大型活字で読む時代小説シリーズ、
藤沢周平「風の果て」上中下を読み終えました。
暮に図書館から借り出してきましたが、
途切れ途切れに読み継いで返却期限の15日になりました。
以前、昔になりますが文庫本で上を読み始めて、
下が未購入でしたので結末が不明のままでした。
ストーリー展開が主人公の現況と回想が交差しながら、
武家社会の生き様が精緻な文章で綴られた物語でした。
大活字でストレスなく読めて藤沢文学を堪能しました。
長い物語はこんな場面から始まる。
首席家老の桑山又左衛門に「果たし状」が届いた。
「果たし合い状」は親友の野瀬市之丞からだった。
――市之丞め、又左衛門は行燈を引き寄せ呟いた。
市之丞は、娶らず禄を喰まず歳を経た野瀬家の厄介叔父。
藩の首席家老桑山又左衛門に果たし状を届けてきたのだ。
又左衛門は顔を暗い庭に戻しながら虫の声を聞いた。
政変を勝ち抜き、又左衛門が権力を手中にしたとき、
市之丞が「奸物」めと、つぶやいたことを思い出す。
ここから長い回想のストーリーが始まる――。
又左衛門・村上隼太は実家の部屋住みの居候だった。
野瀬市之丞とは片貝道場に通う修行仲間だったのだ。
片貝道場では併せて5人の修行仲間が親しんでいた。
杉山鹿之助、三矢庄六、寺田一蔵、市之丞、隼太。
5人は稽古が終わった後、
組頭の楢岡図書の屋敷に伺って、
藩家中の内輪の話を聞くのを楽しみにしていた。
主に窮乏する藩の財政と対する派閥の噂だった。
隼太らが楢岡家を訪れるもう一つの楽しみは、いや、
こちらの方が一番の本命だといえる楽しみがあった。
図書の一人娘千加さんが点てる茶を頂くことだった。
千加さんは憧れのマドンナで心中密かに期待していた。
千加さんの婿に入ることを夢見ていたのだ。
家格と身分制度が決まっていた時代。
家督相続は長男と決まっていた。
次男三男はしかるべき家格の娘に婿入りしない限り、
嫡男の家で部屋住みの厄介叔父になるしかなかった。
杉山鹿之助だけはかつて藩の重職の嫡男で、
いずれ藩の要職に就く身分は保証されていた。
他の四人は下士侍の二、三男で婿の口を待っていた。
そんな中で、上村隼太は楢岡図書から聞かされた、
藩の開拓水利事業で難関になっているという未開地、
「大蔵が原」の開拓水利事業に夢を持つようになった。
「大蔵が原」の開拓水利に着目しているもう一人の要人が居た。
藩の農政に関して第一人者で切れ者と言われる郡奉行の桑山孫助。
「大蔵が原」を歩き回っていた隼太は、
探索していた桑山郡奉行と山中で出会った。
運命の出合だった。
隼太は桑山家に婿入りすることになった。
藩の基礎財政は農政、農民らの信頼関係が大事だという、
義父孫助の私利私欲を超克した生き様に惹かれるようになった。
派閥の思惑による「大蔵が原」が政争の具にもなった。
妨害にもめげず桑山父子は開拓事業に成果を見出した。
隼太も代官から奉行にと出世の道が拓き始めていた。
道場仲間だった杉山鹿之助は世襲の血筋で家老になっていた。
隼太は家督相続を機会に桑山又左衛門と改名した。
家老職に任ぜられるようになる頃から、
上士で、かつての親友だった杉山が、
下士出の隼太の出世を快く思わない、
「成り上がりめが」そんな気配を見せるようになった。
…………………………………………………………………………
権力者は、後からくる実力者を排除しようとする。
自分の権益を犯す者は許せない。
農政の実績と、農民からの信頼という、
バックグラウンドを持つ隼太を恐れたのだ。
戦国時代も武家の世でも、現代でも、
組織の権力者は後からくる実力者を落とす策を巡らす。
…………………………………………………………………………
回想のストーリが終わり、小説の筋に戻れば、
藩の頂点に立った隼太・又左衛門に、
生涯、「娶らず禄を喰まず」だった市之丞が、
なぜ、「果たし状」を突き付けてきたのか?
