徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:下地 寛也著、『プレゼンの語彙力 おもしろいほど聞いてもらえる「言い回し」大全』(KADOKAWA)

2023年08月06日 | 書評ーその他

『プレゼンの語彙力 おもしろいほど聞いてもらえる「言い回し」大全』は、2年ほど前に話し方や語彙力、プレゼン力関係の本を買いあさった際に購入したものですが、残念ながらそのまま今まで積読本リストの一角を占め続けていました。
今月は、志を新たに、積読本を消化することにし、本書を手に取った次第です。

読んでみて思いましたが、実は「積読」しとくほどのものではありませんでした。実に読みやすく、1つの言い回しに見開きを使い、左ページにイラストと標語などがあり、右ページに具体例と簡単な解説があります。

目次
第1章 「自信を示す」言い回し
第2章 「興味を引く」言い回し
第3章 「驚きを与える」言い回し
第4章 「納得感を高める」言い回し
第5章 「信頼させる」言い回し
第6章 「共感を得る」言い回し
第7章 「決断を促す」言い回し

他の類似書で取り上げられている内容も多かったですが、よく分類されているのと、1つの言い回しに1ページという構成の良さが理解しやすく、また、探しやすさから実践的と言えるでしょう。


書評:藤𠮷 豊・小川真理子著、『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた』(日経BP)

2023年03月13日 | 書評ーその他

本書は「ベストセラー100冊のポイントを1冊にまとめてみた」シリーズ第3弾です。シリーズ第1弾は「文章術」、第2弾は「話し方」。
同じテーマに関する本100冊のうち、数十冊に共通して述べられていることはそれだけ重要・本質的である、という考えに基づいて、項目ごとに掲載されていた本の冊数をカウントして順位づけ、ベスト40までがまとめられています。
そのベスト40はさらに次の3つに分割されています。
  • 1位~8位のルールで、「脳に合った学び」ができる。
  • 20位まで身につければ、「学ぶ楽しさ」を実感できる。
  • 40位まで身につければ、「望み通りの結果」が手に入る。
 トップ8は以下の通り。
  1. 繰り返し復習する
  2. 「目的」と「ゴール」を明確にする
  3. 上手な「休憩」で学びの「質」が上がる
  4. 「ごほうび」でドーパミンを活性化する
  5. ゴールから「逆算」して計画を立てる
  6. スキマ時間を活用する
  7. 「集中しやすい空間」をつくる
  8. 一夜漬けしない。よく眠る
私自身が読んだ本の中にもよく挙げられていた内容なので、確かに腹落ちする順位だと思いました。

本書はトップ40すべてを身につけることを推奨しているわけではなく、あくまでも自分の勉強法を見直し、自分に合った勉強法を試すためのアイディアを提供することを目的にしています。このため、《結局は「自分に合った勉強法を探すのが近道」》という一文が結論となっています。

付録では、「人間の学びの仕組み」をより理解できる項目だけ抜き出したまとめ、勉強のステップごとに項目を整理したもの、推薦図書、著者たちの意見や参考文献などがあり、単純なランキングではないところが親切です。

シリーズものとは知らずに買いましたが、第1弾・第2弾も読んでみようと思いました。

書評:情報文化研究所著、高橋昌一郎監修『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』(フォレスト出版)

2022年11月18日 | 書評ーその他

『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』は論理学的アプローチ、認知科学的アプローチ、社会心理学的アプローチの3つのアプローチに分類され、それぞれ20個、合計60個のバイアスを定義・関連バイアス・具体例・対策・参考文献という一定の型式に従って紹介します。
「吊り橋効果」や「サブリミナル効果」などの有名なものから一般にはさほど知られていないものまで、比較的わかりやすくイラストや図解を使って説明されています。
60個全部を記憶して対策するのは無理ですが、一度通して読むことでいかに人間の感覚や思考があてにならないかを知ることは、様々な誤謬に知らずに陥ることを防ぎ、より客観的・論理的・批判的に思考するための一助となります。

以前にロルフ・ドベリの『Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法』のドイツ語版を読みましたが、内容的には重複する部分も少なくありませんでした。こちらでは52種類のバイアスが紹介されていました。
両者を比較すると、『認知バイアス事典』はタイトルの通り〈事典〉として使うのに適した体裁になっており、『Think Smart』は読み物としての面白さがある一方で、練習課題が付録についているところが実践向きと言えるでしょう。
どちらも良書だと思います。

書評:堀元見著、『教養(インテリ)悪口本』(光文社)

2022年10月01日 | 書評ーその他

『教養(インテリ)悪口本』というタイトルを見て「なんだその意地の悪そうな本は⁉」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、インターネット(特にSNS)には何のひねりもない「ばか、死ね」的な書き込みが溢れていることを考えれば、悪口を一ひねりして、ユーモアをもって笑い飛ばそうという著者・堀元見は、むしろ心優しいと思えませんか?

