読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

東電OL症候群(シンドローム) 佐野眞一 新潮社文庫

2012-03-26 22:56:50 | 読んだ
東京電力の損害賠償にかかる説明会があまりにもひどかったなあ、と思いつつ、本屋さんに入ったら、東電OL殺人事件と本書「東電OL症候群」が平積みされていた。
確か、東電OL殺人事件は読んだ、と確信したので、では「症候群」を読もうと買ってしまった。

実は私、どちらも読んでいたのであった。
しかも、ホームページにその感想を書いていたのである。

で、当時とは違う感想を抱いたのである。

私は、何故彼女(渡辺泰子)は売春をしていたのか?ということに興味を持つ。

著者は言う。
「彼女はおびただしい好奇心のまなざしにさらされた。しかし、彼女をそうした視線で見ることは、陳腐で表面だけなぞったますこみ言語の隊列に自分も連なっていくのと同じことではないか。私はそう強く感じた。彼女を『見る』のではなく、彼女の視線があぶりだしたものを『見る』。」

彼女の視線を通して現代日本を見る、と言っている。

そして、著者は
「虚飾をすべて取り払ったこの世と人のありのままの姿が浮かび上がっている」と感じる。

著者のもとに届く手紙は大別して「泰子の生き方に強い共感を覚える」ものと
「日本の警察と司法の在り方に強い怒りをおぼえる」ものに分かれるという。

それは、前作がそういう部分に力を込めていた著者の姿勢がそうさせる部分もあるのだろう。

彼女を通じて見た景色。裁判に登場する人たち。
著者はちょっと興味を持つと、すぐに現場へ向かう。
ちょっと横道に行き過ぎているのではないか、と思うくらいである。

この事件を通して真面目に日本を考えている。

で、著者の思いはものすごい熱い言葉となって、私の下賤な視線や思いをはじきあざ笑うのである。

1番目の関心事、彼女は何故売春をしていたのか?ということについて、彼女は自分自身を汚したかった、ということが書かれている。
何故、自分自身を汚したかったのか?という続く疑問が出てくる。
さらに、そのきっかけとはなんだったんだろう?

生きている彼女の口からもうまく説明できないのではないだろうか?
結局、人は自分自身のことが一番わからなく、一番制御できないものなのではないだろうか。そんなことを思ったりもした。

私の2番目の関心事は、彼女の周りの人々、特に東京電力の人たちがこの事件についてどう考えているのかが一番の興味であった。

同僚たちは彼女が売春をしていたのを知っていたという。
それなのに放っておいたのは何故なのか?
著者は聞き出せなかったようだ。

私は、そのあたりが東電の文化なのだと思う。
今回の放射能の問題とこの事件を結んで、著者にはもう一度ルポしてもらいたいと感じる。

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神津恭介への挑戦 高木彬光 光文社文庫

2012-03-20 21:07:49 | 読んだ
久々の高木彬光である。

「成吉思汗の秘密」や「邪馬台国の秘密」でおなじみの神津恭介の小説である。
実は、神津恭介モノは上記のほかには「古代天皇の秘密」といういわゆる「ベッド・ディティクティヴ」しか読んでいない。

で、もう新しい作品には出会えないものだと思っていたら、本屋で偶然文庫本を見つけたのである。

高木彬光は1995年に亡くなっているが、本作は1991年の作だという。本書の後「神津恭介の復活」(1993年)、「神津恭介の予言」(1994年)と続く。
文庫化を待とう。