ーー市之丞の顔を立ててやろう。
果たし合いの指定地・三本欅の下に市之丞が立っていた。
「執政などに納まりやがって、腹の底まで腐ったかと思ったが、
そうでもなかったらしいな。一人で来たのは上出来だ」
年老いた二人が息絶え絶えに白刃を交わし合った。
又左衛門は、市之丞に最期の水を飲ませた。
「大蔵が原」の空を風が走った。
出世した者、人を切って脱藩した者、生涯無禄を通した者など、
5人の道場仲間が辿ったそれぞれの人生模様。
生き方は難しい。
藤沢周平「風の果て」上中下を読み終えました。
暮に図書館から借り出してきましたが、
途切れ途切れに読み継いで返却期限の15日になりました。
以前、昔になりますが文庫本で上を読み始めて、
下が未購入でしたので結末が不明のままでした。
ストーリー展開が主人公の現況と回想が交差しながら、
武家社会の生き様が精緻な文章で綴られた物語でした。
大活字でストレスなく読めて藤沢文学を堪能しました。
長い物語はこんな場面から始まる。
首席家老の桑山又左衛門に「果たし状」が届いた。
「果たし合い状」は親友の野瀬市之丞からだった。
――市之丞め、又左衛門は行燈を引き寄せ呟いた。
市之丞は、娶らず禄を喰まず歳を経た野瀬家の厄介叔父。
藩の首席家老桑山又左衛門に果たし状を届けてきたのだ。
又左衛門は顔を暗い庭に戻しながら虫の声を聞いた。
政変を勝ち抜き、又左衛門が権力を手中にしたとき、
市之丞が「奸物」めと、つぶやいたことを思い出す。
ここから長い回想のストーリーが始まる――。
又左衛門・村上隼太は実家の部屋住みの居候だった。
野瀬市之丞とは片貝道場に通う修行仲間だったのだ。
片貝道場では併せて5人の修行仲間が親しんでいた。
杉山鹿之助、三矢庄六、寺田一蔵、市之丞、隼太。
5人は稽古が終わった後、
組頭の楢岡図書の屋敷に伺って、
藩家中の内輪の話を聞くのを楽しみにしていた。
主に窮乏する藩の財政と対する派閥の噂だった。
隼太らが楢岡家を訪れるもう一つの楽しみは、いや、
こちらの方が一番の本命だといえる楽しみがあった。
図書の一人娘千加さんが点てる茶を頂くことだった。
千加さんは憧れのマドンナで心中密かに期待していた。
千加さんの婿に入ることを夢見ていたのだ。
家格と身分制度が決まっていた時代。
家督相続は長男と決まっていた。
次男三男はしかるべき家格の娘に婿入りしない限り、
嫡男の家で部屋住みの厄介叔父になるしかなかった。
杉山鹿之助だけはかつて藩の重職の嫡男で、
いずれ藩の要職に就く身分は保証されていた。
他の四人は下士侍の二、三男で婿の口を待っていた。
そんな中で、上村隼太は楢岡図書から聞かされた、
藩の開拓水利事業で難関になっているという未開地、
「大蔵が原」の開拓水利事業に夢を持つようになった。
「大蔵が原」の開拓水利に着目しているもう一人の要人が居た。
藩の農政に関して第一人者で切れ者と言われる郡奉行の桑山孫助。
「大蔵が原」を歩き回っていた隼太は、
探索していた桑山郡奉行と山中で出会った。
運命の出合だった。
隼太は桑山家に婿入りすることになった。
藩の基礎財政は農政、農民らの信頼関係が大事だという、
義父孫助の私利私欲を超克した生き様に惹かれるようになった。
派閥の思惑による「大蔵が原」が政争の具にもなった。
妨害にもめげず桑山父子は開拓事業に成果を見出した。
隼太も代官から奉行にと出世の道が拓き始めていた。
道場仲間だった杉山鹿之助は世襲の血筋で家老になっていた。
隼太は家督相続を機会に桑山又左衛門と改名した。
家老職に任ぜられるようになる頃から、
上士で、かつての親友だった杉山が、
下士出の隼太の出世を快く思わない、
「成り上がりめが」そんな気配を見せるようになった。
…………………………………………………………………………
権力者は、後からくる実力者を排除しようとする。
自分の権益を犯す者は許せない。
農政の実績と、農民からの信頼という、
バックグラウンドを持つ隼太を恐れたのだ。
戦国時代も武家の世でも、現代でも、
組織の権力者は後からくる実力者を落とす策を巡らす。
…………………………………………………………………………
回想のストーリが終わり、小説の筋に戻れば、
藩の頂点に立った隼太・又左衛門に、
生涯、「娶らず禄を喰まず」だった市之丞が、
なぜ、「果たし状」を突き付けてきたのか?
ーー市之丞の顔を立ててやろう。
果たし合いの指定地・三本欅の下に市之丞が立っていた。
「執政などに納まりやがって、腹の底まで腐ったかと思ったが、
そうでもなかったらしいな。一人で来たのは上出来だ」
年老いた二人が息絶え絶えに白刃を交わし合った。
又左衛門は、市之丞に最期の水を飲ませた。
「大蔵が原」の空を風が走った。
出世した者、人を切って脱藩した者、生涯無禄を通した者など、
5人の道場仲間が辿ったそれぞれの人生模様。
生き方は難しい。