悪口は誰も幸せにしない。言われた方はもちろん、言う方も聞く方も皆気分を害してしまうものです。どうやら、脳は主語を区別せずに情報処理するらしく、言われた悪口を「自分のこと」として変換してしまうようで(どこかで読んだ心理学研究の結果)、それゆえに悪口を言うことで、自分が悪口を言われたのと同じくらい腹が立つようです。悪口を言えば言うほどどんどん腹が立って来るという経験をした方も少なくないのではないでしょうか?これはつまり、脳が「自分が貶されている」と変換してしまうことによるらしいです。
だから、悪口は言わないに越したことはないわけなのですが、それでもどうしても何か言いたくなる時もやはりあることでしょう。
そういう時に、教養がないと分からない・言えない悪口を言って楽しむことができれば、不快感を愉快に変換できるかもしれません。

著者がまえがきで紹介しているエピソードがそのカタルシス効果をよく表しています。大学時代の同期に、ちょっとずれた空気を読まない人がいて、何人か集まった時に「あいつウザくね?」という話になり、悪口がエスカレートしていったそうですが、その中の1人が「ただし人間関係の摩擦は無視できるものとする、と思ってるのかもな」と言ってことで、場の空気が一転して「そっかー、物理の問題を解きすぎたのかもしれないね」とみんな笑い転げたというお話でした。
理系の学生が物理の問題集でいやというほど目にする「ただし摩擦は無視できるものとする」という文言の応用でこれだけ笑いが取れ、悪口大会の淀んだ空気を一気に吹き飛ばすパワーがあったことに感銘を受けた著者はその後、そういうユーモラスなインテリ悪口を探すようになり、ついに本を一冊出すまでになってしまったとのことです。

本書に挙げられている「インテリ悪口」のすべてが面白いというわけではありませんが、ツボにはまるものがいくつもあって、いい笑いを頂きました。自分が使う機会があるとは思えませんが。。。
何かしらウィットに富んだ悪口を言ってマウントを取りたい方には本書はうってつけの実用書と言えるでしょう。

私自身は、仕事が詰まって閉塞感を抱えているときに、仕事の合間を縫って本書を読み、気持ちよく笑ってストレス解消させていただきました。



書評:堀元見著、『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』(徳間書店)

2022年04月26日 | 書評ーその他

例外的に紙書籍をAmazonで予約購入したのが本書『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』でした。
その理由は、著者と田中泰延さんとの対談の「ぶっちゃけ」たほうの後半ライブを視聴できる条件がそれだったから。

対談は非常に楽しかったし、ようやく届いた本書も面白かったです。
堀元見氏はYouTubeの『ゆる言語学ラジオ』の出演・プロデュースしており、私はこのチャンネルで彼のことを知りました。慶応義塾大学理工学部卒業後、就職せずに「インターネットでふざける」を職業にしたという変わり種で、著書に『教養悪口本』(光文社)があります(そちらは未読)。

さて、そのような著者がビジネス書ベストセラーを100冊読んで、教えをスプレッドシートにまとめて行くプロセスをYouTube公開しながら執筆したのが本書なわけですが、このようなノリの著者がまじめな「ビジネス書まとめ本」を上梓するはずがありません。
結論から申し上げますと、本書は「現代アート」です。

とはいえ、装丁といい、中身のレイアウトといい、最後に合宿セミナーの宣伝ページがあることといい、作りはビジネス書そのもの。
うっかり騙されて買ってしまって怒り狂うビジネス書愛読者たちの反応も込みで「作品」なのだそうです。

パロディの本気度と全力でふざける芸は、確かに「アート」と言ってもいいと思います。
通常であれば本を読んだら目次も書評に収録しますが、本書に限ってはそれは無意味なので止めておきます。

本書を通じて、いかに矛盾に満ちたいい加減な主張が本になっており、またそうしたものをたくさん買う人々が多くいることがよく見えてきます。

著者はふざけてはいますが、実際にビジネス書100冊のポイントを抽出しているので、これ一冊で確かに「ビジネス書あるあるのポイント」を知り、それらを比較したり、著者のように変な繋げ方をして楽しむこともできます。