さて、本書「神津恭介のへの挑戦」は、近頃になく夢中になって読んだ。
最後の謎解きの部分は、東京からの帰りの新幹線にとっておいたのだ。

物語は、JR山手線内で朝の出勤時に一人の男が死んだところから始まる。
男が死んだときにちょうど居合わせたのが東洋新聞社の記者の山下誠一である。

男は青酸中毒で死んだ。
この事件を追う山下記者のもとに新人記者・清水香織が配属される。しかも女性で東洋新聞の社長令嬢である。

二人で事件を追うと、死んだ男の友人が一人京都で行方不明になっている。さらにもう一人の友人も行方不明となっている。

さらに調べると、彼らは強姦魔であることが徐々に判明する。

その餌食となった女性たちとその家族が犯人と思われるが、動機は十分でも決定的な証拠がない。
そのうちに、東洋新聞で保護していた3人組の一人が記者たちの見張りをかいくぐって行方不明になる。部屋にはおびただしい血の跡があり亡くなったと推測されるが、死体がない。

調べが進むともう一人仲間の男がいたことがわかる。
そして、その男は殺された。

謎が謎を呼び、どう推理してもわからない。
そういう時に、東洋新聞の真鍋部長を通じて、神津恭介に依頼することとなる。
神津恭介が登場すれば彼の助手であり記録者である作家の松下研三も登場する。

実は、清水香織は、学生時代に神津恭介に出会い大きな刺激を受け、新聞記者になった。そして、彼女は神津恭介に恋をした。

しかし、神津恭介は出馬を拒んだ。

事件と神津恭介の不出馬は多くの人の知るところとなり、とうとう神津恭介のもとに「神津恭介を殺す」という脅迫状が送り届けられる事態にまでなる。

満を持して神津恭介が登場するが、さらなる事件が発生する。

密室殺人、謎の失踪、死体なき殺人、と多くの謎について、鮮やかに神津は解いていくが、結末には意外な犯人と大きな悲しみが待っていた。

唸ってしまう内容と結末で、平成になってからの日本の異常さが描かれている。

久しぶりに重厚な推理小説を読んだ。

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東京

2012-03-19 22:20:11 | 日々雑感
昨年の3月11日には東京にいた。

そして、今年も同じ出張で3月15日に東京にいた。
自身が心配だったが、前日の14日に大きな地震が2回あり、なんとなく「厄払い」をしたようだった。

3月15日はずっと会議で、会議の後には特別に照射線にかかる損害賠償について東京電力からお話があり、ものすごい関心を持って臨んだのが、資料なし、説明もコロコロ変わるという体たらく。
さすがに「怒号」飛ばなかったものの、東京電力の体質のようなものが垣間見えたような気がする。

さて「東京」である。

そういえば昔、マイペースというグループが唄った「東京」という歌を覚えていらっしゃるだろうか?

♪ 最終電車で 君にさよなら
  いつまた逢えると 聞いた君の言葉が
  走馬燈のように巡りながら
  僕の心に灯をともす ~ ♪


いい歌だったなあ。

でも、今はこういう東京になかなか出会えない。

今回、東京で驚いたのは二つ。
一つ目は、まあいたるところでスマホである。
電車のなか、ホームで、なんていうのまだいい。
信号待ちの交差点、歩きながら・・・である。

そして、自転車、である。
ものすごかったなあ。
ある交差点では私の目の前で自転車同士の衝突を見た。
歩道を歩いていても、突然、隣を自転車が通り過ぎてゆく。

直下型地震もテロも怖かったが、この自転車が一番怖かった。

また、今回駅の自動販売機で切符を買えなかった。
「とうとう」である。
なぜあんなにも切符を買うシステムというか機械がちょくちょく変わるのだろう。
腹が立つなあ。

東京はどのようにどんなスピードで変わっていくのだろう。
マスクをして耳にはアイポッド、手にはスマホ。

ウーン。

東京に行くのは年に一度くらいがちょうどいい。
と思いましたですねえ。

それにしても歩くスピードがひどく遅くなりました。

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お鳥見女房 「新春の客」「社の森の殺人」 諸田玲子 小説新潮1月号、3月号 

