられいます。本全体で295ページの、「大作」とは言えないにせよ、比較的ボリュームのある著書となっています。

1993年のオリジナルの方は第2回山本七平賞を受賞し、当時の外務省の祝福を得て世に出た、とのことです。現在の政権べったりの外務省の在り方、政権の政策に反する意見を言う外交官は容赦なく飛ばされる現状からはちょっと想像しがたいことですが、少なくとも昔は「辞表を懐に忍ばせつつ、言いたいことを言うのが外交官の責任」という気骨ある精神があったそうです。

まずは目次から:

PART 1

第1章 20年ぶりに手にした、私の言論活動デビュー作。当時50歳だった現役外交官、孫崎享は何を考えていたか?!外交について、世界について、過去の自分と対話してみることにした

第2章 冷戦の終結が米国の戦略を変えた。これが日米関係に影響を与えた

第3章 米国の戦略に基づいて進められた日本社会の構造改革

第4章 米国隷従による日本の損失

第5章 日本が米国に隷属的になった歴史

第6章 米国が日本に隷属を求める分野

第7章 国際環境の変化による米国一極支配の崩壊。米国追随だけでは日本の国益につながらないことが明確になった

第8章 時代はぐるりと一回りして、元の一に戻ろうとしている。今こそ、『日本外交 現場からの証言』の考察を、もう一度役に立てていただきたい

PART 2

第1章 外交の第一歩は価値観の違いの認識

第2章 親善が外交の中心で良いか

第3章 情報収集・分析

第4章 新しい外交政策の模索

第5章 政策決定過程

第6章 外交交渉

 

PART 1の方の米国隷属云々の部分は同著者の『戦後史の正体』や、特に『日米同盟の正体』と重なる部分が多いので、私にとっては「おさらい」でしたが、どちらも読んだことのない方には、日米関係の戦後史を改めて振り返り、日米安全保障条約や朝鮮・ベトナム戦争中あるいはその前後、及び日中国交正常化にまつわる日米摩擦、冷戦後の日米貿易摩擦などの外交裏話を知るには興味深い部分だと思います。

PART 2の方はさすがに具体例がソ連崩壊、東西ドイツ統一、湾岸危機などで、時代を感じさせますが、外交においてはそれらの20数年前の出来事も「過ぎ去ったこと」ではなく、70年以上前の第2次世界大戦すら現在まで外交的重要性を持ち続けているのですから、いわんや20数年前の出来事をや、です。そして外交の本質が「異なる価値観と利益の調整」であることはある意味不変なので、23年前の考察も変わない今日的意味を持っていると思います。

そして島国日本の交渉下手および国際理解の不足も未だに変わっていないので、そこが変わらない限り、孫崎氏の提言が「時代遅れ」になることもありません。日本人は、海外経験の不足も手伝って、異文化との価値観の相違すらきちんと理解していないことが多いです。「男は黙って。。。」とか「以心伝心」とか「空気を読む」などは日本独特の価値観であり、そういうものとしての文化的価値はあるかもしれませんが、それを外交の場で、他国に押し付けることなどもっての外です。自分の意見・立場を明確に言葉で主張しない者は無視されるのが異文化交流であり、外交です。そうかといって、自分の立場ばかり主張して、それを100%通そうとするのも勿論不可能です。米国のように経済・軍事的に圧倒的に優位にある大国ならば、国内事情によって外交姿勢を決め、それを大国のエゴ的に他国に押し付けて従わせるということもある程度までは可能ですが、日本は経済力が90年代以降停滞し続けた今日、国際的地位がこの上なく下がっている上に、政治的にも国連常任理事国でないことなどからも明らかなようにウエイトが軽く、軍事的にも米国なしには機能しない軍備という意味で、単独の軍事的ウエイトは無きに等しいため、日本独特の価値観を国際外交の場で通そうとしても、挫折する以外の選択肢が残されていません。その事実を厳然と受け止めた上で、日本が何をできるか、何が国益となり、何が本当に国際貢献となるのかを考えながら外交政策を行っていく必要があるのです。