そもそも、「成功者の真似をすれば成功する」という考え方自体に問題があり、「自分はこれで成功したから、これが絶対正しい」というスタンスで書かれた書籍は「サンプル1」の話なので、大して参考になるような所見は得られないものです。

けれども、ビジネス書ビジネスはまさにその間違った幻想を土台にして成り立っています。そうした書籍たちを実際に100冊も読み漁ってデータを集め、結局「自分で考える」結論にしかならないことを証明する(ふざけながら)。

本書の「正しい」読み方や解釈の仕方などはなく、著者の言うように「お好きにどうぞ」という感じなのでしょうけど、私は一緒に笑い転げるのが健全な楽しみ方だろうと思います。


書評:スティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック著、土方 奈美訳、『知ってるつもり 無知の科学』(早川書房)

2022年03月21日 | 書評ーその他

知と無知をめぐる思索・考察の歴史は長く、「知っているつもり」の「知識の錯覚」古代ギリシャのソクラテスに端を発しクリティカルシンキングとして現代に受け継がれている思考法などがいい例です。

『知ってるつもり 無知の科学』は、認知科学を始めとする学際的なアプローチと豊富な事例を用いてこの人類の永遠のテーマに迫ります。

ソクラテス(紀元前470~399年)曰く、賢者は全てのものと万人から学び、凡人は自らの経験から学ぶ。そして愚者は何でもよく知っているつもりになる(知ったかぶりをする)。

このソクラテスの名言を認知科学的な実験で証明したのがコーネル大学のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーで、ダニング=クルーガー効果と呼ばれています。
曰く、能力の低い人ほど自分の能力を過大評価し、逆に能力の高い人は自分の能力を過小評価するというものです。この認知バイアスは、能力が低い人々の内的な(=自身についての)錯覚と、能力の高い人々の外的な(=他人に対する)錯覚の結果として生じます。
能力の低い人は自分が何を知らず、何ができないのかを知らないので、傲慢になれます。「夜郎自大」や「井の中の蛙大海を知らず」と古くから言われている精神状態です。
最も無知を自覚していない人がすべて傲慢になるわけではありません。あくまでも傾向です。

能力の高い人は、自分の専門分野についての何を知らないか、理解していないかを自覚していたり、ある結果を出すまでのプロセスを知っているがゆえにその大変さも理解しており、それを成し遂げた先人たちなどに対して謙虚になるため、自分の能力に対する評価が低くなる傾向にあります。
これは「知的謙虚さ」と呼ばれるもので、それを持つ人の能力の伸びしろが大きいことを表すと人事関係者の間では解釈されており、聞く話によると、Googleではこの知的謙虚さを持たない人間を絶対に採用しないのだとか。

長い前置きになってしまいましたが、『知ってるつもり 無知の科学』は決して真新しい知見を扱っているわけではないということをまず知っておいた方がいいということを伝えたかったのです。

目次
序章 個人の無知と知識のコミュニティ
第一章 「知っている」のウソ
第二章 なぜ思考するのか
第三章 どう思考するのか
第四章 なぜ間違った考えを抱くのか
第五章 体と世界を使って考える
第六章 他者を使って考える
第七章 テクノロジーを使って考える
第八章 科学について考える
第九章 政治について考える
第十章 賢さの定義が変わる
第十一章 賢い人を育てる
第十二章 賢い判断をする
結び 無知と錯覚を評価する

本書の趣旨は人間の無知を指摘するものではありません。ましてや断罪するものでもありません。
結びの「無知と錯覚を評価する」というタイトルからもそれは察せられるかと思いますが。

「なぜ人間は、ほれぼれするような知性と、がっかりするような無知をあわせ持っているのか。大抵の人間は限られた理解しか持ち合わせていないのに、これほど多くを成し遂げてこられたのはなぜなのか。こうした疑問に答えて行くのが本書の趣旨です。

まずは知識の錯覚というものがどういう性質のものなのか、様々な実験結果を用いて詳細に見て行きます。
例えば水洗トイレなどの日常的に使うものに対しての理解度を被験者に問い、では、それはどういうものなのか説明してもらい(たいていの人は説明できない)、その後で再度そのものに対する理解度を自己評価してもらうなど(大抵は最初の評価よりも低くなる)。

