たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

臆病武士の「秘剣」は誠と正義で勝つ

2018-05-12 16:11:40 | 本・読書

とても清しい物語に出会いました。
文庫本が読めなくなって、大活字で読む時代小説。
大活字本を図書館から借り出して読んでいます。
今回は葉室麟さんの本が目に付いたので借りました。

葉室さんは昨年の12月に亡くなった時代小説作家です。
直木賞受賞作品で、
映画でも見ましたが「蜩ノ記」が代表作です。



今回手に取った大活字の作品は「川あかり」。
明快な筋立てとストーリーを大活字で追っていくと、
まるで絵本を読でいるような感覚になります。

伊東七十郎は18歳。
藩で一番の臆病者と言われている。
剣術はまるでダメ、
人を切るなんて手が震えてできるものでない。

しかし誰にもまねのできない護身術があった。
唯一の能力は愚直なまでの真面目な性格でした。
正義を貫くためには卑怯なことは一切しない。



そんな七十郎に藩内で「策謀を巡らす御家老」から、
江戸表からお国入りする「政敵」
甘利典膳の刺客の密命を受ける。

討つべく川の渡し場に来たが、雨続きで増水し川止め。
滞留者を泊める木賃宿の2階の同宿者と奇妙な縁で知り合う。

左々豪右衛門六尺褌にぼろぼろ袢纏の牢人。
一日中お経をつぶやく徳元和尚。
サルを飼っている旅回りの芸人弥之助。
三味線を抱えた鳥追い女のお若。
やくざ風の遊び人の千吉。

みすぼらしく痩せているが、どこか品位を感じさせる老爺。
付き添って看病する五郎坊と姉のおさと。



七十郎の真面目で正直な振る舞いから、彼らに、
密命を受けた刺客であることが知られてしまう。

川止めが明けて「討つべく典膳」が、川を渡ってくるのが見えた。
七十郎は身の竦む思いで「刺客であることを」名乗った。
相手はせせら笑って白刃を振りかぶった……



死にも増して貫く七十郎の真っ直ぐな姿。
木賃宿で知りあった人々が周りに駆け付けた。
権力者や悪徳商人、お上の仕打ちに耐えている、
郷人たちの友情の力が「典膳」を取り巻いた。

「正義は勝つ」
世の中は、そうでなくてはならない。
策謀渦巻く藩政の外で「清しい人情」が生きている。
人間「純で誠こそ」が最大の武器で勇者になる。

永田町と霞が関に忘れられている世界を見た。

6 コメント

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Unknown (Unknown)
2018-05-13 08:45:28
本はいいですね。
自分の人生を振り返ったり、登場人物の人生を自分に置き換えて2倍に生きてみたり・・・
私ももっと本を読みたいと思います。
当市の図書館には大活字本があまり多くないようですが、もっと増やしてくれたらいいですね。
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活字に向き合う (雨曇子)
2018-05-13 19:21:14
しばらく活字離れの状態でしたが、
谷氏に刺激を受け、私も最近図書館に通い始めました。

今年の 3 月 13 日に亡くなられた内田康夫さんの「信濃の国殺人事件」「三州吉良殺人事件」は、一気に読めました。

長野県民歌「信濃の国」について、造詣が深まりました。
6番までありますね。
昭和 23 年に分県運動が起きたこと、それが、県民によるこの歌の大合唱でつぶれたことなど、これは、フィクションではないと思いますが、よく書けていると感じました。
信州旅行のテキストになりうると思いました。
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Unknownさま (管理人)
2018-05-13 20:01:46
Unknownさま、お立ち寄りの上、
コメントまで残してくださり、恐縮です。
時代小説、とくに武家物は緊張感があっていいですね、

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「信濃の国」 (谷氏)
2018-05-13 20:18:43
雨曇子さま。
谷氏は最近、左の眼がおかしくなって、
活字を見たり、PCに入力するのがしんどくなりました。
「信濃の国」は同級会、クラス会の締めの定番曲です。
佐久間象山先生は信州人みんなの先生です。
時代小説は清冽でいいですね。
いまNHKBsの「鳴門秘帖」にはまっています。
吉川英治原作の長編がストーリーの転回が早く、
テンポよく展開されます。
法月弦之丞の山本耕史にからむ、
見返りお綱の野々すみ花、千絵の早見あかり、……
金曜夜と日曜夜の2回見ます。

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こんにちは (多摩NTの住人)
2018-05-17 09:11:53
「川あかり」は読みました。葉室麟さんの小説はかなり読んでいます。読後に爽快感がありますね。
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武士もの (管理人)
2018-05-18 07:09:35
NTの佳人さま。
いつもコメント恐縮です。
大活字本で藤沢周平さんの「隠し剣孤影抄」を読んでいます。
ご存知でしょうが、
緊迫感の凝縮した8編の短編小説集ですね。
必ずしもフェアな流儀ではなく、
やむなく遣う葛藤が切ないです。
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