「七つの謎」とは、目次は次のとおりである。
1.東条英機は何におびえていたのか
2.石原莞爾は東條暗殺計画を知っていたのか
3.石原莞爾の「世界最終戦論」とは何だったのか
4.犬養毅は襲撃の影を見抜いていたのか
5.渡辺和子は死ぬまで誰を赦さなかったのか
6.瀬島隆三は史実をどう改竄しのか
7.吉田茂はなぜ護憲にこだわったのか
この本のどこに興味を抱いたのかというと「東條英機」である。
これまでもいろいろと本を読む中に、東條英機に関わるところがあった。
その評価は、概ね否定的ではあるが、幅がある、と感じていた。
人物の評価はその時々によって違う。
勝海舟は「知己を千載の下に待つ」といって、人物の評価は100年以上を経ないと顕れないと言っている。
東條英機は没後70年である。
まだまだ真の評価は行われていないだろうが、筆者の保坂さんはこれまで私が読んだ評者では若いので気になった。
東條英機の評価で私が理解していたのは、陸軍軍人・官僚としては優秀だが『人の上に立つ』タイプではない。ということであった。
東條英機は何におびえていたのか?
私の読み込み不足なのか、その答えは明確に表されていないように思える。(右翼テロに遭うかもしれない、という文章もあるが・・・明確ではない)
この本では東條の秘書を務めた赤松貞雄へのインタビューが多く用いられている。
赤松は東條に好意的であるが、著者の保坂の質問には真摯に答えている。
多くの資料や証言を基に、著者は次のように著わしている。
『大日本帝国の軍人は文学書を読まないだけでなく、一般の政治書、良識的な啓蒙書も読まない。すべて実学の中で学ぶのと、「軍人勅諭」が示している精神的空間の中の充足感を身につけるだけ。いわば人間形成が偏頗(へんぱ)なのである。』
として、こういうタイプの政治家、軍人は3つの共通点を持つ、といっている。
それは
「精神論が好き」
「妥協は敗北」
「事実誤認は当たり前」
であり、これは安倍晋三首相と似ている、とも書いている。
そして更に、日本には決して選んではならない首相像があり、先述の3点に加えてさらにいくつかの条件が加わるが、つまるところ「自省がない」という点に尽きる、とのこと。
フーム。
この本は、過去を振り返りながら、実は現実を批判している、現代に物申している、のだ。
そう思って、新たな視点というか考え方でこの本を読むと、これからの日本を考えることになるのだ、と知る。
それは大変重いことなので、できる限り「アッサリ」と読むことにした。
とはいえ、やっぱりいろいろ考えさせられる。
例えば、軍人たちと同様に「勝つ」ことが求められるスポーツでは、科学的なトレーニングや考え方が取り入られているにもかかわらず、最終的には「精神」が重要になり、勝つためには手段を択ばない、風潮がまだある。
我々が、国を存続させるのは、我々の『つましい幸せ』を継続させるためである。
大きな幸福の裏には大きな不幸があるということを忘れてはならない。
スポーツで学ぶのは、その試合に勝つためには不断の努力の大切さが大事なんだということと、勝利というささやかな幸福を得るためである。勝利によって得られる大きな利益ではないんだ、ということを考えさせられた。
東條英機の部分に限って綴ってしまったが、他の人々の章もかなり深く考えさせられた。
人というのは複雑で、身体的だけでも、表・裏、右・左、上・下がある。いわんや心の裡は、時の流れという軸もあって分析は難しい。
そういう意味で、人物評論は面白い。評論される側だけはなく、評論する側も試されているような気がする。