徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『千里眼 ノン=クオリアの終焉』(角川文庫)

2021年08月01日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の千里眼シリーズ最新作『千里眼 ノン=クオリアの終焉』は、前作の『千里眼の復活』からわずか三か月後に書き下ろされた作品です。
作者の旺盛な創作力に感嘆するばかりです。

仕事で忙しかったため、本を買ってから2日間は我慢しましたが、日曜日になって我慢の限界に達し、一気読みしてしまいました。やるべきことはこれからやります😅 

この巻は、前作のノン=クオリアによる空爆テロ事件によって焦土と化した東京都杉並区で児童養護施設の常駐カウンセラーとして保護者を失った子どもたちのケアに当たっていた岬美由紀のもとに国際クオリア理化学研究所からの見学許可の手紙が届くところから始まります。
国際クオリア理化学研究所とは香港に拠点を持ち、WHOの支援を受けてクオリアの実在を科学的に証明するための研究所で、つい最近その証明がなされたと発表されたので、美由紀は研究所の見学を希望し、可能であればノン=クオリアの脅威について警告をするつもりだったのです。
とりあえず子どもたちのケアを手紙を届けに来た同僚の嵯峨に任せて、香港に出発します。日本政府の働きかけによって見学許可を得たため、同行者は文科省の職員・芳野庄平。
研究所の日本人職員・磯村理沙を始めとする職員および所長の李俊傑(リージュンジェ)の他、国連から派遣されてきた著名な医学博士エフベルト・ボスフェルトと言葉を交わした美由紀は不穏な空気を察し、翌日に正式にデータを見せてもらえる約束でその場を立ち去ることになったものの、ホテルには戻らずに警戒していると、暗くなった埠頭で突如SPの銃撃を受け、その直後、海と空から最新のボディアーマーに身を包んだ大量の兵士たちが研究所に攻撃を仕掛け、SPたちと激しい打ち合いを始め、研究所とその周辺はたちまちのうちに戦場と化していきます。
誰がどの勢力に属しているのか、どれがどの勢力の行動によるものなのか今一つ正確に分からないまま美由紀が争いに巻き込まれていく一方で、世界各国の政権がノン=クオリアによって武力制圧されて行ってしまいます。
ノン=クオリアの黒幕は誰または何なのか。人類を正しい方向に導くための世界の調整役を自負する陰の巨大組織・メフィスト・コンサルティングはノン=クオリアに本当に飲み込まれてしまったのか、それともまだ対抗する余力があるのか。人類の滅亡が果たして回避できるのか。
ノン=クオリアが全世界でものすごい物量戦を展開する中、美由紀は中国本土でノン=クオリアの中枢を叩く手掛かりを探して彷徨うという「一縷の望み」があるのかすら分からない絶望的な状況です。混乱の中でノン=クオリアで育ちながらクオリアを持ち続け、初めての実戦に耐えられずにノン=クオリアを抜けて美由紀の下に合流した楊が頼りになる同行者となりますが、疑心暗鬼は収まりません。この、誰が本当に味方なのか分からないところがスリル満点で面白いです。黒幕の正体も「え、そっちなの?」という意外性があり、ミステリーとして秀逸です。
ノン=クオリアはタイトルの通り終焉を迎えますが、人類の心理を巧みに操り、やはり人権や人情などは完全無視の巨大組織メフィスト・コンサルティングはまだ存続しているので、千里眼・岬美由紀の活躍の場は今後もありそうな余韻を残しています。



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