2012-03-11 16:57:55 | 読んだ
小説新潮で、お鳥見女房の新シリーズが始まり、「新春の客」は第2話、「社の森の殺人」は第3話である。

新春の客は、主人公(つまり『お鳥見女房』)の矢島珠世の幼なじみであり、長男・久太郎の妻・恵以の父・和知正太夫の家臣で恵以の守り役だった、松井次左衛門である。

次左衛門は、恵以の出産にあたって、山形から出てきたのであった。
しかし、どこか暗い表情で何か隠していることがある。

それは、正太夫がなくなったことであった。

そのことを恵以にいつどのように誰が伝えるのか、ということを家族で話し合っているうちに、恵以は出産する。
生まれたのは女の子で沙耶と名付ける。

そうこうしているうちにひょんなことから恵以に父が亡くなったことが知られる。

この世を去って行く者もいれば生まれてくる者がいる。

今の世は、去って行く者を惜しみいつまでも思い続ける。
また、去って行かないように手を尽くす。

今から20年位前までなら80歳を過ぎて亡くなれば満足。90歳以上であれば「赤飯」を炊いた。
「死」というものをそれほど恐れてはいなかったように思う。
死の受け止め方が近頃は過剰反応気味のように思う。

人が生まれることが少なくなったからだろうか?

「社の森の殺人」は、矢島家の人々がよくお参りに行く鬼子母神で殺人事件が発生、なかなか解決されず不安な日々を送っている。

それから、矢島家の次男・久之助は永坂家に妻・綾と夫婦養子になり、養父の跡をついで大御番組与力となり上方在番を命じられて大坂に行くこととなっている。
その準備や別れの宴などで、矢島家でも特に珠世もあわただしい。

そんななか、矢島家に出入りしていて鬼子母神でしゃぼん玉売りをしている藤助が、2つ目の殺人事件のあとで気が付いたことを、珠世に相談する。というか、藤助が普通でないのを感じた珠世が口を開かせた。

そして、殺人事件を矢島家の人々で解決する。

昔は、家族や親族さらには地域の人たちと物事に対応していた。
いわゆる物事というのは、そう広い範囲ではなく起きていたからだ。

今は、見たことも行ったこともない福島でおきた原発の事故が多くの人たちを悩ませている。物事の範囲が大きすぎるのだ。

今日は3月11日。
東日本大震災の特別番組がいっぱいである。

復興や復旧は国・県・市町村レベルで対応しなければならない。

でも、基本は家族や親族や友人や隣人たちとのつながりである。
「絆」ということばが震災後いろいろなところで使われているが、日ごろからの繋がりが大事であると思う。

「孤独死」が近頃多い。
助け合おうといっている仮設住宅でも起きている。

お鳥見女房は、こんな日本を見てどう思うだろうか。

助ける人、助けられる人。
「それはお互い様」と笑われるだろうか。

去る人、来る人。
「ただ受け容れるだけ」と語るだろうか。

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悦楽王 -鬼プロ繁盛記- 団鬼六 講談社文庫

2012-03-08 00:06:07 | 読んだ
帯には

バカでもエロでもええじゃないか。
鬼才、
最後の自伝的小説

とある。

著者の団鬼六といえば「SM小説」の大家という称号を持っている。

そのSM小説だけを読めば、団鬼六という人はその名前から連想されるように鬼のような容赦のないサディスト、と思う。
しかし、他の小説、特に自伝的小説などを読むと、性的には割とまっとうで、考えていることもまっとうのようである。

そのまっとうな人が非常にまっとうでないSM小説を書くから、その小説が面白いなのだと思う。

これで、本当のサディストだったりマゾヒストだったりする人がそのあたりの小説を書いても、自分だけにしか通用しないものを書いてしまうのではないかと思う。

しかも、そのSMにいわゆるオタク的というかプロ的というか専門的なものをあまり描かずに、ただ読者を楽しませるというところがいい。

さて、この小説は、団鬼六が自分の小説の発表の場のSM雑誌を刊行するというところから動き始める。
しかし、このSMキングは創刊からしばらく売れ行きが悪い。
そこで、テコ入れを行うのだが、そのテコ入れが面白い。

