本に恋する季節です!
2017・第71回読書週間 10月27日~11月9日
江戸後期の市井人の暮らしの心の機微を「やさしさ」で描く、
北原亞以子さんの本を2冊読みました。
『恋忘れ草』(文藝春秋1993年)、『その夜の雪』(新潮社1994年)
読んだのはいずれも大型活字本になっているものです。
『恋忘れ草』は6篇の小編連作シリーズです。
恋風
萩乃・父の帯刀の死後、跡を継いで手跡指南をしている。
商店の子どもたちに読み書きソロバンを教える塾を開いている。
ある日、傘問屋・常盤屋の手代の栄次郎が弟子入りを乞うてきた。
萩乃は気が進まなかったが、あまりに熱心なので期間限定で許す。
萩乃の父・山中帯刀は敵討ちの旅人だったが、
武士を捨て手習いの師匠になった過去に秘密があった。
その秘密をかぎつけた悪党の岡っ引きの五郎次が難癖をつけて、
50両の金銭を要求してきた。金策に奔走したがどうにもならなかった。
「お困りのようですが、私に話してください」
そこには、かつて弟子だった栄次郎が立っていた。
男の八分
香奈江・長谷川理香の名で筆耕をしている。
戯作者の草稿を、板下用に書き直す仕事で身を立てている。
ある日、かつて夫だった稜之助が訪ねてきた。離縁されて4年たっている。
迫られて争っているとき、御家人崩れの戯作者・井口東夷が訪ねてきた。
その東夷の合巻本「草枕旅路夢」の草稿が届けられた。
作品にはいろいろ悶着もあって、東夷の怒りを買ってしまう。
香奈江は涙をこぼして……。東夷が何か言ったようだった。
香奈江には「すまない」と言ったように思えた。
後姿
おえん・娘浄瑠璃語りの七之助と名乗り前座を務めている。
一座のしんかたり(真打)の小扇より人気があると自認していた。
物心とも紅白粉問屋の淡路屋長右衛門の庇護を受けていたが…。
しんかたりへの野心を秘めていた。野心は成就したが、
弟子が武士をやめた男と所帯を持って出ていった。
誰もいなくなった居遇で、どっと寂しさが満ちてきた。
そんな心の空白を埋めるのは……
恋知らず
お紺・小間物屋の三々屋の娘で簪の意匠を手伝っていた。
店は裕福な金持ちを相手にする高級品が評判だったが、
お紺は手ごろな値段で多くの娘たちの髪飾りを目指している。
デザインを考えて歩いていたら、男にぶつかった。
幼馴染で醤油問屋の三男・秀三郎だった。
簪のデザインの相談にかこつけて出合茶屋で会う仲になっていた。
お紺の簪がさっぱり売れなくなった、
お紺の簪の何がいけなかったのだろう。
恋忘れ草
おいち・役者絵・錦絵の師匠から歌川国芳から、
歌川芳花㋨名をもらっていた。女の画工として評価を得ていた。
本所横網町の家に一人で住んでいた。
寂しさを絵を描くことで才能の発揮に磨きをかけていた。
女房も子どももいるが訳アリの彫師の才次郎と男女の仲になっている。
疎遠になった才次郎の家近くをうろついていると、
女房に気付かれ家に招じ入れられてしまう。
そこには才次郎の家庭があった。帰り道、おいちは声にした。
「ばかやろう。子供のおしめを替えた手で女を抱くなってんだ」
萌えいずる時
お梶・料理屋「もえぎ」の女将。
文政13年、師走に天保と改元された。
深刻な飢饉が続き、凶作で田舎は失業に溢れていた。
食料品はみな値上がりしていたが、「もえぎ」はお梶の才覚で繁盛していた。
仲居のおはつの家族が夜逃げ同様に転げ込んできた。
お梶はできる範囲で面倒を見ていたが…
雑用に雇ったおはつの義姉おげんが来てから、
店は板場や仲居仲間に不協和音が生じていた。
ある日「もえぎ」が打ちこわしに会い、店がめちゃめちゃにされてしまう。
本書「恋忘れ草」は6篇の連作物語で、
それぞれの篇は女性が主人公で登場します。
女主人公の仕事、恋、男など、生き様が書き込まれている。
この作品で北原亜以子さんは第109回(平成5年上期)の直木賞を受賞している。
解説によると北原さんは「江戸のキャリアウーマンを書いた」と話したという。
作品の時代背景は江戸後期の文政から天保のころで、
武家社会がゆるみ、商人の力が社会を動かすようになり始めていた。
一方、江戸文化が隆盛が極めていた。
この時代を象徴する仕事に生きた女性を主人公に仕立てた本です。
「たにしの爺」読後のつぶやきです。
作者は各篇の女主人公を、いききと描いています。
しかし、訳アリになる男や過去の男が関わり、
良くも悪くも仕事のエネルギーになっている。
現代風ぬ言えば、女性が「いい仕事」をするには、
男のスパイスが必須要素なのだともいえるのかなー。
女性国会議員を見るとそんな気もしますね。
例えば「幼稚園落ちた」で名を上げた前民進党議員。
有能弁護士との交際が週刊誌ネタになったが、
今回の総選挙では無所属で当選しました。
いい仕事をするには、いい異性の存在が必要??
キャリアウーマンが見たら怒り心頭でしょうな。
北原亜以子さん、主な受賞歴
(1969年)第一回新潮新人賞、小説現代新人賞佳作、
(1989年)第十七回泉鏡花文学賞、(1993年)第百九回直木三十五賞、
(1997年)第三十六回女流文学賞、(2005年)第三十九回吉川英治文学賞