徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ銀行の危機についてー【ドイツ財政危機】ではありません

2016年08月28日 | 社会

ドイツ銀行はただのメガバンク

ドイツ銀行のスキャンダルや経営難はもう何年も前から話題になっていたので、最近のドイツ銀行に関するニュースも「まだ続いているのか」という程度にしか私は注目していませんでした。IMFがドイツ銀行を「そのシステム重要度と規模の大きさからして最も危険な銀行」と評しても、ドイツ銀行救済のために最悪「国有化もありうる」と聞いても、まだ何も確定していない推測に過ぎない内容なので、頭の隅に入れておく程度だったのです。

しかしながら、ドイツ連邦内務相のトーマス・ドメジエールが新民間防衛構想を8月21日に公表したことにより、無駄な危機感を一部煽ってしまい、それがドイツ銀行との危機とも結び付ける憶測を呼んでしまったようです。日本語ネットでも結構話題になっているようでしたが、ドイツ銀行の危機とドイツ財政危機を結びつけ考えていると見受けられる人たちがいたのには驚きました。私には全く思いもつかない連想ですが、その勘違いの原因は【ドイツ銀行≒日銀】のように考えていることにあるのかも知れません。

紛らわしいですが、ドイツ銀行(Deutsche Bank)は日銀のような中央銀行ではなく、ドイツ最大ではありますが単なる商業・投資銀行です。日本で言えば東京三菱UFJ銀行や三井住友銀行みたいなものです。そういう銀行が危機に瀕すれば、確かに経済的影響は大きいですが、国の財政云々と繋がっていく話ではないはずです。

日銀に相当するドイツの中央銀行はドイツ連邦銀行(Deutsche Bundesbank)で、ユーロ導入以降は欧州中央銀行のドイツ支店のような機能を果たしています。余談ですがドイツマルクの現金の保管もしており、今でもそこに行けばドイツマルク紙幣をユーロに両替してくれます。

ドイツ銀行の基本情報

創業:1870年

支店数:70カ国以上に2790店舗、うちドイツ国内1827店舗(2015年12月31日時点) 

CEO:ジョン・クライアン(英)

監査役会代表:パウル・アッハライトナー

株主構造:

大口株主

3.05% Supreme Universal Holdings Ltd., Cayman Islands(2015.08.20)
3.05% Paramount Services Holdings Ltd., British Virgin Islands(2015.08.20)
5.76% BlackRock, Inc., New York (2016.08.23) 

機関 vs.個人(2015年12月31日時点) 

銀行を含む機関投資家 81%
個人投資家 19% 

地域配分(2015年12月31日時点) 

ドイツ国内 56%
国外 44% 

株式総数:562,000(2015年12月31日時点) 

資本金における普通株資本の割合:19%(2015年12月31日時点) 

以上、ドイツ銀行ホームページ、投資家向け情報コーナーより。


ドイツ銀行のスキャンダル色々

ドイツ銀行は国際競争力を高めるために様々な国の銀行をM&Aで吸収したり、他銀行株を買うなどして肥え太ってきた銀行です。私の記憶に残っているのは、個人客部門を見直そうという目的で、ドイツ郵便(Deutsche Post)の子会社であるポストバンク(郵便銀行、Postbank)を2010年に買収したことです。なぜ覚えているかといえば、単に私がポストバンクの口座を持っているからです。現在ドイツ銀行はポストバンクも含めて、個人客・事業客部門の国内シェア15%を占めています。ポストバンクは、今再び売りに出されています。

そのようなメガバンクの常として、大抵の国際的なトレンド事業に積極的にかかわり、国内リーダー的な役割を果たしてきました。すなわちアメリカ不動産バブルの際、まるで1980年代後半のバブル期の日本のバンカーのように、怪しげな先にも「行け行けどんどん」で貸し出し、リーマンショック後に大量の不良債権を抱え込んだり、租税回避支援事業で特に外国投資家の節税を助けて大儲けし、国に税収数十億ユーロとも言われる損害を与えたり、LIBORとEURIBORの指標利率の操作をして不正な儲けを出したとか。ロシアでのマネーロンダリングについても現在係争中。様々な件で裁判沙汰になっています。過去数年、こうしたスキャンダルのせいで、裁判費用や罰金に120億ユーロ余りのコストがかかっており、更なる罰金等のために54億ユーロの引当金を積んでいるそうです(ウォールストリートオンライン、2016.05.24)。

 

ストレステストでワースト10入り

2016年7月29日に公表された欧州銀行監督局による51の銀行に行ったストレステストの結果で、ドイツ銀行はワースト10入り(51銀行中42位)し、波紋を広げました。同じくワースト10入りしたドイツの銀行はコメルツバンク(44位)でした。コメルツバンクはリーマンショック後に税金投入により救済された銀行の一つです。

下の表はストレステスト・ワースト10の銀行一覧です。ソースはディー・ヴェルトの2016.07.31の記事です。真ん中の数値はストレスシナリオにおける自己資本比率を示しています。ストレスを何とか自力で克服できる基準は5%。その基準に不合格だったのはアイルランドのAllied Irish BankとイタリアのMonte dei Paschi di Sienaの2行のみでした。

右端の数値は2015年初頭の起点との差を表しています。

このストレステストの結果が公表された後、イギリスのEU離脱国民投票の結果も影響して(ドイツ銀行の投資部門はロンドンが司令塔になってます)、既にダメージを受けていたドイツ銀行の株価は急降下し、30年来の最低値11.24ユーロを記録しました。ジョン・クライアンがCEOに就任してから、株価は58%も下がり、ドイツ銀行の帳簿上の価値の約27%になってしまいました。これは投資家たちがドイツ銀行の帳簿上の財産価値に疑いを持っているか、または収支決算自体に疑問を抱いていることを示しています(シュピーゲル、2016.07.29の記事)。

ドイツ銀行の株価暴落を受け、ドイツ銀行株はStoxx Europe 50(ヨーロッパ最大の50企業銘柄を集めた株式市場)から2016.08.08付けで外されることとなりました。