1983年の枝村純朗外務省官房長(当時)曰く、「国際会議、交渉というような形で、国際舞台に出た場合には、必ずしも男は黙ってばかりもおられない。ひところは、日本の代表は、スリーSである、サイレント、スマイル、スリープの三つであるというようなことを言われたこともありました。しかし、何が何でも口を出せばよいのかとなるとそうでもない。独りよがりの独善的な論理というものは通用しない。
相手と同じ論理的な土俵で話をすることが必要です。いくら自分の都合だとか考え方を言い立ててみてもダメなのです。我が国ではややもすると、 あいつは理屈っぽいと言って嫌われることがある。むしろ相手の情に訴えることをよしとする風潮があるので一言申し上げました。」

このころから日本人は果たして成長したでしょうか?

モーゲンソーは『国際政治』の中で外交の基本方式の一つとして、「国家は自国にとって死活的でない争点に関しては、すべてすすんで妥協しなければならない」と指摘しており、前述の枝村氏も「外交は、訳の分からないところでの勝負で、(中略)いつも五一点、五二点を目指し、何とか四八点、四九点になることを避けるのが外交の役割」と言っており、どちらも「ゼロサム」的スタンスとは縁遠い外交姿勢です。

現政権の外交姿勢は強硬で、一人よがり、そしてゼロサム的です。友好国からのわずかな批判にも過剰に反応し、抗議する外務省。独自判断なのか、政府からの要請からなのかは知りませんが、実に稚拙で恥ずかしい限りです。こういうことは、友好国なら日本を100%理解・支持して当然という期待が前提になければ起り得ません。つまり、日本は他国との「価値観の違い」を1ミリも理解していないということの表れでもあるのです。これではまともな外交交渉などできるべくもありません。


書評:孫崎享著、『戦後史の正体 「米国からの圧力」を軸に戦後70年を読み解く』(創元社)

書評:孫崎享著、『アメリカに潰された政治家たち』(小学館)

書評:孫崎享著、『日米開戦の正体 なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのか』(祥伝社)

書評:孫崎享著、『日本の国境問題ー尖閣・竹島・北方領土』(ちくま新書)

書評:孫崎享著、『日米同盟の正体~迷走する安全保障』(講談社現代新書)



ドイツ:「帝国市民(極右)」とは?~警察官銃殺事件

2016年10月20日 | 社会

これまで極右運動の一つである「帝国市民(Reichsbürger)」がニュースなどで大きく取り上げられることがなかったので、知らなかったのですが、こういう奇妙な動きがドイツにはあるようです。

ニュースで「帝国市民」が採り沙汰されたのは、先日10月19日に、ニュルンベルク近郊のゲオルゲンスグミュント(Georgensgmünd)で、「帝国市民」を自称する男性ヴォルフガング・P(49)が、家宅捜査に入ろうとした地方警察特別出動コマンド(Spezialeinsatzkommando=SEK)に銃撃を開始し、警官4人が負傷、うち一人が重体という事件が発生したためでした。この重体となった警官は、今日10月20日にお亡くなりになったそうです。

家宅捜査の理由は、この男が所持していた31丁の銃器を没収するためでした。これらの武器は、彼が武器所有証で合法的に入手したものでしたが、彼の適性を疑った当局が許可を取り消したので、没収措置が取られることになりました。

「帝国市民」である彼はドイツ連邦共和国を認知せず、今年の1月には彼の身分証明書及びドイツ国籍を放棄しようとしたようです。住民票は抜き、自動車税も払わず、彼の土地に「独自の国家」を創設した、とYouTubeのビデオで宣言しています。庭には15世紀のフリートリヒ3世の紋章に似た国家紋章の旗がなびいているそうで、割と凝っています。彼はゲオルゲンスグミュント市当局に、そのおかしな価値観と行動で知られてはいましたが、「危険人物」とは見なされていなかったとのことです。彼はペギーダ(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者、ドイツ語: Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes)ニュルンベルク支部の演説者兼主催者として知られている人物ともフェースブック上でつながりがあり、そういうシーンでビデオ投稿などしていたようです。