また、自分の頭の中にある知識と外にあるアクセス可能な(調べれば分かる)知識の区別をしない傾向にあることも実験によって明らかにされます。

知能は個人個人の能力ではなく、コミュニティの中で認知的分業を行いつつ、共通の目標に向かってそれぞれがそれぞれの能力を持って貢献し、協力し合うところにある、というのが1つの重要な知見です。

社会は複雑で、個人が知り得ることや理解し得ることは実に限定的です。この事実を自覚していないと極端な意見に偏ったり、無用な争いを起こしたり、時に甚大な被害を生じさせたりするおそれがあります。

しかし、その一方で、自分の能力以上の錯覚をするがゆえに大きな夢を叶えるポテンシャルもあると言えるので、錯覚=悪ではない、と著者らは結論しています。

何事でもそうですが、過ぎたるは猶及ばざるが如し、ということなのでしょうね。傲慢は時に集団的暴走を招くこともあり、害悪でしかありませんが、適度な知的謙虚さを持ちつつも錯覚する(夢を見る)のであれば、それは、他の人たちの知識・能力を受け入れつつ前進して行ける原動力となり得るわけです。
逆に謙虚過ぎれば、社会貢献できるはずの能力も発揮できずに宝の持ち腐れになる可能性もあります。
結局はバランスの問題ですね。



書評:ブレイディみかこ著、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』(新潮文庫)

2022年03月13日 | 書評ーその他

ブレイディみかこ氏の著作を読むのはこれで4冊目になります。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でブライトンのカトリック系の小学校から地元の底辺中学に入ったばかりの息子は、続編の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』では中2になり、授業でのスタートアップ実習、ノンバイナリーの教員たち、音楽部でのポリコレ騒動、ずっと助け合ってきた隣人との別れ、そして母の国での祖父母との旅などの「事件」を通じてその豊かな感受性で傷ついたり、後ろめたさを感じたり、不条理に感じたり、「ライフってそんなものでしょう」などと何か悟ったりして成長して行きます。

このエッセイは『波』2019年5月号~2020年3月号に掲載されたものです。

本書の魅力は何か。それはただの中学生の成長物語ではないところ。
イギリスの下層労働者階級が多く住む地域で生きる日本語を話せない日系少年の日常が語られることから、それを通してイギリス社会が見えて来るところ。
母親目線ではあるものの、「母ちゃん」と息子の対話がきちんと描かれ、「母ちゃん」も息子に刺激されていろいろ考えたり、気づいたりして成長して行くところ。
「父ちゃん」はあまり変わらないけど、古き良き労働者の考え方を継承しているため、息子の現在との対比が興味深い。


書評:ブレイディみかこ著、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)

2022年02月20日 | 書評ーその他

ブレイディみかこ氏の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとプルー』という本はアイルランド人の夫と息子さん一人と共にイギリスのブライトンの(元)公営住宅地に住む著者が、人種も貧富の差もごちゃまぜの近所の元底辺中学校に通い始めた息子と共に日常的に出会うイギリス社会の歪み、底辺の苦悩と逞しさについて考えていく様子をこのエッセイにまとめたものです。

この本も様々な賞を受賞しているので、すでにご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、日常的な差別を考えて対処していく上でとても示唆に富んだエッセイです。

私が本書に好感を持ったポイントは、差別とそれに基づく時にフィジカルな攻撃を扱ってはいても、差別する側を特別な悪人のように非難するといった正義を振りかざして「差別者」を人として貶める攻撃的な(あるいは報復的な)姿勢がないところです。(「それは差別(用語)だ!」とやたらめったらに突っかかる倫理警察みたいな態度は、それはそれで差別的だと思うので、不愉快なものです。)

さらに、ブレイディみかこ氏のエッセイは息子さんの豊かな感性と母子の対等な対話がすばらしいです。大人は「子どもには分からない」と決めつけてしまいがちですが、これも日常的な差別の1つですが、これを読むと子どもは子どもでたくさん考え、感じ、手探りをしながらも逞しく生きていることがよく分かります。

私自身は差別の本質は人を個として捉えずにカテゴリーとして捉え、そのカテゴリーに含まれる属性がそのカテゴリーに入れられた全ての人に備わっているという誤った決めつけにあると思っています。その原因は怠惰な思考と言えるでしょう。
要するにいちいち考えるのが面倒くさいんですね。だから大雑把にグループ分けしてポンとレッテルを貼って分かった気になるということだと思います。