8月26日現在の株価は12.44ユーロで、若干の回復を見せていました。

しかしながら、極端な低金利時代で銀行が利ザヤで稼げなくなっている昨今、厳しい自己資本率基準は銀行の生き残り・立ち直りをより難しくしていると言えます。ただ、ドイツ銀行がここまで業績悪化したのは自業自得の部分がかなり大きいので、投資・融資ハイにバンカーの極端に高額なボーナスなど反省すべきところをきっちり反省すべきです。仮にドイツ銀行が破綻しても、ヨーロッパのベイルイン規定ではすぐに税金投入をして救済することは禁じられています。まずは大口預金者(10万ユーロ以上)などの債権者が損失を被り、それでも銀行の生き残りに足りない場合のみ、ESM(European Stability Mechanism、欧州安定メカニズム)を通じて税金が投入されることになるというのが建前です。まあでも納税者としてはドイツ銀行の税金での救済など納得できるものではありません。税金投入する前に何百万あるいは億単位でボーナスなどを受け取っていたヨゼフ・アッカーマンやアンシュー・ジェインなどの元CEOたちがお金返すべきだと思います。ヽ(`Д´)ノプンプン

 

リストラとトップマネージャーのボーナス

ドイツ銀行は、昨年公表した「2020年戦略」ではフルタイムポスト3000人分を削減するという計画でしたが、今年6月22日に労働者側の経営委員会との合意で2633人分の削減となりました。700以上ある支店のうち200店が閉鎖されるとのことです(南ドイツ新聞、2016.06.23の記事)。

2015年度に記録的な経常損益62億ユーロを出した後、特に大きな赤字を出した投資部門のボーナスを最大30%カットするという措置がなされましたが、相次ぐ罰金支払いの原因を作ったのは他でもない投資部門だったため、最大30%カット等甘すぎるとの批判を受けていました。投資部門のボーナスのための予算は27億ユーロもあったそうです(ハンデルスブラット、2015.10.03の記事)。

こうした厳しい状況の中、何人かのトップマネージャーたちは随分と欲の皮が突っ張ているようで、2014年から凍結されているボーナス(それぞれ100-200万ユーロ)の払い出しを求めて労働裁判所でドイツ銀行を訴えました。監査役会代表パウル・アッハライトナーは、今年度もボーナスの支払いがないことを該当者には知らせてあったという(ウォールストリートオンライン、2016.08.01の記事)。

日本とは違って、ドイツでは自分の(元)雇用者である会社を訴えるのはそれほど珍しいことではありません。特に不当解雇に関する裁判は結構な数に上ります。しかしながら、ただでさえ批判の多いトップマネージャーたちのボーナス。それを約2600人が解雇されるという中、払い出しを求めるとは、ドイツ的感覚でもかなり恥知らずです。株主も配当金なしで我慢しているのに、損失の原因を作ったと言っていい投資部門バンカーのボーナスなど認めるわけないかと思います。2016年度分も配当ゼロとのことですから(ドイツ銀行ホームページ)、ボーナスの支払いなど顰蹙もの以外の何物でもないですね。

 

おまけ:ドイツの財政

ドイツ経済が堅調なことと、低金利で金利コストが下がっていることで、2014年度は89億ユーロの財政黒字、2015年はその2倍以上の194億ユーロの財政黒字を計上し、ドイツ統一以降の最高記録を出しました。

下のグラフは南ドイツ新聞、2016.02.23の記事に掲載されたもので、ドイツの1991年から2015年までの財政状況を表しています。

 

そして2016年度は上半期だけで185億ユーロの財政黒字で、最高記録をさらに更新しました。これはGDPの1%に相当します(ディー・ヴェルト、2016.08.24の記事)。これを受けて、国は例えば高齢化社会への対応や福祉住居の建設などの投資を増やすべきだという声もあれば、減税を求める声も出ています。私も投資には賛成ですが、減税はすべきではないと思います。なぜなら、一度減税すると経済状況に応じてまた増税するということができないからです。景気後退期に増税すればそれこそ本格的な不況を招いてしまいます。

それに、財政黒字を出しているからと言って、国の借金が無くなったわけではないことも念頭に置かなければいけません。下の表は2003-2015年度のドイツの国・州・地方自治体などの負債総額を年度別に示したものです(ソースはStatista)。単位は10億ユーロ。2015年度の負債総額は20兆225.6億ユーロで、前年度より213.6億ユーロ減っていますが、2003年度に比べれば、6648.4億ユーロ多く、非常に高い水準にあります。従って、未来へ向けた投資は良しとしても、減税する余裕は本来なく、今こそ負債を減らすチャンスと言えるでしょう。

 
参照記事:
ウォールストリートオンライン、2016.05.24、「ドイツ銀行評価ランクダウン。Moody'sはドイツ銀行の評価ランクを下げた
ディー・ヴェルト、2016.07.30、「ストレステストはヨーロッパの銀行の弱点を容赦なく暴露」 
シュピーゲル、2016.07.29、「銀行ストレステスト:気になるドイツ銀行の結果は?
ドイツ銀行ホームページ、投資家向け情報「2020年戦略」 
南ドイツ新聞、2016.06.22、「ドイツ銀行はドイツ国内で2600ポスト削減
ハンデルスブラット、2015.10.08、「この名刺の価値は今下がっている」 
ウォールストリートオンライン、2016.08.01、「ドイツ銀行の危機?関係ない!私は全て欲しい、今すぐに!」 
ドイツ銀行ホームページ、投資家向け情報、株式情報ページ
南ドイツ新聞、2016.02.23、「ドイツ統一以後最大の財政黒字」 
ディー・ヴェルト、2016.08.24、「ドイツは税金の奇跡を体験」 
Statista、「ドイツの全公的財政における負債総額の推移2003-2015年

ドイツ:グローンデ原発で事故。作業員1名死亡

2016年08月27日 | 社会

ドイツ・ニーダーザクセン州のヴェーザー川に面して建っているグローンデ原発で今日(8月27日)午前10時(現地時間)に、点検作業の際にボイラーから突然水蒸気が漏れ出すという事故が起こりました。その際、作業員の一人(55)が重傷を負い、お亡くなりになったそうです。所轄警察や検察は既に捜査を開始しました。監督当局であるニーダーザクセン州環境省も調査を開始しました。

事故の詳細はまだ不明ですが、ボイラーは核分野外の部分なので、放射能漏れなどの心配はないようです。

グローンデ原発は今年の4月に冷却ポンプの故障のため停止しましたが、修繕終了後も再稼働されずにいました。7月30日にしずく状のリーケージが見つかり、調査の結果、調節検査管との溶接継ぎ目が漏れやすくなっていることが確認されました。プロイセンエレクトラ社は修理計画案を提出し、配管の一部を交換すると明言し、実験室で原因究明のために、比較可能な小規模管で疑似検査を行う予定だと8月初めに発表し、8月14日に再稼働の予定でした。