さて、「帝国市民」運動そのものについてですが、1980年代に登場した、あまり統一性のない運動で、共通する主張は、民主主義の否定、ドイツ帝国(第三帝国)の存続、ホロコーストの否定です。1933年のドイツ帝国憲法は正式に廃止されていないとし、ドイツ基本法は無効であり、その観点から現ドイツ連邦共和国は彼らにとって違法な存在である、ということらしいです。ドイツ帝国は合法的に存続しており、現在のところ国家権力を有しない暫定政府がある、とのことです。

 今回のゲオルゲンスグミュントの事件を受けて、トーマス・ドメジエール内相は「帝国市民」の評価をきちんと再考する必要があると発言しました。具体的には憲法擁護庁による監視を強化する方向のようです。左翼政党は、数年来帝国市民運動の危険性が過小評価されてきたと指摘しています。ただ、あまり組織立っていないので、組織としての危険性は論じるのが難しく、「たまたま過激化した個人」による危険性とするのが妥当かどうか判断に迷うところでもあります。

8月にもザクセン・アンハルト州で自称「帝国市民」が発砲し、警察官二人が負傷した事件がありました。しかし、この犯人とゲオルゲンスグミュントのPとは直接なつながりはありません。

数年前から、「帝国政府」あるいは「帝国市民」を名乗る者から各地の役所に抗議の手紙が頻繁に届くようになり、いくつかの州憲法擁護庁でこのような市民の取り扱い指示書が作成されました。その指示書の基本姿勢は「無視」。ドイツ連邦共和国の合法性を否定し、それを理由に役所に(例えば税金関連で)抗議の申し立てをする市民に対しては、議論に応じず、即座に抗議を却下すべし、というスタンスのようです。いかにもお役所的対応ですね。

因みに憲法擁護庁の推定では、「帝国市民」は1,000人もいないようです。

州議会選挙で次々勝利を収めて驀進中の右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は公式には「帝国市民」から距離を置いていますが、地方自治体のAfD議員の何人かは明らかに帝国市民運動シーンとのつながりを持っていた、または、いることが判明しています。AfDはこれらの議員たちを離党させて、又は離党するよう動いています。しかしながら、AfD自体、結党間もなく急成長した有象無象の右翼連合と言えるので、各州で12-21%の得票率で州議会入りしたとはいえ、今後政党として「市民権」を得ていくためには、かなり大規模な内部浄化が必要なのではないでしょうか。その後にどれだけ議員が残るのか見ものですね。

参照記事:

ZDFホイテ、2019.10.19、「「帝国市民」銃撃 警官一人重体」 
ZDFホイテ、2019.10.20、「「帝国市民」P:波乱の道のり」 
シュピーゲルオンライン、2016.10.20、「いわゆる帝国市民:過小評価されてきた危険」 

 

2016年10月21日のアップデート

ザクセン・アンハルト州では警官4人に対して、「帝国市民」運動に参加している疑いで懲戒手続きが進行中。3人に対しては既に停職処分が決定。
バイエルン州でも「帝国市民」運動シンパの疑いのある警官4人が見つかり、1人は年初に、一人は木曜日(10月20日)に停職処分となりました。ほかの二人に対してはまだ手続きが終了していないとのこと。

本来、国・国家機関に忠誠を誓わなければならない公務員が、国家としてのドイツ連邦共和国を否定する「帝国市民」運動に関与していた当時実は、かなり波紋を広げてきます。

参照記事:南ドイツ新聞、2016.10.21、「懲戒手続き:「帝国市民」はザクセン・アンハルト州警察にも


書評:孫崎享著、『日米同盟の正体~迷走する安全保障』(講談社現代新書)

2016年10月18日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

途中に小説や漫画などを挟みつつ、『日米同盟の正体~迷走する安全保障』(講談社現代新書、2009.3初版、2016.1第17刷)を完読しました。初版が2009年ということもあり、第17刷とはいえ、内容は改定されていないので、国際情勢の現状は反映していませんが、戦後スキームの中での安全保障の大きな流れを理解するにはよい教本だと思います。目次は以下の通り。

