徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:横山和輝著、『日本史で学ぶ経済学』(東洋経済新報社)2018/09/21

2023年10月29日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『日本史で学ぶ経済学』はタイトルから想像できるように日本の歴史上の経済現象を振り返り、今日のプラットフォーム経済や仮想通貨経済などの現象との本質的な共通点を探り、注意点や今後の展望のヒントを与えようとするものです。

目次
はじめに ―経済学のレンズで歴史を学ぶとビジネスのヒントが見えてくる
基礎編
第1章 貨幣の経済学(なぜ鎌倉・室町時代に中国千が流通したのか?他)
第2章 インセンティブの経済学(日光電気製銅所の「働き方改革」ー金銭的インセンティブ他)
第3章 株式会社の経済学(株主と経営者のインセンティブ関係ー所有と経営の分離他)
応用編
第4章 銀行危機の経済学(なぜ銀行危機が起こるのか?ーゲーム理論による分析他)
第5章 取引コストの経済学(三井高利と荻生徂徠の共通点ー取引コストの正体他)
第6章 プラットフォームの経済学(商人と座の誕生ー日本の「商売」の原点」他)
第7章 教育の経済学(明治・大正時代の小学校教育ー教育と経済成長の関係他)

学校の授業で、または受験勉強の一環で学ぶ日本史はデータの詰め込みに偏りがちで、社会情勢・経済の変遷の流れがほとんど分かりませんが、本書を読むことで、例えば戦前の財閥と戦後の系列の違いや、徳川吉宗の享保の改革が取引コストを削減する構造改革だったことや、織田信長の楽市楽座が商人の誘致のための法整備と治安の提供であったこと、これが基本的にはアマゾンやメルカリなどのプラットフォーム・ビジネスと同じであることなどが見えてきて、ただの歴史用語だったものが立体的に捉えられるようになります。



武田晴人著、『日本人の経済観念 日本の50年 日本の200年』(岩波書店)1999/06/25

2023年10月09日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

この本は、十数年前、古本屋で買ったと記憶しています。ずいぶんと長いこと積読本のままでしたが、ついに手を付けて完読しました。
本書の興味深いところは「日本人は勤勉」とか「日本型経済の特異性」だとか、そういったイメージを歴史的な資料を基に検証するところです。
イメージはイメージに過ぎないことがよく分かります。江戸時代や明治時代初期の産業構造と明治時代後期ではすでに様相が違っているし、歴史的資料から明治初期の熟練職工たちは、たとえ工場で働いていても自立性を維持し、自分にとって十分な収入を得た後は出勤しないこともざらにあり、欠勤率が常時15パーセント前後だったというから驚きです。
「おしん」などのドラマや文学作品で語られる女工たちの長時間労働は、勤勉だからというよりは、貧困ゆえにそうせざるを得なかったという外的要因によるものだったと見るべきだというのが著者の見解です。

また、三井家の内部選抜制度が時代を経て、現代の大企業や官庁における内部選抜制度(出世競争)と敗者の受け皿としての子会社出向や天下りに継承されている、少なくとも類似性が高いという指摘も興味深いです。
それ以外では「終身雇用」というのは昭和の一時期に限られており、明治・大正時代は工場労働者も鉱山労働者・鉱夫たちも2・3年程度で勤め先を変えるのが普通だったというのも面白いですね。


目次
はしがき
第一章 企業と出資者
第二章 市場と競争
第三章 契約と紛争解決
第四章 労働の規律と雇用の保障
第五章 国益と政府
おわりに