もうこれは再稼働を諦めて廃炉にすべきでしょう。2011/12年のEUのいわゆる「ストレステスト」でも「地震対策が不十分」が確認されていたことですし、こうもあちこち故障続きなのは老朽化の表れです。2021年末ではなく、即時廃炉にした方が住民も安心です。

グローンデ原発敷地内には大規模な中間貯蔵施設があり、Castor V/19型のキャスク100個分、使用済み核燃料1000トン分の収容能力を有していますが、バート・ピュルモント温泉施設のための鉱泉水源保護地区V内に位置し、他の飲料水保護地区から1キロしか離れていないこともあり、環境保護団体から常に批判の対象とされてきました。従って、即時廃炉してもこの中間貯蔵の問題は残念ながら、依然として残ることになります。

参照記事:
ハノーバー新聞、2016.08.27、「グローンデ原発で男性死亡」 
プロイセンエレクトラ、2016.08.26のプレスリリース、「作業員、グローンデ原発で事故により死亡

グローンデ原発

株主:エーオン83.3%、ビーレフェルト市営企業16.7%

事業者:共同原発有限会社グローンデ

営業開始:1985.02.01

稼働終了予定:2021.12.31

原子炉:加圧水型(酸化ウラン燃料、2013年よりMOX燃料も使用)、ジーメンス製

実質発電容量:1360MW

報告義務のある事象:1985年以来累計200件以上、うちレベル1事象1件。

 


北ドイツの原発3基が相次ぎ故障:ブロークドルフ、ブルンスビュッテル、グローンデ


 


ドイツ:世論調査特別版(2016年8月26日)~メクレンブルク・フォアポンメルン州、AfD支持率21%

2016年08月26日 | 社会

ZDFの世論調査ポリートバロメーター特別版が8月26日に発表されましたので、以下に結果を私見による解説を加えつつご紹介いたします。

メクレンブルク・フォアポンメルン州では9月4日に州議会選挙があります。日本の不在者投票に相当する郵便投票(Briefwahl)は既に始まっています。

もし次の日曜日が州議会選挙ならどの政党を選びますか?:

SPD(ドイツ社会民主党)  28%
CDU(キリスト教民主同盟) 22%
Linke(左翼政党) 13%
Grüne(緑の党) 6%
NPD (ドイツ国家民主党) 3%
AfD(ドイツのための選択肢) 21%
その他 7% 

今回の世論調査で出た政党支持率の分布は、州議会選挙での得票率と概ね一致していると見て間違いありません。そのため、右翼政党であるドイツのための選択肢(AfD)が21%の支持率を獲得しているのは心配の種です。一方、現在州議会入りしている古くからの右翼政党NPDは5%以下になっており、このままだと州議会入りを果たせません。NPD票はAfDに流れた、と見ていいでしょう。

メクレンブルク・フォアポンメルン州はメルケル首相の支持基盤であるにもかかわらず、CDUの支持率がAfDのそれと1ポイントしか変わらないことも彼女の弱体化に貢献しそうです。現在州議会与党であるSPDも支持率の低下は著しいのですが、それでも何とかトップを維持している感じです。

州首相には誰を希望しますか?:

エルヴィン・セレリング(Sellering、SPD) 64%
ローレンツ・カフィエ(Caffier、CDU)18%

どちらでもない 7%
分からない 11% 

 

州首相候補者の評価(スケールは+5から-5):

セレリング +2.3 (SPD支持者:+3.6)
カフィエ +1.2 (CDU支持者:+2.3)
ホルター +0.7 (左翼政党支持者:+2.8)

 

州政権と野党の評価(スケールは+5から-5):


政権

SPD +1.3
CDU +0.9

野党

左翼政党 -0.2
緑の党 -0.5
NPD -3.9

 

投票先は決まってますか?:

はい 58%
いいえ 42%

 

最も重要な問題は?: 

失業問題 38%
難民問題 25%
学校・教育 12%
家族・青少年政策 8%
費用・物価 8% 

メクレンブルク・フォアポンメルン州は2016年7月の失業者統計によると、全国第4位の高失業率(9%)を示しているので、失業対策が最重要課題と見られているのは当然の帰結と言えます。もちろん9%の中にはいわゆる隠れ失業者(55歳以上の失業者、労働局の斡旋する職業訓練等に参加中の者、失業届けを出していない無職者)は含まれていません。拙ブログ記事「ドイツ:貧富の格差はヨーロッパ最大」で紹介しましたが、メクレンブルク・フォアポンメルン州は貧困率が全国で2番目に高い23.6%です。隠れ失業者を含めた貧困率はおよそ11%弱ですから、残る12.6%が全世帯の所得を多い順に並べて真ん中に来る【メディアン所得】の60%以下の所得しかない世帯ということになります。もちろん家賃やその他の物価も全国平均以下ですので、数字から想像されるほど多くの世帯が貧困にあえいでいるというわけではないのでしょうが、それでもドイツが好景気に沸いている中で、「取り残されている」という感覚はより強くあると考えられます。


どの政党が各分野での専門知識・能力があると思いますか?

雇用
SPD 27%
CDU 29%
左翼政党 4%
AfD 2%

経済

SPD 31%
CDU 26%
左翼政党 2%
AfD 1% 


難民問題
SPD 19%
CDU 21%
左翼政党 9%
AfD 12%

社会正義

SPD 34%
CDU 13%
左翼政党 24%
AfD 3% 

この政党別分野別の能力判断で分かることは、21%いるはずのAfD支持者たちが、特にAfDのの政策能力を買って支持しているわけではないということです。よく言われることですが、いわゆる「反抗政党(Protestpartei)」へ既成政党への反発を示すために投票する人たちによってAfDが得票率を伸ばしているわけです。

ちなみに、このような投票の仕方をする人たちは反抗的投票者(Protestwähler)と呼ばれています。NPDも前回の州議会選挙でこのような反抗的投票者たちによって議会入りを果たしました。彼らは日本でいうところの「浮動票」に相当し、気分によっては無投票になる層でもあります。

どの連立政権がいいと思いますか?

SPD/CDU: いい 44%、悪い25%

CDU/SPD: いい 31%、悪い38%

SPD/左翼政党/緑の党:いい 30%、悪い 48%

 

難民数はメクレンブルク・フォアポンメルン州にとって処理可能?