はじめに:日米安保条約は実質的に終わっている/脆弱な基盤に立つ安全保障/死に値する安全保障政策があるのか/なぜ米国の安全保障政策を学ぶのか

第1章 戦略思考に弱い日本:日本に戦略思考がないと明言するキッシンジャー他

第2章 二一世紀の真珠湾攻撃:9.11同時多発テロが米国国内に与えた衝撃他

第3章 米国の新戦略と変わる日米関係:ソ連の脅威が消滅するショック他

第4章 日本外交の変質:日本外交はいつから変質したか他

第5章 イラク戦争はなぜ継続されたか:人的・経済的に莫大な犠牲を強いるイラク戦争他

第6章 米国の新たな戦い:オサマ・ビン・ラディンの戦いの目的他

第7章 二一世紀の核戦略:核兵器の限定的使用を模索したブッシュ政権他

第8章 日本の進むべき道:日本はなぜ核抑止政策を考えてこなかったか他

大まかに内容をまとめると、大前提として日本は独自の戦略思考をせずに米国の世界戦略に巻き込まれつつあるという事実があります。そもそも、戦後米国に従わずに日本独自路線の外交、特に対中、対ロ(昔は対ソ連)外交政策を模索しようとする政治家たちが米国(CIA)によって排除されてきた歴史があるため、今では盲目的な従米路線が政治家及び外務省の主流派となっており、彼らは米国の遠大な世界戦略の全貌を理解しようとせず、主に経済的な観点から損得勘定を判断する傾向が強いため、戦略的に国益に反する政策を取ってしまいがち。

日本の今後のあるべき外交政策を考える上で、米国の世界戦略を理解することは必須であるので、それを第2章から第7章にかけて詳細に論じられています。戦略の大筋は、ソ連崩壊後、米国が軍事力の圧倒的優位性の保持という選択肢をいくつかあった選択肢の中から選び、そのためにイラン、イラク、北朝鮮を脅威として位置付けたことで、それはブッシュ親子政権下ばかりでなく、強弱の差こそあれ、クリントン政権、オバマ政権でも変わりなく維持されているということです。「悪の枢軸国」云々は何も9.11のテロ後に始まったことではないということ。

興味深いのは、米国の軍事戦略関係者らの間で、9.11同時多発テロが「21世紀の真珠湾攻撃」と位置付けられていることです。これの意味することは、米国が軍事行動を取るきっかけを米国自身が秘密裡に創り出すという謀略です(同書、61p)。真珠湾攻撃は、米国が日本を外交的に死に体にし、日本に「交渉の余地なし」と思わせる様々な措置と日本自身の無謀さの結果でなされたことです。このいきさつに関しては同著者の『日米開戦の正体』に詳しいです。米国側は早いうちから日本軍が真珠湾を攻撃するという情報をキャッチしていながら、これを阻止しようとせずにわざと日本に「嚙ませ」て、愛国心を煽り、参戦に反対だった米国世論をひっくり返すことに成功しました。チャーチル英首相は、著書『第二次世界大戦』に「真珠湾攻撃によって我々は戦争に勝ったのだ。日本人は微塵に砕かれるであろう」と、その日の感銘を記しました(同書、61p)。それくらい米国の参戦が望まれていたのです。

一方、9.11同時多発テロは、その後の米国のアフガニスタン及び中東への軍事介入の具体的なきっかけを与えることになりましたが、こちらもオサマ・ビン・ラディン周辺の飛行機を使った怪しい動きやその他のテロ準備を示唆する情報が事前に当局にキャッチされていたにもかかわらず、ブッシュ政権はそれに関するブリーフィングを無視し、阻止しようとしなかった点で、真珠湾攻撃に共通している、というのです。ある種の陰謀論では、ブッシュ自身がオサマ・ビン・ラディンにそうした攻撃をやらせた、というような説もありますが、その辺はあまり信憑性がないように思います。たとえ過去にオサマ・ビン・ラディンが米国の支援を受けて活動していたことがあったにせよ、いつでも米国のいいなりだったとは考えられません。寧ろ利害が一致している時だけ、もらえるものはもらい、それ以外は好き勝手にやるし、米国を敵に回すことも場合によっては辞さないというスタンスだったのではないでしょうか。その証拠に、ビン・ラディンは、1996年、「二聖地(メッカ、メディナ)の地(サウジアラビア)を占拠している米国に対する戦争宣言」を発表しました。実に具体的かつ明快な戦争目的です。この宣言は、アラーの名の下に米国軍のサウジアラビアからの撤兵を求め、これが達成されない限り米国軍を攻撃するというものです。この宣言が出された年にCIAはビン・ラディン追跡のための特別チーム・アレックス部局を創設するくらい、その宣言を深刻に受け止めていました(本書、180p)。かのイラクの独裁者サダム・フセインも米国に大きく育てられた統治者でした。しかし、彼はイランとの戦争が終わると、今度は向きを変えてクウェートに侵攻し、米国の逆鱗に触れてしまいました。以後米国の目の敵にされ、ありもしない大量破壊兵器をでっちあげられ、滅ぼされてしまいました。つまり、米国とフセインは都合の良い時だけ「お友達」だったわけです。