テコいれが功を奏して、SMキングは売れ始める。

団鬼六を中心とした鬼プロのメンバーと、そこを取り巻く有名人。

SMは変態に区分される、陽のあたるところではおおっぴらにできないが、できないがゆえに、ちょっと暗くなると、多くの人が動き出す。

そういう場面で団鬼六は、常識的に考える。
しかし、SMの巨匠というところから見栄みたいなもので破滅的に振る舞う。
それがうまく回転していくとおおきな勢いになる。

それがピークに達したころが、いわば引き時。

やっていることは、SMという変態的なことであり、登場する人たちはとんでもない人が多い、「異常な世界」で舞台であるのだが、そこで起きる事件というか事象は、普遍的なことである。

だから、この小説は面白い。

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美味しんぼ108 被災地編・めげない人々 作:雁屋哲 画:花咲アキラ 小学館

2012-03-06 22:11:55 | 読んだ
「美味んぼ」の第108巻は、東日本大震災の特集である。

帯には
「東日本大震災から3か月後、「美味しんぼ」が訪ねた被災地の記録」
とある。

物語は、東西新聞の文化部員5人と政治部の難波の6人が、青森から被災地を南下し気仙沼までくるものである。

途中、これまで出会った人々やお世話になった人々を訪ね、被害の様子を描く。

なんと時宜を得た企画!
とは思わない。

冒頭に山岡が
「何度も現地取材をさせてくれと頼んだのだが、上層部は、東北支社の人間のほうが勝手を知っていた動きやすい、俺たちはかえって邪魔になると許してくれなかった。」
と語る。

その通りだ。
その通りなのに、行ってしまうんだこの人たち。

そして、6人で被災地を回る。
登場する人たちは、優しくもてなしてくれるが、大変だったろうなあ、と思ってしまう。

そして「美味しんぼ」だからおいしい食べ物について語り食べる。

「なんだかなあ」
と思うのである。

山岡、どうしちゃったのだろう。

前から言っていたのであるが「美味しんぼ」は権威になってしまった。

始まったころの「権威を打破していく姿勢」が今や上から目線になったのではないだろうか。

そのあたりが、今号では「鼻につく」

一気に9話を読んだからかもしれないのだが、それにしてもなんだかなあ。

山岡、どこへ行くんだ?


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めしばな刑事(デカ)タチバナ 原作:坂戸佐兵衛 作画:旅井とり 徳間書店

2012-03-01 23:03:07 | 読んだ
芥川賞の作品を紹介した後に「マンガ」である。

しかも、食べ物に関するいわゆる「グルメ」漫画であるのに、取り上げられる食べ物は、たとえばA~DランクであるとしたらD級である。

今回は「アイス捜査網」というサブタイトルである。
であるが、12話収められているうち最後の4話だけで、そのほかは「レトルトインドカレー」であったり、納豆丼だったりする。

主人公は刑事の立花。
こいつが、やたらとD級グルメに薀蓄をたれる。

刑事がどのようにしてグルメの薀蓄をたれる機会があるのか、というと、たとえば、レトルトインドカレー編では、別の刑事が被害届を出したヤツに
「ちゃんと再現してくれないと調書作れないんだから・・・」
と言っていると、突然あらわれて
「”再現”といえば やっぱり中村屋かね」
と、強引に話を持っていく。

このパターンが好きなのであるが、近頃は、すでに読者がわかっていると判断しているのか、いきなり食べ物の話になっていくので、ちょいと残念。

それにしても、このマンガ、食べ物の話なのに、なぜか、読み終わっても食べたくならない。

まあ取り上げられるものが、私のようなものにとってはいわば「体に毒」系のD級、ジャンクなものであることも理由だが。

なんというか、バカバカしいお話なのであるが、私にとっては最高に面白いお話である。
でも、アサヒ芸能で連載だからといって、アサヒ芸能を毎週買おうとは思わない。
そのあたりが、D級なのである。

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