はい 63%
いいえ 30%
分からない 7% 

メクレンブルク・フォアポンメルン州は人口も少なく、財政状況も悪いため、難民受け入れ数はそれに比例してかなり少なくなっています。それでも「処理できない」と考えている人が30%いるのは、閉鎖的・排他的な土地柄の影響もあるでしょう。

 

メルケルの難民政策について

いい 41%
悪い 51%
分からない 8% 

メルケル氏の地元とはいえ、排他的な土地柄。彼女のオープンな難民政策があまりいい評価を受けないのは当たり前と言えば当たり前です。

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.020人に対して2016年8月23日から25日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年9月23日ZDFで発表されます。その前に、ベルリン州の特別版世論調査が9月9日に公表される予定です。

 

参照記事:
ZDFポリートバロメーター、2016.08.26、「ポリートバロメーター特別版
Statista、2016年7月州別失業率統計
ディー・ヴェルト、2015.2.19、「ドイツの貧困についての真実 


ドイツ:非常用備蓄2週間分の目安~【緊急事態】ではありません

2016年08月25日 | 社会

先日ドイツで閣議決定した新民間防衛構想には各家庭で非常用に食料等を備蓄するよう推奨する文言が含まれていることで妙な誤解を招いたり、日本のSNSでは「ドイツは緊急事態!」等のデマが流れたりしていましたが、非常用備蓄の勧めは今に始まったことではなく、それこそ戦後ほぼ一貫して存在していました。第二次世界大戦及び冷戦時代を知っている世代は非常用備蓄をかなり真剣に実施していますし、冷戦時代しか知らない世代も食料等の備蓄はごく普通のことと捉えています。本当に備蓄を余念なくするかどうかはまた別問題ですが。

ドイツ国内では民間防衛構想の更新に対する反応は概ね落ち着いたもので、「なんで今更?」と考える人が多かったようです。中にはもちろん何かあったのかと不安に思う人たちもいたでしょうが、買いだめパニックようなことは一切起こりませんでした。そもそもドイツ人は日常的に買いだめをします。1週間に1度大きな買い物に行き、それ以外は、買い忘れを補ったり、生鮮物を買ったりしますが、毎日その日の分の食料品を買いに行く人は少数派です。水にしろビールにしろダース買いが普通です。

新民間防衛構想に対するドイツ人のツイッター反応

政府が発表した新民間防衛構想及び少量品等の備蓄に対するドイツ人たちの反応はツイッターのタグ#Hamsterkaeufe #Zivilschutzkonzeptでざっと見ることができますが、ジョークのネタになっていることが多いようです。

下のツイートは8月21日のもので「【ハムスター買い】を日曜日に話題にする。まさしく俺的ユーモア。」いわゆる「買いだめ」をドイツ語では「ハムスター買い(Hamsterkäufe)」と言います。日曜日にそれを話題にすることがなぜおかしいのかと言えば、ドイツでは日曜日はガソリンスタンドなどを除く全てのデパート・スーパー・商店が閉まっているからです。

 

次のツイートは「今私のハムスターを太らせているところ。こういう時代の純粋な事前の備え」とコメントしてます。「ハムスター買い」に引っ掛けたジョークであることは言うまでもありません。

次のツイートはスマートに一杯詰まれたバナナの写真。コメントは「連邦政府はハムスター買いを推奨。最初のストップは八百屋。これで10日分足りる。」

次のツイートは独紙南ドイツ新聞の2016年8月22日の記事へのリンク。コメントは「新民間防衛構想をアルバート・シュミットは全く評価していない。彼はとっくにプライベートブンカー(貯蔵庫)を持っている」

ドイツでは買いだめパニックこそ起こりませんでしたが、少々の混乱や議員たちの議論のエスカレートがあるにはあったので、特に野党議員から民間防衛構想の更新のタイミングが悪いという批判が出ていました。

 

今日ご紹介したいのは2013年度の連邦国民保護・災害支援庁による非常用備蓄の指針です。

上のグラフィックは当局の推奨する2週間分の備蓄の一人当たりの目安です。

  • 飲み物 28ℓ
  • 野菜類 5.6㎏
  • 穀類・ジャガイモ・麺類・米 4.9㎏
  • 乳製品 3.7㎏
  • 果物類・ナッツ類 3.6㎏
  • 魚・肉・卵 2.1㎏
  • 脂肪・油類 0.5㎏

乳製品3.7㎏にはちょっとびっくりですが、ヴィーガンでないドイツ人の標準的な消費量はこんなものかもしれません。


ドイツ:新民間防衛構想、本日(2016.08.24)閣議決定~【緊急事態】ではありません!

【ドイツの緊急事態】というデマの真相:新民間防衛構想


ドイツ:新民間防衛構想、本日(2016.08.24)閣議決定~【緊急事態】ではありません!

2016年08月24日 | 社会

先日の拙ブログ記事「【ドイツの緊急事態】というデマの真相:新民間防衛構想」がFBでシェアされまくり、ツイッターでRTされまくったことに改めて驚きを感じています。中には「信じ込んでいた友人をそうでない、と説得するのは大変でした。」というコメント付きでRTする人がいて、「世の中にはデマを信じ込んでしまい、その後にどれだけ信憑性の高い事実が出てきても既にバイアスがかかっていて、それを容易に受け入れない人が本当にいるんだ」と一瞬ボー然としてしまいました。

それはともかく、本日(2016.08.24)は予定通り「民間防衛構想(Konzeption Zivile Verteidigung=KZV)」が閣議決定されました。原文はドイツ連邦内務省のサイトからダウンロードできます。英語版は用意されていませんので、ドイツ語が分かる方しか参考にならないと思いますが。

以下に「民間防衛構想」の概要を紹介します。

目次:

      略語一覧

  1. Anlass und Zielsetzung 理由と目的
  2. Gegenstand 対象
  3. Rahmenbedingungen 枠組環境
  4. Gemeinsame Prinzipien 共通原則
  5. Aufrechterhaltung der Staats- und Regierungsfunktionen 国家及び政府機能の維持
  6. Zivilschutz 民間人保護
  7. Versorgung 供給
  8. Unterstützung der Streitkräfte 軍隊支援
  9. Weiterentwicklung 今後の発展
  10. Zusammenfassung まとめ