陰謀の行使には大別して二つあり、一つは偽旗工作で、国際法にも定義があり、攻撃直前に自己の旗を掲げれば違法とはみなされないそうです。もう一つは敵が攻撃に出る際、敵の行動を誘導し、間接的にその実現を支援する工作です。真珠湾攻撃も9.11同時多発テロも後者に属していると言われています。

とにかく、これをもって米国は軍事力強化の(議会向けの)理由付けができたわけです。

その後の、莫大な費用をかけた米国の中東展開はひとえにイスラエルの安全保障のためとのことです。イスラエルにとっては、イランの核保有が最大の脅威なので、米国はイランが妥協しない場合は限定的な核兵器使用も辞さない姿勢だったようです。結果的にはイランが妥協したので、本当に良かったです。

著者はこうした米国の世界戦略に日本が今後より一層一体化していくのは危険であるとし、軍備強化ではなく、グローバリズムと経済的結びつきによる戦争抑止力を中心に据えた戦略を取るべきだろうと説いています。それは日本が以前取っていた、悪者扱いされがちな国を孤立させないように支援する外交政策の流れに戻ることを意味します。そしてこの外交路線こそが日本が国際的に好感を得ていた理由でもあります。従米路線は国際的好感度が米国に近づく、すなわち低くなることを意味し、また経済的・人的負担の大きさに見合う利益は得られないという欠陥もありますので、日本の好戦的な強硬論者たちはそのことをよく心に銘じておく必要があります。


書評:孫崎享著、『戦後史の正体 「米国からの圧力」を軸に戦後70年を読み解く』(創元社)

書評:孫崎享著、『アメリカに潰された政治家たち』(小学館)

書評:孫崎享著、『日米開戦の正体 なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのか』(祥伝社)

書評:孫崎享著、『日本の国境問題ー尖閣・竹島・北方領土』(ちくま新書)


書評:松岡圭祐著、『水鏡推理4 アノマリー』(講談社文庫)

2016年10月17日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐氏の最新刊『水鏡推理IV アノマリー』は、主人公水鏡瑞希が登場するまでの前置きがかなり長く、非行少女たち(女子少年院入院中)の更生プログラムの一環としての登山のいきさつを、彼女らの過去へのフラッシュバックを交えながら語られます。このプロローグがどのように文科省の下っ端事務官水鏡瑞希に関わってくるのか分かるまでに結構かかります。

商品説明にあるように、この登山プログラムに参加している少女たちは八甲田山で、気象庁と民間気象会社の予報の食い違いのあった日、民間気象会社の「晴れ」予報を信じて出発し、豪雨に見舞われ行方不明となってしまいます。

一方、水鏡瑞希が気象図の整理を手伝っていた総合職官僚浅村も瑞希がうたた寝している間に失踪。彼は瑞希に謎の書類を預けていた。数日して、彼はなぜか八甲田山登山口辺りでの少女たちの記念撮影に一緒に移り込んでいたのを瑞希が発見し、彼女は彼の足取りを残された書類をもとに追うことに。

なかなかのサスペンスである一方、親にあまり愛されずに、どうしていいか分からなくなって暴走しがちな少女たちの成長の物語でもあります。

瑞希が下っ端役人として比較的等身大の(?)活躍しかしないので、なかなか核心部に辿り着けずに、うろうろと寄り道しているような印象がちょっと強いので、途中少しじれったいかもしれません。その分現実味があるともいえるのですが、物語のテンポとしてはさほど良くないように思います。

