読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

悪人列伝1 海音寺潮五郎 文春文庫

2006-12-06 22:21:24 | 読んだ
文春文庫で再版された(らしい)広告が出ていたので懐かしくなり、本棚のおくから引っ張り出してきたのであった。

日本史の中の「悪人」を描いている。海音寺潮五郎にはこのほかに「武将列伝」6巻がある。
「武将列伝」「悪人列伝」で日本史の基本的なことを学ぶことができる。

今回、また読み直して、海音寺潮五郎の歴史観、というのを見直した。
ただし、女性については偏見を持っている。(ただし、偏見というのは時として正確な見方にもなる)

さて、第1巻は「蘇我入鹿」「弓削道鏡」「藤原薬子」「伴大納言」「平将門」「藤原純友」の6人である。

時代は天皇制が確立する飛鳥時代の後半から、平城京に遷都し天皇制が大きな権限を持っていた奈良時代(天平時代)、そして天皇制の矛盾が明らかになってきた平安時代初期である。

この列伝をとおして読むと、それぞれの悪人たちをとおして「天皇制」というのものの確立していくさまそして絶対的な天皇制があってその後ほころびが出始めてくる、という流れが見えてくる。

蘇我入鹿は、何をもって「悪人」とされたか、といえば、天皇に取って代わろうとしたところ、或いは天皇と力が拮抗していたこと、である。
つまり、この時代は、天皇家に代わって日本を治めようとする気持ちも力もあった豪族が日本にいた、ということである。
まだまだ天皇制は明確に確立されたものではないことが、蘇我入鹿を読むとわかります。

続いては、天皇制が確立され天皇家の権限が強大になった時代、それゆえに女性天皇であっても統治がゆるがない時代の話。

この時代の悪人「弓削道鏡」も「藤原薬子」も、天皇に取って代わろうなんて思ってはいない。
天皇の権限を利用して自分の権限の拡大に努めた、といってもいい。
実は、この悪人を悪人たらしめたのは、弓削道鏡の場合は女帝:孝謙天皇(重祚して称徳天皇)が彼を愛し重く用いたためだし、藤原薬子の場合は力をつけてきた藤原氏の横暴の象徴、藤原氏の気持ちが乗り移ったものであり、悪人、というのも、ものの見方の角度によるもののようなきがする。
また「伴大納言」の場合は藤原氏との権力争いに負けて悪人となったものであって、勝ってれば評価はどうなっていたか。

いずれにしてもこの悪人たちは天皇制のなかの「権力争い」で生まれたものであり、庶民にとっては悪人といってもいわばそっち側の話である。

続いて現れた悪人「平将門」と「藤原純友」は、天皇制への反逆であり、庶民というか天皇制の恩恵を受けていない人たちも巻き込んだ人たちである。

天皇制の矛盾とは「公地公民・班田収受制度」の崩壊である。
つまり、天皇制は日本の土地は公のものであり、日本の民は天皇家の公民であることが基盤になっているが、私有地(荘園)が増加し、建前と実際の差が拡大しはじめたことである。
もっと極端に言えば「貧富の差」が拡大してきていわゆる制度の中の負け組みが反乱をおこしたのである。

ということが、この1巻に書かれていたんだと、何度目かの読み直しでやっとわかったのである。
海音寺潮五郎、スゴイ、とおもって第2巻へ突入したのである。


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