第1章では、省庁を超えた民間防衛構想の更新は1995年が最後であり、冷戦終了による緊張緩和が特徴的であり、民間防衛のためのシステムや施設は解体あるいは各州の災害対策用に転用されたことが述べられています。今回の新構想は変化した状況に適応させるためのものであり、「連邦軍構想(Konzeption der Bundeswehr)」と共に全体的防衛原則の刷新のための基礎となる文書だと位置づけられています。詳細な取り決めに関しては各分野ごとに別文書が作成されるとのことです。

第2章は3部に分かれており、「民間防衛の機能と使命」、「連邦の緊急事態準備における使命」、「連邦の補助的使命」の見出しがついてます。ドイツにおける「連邦」は日本における「国」に相当すると考えれば分かりやすいかと思います。ドイツでは地方分権が広範にわたっているため、何が連邦の管轄で、何が各州政府の管轄なのか、その役割分担がドイツの憲法である基本法に比較的詳細に定められていますが、やはり原則レベルのことですので、具体的な政策施行の際に一々連邦か州かの区別を明確にする必要が生じてきます。「連邦(Der Bund)」は現代ドイツ政治においては連邦政府、連邦議会、連邦省庁の総称です。政治的文脈の中で「連邦が…」と来れば、「これは連邦の管轄です」と明言し、管轄責任の所在を明らかにしているわけなのですが、「州政府は黙っとけ」のような意味合いもなくはないです。

第3章で、どのような脅威、リスク、緊急事態などが想定されているかが扱われています。防衛構想に関してはNATOの枠組みが最重要で、軍事的脅威に関する評価は防衛省の管轄となり、民間防衛構想は防衛省の評価を元に作成される、ということが実に回りくどく、お役所的に述べられてますが、そんな前置きはともかく、ここで想定されているのは以下の脅威です。

  • 従来型の武器による攻撃
  • 化学、生物、放射性物質・核兵器(CBRN)の投入
  • 大量殺戮兵器及びその運搬システムの投入
  • サイバーアタック
  • 重大なインフラの破損あるいは故障
またハイブリッドな脅威の際の注意点として次のものが挙げられています。
  • あからさまな攻撃と隠れた攻撃の多様性
  • 従来型と変則的な能力/機能の混合
  • 軍事的および非軍事的手段の混合
  • 攻撃対象として脆弱な構造への集中
  • 可能な損害シナリオの複雑性
  • 認識と分類の難しさ
  • 警戒期間の短さあるいはその欠落

第4章は非常に短いですが、連邦、州・地方自治体、個人の役割分担、特に連邦の役割とその限界については国民的議論を経て社会のコンセンサスを形成することが、有事の際の最善の対応のためには重要であると言ったことが述べられています。行き当たりばったりでも、一方的な押し付けでも行けない、ということですね。

第5章では国家・政府機能とは何か、有事の際に確保・維持されなければならない機能は何かが定義されています。例えば非常用電源の確保やIT・通信機能の維持などです。「待避所」の設置は明言されていません。

第6章「民間人保護」はもっとも広範な章で、民間防衛構想の中心を成す内容と言えます。大まかに次の分野に分かれています:

  • 自己防衛
  • 警報
  • 建築上の保護
  • 火災予防
  • 避難・分配
  • (被災者の)ケア
  • 健康保護(救急、病院警報計画、薬剤・医療機器の備蓄)
  • CBRN防御(防毒マスクなどの分配や避難指針など)
  • 技術的支援(救援・救出活動、非常時ライフラインの確保・供給など)
  • 標的物保護
  • 文化財保護
第7章では主にライフラインに関わる民間企業の役割が大まかに述べられています。飲料水、食料、医薬品・医療処置、郵便、電信、データ処理、エネルギー供給、現金供給、廃棄物処理、汚水処理などについての基本方針が述べられ、この章でここ何日か話題になっている「各家庭での食料・飲料水・現金の備蓄」も言及されています。
 
第8章で、軍隊支援の在り方が大まかに述べられていますが、「徴兵制」に関しては明言はされていません。与党内でも徴兵制再導入には反対派も多いためでしょう。「軍隊を支援するための現存するあらゆる構造、システム、手段を必要に応じて利用する」と書かれているので、徴兵制という基本法第12a条に定められているシステムもこの中に含まれると解釈しようと思えばできる感じです。
 
第9章では、「民間防衛構想」の位置づけと関連文書が列挙され、防御目的と現状の分析を定期的に行い、構想をアップデートしていくという展望が述べられています。
 
第10章では各章の要点がまとめられてます。
 
以上が今日閣議決定した「民間防衛構想」の概要です。
いい加減【ドイツの緊急事態】というデマを信じ込んでいる人がいなくなっていることを期待しつつ、今日はここで終わりにします。

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)

2016年08月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の『催眠・カウンセラー』シリーズ第3作となるらしいこの『後催眠 完全版』は、『催眠』でお馴染の嵯峨敏也が「木村恵美子に深崎透のことは忘れるように伝えろ」と言う一方的な電話を謎の女性から受け取ることに始まります。データベースを調べてみると木村恵美子が神経症の患者で精神科医兼カウンセラー・深崎透は彼女の担当医だったことが判明し、かつ食道癌で手術後失踪?!

一方、当の恵美子は何かの事件をきっかけにまた神経症を悪化させてしまったらしい。彼女は治療中の時からプライベートで深崎と付き合いがあり(とは言っても男女関係ではない)、彼が失踪したらしいその後も彼と電話で話したりしていて、今度は彼が訪ねて来るという。。。

私は嵯峨敏也のラインと木村恵美子のラインが話が進行していくにつれてもっと積極的に絡み合って来るのかと思っていたのですが、嵯峨はその後ほとんど登場せず、もっぱら恵美子の「事件」に関して警察と対峙し解決していくことと神経症の治癒に話が終始しているので、途中ちょっとイラッとしてしまいました。そしてラストは全く予想外の方向でのオチでびっくり。( ´゚д゚`)エー

これは、松岡氏の他シリーズのように主人公がどの巻でも活躍することを期待している読者にはかなりがっかりなストーリーだと思いますが、カウンセリングや催眠療法に興味のある人には、なかなか興味深い話なのではないかと考えられます。

私自身の感想は、「どちらかと言うと面白い」あたりでしょうか。エンタメ性も中から下程度のように思えるほどテンションが低いです。

同シリーズの『カウンセラー』はどんな感じなのか興味があるので、そちらも読んでみようと思います。

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書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