確かにそのように分類してレッテルを貼るのは合理的なこともありますが、こと人間に関してはカテゴリーやタイプでは判断できない様々な個性や経歴や事情がありますので、大変でも簡単にレッテルを貼らずに目の前の「個人」を意識することが大切だと思います。
あからさまにバカにしたり侮蔑したりするのでなくても、個人を無視して自分の価値観で「こうだろう」と決めつけてしまうことはその人に対して失礼な行為ですよね。

Die Empathie エンパシー(共感)。それは可哀想などと同情する感情ではなく、自分とは違う立場や考えを持っている人の身になって考える能力です。「人の身になって考える」が独りよがりな親切の押し売りにならないようにするには、先入観や決めつけを持たず、相手の語ることによく耳を傾ける、話を聞く能力が必要です。
それが今の社会に不足しているものではないでしょうか。
政治的な議論を観察していると特に、誰も人の話を聞いておらず、クリシェのやり取り、ポジショントークしかしていない印象を強く受けます。

自由はしんどい。多様性はしんどい。
けれども、多くの人がエンパシーを持って考える努力をすれば、きっと今より生きやすい未来があると思います。

そんなふうに考えさせられる一冊でした。


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書評: 古賀 史健著、『取材・執筆・推敲――書く人の教科書』(ダイヤモンド社)

2022年02月01日 | 書評ーその他

「この一冊だけでいい。」100年後にも残る、「文章本の決定版」を作りました。(担当編集者:柿内芳文)
という煽りはいささか大げさかなと思いますが、『取材・執筆・推敲――書く人の教科書』は文章、特に読者を楽しませる「コンテンツ」を作る際の基本姿勢について、取材から執筆、そして推敲に至るまでのプロセスを通して語ります。
取材・推敲・執筆の3部構成、全9章。序論のライターの定義の部分を入れれば全10章になる本書はなかなかの大作です。

目次
──取 材(第1部)──

第1章 すべては「読む」からはじまる
・一冊の本を読むように「世界」を読む
・なぜ、あなたの文章はつまらないのか
・情報をキャッチせず「ジャッジ」せよ
……等

第2章 なにを訊き、どう聴くのか
・なぜ取材はむずかしいのか
・取材を「面接」にしてはいけない
・質問力を鍛える「つなぎことば」
……等

第3章 調べること、考えること
・取材には3つの段階がある
・わかりにくい文章が生まれる理由
・その人固有の文体をつかむ
……等

──執 筆(第2部)──

第4章 文章の基本構造
・書くのではなく、翻訳する
・ことばにとっての遠近法
・わかりにくい日本語と起承転結
……等

第5章 構成をどう考えるか
・構成力を鍛える絵本思考
・桃太郎を10枚の絵で説明する
・バスの行き先を提示せよ
……等

第6章 原稿のスタイルを知る
・本の構成1 いかにして「体験」を設計するか
・インタビュー原稿1 情報よりも「人」を描く
・対談原稿1 対談とインタビューの違いとは
……等

第7章 原稿をつくる
・リズム2 「ふたつのB」を意識せよ
・レトリック1 想像力に補助線を引く
・ストーリー4 起承転結は「承」で決まる
……等

──推 敲(第3部)──

第8章 推敲という名の取材
・推敲とは「自分への取材」である
・音読、異読、ペン読の3ステップを
・最強の読者を降臨させる

第9章 原稿を「書き上げる」ために
・プロフェッショナルの条件
・フィードバックもまた取材である
・原稿はどこで書き上がるのか
……等

「執筆」の技術・テクニックについて書いたハウツー本は多いですが、その前後の取材と推敲について書いた本はほとんどないのではないでしょうか。
具体的なハウツー・テクニックをこの「教科書」に期待した人は失望せざるを得ない。本書は書く人の姿勢とコンテンツ作りの原理原則が本題だからだ。
書く内容の設計図ができて、十分に取材や調査ができてから初めて書き出すという方法は、松岡圭祐氏の小説の書き方に通ずるものがあります。彼もキャラクターとロケーションを設定したあとは物語を頭の中でだけ紡いでいき、物語が完成したら一気に書き下ろすということを『小説家になって億を稼ごう』で語っていた。