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書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)


「ドイツ発 雨宮の迷走ニュース」との出会い ~ 許せない日本文化

2016年10月13日 | 日記

それはほんの偶然でした。

例によって例のごとく、FBの友達が一つのブログ記事「日本人の私が、どうしても受け入れられなかった日本文化5つがこれだ」という記事をシェアしたので、また日本さげすみブログかな~と思いつつ読んでみたら! 凄い! 「あるある」、「分かる分かる」の連続。

その5つとは:

1. 正しいことを言っても怒られる

2. 議論せずに「面倒くさい」扱いされる

3. 社交辞令も嫌い、空気読むのも無理

4. マイノリティになると妙に目立つ

5. こうするべきっていう規定路線

詳しくは元ブログの方を読んでいただきたいと思いますが、私自身も特に1-4の理由で日本に馴染めずに、留学に踏み切った経緯があります。もちろんそれだけではなく、チャレンジ精神とか、失恋とか、いろいろな要因が一つのタイミングで重なって、そうなったわけですけど。まあ、日本に絶対に戻りたくない理由もこのあたりにありますね。

この五つにどうしても付け足したいのは「男尊女卑」です。能力のある女性を嫌がる、能力の有無にかかわらず「女の子」扱いして、お茶くみなどのどうでもいい雑用を押し付けようとする。雑用を率先してやらないと「気が利かない」、「女子力がない」になってしまう。私自身はセクハラ経験ありませんけど(日本ではバイトしかしませんでしたし)、セクハラ・パワハラの横行も許せないですね。その根底にある男尊女卑や軍隊的「修練」意識が破壊されない限り、改善は望めないのだろうと思います。

そして!女同士の対立も!陰湿で、本当に嫌だわ~。

思い出すと色々腹も立ってくるので、この辺にしておきますが、5.についてちょっと。

実はこれ、ドイツにもあるのです。何か違うこと(例えば平日の昼に家に居る)をしていれば、色々と勘繰られます。そこそこ親しければ、理由を聞かれることもありますが、大抵は「人それぞれだから」という建前を守って詮索しないようにしています。あとはその人の性格によりけりですが、結構悪い方に推測を働かしていることが多いです。

だから、私はこれを普通の人間の好奇心と想像力、あるネタを元に勝手にストーリーを構築する創造力の発露だと思うことにしています。人にどう思われているからと言って、自分自身がそれによって変わるわけではありませんし、別に説明責任もありません。説明しなきゃいけないように感じるのは、自身に少しばかり「疚しさ」があるから。でも、相手は別に説明なんか聞きたいと思っているわけではなく、何か面白い真実が隠されているのなら知りたい、という野次馬根性を持っているにすぎません。だから逆に面白いネタを提供できるなら、嘘でもそういうネタで楽しませてもいいのではないかと思うくらいです。私は面倒くさいのでそんなことしませんけど。

このブログ筆者の雨宮さんは私がドイツに来た翌年にお生まれになったようですが、彼女の体験を自分のことのように追体験できるということは、それだけ日本文化が堅固に変わっていないということなのでしょうね。311以降は特に(外から見るだけとは言え)その同化圧力が強くなっているように感じます。はっきり言って怖いです。

圧力に負けて、口をつぐんでいる人たちが本当のところどう思っているのか知りたいところですが。。。 でもその人たちに、「勇気を出して声を上げろ」とは、私は言えません。圧力の怖さを知っているから。村八になっても困らない程度に生きて行けるならいい。だけど失職してしまったら?ねちねちと陰湿な嫌がらせ攻撃が続いたら?等々、圧力をかける側の想像力は私の想像を絶する豊かさのようで。戦うには相当強靭な神経が要求されることでしょう。だから、せめて、「頑張ってる人を陰ながら応援して」と言いたいです。そっと励ましの言葉を送ったり、カンパしたり、どんな形でもいいですけど。少なくとも頑張る人たちの足を引っ張って欲しくないなと思います。

この雨宮さんにも頑張ってほしいですね!