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書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)


【ドイツの緊急事態】というデマの真相:新民間防衛構想

2016年08月23日 | 社会

【ドイツは緊急事態!】はお笑いネタ

昨日(8月22日)テレビでニュースを見ていた時は、この「新民間防衛構想」がこれほどドイツ国外、特に日本で話題になるとは思っていなかったので、ブログ記事にするまでもないだろうと考えていたのですが、あまりにもデマが酷いというか、ネット住民のリタラシーレベルが低いというか、なんか情けない限りなので、やっぱりブログで取り上げることにしました。

ちなみに私のダンナ(ドイツ人)は、日本語のネットで「ドイツは緊急事態!」というデマが飛び交ってる、と私が知らせたら、ひたすら大笑いしてました。「情報が短縮されすぎて勝手に妙なデマが独り歩きするいい例だ」と、笑いをこらえながら指摘。私の同僚たち(全員ドイツ人)にもこの話は大ウケでした。余りにも事実とかけ離れているため、なんでそうなるのか理解できず、笑うしかない、という感じです。

デマが発生した原因(私見)

推測に過ぎませんが、日本語デマの元はBBC日本語版の「ドイツ政府、国民に水・食料の備蓄呼びかけ」という記事だったのではないかと思われます。この記事自体はBBCのオリジナル記事「Germans told to stockpile food and water for civil defence」を日本語訳したに過ぎないのですが、これ自体も少々不正確なタイトルです。

しかしながらこの「ドイツ政府、国民に水・食料の備蓄呼びかけ」というタイトルだけ読んで、「ドイツは緊急事態なのか?」という早とちりに繋がったのではないかと考えられます。それがはてなマークまで取れて、「ドイツが緊急事態に!」に変質したり、「ドイツ銀行緊急事態」と尾ひれが付いたり。記事中の「戦後70年間で、こんな声明は初めて。」という文言は更にひどいデマです。食料品などの備蓄の推奨は決して新しいものではなく、以前から災害対策などの関係で「民間人保護(Zivilschutz)」コンセプトの枠内で奨励されてきました。

また、「ドイツ銀行が危ない」とは前から言われていますが、これと緊急事態が結びついてしまったのは、食料などの他に現金も各家庭で備えておくことが推奨されていたからでしょう。災害時に広域停電になれば、ATMも機能しなくなり、現金引き出しは不可能ですし、カード払いも電話回線などの通信が不能であればやはり不可能になります。そういうことがシナリオ想定されている、という方が余程信憑性があるのに、信憑性が薄くとも刺激的なネタに飛び付くネット住民の低俗性が妙なデマの流布の原因なのかも知れません。

付け足し:「背景にはドイツの財政危機?」などという憶測も。日付は2016.08.26。

デマの真相

真相は拍子抜けするほど単純で、1989年の冷戦終了以来防衛的観点からは更新されていなかった「民間防衛構想」の改定版が、2012年のドイツ連邦議会の財政委員会の依頼に基づいて作成され、この度完成した、と言うだけの話です。これは防衛白書(Weißbuch für die Sicherheitspolitik)に並行して作成され、8月24日に内閣で審議されることになっていましたが、独紙フランクフルター・アルゲマイネ(Frankfurter Allgemeine Sonntagszeitung=FAS)が8月21日に既にリークしたため、余計な波紋を起こしてしまったようです。このため政府のこの件に関するコミュニケーション管理の在り方も批判の的になっています。

以前は「民間人保護(Zivilschutz)」という用語を使っていたのに、今回の改定では「民間防衛(Zivile Verteidigung)」が使用されていることに関して、ドイツ政府は8月22日の記者会見で「用語がいつ変わったのかは定かではないが、重点が防衛の方に移行したことに起因する」と回答しています。因みに「民間人保護」コンセプトの方は1995年が最後の改定でした。

新民間防衛構想に対するドイツ人のツイッター反応

政府が発表した新民間防衛構想及び食料品等の備蓄に対するドイツ人たちの反応はツイッターのタグ#Hamsterkaeufe #Zivilschutzkonzeptでざっと見ることができますが、ジョークのネタになっていることが多いようです。

下のツイートは8月21日のもので「【ハムスター買い】を日曜日に話題にする。まさしく俺的ユーモア。」いわゆる「買いだめ」をドイツ語では「ハムスター買い(Hamsterkäufe)」と言います。日曜日にそれを話題にすることがなぜおかしいのかと言えば、ドイツでは日曜日はガソリンスタンドなどを除く全てのデパート・スーパー・商店が閉まっているからです。

 

次のツイートは「今私のハムスターを太らせているところ。こういう時代の純粋な事前の備え」とコメントしてます。「ハムスター買い」に引っ掛けたジョークであることは言うまでもありません。

次のツイートはスマートに一杯詰まれたバナナの写真。コメントは「連邦政府はハムスター買いを推奨。最初のストップは八百屋。これで10日分足りる。」

次のツイートは独紙南ドイツ新聞の2016年8月22日の記事へのリンク。コメントは「新民間防衛構想をアルバート・シュミットは全く評価していない。彼はとっくにプライベートブンカー(貯蔵庫)を持っている」

 

民間防衛構想の法的根拠

「民間防衛(Zivile Verteidigung)」に相当するものはドイツ基本法第73条第1項に、連邦機関(政府あるいは連邦議会)が独占的に立法権をもつ項目の一つとして、外務関連と並んで最初に挙げられています。

原文(Grundgesetz, VII. Die Gesetzgebung des Bundes ― 基本法、第7章 連邦の立法):

Art. 73 [Gegenstände der ausschließlichen Gesetzgebung] Der Bund hat die ausschließliche Gesetzgebung über:
(第73条 【独占的立法の対象】 連邦は以下の項目に関して独占的な立法権を有する:)

1. die auswärtigen Angelegenheiten sowie die Verteidigung einschließlich des Schutzes der Zivilbevölkerung
(第1項 外務関連及び民間人保護を含む国防) 

すなわち、民間人保護を含む国防に関する法整備はドイツ政府及び連邦議会の義務であり、州の代表者たちの集まりである連邦参議院の承認を必要としないということがここで規定されているわけです。

ドイツ及びNATOを取り巻く状況は変化してきているにもかかわらず、民間防衛コンセプトは1989年の冷戦終了を最後に全く更新されていなかったのは問題ということで、2012年に改訂版を出すことが決定し、今それが完成したので公表した、という話なのです。「4年間も何してたんだ」という疑問は残らなくもないですが。