目から鱗が落ちると同時に耳が痛いと感じたのは、古賀史健氏の説く推敲の際の姿勢です。自分の書いた文章から距離を置くためにフォーマットを変えたり、書体を変えたり工夫し、初めてその内容を読む厳しい読者になったつもりで読む必要があると力説されるだけでも耳が痛いのに、推敲に「せっかく書いたのにもったいない」といった気持ちを持ち込んではいけないとか、構成上余分なところはバッサリ切れとか、最悪の場合はゼロから書き直せとか。なんともまあ厳格な心構えですね。
そうやって厳しく推敲し、「もっと面白く、もっとよくできるはず」と自分の限界を超えさせ、より完成度の高いものを書き上げることこそが読者に対する敬意だという説に彼のライターとしての矜持が感じられます。

私は自分の「甘い読者」でしかなかったと反省しました。
ごまかしや雑さは結局のところ読者を侮っているのだという言が胸に突き刺さる。
書評は自分の備忘録として相変わらずつらつら書いてますが、毎週配信しているメルマガや自分のオンラインサロンでの投稿記事を書くときはもっと真摯な姿勢で臨もうと決意しました。

 


書評:松岡圭祐著、『小説家になって億を稼ごう』(新潮新書)

2021年11月23日 | 書評ーその他

松岡圭祐の固定ファンとして小説ではない本書は読むかどうか迷いが生じる「色物」の1つではないかと思います。
しかし、これはただの小説を書くためのハウツー本ではありません。
前半部で小説というか物語の作り方ー「想造」ーについて詳細に説明されています。「想造」という新語も目を惹きますが、何よりもファンとして興味深いのは松岡圭祐がどのようにして創作しているのかが分かる点でしょう。なぜ「書き下ろし」作品が少なくないのかというちょっとした謎も本書で解けます。

後半部は小説家デビューを果たした後に何に注意すべきなのか、どういう心構えを持つべきなのか、といった個人事業主である小説家のための小説ビジネスのハウツーが説明されています。この部分が特に「ここまで書いていいのか心配になるほどノウハウ満載、前代未聞、業界震撼、同業者驚愕の指南書! 」と言われるに値する部分です。
書評やレビューの多さと売上は相関関係にないとか、映画化に際しての原作者の立場とか、コミカライズではどうかなど消費者として普段想像することもないような「ビジネス」の部分が非常に詳しく説明されています。
私自身、最近「会社員+副業」生活を卒業して完全な個人事業主となったので、小説家を目指さないにしても、個人事業主の観点からも非常に興味深い内容です。
様々な舞い上がりそうになるような話には戒め、売れないなど挫けそうになる場合には励まし、本業の「想造」でよりよい作品=商品を作り出すことに専念すべしと激励するところは、「後継者求む!」という著者の熱意がひしひしと伝わってきますね。
「読書を楽しめる層は限られているけれども、それでもミリオンセラーを出し、億万長者になれる可能性がある職業が小説家」ということですね。
ドイツ語学習者を対象とする私のビジネスはもっと客層が狭いニッチな世界なので、億万長者になれる可能性はゼロですけど、将来書籍出版を目指す際の参考になりました。

『小説家になって億を稼ごう』をAmazonで購入する。または、Hontoで購入する

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歴史小説

書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『八月十五日に吹く風』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『生きている理由』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『ヒトラーの試写室』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『黄砂の進撃』(講談社文庫)


推理小説 

水鏡推理シリーズ

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理4 アノマリー』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理5 ニュークリアフュージョン』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理 6 クロノスタシス』(講談社文庫)


探偵の鑑定シリーズ

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)


高校事変シリーズ

書評:松岡圭祐著、『高校事変』1&2(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変Ⅲ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変』IV+V(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 VI』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 VII』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 VIII』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 IX』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『高校事変 X』(角川文庫)


千里眼シリーズ

書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼の復活』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 The Start』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 ファントム・クォーター』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼の水晶体』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ミッドタウンタワーの迷宮』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼の教室』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 堕天使のメモリー』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 美由紀の正体 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 シンガポール・フライヤー 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 優しい悪魔 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 キネシクス・アイ 上・下』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼 ノン=クオリアの終焉』(角川文庫)



万能鑑定士Qシリーズ

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの事件簿 0』


特等添乗員αの難事件シリーズ

書評:松岡圭祐著、『特等添乗員αの難事件 VI』(角川文庫)


グアムの探偵シリーズ

書評:松岡圭祐著、『グアムの探偵』1~3巻(角川文庫)


その他

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『瑕疵借り』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『マジシャン 最終版』&『イリュージョン 最終版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』(角川文庫)