2018年のノンフィクション本屋賞と大佛次郎賞を受賞した「極夜行」から、極夜の果てに最初の太陽を見たときに著者(角幡唯介さん1976年~)は何を思ったのかを北国で繁殖するシギチドリと一緒に紹介しましょう。<・・・>が引用部
(1か月以上続いた暗闇の旅の途中)<峠から背後を見ると月は早くも姿を消しており、世界は陽光も月光もない真の夜の闇に沈んでいた。そこからは重苦しい暗黒世界の中をダラス湾に向けて谷をひたすら下りた。だが谷を下りる途中で今回の旅で初めて希望を感じさせる光景を目の当たりにした>・・・エリマキシギ
<午前11時頃から南の空がうっすらと明るみ、そして急速に赤く染まり始めたのだ。それは曙光ともいえない、曙光の前段階の朝の兆しのようなレベルの明るさだったが、それでも太陽がその下にあるということだけは分かった>
<考えてみればもう1月18日、冬至から一か月近く経っている。アウンナットを出発してから月の動きに合わせて夜間行動していたのでずっと気付かなかったが、やはり空はじわじわと明るくなり始めているのだ>・・・エリマキシギ、ダイゼン、ハマシギ
<地平線のはるか下から滲み出した太陽の光は、南の空のごく一部を赤く染めた後、地平線から順に橙、緑、青とスペクトルを変化させ夜空に吸い込まれていた。午後1時頃から30分ほどの間は、ヘッドランプ無しで歩くことができた>・・・オオソリハシシギ
<これは信じがたいことだった。驚異的なことだった。太陽の存在を感じられただけで私は歓喜をおぼえたのだ。身体の内側に喜びの炎が灯され、それが闇の鬱屈に沈んでいた心を明るくしていた。今回の旅で初めて前向きな気持ちになれたのである>アオアシシギ(上)とオオソリハシシギ
<スキップで歩きたい気持ちだったがスキーを履いていて無理なので、ヒャッホーみたいな叫び声を上げるにとどめた。これから世界はどんどん明るくなるのだ。明日は今日よりも明るい。明後日はもっと明るい>
<素晴らしすぎる、そんなことが本当に起きるのか。これはもう言葉にならない喜びだった。喜悦極まりなかった。心の底から解放感に満たされ、私の顔は自然とほころんでいた。太陽の明るさがあることが判明したので次の日から行動時間を昼間に移すことにした。もうみるみる欠けて行く月にあわせることはない>
<つい先日までの旅は月頼みだったくせに、曙光に触れた途端、私はもう用済みとばかりに月に対して呪いの言葉を吐いていた>極夜行を40日間以上続けた人だけが感じる感慨でしょうね。