とにかく改定が決まったのは2012年のことですので、難民問題もロシアやトルコとの緊張関係も金融危機も、そしてつい1か月ほど前に連続して起こったテロあるいは暴行事件も全く関与していません。また、政府は、正確には国民に備蓄を【呼びかけた】わけではなく、民間防衛の新コンセプトを公表しただけです。そのコンセプトの中に「食料は10日分、飲料水は5日分及び現金を各家庭で備蓄することを推奨する」という項目が含まれてる、という話です。

民間防衛構想の内容

その69ページに及ぶ「民間防衛構想」にははっきりと、「従来型の国防が必要となるようなドイツ領土への攻撃はまず考えられない(…)それでも将来、基本的に除外することのできない、そのような存続危機的な状況に適切に備えておくことは、安全性配慮の観点から必要なことである」と明言されています。非常に回りくどい文ですが、要するに「備えあれば患いなし」だから、ことが起こってから慌てないようにあらかじめできる限り計画を立てとくのが国の役目だ、と言っているわけです。

日本の原発再稼働のように避難計画の具体化は後回しで、取りあえず動かしてしまいましょう、というような態度とは正反対のスタンスですね!日本では「想定外」ばっかりです。

オリジナル文書「民間防衛構想」の解説は、拙ブログ記事「ドイツ:新民間防衛構想、本日(2016.08.24)閣議決定~【緊急事態】ではありません!」に書きましたので、興味のある方はご覧になって下さい。

この新民間防衛構想には、徴兵制の復活国家機関待避所(Ausweichsitz der Verfassungsorgane)」の構築なども暗に含まれています。

徴兵制再導入の可能性

ドイツでは2011年7月にそれまでの徴兵制を停止し、職業軍人による軍隊へ移行しました。ウルズラ・フォン・デァ・ライエン防衛相は今年6月末に、「ロシアとの緊張関係やイスラム原理主義のテロの脅威があっても、徴兵制を再導入する理由はない」と明言したばかりです。

しかし、徴兵制停止の際に、徴兵制を定める基本法第12a条が変更されなかったため、実はいつでも簡単な法改正で徴兵制を復活させることができます。独紙ケルナー・シュタットアンツァイガー(Kölner Stadt-Anzeiger)の「徴兵制廃止から5年。民間防衛計画の更新に伴い徴兵制復活か」という2016年8月23日付けの記事によれば、徴兵制と言っても、軍隊への民間協力という形が念頭に置かれている(つまり戦士として戦地に派遣されるわけではない)とのことです。主に軍隊の移動の際の一般道路の交通整理だとか、軍用建物の補強作業だとか、そういう作業が想定されています。恐らく人手が足りない場合の数合わせ的な意味合いが濃いものでしょう。

基本法12a条第2項で、倫理的な理由から兵役を拒否し、民間部門で代用任務に就く権利も保証されていますので、どちらにしても本人の意思に反して兵役を義務付けられることはありません。

国家機関待避所

「国家機関待避所」の構築も国防コンセプトではお馴染のものです。東西ドイツ統一前の西ドイツの首都がまだボンにあったころはこの待避所(俗に「政府ブンカー」)がアールヴァイラーにありました。拙ブログ「ドイツ・ワインの谷、アールヴァイラー」でも紹介しましたが、NATOの指示によって、1960年から1972年にかけて元鉄道トンネルを利用して極秘に建設されたもので、現在は博物館になっています。ここで1966年から1989年まで2年ごとにNATOの演習が行われ、真剣に第3次世界大戦のシミュレーションなどが行われていました。1997年に施設の放棄が決定し、2008年に博物館として残された部分を除き解体作業が完了しました。これのベルリン版を再構築するみたいですが、まあ、これが具体的に一般公表されることなどないでしょう。一応国防に関する極秘事項に属する筈ですから。他国の諜報機関などには情報が洩れていると考えられますけど。「国家機関待避所」に関しては連邦安全保障会議でも審議されるとのことです。

アールヴァイラーの政府ブンカーは一応ヒロシマ型原爆程度の威力になら耐えられる強度を持つよう設計されていましたが、ブンカー建設当時には既にもっと威力のある原爆が開発されていたので、最初から時代遅れの役立たずでした。その「役立たずさ加減」を立証せずに済んだのは僥倖と言うべきでしょう。

終わりに

こうしたブンカーはもう冷戦時代の遺物ですが、それでも万一に備えておくと同時に、新たな脅威としてのテロや原発過酷事故、サイバーアタック等々のシナリオを想定し、対策を練ったものが新民間防衛構想です。8月24日に内閣で審議されることになっています。繰り返しになりますが、審議が予定されているだけで、緊急事態宣言やそれに近い政府声明が出されたわけではありませんので、くれぐれもデマに惑わされないよう情報源を精査することをお勧めします。

ある記事が信用に値するかどうかは、その記事がどれだけ信頼できるソースを参照し、引用元としてあるいは参考記事・文献としてきちんと生きたリンクが張られているかどうかで決まります。
あとは刺激的に煽り立てるような内容であるか、冷静な分析であるかでも違いが分かります。前者ならデマの可能性大、後者なら参照文献等がきちんと明記されていれば信憑性は高い。執筆者がジャーナリストで独自取材している場合は、いつ、どこで、誰からあるいはどういう関係者から情報を得たか、あるいはインタヴューしたか通常明記してあります。それがなければ、やはりデマの可能性大なので、独自に検索して、確認する必要があります(興味があれば)。 

また、現地からの正確な情報があるにもかかわらず、デマのほうを信じる方が貴方のフォロワーあるいはFBFにいる場合は、その方たちとのお付き合いを考え直すことをお勧めしたいです。

参照記事:

BBC日本語版、2016.08.23、「ドイツ政府、国民に水・食料の備蓄呼びかけ
BBC、2016.08.22「ドイツ人は民間防衛のために水・食糧の備蓄を勧められた
フランクフルター・アルゲマイネ日曜版、2016.08.21、「このように連邦政府は戦時に対応する
ドイツ連邦政府ホームページ、「8月22日の政府記者会見」 
ケルナー・シュタットアンツァイガー、2016.08.23、「徴兵制廃止から5年。民間防衛計画の更新に伴い徴兵制復活か 
ドイツ連邦内務省 、2016.08.24、民間防衛構想(Konzeption Zivile Verteidigung=KZV)
ドイツ連邦議会のホームページ、「基本法


書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

2016年08月22日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡氏はよく古い作品の焼き直しをするようですね。『千里眼』、『煙』に続く完全版第3弾、『催眠 完全版』(2008)。

商品説明:

インチキ催眠術師の前に現れた不気味な女性。突然大声で笑い出しては、自分は宇宙人だと叫ぶ彼女が見せる予知能力は話題となり、日本中のメディアが殺到した。その頃、二億円もの横領事件の捜査線上には、ある女性が浮かび上がっていた。臨床心理士・嵯峨敏也が、催眠療法を駆使して見抜いた真実とは?衝撃のどんでん返しの後に感動が押し寄せる、松岡ワールドの原点が、最新の科学理論を盛り込んで完全版となって登場。

この作品は『千里眼 完全版クラシックシリーズ』2巻の『ミドリの猿』に少しリンクしています。あちらでも嵯峨敏也は主人公岬美由紀の先輩として登場しますし、『催眠』の方に登場する≪緑の猿≫は『千里眼』の方では一症例として言及されています。

題名からもお分かりのように主題は臨床心理学における催眠療法です。上述の商品説明における【不気味な女性】も横領事件の容疑者として浮かび上がってきた【ある女性】も同一人物ですが、多重人格です。嵯峨敏也はこの女性を助けようとちょっと蒸気を逸したことを次から次へとやって、かなりの顰蹙を買いますが、揺るがない正義感でもって状況を打破して行こうとするところは松岡ワールドお馴染のキャラ傾向が強く出ています。彼の人気シリーズの主人公はどれも女性ですが、この作品では珍しく男性。だけど『被疑者04の神託』のような冴えない中年男ではなく、若々しく結構持てそうな優男、という設定です。

ストーリー構成はパズルのようです。それほど細かいピースに分かれているわけではありませんが、いくつかのピースは全体像にどう嵌るのか最後まで分かりません。心理学の催眠療法に関してはかなり詳しい蘊蓄が作中で語られていますが、そこさえクリアすれば、あとはハラハラするいいエンタテインメントです。

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書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)


書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

2016年08月21日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『被疑者04の神託 煙 完全版』(2009年刊)は不思議な話でした。「何か事件が起こって、その犯人なり原因なりを証拠集めや推理で究明する」というパターンのミステリーではありません。著者の初期傑作『煙』が徳間文庫 2001年刊では『伏魔殿』と改題され、またこの完全版で『被疑者04の神託』と改題されるというなんだか紆余曲折の多い作品でもあります。

「愛知県生稲市の布施宮諸肌祭りでは、厄落としの神=神人が地元より、毎年たった1人だけ選出される。今年はタバコ屋の主人、榎木康之が選ばれた。しかし、彼にはどうしても神人にならなければいけない理由があった!実は、ある娘の奇怪な振る舞いが榎木を厄難の渦に追い詰めていたのだ。二転三転する、息もつかせぬ驚天動地のストーリー!」

と言うのが商品説明ですが、まあ「息もつかせぬ」云々は大袈裟過ぎですね。でも二転三転するするのは確かで、一見榎木康之が神人に立候補する動機と言うかいきさつを過去の追憶を交えて説明していくストーリー展開なのですが、近過去の「いきさつ」に実は陰謀が働いており、それが同時に遠い過去の謎を解く手掛かりにもなっているという構成です。諸肌祭りという奇祭の裏側に触れ、田舎社会の閉鎖性・特殊性に切り込んでいくような側面もあるかと思います。

奇祭の裏側を示唆し、陰謀を解くカギとなる部分は:

「明治以前までは、罪人をひとり捕らえて儺負人(なおいびと)としていました。現在のように儺負人が神人と呼ばれるようになったのは、明治後半から昭和にかけてといわれています。また、裸男がもみ合うようになったのもそのころだそうです」
どんな罪人だったかは、触れないつもりらしい。それも当然だった。武士、女、子供、僧侶、乞食以外の罪人。それが当時の儺負人の条件だった。

というところ。そして結末も「正義は勝つ」的なクリアな勝利ではありません。裏側が表ざたになることは決してなく、裁かれるべき人が地元の名士であるがゆえに曖昧にされる、というようなグレー色が濃厚で、どちらかと言うとあまり後味のいい作品ではないかと思います。

正直、「息もつかせぬ」展開になるのは物語の大分後の方で、そこに辿り着くまでは全体的に陰鬱で倦怠感、なんとなく腑に落ちないムードが漂っており、どちらかと言えば退屈です。しかし、世間では人生の負け組という評価を受けるであろうタバコ屋店主と東京から回されてきた刑事・深澤の二人のやり取りは、物憂げで人生の疲れを漂わせつつも深みがあり、希望はなくとも絶望はしていないその年齢ならではの諦めに似た達観もくみ取れます。褒められたものじゃありませんが、≪人間とは、人生とはそんなものさ≫と思わせるだけの説得力もありますね。

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ドイツの職場:勤務場所及び時間の自由度

2016年08月19日 | 社会

Indeedという職業斡旋大手の職場の自由度に関する調査が興味深いと思いましたので、ここに簡単にご紹介いたします。調査は2016年7月に1069人の被雇用者に対して行われました。

その調査によれば、フレックスタイムを導入している企業は全体の57.2%になります。もうちょっと多いような気がしていましたが、工場や販売店舗などその場に決まった時間に居ることを要求されるシフト性の職場に勤務する人も多いわけですから、これくらいなのかもしれません。

労働時間の自由度の内容ですが、最も多いのはコアタイムとその前後のフレックスタイムの設定で、74.2%を占めます。在宅勤務が許されているところは39.5%、在宅以外の信頼に基づく仕事場の選択あるいは労働時間の選択が認められているところは31.9%(うち勤務時間に関して完全な自由度がある所は24%、仕事場所に関して完全な自由度があるところは7.9%)。決められた日に早めに退社できるところは22.5%。サバティカル(一定期間の休職)が認められているところは更に少なく、10.4%。いわゆるジョブ・シェアリングが可能なところは約5%に留まっています。

なお、雇用主の選択に際して、フレックスタイムがあることが「非常に重要」と答えた人は35.5%、「重要」と答えた人は39.9%で、この制度が被雇用者にとっていかに重要であるかが浮き彫りになりました。